第10話 後悔~置いてけぼり~
~前回までのサニア~
レーラスはライバル。一度も勝てないまま引っ越すけど、いつか絶対倒すから!
さあ、帰ってきたわ!覚悟しなさい!…え?亡くなった?
約束、ほとんど守れなかった。『魔王を倒す。』これだけは、守りたい。
前回は回想。今回から、現在の話。
十七歳の冬。
草木を踏みしめ、山中を進む。
時折、太陽の位置を確認する。
方角を見失わないように。
(食料は尽きた。今日中に何とかしないと…。)
遭難の末、餓死。
珍しい話ではない。が、望む者はいまい。
せめて、戦死…いや、それも嫌だ。
「生きて帰る…生きて帰る…」
呪詛のように呟きながら、歩き続ける。
そしてついに。
「町だ…。」
しかし、まだ安心は出来ない。
あそこが、どういう所か分からないのだ。
魔王崇拝者達の反勇者勢力の町。
そうでないとは限らない。
私は離れた場所で町の様子を伺った。
が、少しして、思った。
(こんな事をしていても、何も分からない。)
虎穴に入らずんば虎子を得ず。
(行くか!)
これが、餓死か戦死かの二択ではありませんように。
意を決して立ち上がる。
そして気づく、近づいてくる荷車に。
(あの荷車は!)
あのマークは、フフゴケ商会!
サポート体制の充実した勇者の旅に感激し、駆け出した。
更に幸運だった事に、商会の人は顔馴染みだった。
『お久しぶりです、サニアさん。俺の事分かりますか?』
『もちろんです。焼きそばパン好きのお客さん。』
泣いちゃった。ちょっとだけ。
荷車に乗せてもらい町の中へ。
荷車には先客がいた。護衛で雇われている人らしい。
色黒で屈強で歯のきれいな、ナイスガイだ。
町の名前はカルフラタ、だと教えてもらった。
聞き覚えがあるような、ないような。
しかし見覚えが無いのは確かで、初めて来た町で間違いは無い。
建物なんかは王国とそう変わらない。
しかし、周辺国全部そうだと聞いているので、場所の特定は出来ない。
(本当、何処まで来たのやら…。)
商会の宿舎に着いたら調べよう、と一旦考えるのを止めた。
ぼんやりしている間に到着し、私は、まずお風呂を借りた。
次にご飯を食べて、そのまま寝た。
(まじで疲れています。許してください。)
着いたら調べる予定をたてた過去の自分に言い訳をして。
翌日。
爽やかに目覚めた私は、居合わせた昨日の面子と一緒に焼きそばパンを食べ、地図を借りた。
流石は国々を行き来する商会の地図だ。情報量が多い。
(えーと、王国、王国はっと、あった。)
ウーイング王国、が正式名称だ。
(そこから陸伝いに北西にっと。)
アッブドーメン共和国。森の中に、いくつも町がある国。
そして、その首都スターマーク。父さんがいる町。
(で、北に行くと…、)
バクー王国。その北東にテイール共和国、南東にレーグ半島。
ちなみにレーグ半島に天落峡谷、つまり魔王の居城があるとされる。
(こうして見ると…。)
地図上だと、王国とレーグ半島は近い。海で隔たれてはいるが。
王国、アッブドーメン、バクー、レーグで円を描くような感じなのだ。
(王国は、昔、船で魔王城を目指した…。)
結果全滅。魔王の雨のような魔法を避ける事も防ぐ事も出来なかったのだ。
(それ以降、陸路で魔王城を目指す訳だけど、大軍を動かすには遠すぎる。)
二つの国を通らないといけないし、色々運ばないといけないし、何か月かかるか分からない。
その間、王国の守りが薄くなり、魔物の侵攻を許してしまう。
(だからこそ、勇者という少数精鋭での討伐を続けてきた、と。)
目的が逸れた。今は思いを馳せている場合ではない。
現在地が知りたいのだ。
(地図は大まか掴めた。肝心のカルフラタは…。)
見つけた。ここはアッブドーメン国、国内で東。
手帳を取り出し、付箋のついたページを見る。
(ここ、三つ目の滞在予定地だ!日付は?)
順調なら、四日後に勇者パーティーがここに来る。
私は置いていかれてない事に安堵した。
ふーっと息を吐き、大きく伸びをした。
そして、まてまてと姿勢を正す。
そもそも順調なら、私だけここにいない。
王国領土内の旅は順調だった。
天候にも恵まれ、襲ってくる魔物も問題なく処理出来た。
アッブドーメン国の領土に入って、大きな森を抜けている最中。
私たちは襲撃された。魔物ではなく、人間に。
まぁ、レーラスが名乗り終わる前に返り討ちにして、全員捕縛したけど。
『あ~、これあれだ。うちの商売敵に雇われてる人たちだ。』
襲撃者達の追いはぎをしていたクレスタが、証拠でも見つけたのかそんな事を言った。
そう、この日から私たちは、魔物の他に人間を相手にする事となったのだ。
雇われ襲撃者、本物の追い剥ぎ等山賊の方。そして、
『さっきの奴が言ってた、魔王崇拝者?反勇者勢力って何なんだ?』
『詳しくは知らないが、きっと魔力の高い連中なんだろうな。
彼らにとって、魔法廃止を掲げる王国や、それに属する勇者達は、自分達の世界を脅かす存在という訳だ。』
『噂だと魔王崇拝者の町もあるんだって。うっかり入らないように注意してね~。』
魔王崇拝の反勇者勢力の人達。
私はショックを受けていた。
私は漠然と、今までの13人の勇者とその仲間達は、魔王と戦い命を落としたと思っていた。
でも実際は、辿り着けたのがそもそも珍しく、多くは、辿り着く前に、しかも、半分くらいは、人間に殺された、らしい。
ディオルとクレスタが言っていたから、多分事実。
更にショックだったのが、二人はもちろん、ガットルもレーラスも、事実を受け止め、ちゃんと人と戦えていて…。
結局私はお嬢様で、周りにはいい人ばっかりで。
人が人を殺すなんて、何処か遠くの国のように考えていた。
私は今まで、いったいどれほどの事を見落としてきたのだろうか。
真夜中に山火事が起きたのはそんな折だ。
まぁ山火事事態はディオルが土魔法で、すぐ対処したけど。
私は不審人物を発見した。
(あいつが、山に火を着けた!?)
私は夢中で追いかけた。
どうしてこんな事をしたの?
そうまでして私達を殺したいの?
私は、この旅はみんなに喜ばれる事だと、思っていたのに…。
(あ…。)
視界も悪く足場も悪い。その山中を、雑念だらけの全力疾走。
当然と言えば当然で。
足を滑らせ、崖から落ちて、私は、気を失った。
(は?はぁ!?)
気が付いたら、私は磔にされていた。十字のやつ。
(う、動けない!?)
両手両足はしっかり固定されている。
首は動かせたから周辺を見た。
薄暗い洞窟だ。広さはちょっとした部屋くらい。
上に穴が空いていて、太陽の光がちょうど私を照らしている。
足元には、食べ物。フルーツ類だ。
(まさか、生贄…?肉は、私!?)
それこそ大昔の話で、今はもう本の中だけだと思っていた。
命を失いそうな恐怖より、現状への驚愕が強い。
(魔王へか悪魔へか神へなのか、誰へ向けての贄かは知らないが、黙って食われて、なるものか!)
私は洞窟ごとぶっ壊すつもりで、魔法を爆発させた。
幸いな事に、洞窟が崩れる前に、固定していた柱が壊れたので、拘束を解き、脱出する。外は、変わらず森だった。
見張りとかも見当たらない。
(ザルな警備で助かった。)
もし、魔力を封じる物で拘束された場合や、杭を打たれていたら…。
(…。)
そもそも敵にここまで運ばれたという事は、見つかった時点で殺されていても、おかしくはなかった訳で。
どころか、打ちどころ次第で崖から落ちた時に死んでいる。
(生きているのは、ただの運か…。)
頭を振り、切り替える。生き残る為に。
今は、運も実力と割り切るのだ。
(問題は、ここが何処だか分からない事。)
レーラス達と合流は絶望的だろう。
旅の栞を思い出す。道中ではぐれた場合は、町での合流を目指す。
(まず、この森を抜ける。)
一度洞窟内に戻り、捧げもののフルーツを持てるだけ持つ。
そしてこの場を出来るだけ離れる。
移動は日が昇ってからにしたかったが、ここに長居はしたくない。
もちろん、敵と鉢合わせないよう、神経を尖らせながら、慎重に。
そして私は、カルフラタに辿り着いた。
私はコーヒーを一口飲んだ。甘くて、美味しい。
思い返すと、間抜けは私だけだ。
レーラス達は大丈夫だろう。
私がいなくなって、心配させたかもしれないが、こういう時、あの男、ディオルがいるから安心だ。
『サニアは、やわでは無い。信じてやれ』とか言えば、ガットルとかも、私を探しに行く!とはならないだろうし。
その期待を三回くらい裏切りそうだったが、結果的に生きているから、問題ない。
(さて、この後は…。)
予定通りなら、レーラス達は二つ目の町にいるはずだ。移動日数は約二日。
入れ違いになりそうだ。大人しく、この町で待っていよう。
(観光して、情報収集、かな。)
それこそ魔王崇拝者について、何か分かるかもしれない。
残りのコーヒーを飲み、私は立ち上がった。
置いてけぼりのサニアの単独行動は、もう少し続きます。




