第100話 サダキと幻獣~鉱石の魔物~
~前回までのゼユウ~
賢者の森に魔物が増えたのは、ラゼン山脈からやってきているから。
カナミアに事情を聞くと、蘇生岩っていう強い魔物がいるらしい。
そいつの討伐の準備の為、一度解散。もし幻獣が出てきたら、放置する予定だ。
◇登場人物◇
●ゼユウ:主人公●ホーメナ:賢者●クーノ:天使●ビッケ:魔王●サダキ:天使
〇カナミア:アイーホルの勇者
現在時刻は午前八時。ラゼン山脈の入口。
「出発するわ。」
一週間分の食料を載せた荷馬車と共に、俺とホーメナとカナミアは、蘇生岩を討伐する為に行動を開始した。
コーホメンバーは変わらない。
サダキは入院、クーノが付き添い、ビッケは採掘。
ギリュウはいると思ったのだが、用事があってアイーホルに戻っているらしい。
(三人か。強敵らしいし、気を引き締めていこう。)
今回ホーメナは、ハンネの剣を持ってきている。
ホーメナは中~遠距離戦を得意とする、生粋の魔法使い。
剣術はもちろん、接近戦は強くない。
なのに、なんで剣なんか持ってきたのかというと。
ハンネの剣は、魔法の威力を高める効果があるから。
しかし、かなりの年季の入った剣。頑丈ではない。
大事な形見なのだ。間違っても、壊したくはないはず。
それなのに持ち出してきたという事は。
それだけホーメナも本気。警戒するほどの相手。
そして、厄介なのは敵の戦闘能力だけじゃない。
最初の関門は、発見する事。
岩に擬態しているらしく、中々見つからない。
蘇生岩は、身を隠し、観察し、隙あらば襲い掛かる。
一瞬のうちに獲物を葬り、魔力を吸収するらしいのだ。
とは言え、こちらには賢者がいる。
ホーメナは、土魔法のエキスパート。
彼女の魔法、地探知なら、不自然に動く岩が分かるし、二周すれば一周目との違いを発見できるという訳だ。
時間を掛け、確実に追い詰めていく。
そして、間もなく日が沈もうという頃。
「見つけたわ、あれよ。」
見た目は、ただの岩。周りも岩だらけで、完璧な擬態だと思う。
でも、言われれば魔力が変だ。
一度、その異質さに気づいたら、気になって仕方がない。
標的を誤る心配は、なさそうだ。
第二にして、最大の関門。上手くやれれば、最後の関門。
蘇生岩の討伐。
「ここで逃がさず討伐するのがベストだけど、無理はしないで。
ラゼン山脈は魔物の巣窟として有名な場所。そこの西側のボスになった奴よ。
安全第一、様子を見ながら戦って。」
頷く。ホーメナの方針に異論はない。
俺達は勿論、カナミアも、交戦経験はないのだから。
「それじゃあ、行くわ!」
その声を合図に、俺は駆け出す。蘇生岩目掛けて、一直線に。
周辺の岩が、動いた。
当然だろう。居場所がバレているなら、隠れ続ける必要はない。
(攻撃が来ると思ったさ。)
飛んできた岩を避ける。そのまま突っ込む。
より多くの岩が飛んできた。
風剣で叩き落としていく。
被弾せず防げているが、近づく事は出来そうもない。
だが、それでいい。
俺の狙いは、俺に攻撃を集中させる事なのだから。
稲妻が奔る。
カナミアの雷矢、そしてホーメナの石雨が蘇生岩に襲い掛かる。
しかしその勇者と賢者の奇襲も、浮かび上がった岩々に阻まれた。
当然、俺の苦し紛れに放った風刃が通用するはずもなく。
(本当に硬い、魔法を使いこなしているじゃないか!)
蘇生岩が動く。
岩が集まる。
現れたのは岩の巨人。岩を纏う、岩の魔物。
それが、俺に向かって突っ込んできた。
(岩巨人かよ!)
平然と中級魔法を発動させた奴に、同じく中級魔法の竜巻を放つ。
飛んでいる岩を吹き飛ばしながら、岩の巨人にぶち当たる。
雷の矢や、石の雨の追撃も入る。
それでも。
岩巨人の突進は止まらない。
物ともしない。
ダメージが通らない訳ではない。
岩は砕けている。砕けた岩が、元に戻っていくのだ。
そう、こいつは、蘇生岩。
擬態能力も、岩を操る能力も厄介だが、一番の問題は、耐久力だ。
(くそっ!)
翼を発動、空へ逃げる。追ってきた岩を雷矢が砕く。
そして標的が、カナミアへ。
(生半可の攻撃では、ダメだ!輝刃を!)
成功率は上がってきている。不発にはならないはずだ。
ただ、発動前の数秒間は無防備になるから、ホーメナ達の協力がいる。
(!!)
気づいた。ホーメナは隕石の準備に入っている。
なら、俺のやる事は。
カナミアの雷矢を浴びながら、彼女に拳を振り上げた岩巨人に向かって、上空から竜巻を命中させる。
その場に釘付けにする為、途切れさせないよう放ち続けた。
旋風に、水が混じる。
カナミアの、水渦。
真上からの風圧と、水の重圧で、岩巨人は完全に動けない。
魔法で岩を飛ばす余裕もないようだ。
(音制御で伝える前に、俺達の意図に気づいた。流石は勇者、場慣れしている。)
隕石でコアを破壊して、俺達の勝ちだ!
勝ち筋が見えて油断するなんて事はしない。寧ろ、気合が入ったくらいだ。
なのに、違和感。
いや、嫌な予感。
岩の巨人が、小さくなっている気がする。岩を削っているのだから、それは当然なのだけど。
(岩が戻っていかない?)
そこからは、あっという間だった。
蘇生岩が消えた。
対象がいなくなったので、俺もカナミアも魔法を止める。
ホーメナが近づいてくる。
「逃げられたわね。」
倒せた、訳ないよな。
「おそらく石くらいのサイズになって、風に吹き飛ばされる形で離脱したのよ。」
コアは小さいかも、って話は出ていた。
「…俺の所為か。すまない。」
「いえ、私だけだと押さえきれませんでした。それに水に流される形で離脱した可能性もあります。」
「生命はなくとも生存本能とでも言うのかしらね。大したものよ。
さあ、切り替えて。
新しい情報が沢山増えたわ。
討伐プランを練りながら、索敵再会よ。」
そう、俺達は戦えたし押していた。次、戦えば、俺達が勝つ。
蘇生岩も、同じ意見だったらしい。
だから奴は、逃げ続けた。
完全に身を隠した奴の発見は、非常に困難で。
一週間、探し回った俺達は、一度も遭遇できなかった。
「ここまでね。一度、町まで戻りましょう。」
蘇生岩には出会えずとも、他の魔物の襲撃はある。
消耗もあるし、食料も尽きる。それしかない訳だが。
「悔しいですね。完全にこちらの魔力は把握されていて、おちょくられている気すらします。
…きっと、こういう芸当があったから、のし上がれたんでしょう。
いくら強くても進み続ける事しか出来ない魔物は、残れません。」
「凄いな、カナミアは。」
「?」
思わず、口に出た。
しまったと思うが、ここで止める方が変。続けよう。
「まだ余裕があるように見える。
正直、俺はかなりしんどい。こんなに頑張ったのに、討伐は失敗。
逃げ帰る結果になって、へこんでる。」
なるべく、明るく言ったつもりだ。愚痴っぽく、嫌味っぽくならないように。
顔には出さないが、ホーメナも同じ感想だと思う。
「私達は負けていませんから。」
カナミアは、優しく笑う。
「私達は町へ戻って、魔道具を取ってくるんです。
魔力の質を誤認させられるような物です。
きっとフフゴケ商会なら取り扱っていますよ。
そしたら奴は逃げないので、ホーメナさんが見つけてくれます。
再び戦闘になったら、打合せ通り役割交代で挑みますよ。
ホーメナさんが足止めで、私と、ゼユウさんで決めます。
雷矢は、どちらかと言うと、初速と連射性能が売りですからね。
重い一撃を与える用の、雷大砲を、お見舞いしてやります。
小石になって逃げようと、警戒したホーメナさんからは逃げきれません。
今度こそ、私達の勝利です。」
くぐってきた修羅場の差を、見せつけられる。
第一印象で、侮った自分が恥ずかしい。
「なら、確実に勝つ為にも、まずは無事に下山しないとね。」
ホーメナが荷をまとめ出した。
彼女に倣って、俺も撤退準備を始める。
と、俺の脇を雷の矢が通り過ぎた。
硬直する俺と、少し先で倒れる男。
(盗賊!?)
俺が認識するのと同時、別の方向で、もう一人倒れた。
「流石、いい反応じゃない勇者様。」
「そちらこそ、流石は賢者様です。
敵の魔法攻撃が飛んでこなくて、お陰で荷物に被害が出ませんでした。
自身の魔力制御範囲にある魔力に干渉し、魔法の発動を取り消す。
無属性魔法、魔法解除。
見事な精度です。」
「その、無属性魔法って呼び方、好きじゃないのよね。
属性の特徴が無いからって無属性と呼ぶのは、しっくりこないっていうか。
火球の火を消したからって、無属性の球になる訳じゃない。それは、火の消えた火球であって火属性のままよ。
だから私のは、無属性の魔法解除じゃなくて、土属性の魔法解除。
火属性の魔法解除や、水属性の魔法解除だってある。
効果は、同じだけどね。」
「そうだったんですか。誤解していたみたいです、勉強不足ですみません。」
「あ、いえ。ごめんなさい。
別にいいと思うのよ、どの属性でも関係無く扱える魔法で無属性。
魔法は、正しい理解が大事。
でも、正しい事なんて、基準が変われば変わってしまうわ。
あまりにずれた考えでない限り、自分が分かりやすい解釈をするのが一番よ。」
「はえ~、流石です。奥が深いんですね。」
こんな雑談をしながら、手際よく盗賊を縛り上げる二人。
「…いや、本当に凄いよ、二人共。」
今度は俺も警戒しつつ、撤退準備を再開する。
ラゼン山脈の入口まで戻ってきた。
すでに日は沈み、真っ暗だ。
町までは、まだあるので、今日はここで一泊。
王国兵もいる見張り小屋に、お邪魔する。
二人の盗賊も、ここで引き渡した。
久しぶりの屋根のある建物にベッドだ。
まだ安全圏ではないけれど、俺は熟睡。
したと思ったのだが、変な時間に起きた。
時計を確認すると、真夜中。
トイレで起きた訳ではないのだが、折角だからトイレに行こうとして。
窓から、『それ』が見えた。
咄嗟に隠れる。そして、覗くように再確認。
(幻獣…!?)
金色の体色で、角を生やした馬。微かに、発光もしているような?
賢者の森の中から、こちらを見つめている。
(一応、放置する事になったけど…。)
流石に見なかった事にして寝るのは怖い。
味方と決まった訳ではなく、危害を加えない保証もない。
(…動いた。)
森の中へ戻っていく。
ここで俺は、選択しなければならない。
幻獣を追うか、追わないか。
(いや、追いかけるのか?何で?)
好奇心?違う。
寝起きだった頭が、少しずつ、動いてくる。
(自分で思っただろう、危害を加えない保証はないんだ。
そんなのを、森に放置できるか。)
サダキの顔が浮かぶ。
大丈夫だ。逆に無害だと証明できれば、以降の安全は保障される。
俺は、幻獣の後を追った。
放置で決まった件を、独断で追っている。
つまり、ホーメナ達は起こさない。
(実は幻獣の正体は極悪獣で、俺が瞬殺されるような事になれば、とんだ間抜け野郎になるだろうな。)
そんな事を考えつつ、尾行を続ける。音制御で気づかれてはないはずだ。
幻獣は池の前までやってきた。
水でも飲むのかもしれない。
「!?」
予想外の事が起きた。
幻獣に、岩が迫る。かなりのスピードで。
幻獣は、咄嗟に避ける。
しかし気づけば、宙に浮く岩に囲まれていた。
(蘇生岩だと!?)
一週間ぶりでも、あの攻撃は見間違わない。
いないと思っていたが、山を下りて、賢者の森にいるとは思わなかった。
(ラゼン山脈西側のボスじゃないのかよ!縄張りを簡単に手放すな!)
勿論、言っても仕方ない。
蘇生岩には、奴なりのルールがあるのだろう。
とにかく、この状況ではホーメナ達に連絡しない訳にはいかない。
音制御を発動。範囲ぎりぎりだが、届いただろうか?
通信機を持ってきてないのが痛すぎる。
(!…くそ!)
飛び出す。
幻獣は岩を捌ききれていない。
このままでは、蘇生岩に殺される!
蘇生岩の敵は、敵でない事を祈る。
「助太刀する!」
幻獣に言葉が通じるかなんて知らない。若しくは、自分に言い聞かせたのかもしれない。
今は、幻獣の助太刀をすると。
風剣の二刀流で、岩を叩き落としていく。
しかし、流石に一人では厳しい。ジリ貧だ。
幻獣も避けるのに、精一杯みたいだし。
「うりゃあ!」
幻獣の頭部へ直撃コースの岩を砕く。
が、無茶しすぎた。
体勢が崩れる。
チャンスとみたか、岩が俺に殺到する。
「甘い!」
翼展開。上空へ避難。
したのだが。
「ぐ!」
背中に、強い衝撃。
岩の直撃をくらった。
(甘いのは、俺か!)
俺は池に落下して、
(この池、深い!)
沈んでいく。
このタイミングで言うのもあれだが、実は俺、カナヅチなんだ。
内容は平常運転で失礼してますが、今回で100話。三桁いけました。
第0話があるので投稿数的には前回が100ですが(笑)
どちらにせよ、見ていただいた方、ありがとうございます。




