第102話 サダキと幻獣~法則~
~前回までのゼユウ~
俺達は蘇生岩を討伐した。
幻獣は、いつの間にかいなくなっていた。
ホーメナに、思い出した事を、少しだけ話した。
◇登場人物◇
●ゼユウ:主人公●ホーメナ:賢者●クーノ:天使●ビッケ:魔王●サダキ:天使
〇カナミア:アイーホルの勇者〇チゴマ:王宮の偉い人
カナミアとは、ルフロンの町で別れた。
ホーメナの言っていた通り、ラゼン山脈の諸々の調査をしてくれるらしい。
本当にお世話になった。お礼を言い、手を振り、笑顔で、さよならする。
実は、俺があの時の、ウーイングの勇者をバカにした奴だとは明かせていない。
これは秘密にして、墓まで持っていくつもりだ。
謝りたい気持ちもあるが、怖い気持ちの方が強いから。
ホーメナとは、家の前で別れた。
今回の件を、チゴマさんにも報告するらしい。
ついていってもやる事ないし、邪魔もしたくないから、素直に見送る。
家は留守だった。
一週間経ったから、サダキは退院のはず。
俺は、様子を見る為に病院へ。
「あ、ゼユウお帰り。」
病室に向かう途中、クーノに会った。
「ただいま。サダキは?」
「今日の午後、退院だよ。」
彼女は近づいて来て、耳打ちしてくる。
「王宮に呼ばれたから、ちょっと行ってくるよ。
サダキをよろしくね。」
『クーノさんは11年前に召喚されてから、ずっと王宮側さ。』
ビッケの言葉が蘇る。
『滅亡の原因は、私だと思う。』
彼女自身の言葉も。
「ああ、気を付けて。」
だからって、何だ?何か出来る事があるか?
(情報が足りない。調べないと、知らないといけない事がある気がする。)
また後で、図書館に行こうと決めて。
サダキの病室に入った。
「ゼユウ!お久しぶりです!」
サダキは嬉しそうだ。
俺だって嬉しい。こんなに喜んでもらえたなら。
土産話に、ラゼン山脈の一件を話す。
勿論、幻獣に会った事もだ。
「…つまり、あいつのお陰で何とかなった。
サダキの言った通り、悪い奴じゃあなかったよ。」
サダキは真剣に聞いていた。
最後まで聞いて、一言、呟く。
「羨ましいですね。」
「すまないな。俺も会わせたいんだが、普段どこにいるんだか。
そうだ、退院したら、あの池に行ってみようか。
ひょっとしたら、水を飲みにくるかもしれない。」
「あ、いえ。」
サダキが首を振った。
「サダキが羨ましいのは、幻獣の方ですよ。」
「幻獣の方?」
「サダキも、皆と一緒に戦いたいです。」
真剣な眼差しだ。
「サダキを、ゼユウの弟子にしてくれないですか?」
皆と戦いたい。つまりは、天法を使いたいという事か?
「なら、俺じゃなくてクーノの弟子になるといい。
同じ天使だし、天法にも詳しいだろう。」
「クーノは、サダキに戦ってほしくないみたいで…。」
なるほど、既に断られた後だったか。
「…そうだなぁ…。」
サダキから視線を逸らして、天上を見た。
サダキの気持ちは分からないでもない。
同じコーホの仲間なんだから、仲間外れにされるのは気分がよくない。
そう、楽しくない。
(かと言って、引き受けたとして何か出来るか?)
クーノに少し聞いた。
俺達の身体には魔道があり、天使の身体には天道がある。
魔力の通り道の、魔道を持つ者は魔法が使える。
天力の通り道の、天道を持つ者は天法が使える。
要は体質だ。
努力でどうこう出来ない。
まあ中には、魔力も天力も通れる魔天道なんてのを持っている奴もいるらしい。
というより、クーノがこれだ。魔法と天法の両方が使える。
なんでも、天上の国には魔天道にする手術があるとか。
(…そうか。)
俺は天法を教えてやれない。
しかし、天力のコントロールの仕方ならなんとかなるかもしれない。
天法は、異世界の魔法だ。
天力も魔力も魔法を使うという点では同じだし、クーノを見ていると、明確に区別しているふうには見えない。
サダキは、一緒に戦いたいと言った。
天法が使えなくても、天力の制御が上手ければ十分ではないか?
あの時のサダキも、天法は使わずに、あれだけ強かったのだから。
「やれるだけ、やってみようか。」
「!ありがとうございます!」
それだけ喜ばれたら、こちらも全力を尽くさねばならない。
ハンネからもらった本も、探しておかないと。
「そうだ、ゼユウ。」
ニコニコ顔で、呼ばれる。
「どうした?」
「解けましたよ、クイズ。」
勿論、忘れてない。
一週間前、俺が出した問題。『歴代女王様の法則とは何か?』の事だろう。
「よし、答え合わせといこうか。」
サダキが目を閉じ、胸に手を当てて深呼吸。
なんか、俺まで緊張する。
一拍の後、サダキが答えた。
「『名前の頭文字が、カタカナの五十音順になっている。』ですね。」
俺は、目を閉じた。
腕を組んで、そのまま数秒の間を作る。
そして。
「正解!」
「やった!!」
サダキが喜ぶと、俺も嬉しい。
本当に、解けてよかった。
「初代女王様が、ウハルパ様なんですよね。スタートが『ウ』からだったのが難しかったです。」
「そうだよな。どうせなら『ア』から始めれば、」
「?ゼユウ、どうかしましたか?」
「…いや、何でもない。大丈夫だ。」
本当に何でもない。
ただ、さっき一瞬、冷水をぶっかけられたような気がしただけだ。
勿論、心当たりなんてない。
完全に油断していて、クイズ関係に反応したのか、会話に反応したのか、部屋の前を怪しい魔力が通過したのかさえ分からない。
(俺の記憶に関係している奴が、近くにいた?それとも、女王、いや、この国の歴史は、俺に何か関係するのか?)
神経質になっているかもしれない。
いっそ、気のせいだと言われた方が納得できてしまう。
切り替えて、そこからは雑談。
コーホのメンバーの面白話とか、具体的な修行プランとか。
サダキの友達の話もした。
そうしている内に、クーノが来て。
片付けやら、手続きやらをして、サダキは退院。
夕飯は、ちょっと豪華で。
俺達四人は、穏やかな時間を過ごした。
「ただいま~。」
夜遅く、ビッケが帰ってきた。
「…おかえり。」
「はは、複雑そうな顔はやめてよ。傷つくじゃん。」
随分な大荷物だ。降ろすと、一気に部屋が狭くなるほど。
「大量だな。」
「ん?これは違うよ。借りていた道具でね。明日には返しに行くから、今日は置かせてよ。」
まあ、それは構わないが。
「宝石の原石は採れなかったのか?」
「ぼちぼち採れたよ。いいバランスだったんじゃないかな。
極端な値崩れも無いだろうし。」
ビッケはラフな格好になると、自分のベッドに腰を下ろす。
「僕のいない間、どうだった?そっちは。」
別に隠すような事でもないし、同じコーホなんだ。
情報共有は必要だからする。
増え続けた賢者の森の魔物。入院したサダキ。ラゼン山脈の調査。
蘇生岩の撃破。
幻獣についても、森にいるかもしれないと伝え、討伐やら捕獲とかはしないように釘をさす。
それから、俺の記憶についても。
この件では、ビッケと協力体制だし。
「大切な人の存在に、荒野のイメージか。
いいじゃんか、思い出せてきてるよ。
もっと情報が増えれば、考察も可能になる。」
へぇ、とか、ほぉ、とか報告を聞いていたビッケが、記憶の件は喜んでくれる。
少し嬉しい。ホーメナの時は微妙な空気になったから。
「お疲れ様、ゼユウさん。
蘇生岩なんて、僕も実物は見た事がない。
文献とか伝承のみの魔物。骸骨竜とか、そういう類だよ。
いや、ほんと、無事で何より。」
そんな奴だったのか?なら、やっぱり三人で挑むのは無謀じゃないか。
よく勝てたな。
「面白い話を聞かせてもらったし、僕も、とっておきを話そうかな?」
「とっておき?」
ビッケはニヤニヤしている。
「本当はさ、明日、皆に話そうと思ってたんだ。
ゼユウさんにだけ、先行報告。」
嬉しいと言うよりは不気味。よくない話な気がする。
それでも。
「聞かせてくれ。」
気になって眠れないからな。
「ご存知の通り、僕は宝石の原石の発掘に行っていた。ツアーを組んでね。
勿論、目的は資金を増やす為さ。男爵の時、お金になると分かったからね。」
ビッケは、ビッケのポーズ(頬杖つき脚組み)になる。
「廃城とはいえ、魔王城の近く。
実際は、どうにかしたから現れないけど、イメージ的には魔物が出てもおかしくない。
その状況で集まった猛者達さ。面構えが違う。
僕達は意気揚々と採掘を始めた。
初日、二日目、三日目とモチベーションは上がっていく。
問題発生、対策、解決、報酬獲得。未開の鉱山探索は楽しかった。
でも、後半になると、どうしてもね。
ダレてきたんだ。
全容は把握したし、成果も出した。なら、後は消化試合みたいな雰囲気さ。
勿論、最後まで粘る人もいた。
でも中には、興味が別に移る人も出てきたんだよ。」
喋り方の所為だろうか。
聞き入ってしまう。
報告を聞いているというより、ホラー話を聞いているみたいだ。
「周辺には、いくつか浮島があってね。
そこまで大きくない。数時間で一周できてしまうぐらいの物さ。
でも、未開の島には変わりない。
底の知れた島を掘り続けるより、そっちの調査をした方が有益かもしれない。
そういう意見が出てきたんだ。
僕は賛成したよ。
発掘を続ける組と、浮島捜索組に分かれる事に。
面白そうだったからね。」
ホーメナが聞いたら怒りそうな話だ。
安全に行って帰れる計画を立てているのに、そんなノリで変更するなと。
でも、ビッケは、そういう所はしっかりしていると思う。
人を、よく見ているんだ。
その時の詳しい状況は分からないが、割と深刻な対立状態だったのではないだろうか?
いや、なりそうだったから、先に手を打ったんじゃないか?
そう思う。
「勿論、僕は捜索組さ。面白そ、…魔物が出るとしたらこっちだからね。
ちゃんと安全面は考えてあるんだ。
結果的に、ツアーメンバーは全員無事に帰ってきたし。
まあ、それでさ。
二つ目の浮島を調査した時、見つけたんだよね~。」
ああ、本当に楽しそう。
比例して、どんどん不安になってくる。
「…何を、見つけたんだ?」
「ニードル。」
ニードル?
何だ、それ?と、聞こうとして。
似た会話をした事を思い出す。
ホーメナに睨まれた事と一緒に。
『ニードルというのは、数年前に開発された魔法爆弾です。』
チゴマさんに、そう教えてもらった。
「爆弾が、浮島に?」
「そう。未使用の特殊爆弾さ。」
何の為に?その疑問を口にする前に。
「しかも、500個。」
ん?
「いや~、ひりついたね。
ニードルを知っている人も結構いてさ。皆で震えながら数えたんだよ。
何かの拍子に一つでも爆発したら、誘爆して大爆発。
流石の僕でも死ぬね、あれは。
今日が預言の日かな?なんて考えたよ。」
すまないが、全然笑えない。
ホーメナも言っていた。『1000個もあれば、王国領土を光に包める。』
「それで、その、500個のニードル、どうしたんだよ?」
俺の声は、震えていたかもしれない。
「置いてきたさ。放置だよ。」
「な!?」
大声を出してしまったが。
じゃあ、どうすればよかったのかと問われれば答えられない。
「まさか、持ってきてほしかったのかい?
嫌だよ、それこそ、僕が王国滅亡の犯人になっちゃうじゃん。」
「ごもっともだ。反応が浅慮だったのは、謝る。
けど、放置は怖いだろ…。」
「ニードルは、威力や特性もヤバイんだけど、一番厄介なのは、解体の難しさだよ。
当然、海に沈めた程度ではピンピンしている。
勿論、誘爆させずにバラすのは不可能ではない。
僕なら、一日で一個、解体できる。その後、魔力を回復させるのに一日ほしいけどね。
ホーメナさんも、それくらいじゃないかな。」
賢者、魔王クラスでないと、そもそも解体不可。
その二人でも、500個を解体するのに一年以上だって?
「安全圏で爆発させるのが、処理方法としてはいい。
でも、王国領土内で安全に爆発させられる場所なんてあるかい?
専用の施設を建てるのはいいけど、一年じゃあ建たないよね。
他国の領土でやったら大問題だし。
上空もね、それこそ1個ずつ、お昼の鐘がわりに爆発させるのも手ではあるけど、毎日は聞きたくない騒音さ。
それに、安定して打ち上げられる技術も確立はしていない。
回数が増えれば、失敗の確立は上がる。一度でも失敗すれば、大惨事。
とても、GOサインは出ないね。
海上も、相当離れないと津波とかくるよ。
遠海をひたすら進むか、断海に捨てるのがいいけど、どちらも危険な旅さ。」
つまり、今は、放置するしかないのか?
方針が決まるまでは。いや…。
「ボタン一つで起爆できるって聞いた。起爆スイッチはあったのか?」
「そういうのは無かった。爆破時間が設定されているなんて事もない。
まだ調査前で、僕の憶測にはなってしまうけど、コア王国残党が用意していた物じゃないかな?
魔王城の近く、誰も寄らない秘密の倉庫。いいチョイスと言えなくもない。
僕は舐められていて、腹立たしいけど。」
それで安心なんて出来ない。
預言と無関係とは思えない。
「まあ、あそこで500個爆発しても、フレン王国は無事さ。
魔法聖域があるからね。」
「…でも、もしも、最近その場所に用意された物だとしたら?」
用意した奴がいて。そいつに別の場所に運ばれるなんて事になったら…。
「まあまあ。それも含めて、明日みんなで、話そうじゃないか。」
結局眠れない夜を越えて。
コーホと、チゴマさんで話し合い。
長い議論になり。
最終的に、500個のニードルは動かす事に。
場所は、北の魔鉱島付近。
万が一爆発しても、被害はフレン王国だけ。
かつ、魔法聖域で防ぎきれる計算だ。
預言の日を越えた後に、断海へ捨てに行く予定。
「…。」
無事、動かし終えた時。
皆の表情は暗かった。
当たり前だ。強力な爆弾500個は、存在している。
調査待ちだが、あれを用意した人間はいるのだ。もしかしたら、近くに。
あの爆弾が関係しているとは限らない。
それでも。
預言の日は近づいている。
そう、コーホのメンバーは感じていた。
歴代の女王様の名前は、クイズの為の名前。作者だって覚えていません。
だからもし、似たような名前の人が出て来ても関係はありません。たぶん。




