第106話 ビッケが捕まった~王宮の秘密~
~前回までのゼユウ~
アルテドがビラ配りの犯人で間違いなかった。
でも、暗殺者に狙われているらしく、一緒に逃げる事に。
彼の事情を聞いた。どうやら彼は、10年前に俺を見た事があるらしい。
◇登場人物◇
●ゼユウ:主人公●ホーメナ:賢者●クーノ:天使●ビッケ:魔王●サダキ:天使
〇アルテド:王女の死亡記事を書いたとされる男
〇暗殺者:アルテドの暗殺を依頼された人物
〇ニケド:コーホの主治医〇トーネイ:コーホの前の主治医
□アンカバーズ:六年前廃刊になった雑誌。王女の死亡記事を載せていた。
(10年前に、俺を見た事がある?)
新情報。
初めて聞く、記憶を失う前の俺の姿。
「その日、俺は相棒と共に王宮に忍び込んだんだ。
王宮に天使がいる、みたいな話を聞いて、確かめにな。」
クーノが召喚されたのは11年前だから、その情報は正しい。
「そこで俺達は、コア王国の残党の襲撃に巻き込まれた。」
10年前にテロがあったのは、俺も調べてある。
たまたま巻き込まれるなんて、不運な事だ。まあ、忍び込むのが悪いんだが。
「逃げている最中に、俺は見た。
王女様が、倒れた柱にぺちゃんこにされるのを。」
「いや、待ってくれ。王女様が亡くなったのは、6年前じゃないのか?」
それとも王女様は、何人もいるのか?姉妹とか?
「6年前は、記事を出した頃だな。裏取りに時間がかかったんだよ。
証拠も集めないといけなかったし。
尤も、現場を一緒に見た相棒が蒸発した事に焦って、完璧じゃない状態で記事をだしちまったが…。」
「本当に亡くなったのは王女様なのか?
間違いなく、レフィアラ様?
どんな証拠を掴んだんだ?」
思いのほか、俺は熱くなっていた。
今まで謎だった事が分かりそうで、自分の過去が分かるかもしれなくて。
何となく、ビッケに似ているこの男を、俺は信用していた。
どんな真実を伝えてくれるのかと。
期待と不安の気持ちで、次の言葉を待つ。
「…レフィアラ様…。」
一言。
思わず口から出てしまった、そんな感じ。
「…そうだ、レフィアラ様だ。」
声を殺しながら、男は笑った。
「…だから、あの墓は……花火大会は……そして、天使……それで潰された訳か。」
何を、納得しているんだ?
「兄ちゃん。」
アルテドは、ビッケのようにニヤリとした。
「兄ちゃんのお陰で、王宮が何を隠しているのか、分かったぜ。」
「…教えてくれ。」
「まあ、落ち着きなよ。今はまだ、俺の妄想。裏を取らないといけない。
先に、兄ちゃんを何処で見たかを、」
今の俺は魔法が使えない。だけど、微かに音が聞こえて。
反射的に、アルテドを突き飛ばした。
同時に爆音。
暗殺者は破壊者だった。俺達が背にしていた壁が粉々に吹き飛ぶ。
「アルテド!大丈夫か!?」
返事はない。
倒れている彼を見つける。
息はありそうだが、頭から血を流してぐったりしている。
「アルテド。鍵をくれ、こいつを外したい!」
彼を抱きかかえつつ、奥へ移動する。
爆音は続く。さっきの部屋は、完全に破壊された事だろう。
アルテドを背負い、外へ。
幸か不幸か、ここは旧市街地だ。
空き家だけの、人のいない場所。
とりあえず、頑丈そうな建物の中へ入り隠れた。
アルテドを降ろして、彼の上着を漁る。
「失礼するぞ!」
ポケットが多い。しかも、鍵付きのポケットなんて初めて見た。
引きちぎろうにも、丈夫な生地で。魔力制御の難しい現状では無理だ。
魔力制御装置の鍵は見つからない。しかし、通信機は発見できた。
大きくて、助かる!
「ゼユウだ!誰か、応答してくれ!」
爆発音が聞こえ、悲鳴が出そうになる。
「はいはい、こちらビッケ。」
「ビッケ!?」
捕まっているはずじゃあ?
「非常事態ってやつさ。ほら、ゼユウさんが音信不通になったから。」
「ホーメナよ。ゼユウ、状況は?」
この非常時で、ホーメナの落ち着いた声は助かる。
二度、息を吸い、唾を呑みこんで、答えた。
「アルテドと出会った。今、一緒にいる。
彼は暗殺者に命を狙われていて、現在進行形で攻撃を受けている。
彼の意識はなく、俺は魔法が使えない。
ここは旧市街地の何処かだ、助けてほしい。」
近くで爆発音。再び彼を背負う。
「了解。指輪で、あなたの位置は把握している。
私が護衛に行くわ。ビッケは暗殺者を押さえて。クーノとサダキは、ビッケの援護。」
「「了解!」」
「ゼユウ、すぐに行く。もう少しだけ、頑張って。」
「…了解!」
両足に力を入れる。魔力が操れないと、こんなにも人は重いのか。
しかし、嘆く事はない。頼もしい仲間が、もう少しで来てくれる。
「行くぞ!」
気合を入れて、俺は駆け出した。
そして、建物の裏へ行くと、彼を降ろす。
ぜーはーと、息を整える。少し休憩だ。
(これでいい。籠城より、休み休みでも逃げ回った方が。)
今までの攻撃から、敵のいる方角は分かった。
ここは丁度、死角。建物も並んでいるから、全てを破壊するのは相当大変なはずだ。
少なくとも、位置を変える必要はあって、時間を稼げる。
ビッケやホーメナが間に合えば、俺達の勝ちだ。
(奴の攻撃は、魔法じゃない。
人々に見捨てられた場所とはいえ、生活圏の近くなんだ。
そんな場所で魔法をバカスカ撃てば、警報に引っかかって、あっという間に兵隊がくる。
速攻で決められなかったのに、撤退しない所をみると、魔力効率を調整した改造魔道具を使っている。)
弱点は二つ。
まずは、連射が出来ない事。最初の時、次弾がもう少し早ければ、やられていた。
もう一つは、着弾時に爆発する事。
威力が凄まじいが、貫通能力がない。
つまり、遮蔽物が多ければ、多いだけよい訳で。ここはそういう場所だ。
更に、俺にとっての朗報。
再び背負ったアルテドから、うめき声が聞こえた。
「アルテド!大丈夫か!?」
「…ああ。」
いいぞ。本当に後は、合流するだけ。
「ああ。兄ちゃんは、確かに、あの中に、」
(あの中?コア王国の残党の中?)
強い衝撃を受けた。背後からだ。
俺は転倒してしまう。
アルテドが投げ出されて転がった。
「アルテド!?」
彼は、白目を剥いて痙攣している。
(攻撃!?何処から!?)
首を振り、周囲を見渡す。
そして、そいつと目が合った。
勿論、かなりの距離があるから、目が合った気がしただけだ。
しかし、そいつには、確かに殺意があって。
(間違いない!あいつが、暗殺者だ!)
近くの、看板みたいのを引っ掴み、敵とアルテドの射線上に飛び込む。
「ぐっ!」
左肩に激痛。看板はバラバラ。遮蔽物を貫通する弾だった。
(俺は間抜けだ…。)
何てことない。魔道具を複数所持して、用途で使い分ければいいだけだ。
掃討用の爆破弾と、対人用の貫通弾を。
無様に転がった俺は、アルテドを確認。
さっきの攻撃は防げた、彼は無事だ。まあ、今の状態を無事と呼べるか微妙だが。
俺は立ち上がる。左腕の感覚は無いし、血だって流れている。
それでも。
(俺に、奴の弾は見えない。)
躱すなんて芸当は無理だ。
それでも。
殺気が放たれる。おそらく、次弾が発射された。気がする。
だから。
「竜巻!!」
何も考えず、ただ全力で、眼前に、渦巻く風の壁を張った。
「うらああああ!」
近づく物、全て叩き落すつもりで。
さっきの奴の弾は、看板と俺の左腕と、左腕に着けられた魔力制御装置を砕いたのだ。
「OK!犯人、確保!」
通信機からビッケの声が聞こえた。
「ゼユウ!」
ホーメナも来た。
俺は、魔法を解除して。
「アルテドを、頼む。」
最後の力でサムズアップして、安心して意識を捨てた。
「こんにちは、ゼユウさん。主治医になりました、ニケドです。」
最早、馴染みとなりつつある病院。いつもの病室に、いつものベッド。
でも先生は、いつもと違った。
「今までのトーネイ先生は、他国へ出張になりまして。
今後は、私がコーホの皆さんを見させてもらいます。」
前の先生は、ご年配の方だった。比べると、今度の先生は大分、若い。
ちなみに、どちらも男の先生だ。
「最近、変な噂があって、国を出て行かれる方がいるのは知っています。
でも、トーネイ先生はそれとは関係ありません。
寧ろ先生は、こんな時に国を離れる事を申し訳なく思っていました。
しかし、彼の能力が、どうしても必要という事で、止む無く。」
別に俺は、逃げ出したからと言って、文句を言うなんて事はしない。
悪い事じゃないと思う。
でも、逃げ出す事の出来ない人にとっては、裏切り者みたいに言われるのかもしれない。だから、この人はフォローしているのかもしれない。
トーネイ先生が戻ってきた時の為に。
「ご安心してください。私はこう見えて、ヨダーシルの学校を卒業してますし、経験だってそれなりにあります。
トーネイ先生に、決して劣らないですよ。」
そう言って、ニケド先生は、自分の胸を強く叩いた。
「よろしくお願いします。」
「ええ、よろしくお願いします。」
先生は持ってきた用紙をパラパラめくる。カルテというやつだろうか?
「無事、腕の修復は出来ました。とはいえ、まだ違和感があるでしょう?
ゆっくりリハビリしていきましょう。」
「はい。」
前回は一週間だった。今回はどれくらいだろう。
まあ、俺次第なんだろうけど。
(…?)
謎の沈黙が流れた。
先生は俺のカルテを見ている。何かを確認しているんだと思うけど。
長すぎないか?
(やめてくれよ。お医者さんに黙られたら、不安になるじゃないか。)
「あ、あの?」
「ああ、すみません。」
先生はカルテを閉じて、俺を見た。
「いや、何、ゼユウさん、結構、入院歴がありますね。
広報の仕事、そんなに激しいんですか?」
「あ~、まあ、色々ありまして。」
コーホになってからは二回。でも、その前も実はある。
記憶喪失だから、検査入院ってやつを何回か。
「ところで、先生。」
「どうしました?」
「アルテドは?」
「…。」
詳しくないが、やっぱり他の人には話せないのだろうか?
一応、関係者なんだが。
「一命は取り留めました。」
あ、話してくれるんだ。
「しかし、回復には時間がかかるでしょう。
魔道に深刻なダメージがありまして。
当分は、喋る事も無理です。」
「…治るんですか?」
「ええ、いつかは。数か月、一年くらいかかるかもしれませんが。」
とりあえずは、喜んでいいのか?
しかし、有力な話は期待できなくなった。一年後では、預言の日に間に合わない。
「しかし、本当に運がよかった。少しでもずれていたら、即死だったでしょう。」
「そうなるように、狙って当てた。という事はないですか?」
口封じ。しかも、預言が終わるまでの。そんな気がして。
「…考えづらいですかね。ゼユウさんは、彼を背負って動いていたんでしょう?
しかも、命を奪わず、魔道を打ち抜く。
狙って当てるなんて、そんなミラクルショット、どんな人が出来るのかって、話です。
押収された魔道具に、そんな機能はなさそうですし。」
魔王や賢者ならどうだろう?
優れた魔力探知能力により、魔道の位置を把握できたからこそ、撃ち抜けた。
どうにか魔道具さえ入手すれば技術的には可能ではないか?
二人共、近くにいたし。
(…何を考えているんだ俺は。二人共、俺を助けてくれたんだぞ?)
じゃあ、誰がアルテドを撃ったのかという話になる。
暗殺者では絶対にない。
あの時、奴が撃つなら貫通弾だ。
だとしたら、アルテドも俺も死んでいる。
『私とビッケの二択じゃない。』
ホーメナの声が蘇る。
(だとしても、理由があるはずだ。)
その理由とは、一体、どんな?
部屋を出ていく先生を見送った後、俺は考え続けた。
答えの出ない問いを、ぐるぐると。
あまりに入院するから、ついに主治医のネームドキャラが登場。
意味深な反応もありますから、再登場するんでしょう。
つまり、また入院する予定が…?




