第0話 王国
世界観と、物語の簡単な説明。
魔法があって、勇者がいて、魔王がいて。
その勇者が魔王を討伐する為に、旅に出るんだよ~って事が、
伝わるといいなと思って書きました。
*???視点*
「今や魔法は、生活に欠かせない物となっています。」
夏の終わり。星の綺麗な夜だった。
「しかし魔法は魔王を生み、魔王は魔物を造りだしました。」
王宮前の広場は人々で溢れかえっている。
「魔物は各地で暴れ回り、私たちの住む場所を、大切な人を、奪ってきました。」
人々の視線を一身に受け、演説しているのはこの国の女王だ。
「魔物はいくら倒しても、魔王がいる限り造られ続けます。そして!」
女王は60歳と聞いていたが、まだまだ元気な様子。
滑舌も通りもよく聞きやすい。
「魔法がある限り、魔王を完全に打倒する事は出来ないのです。」
そう言えなくもない、不十分な解説が続く。
意図的だろう。自分達の正当性を主張しているのだから。
「我々は、魔物の恐怖に怯え続けてでも魔法のある生活を送るか、
魔物の脅威を無くす代わりに魔法のある生活を捨て去るか。
その二択を、常に迫られてきました。」
女王が息を吸い込む。ここからが本題という訳か。
「しかし今、我々には、いや、我が王国には、科学の力が、機械があります!」
広場が一瞬にして明るくなる。星々の輝きが陰るほど。
「魔法などなくとも、我々は豊かな暮らしを享受できるのです!」
確かに魔力は感じない。科学の力という事か。
「今こそ我々は魔王を打倒し、魔法を捨て、真の平和を勝ち取る時なのです!」
女王の隣にひっそりと立っていた人物が、光に照らされる。
「彼の者こそ14代目の勇者!伝承に謳われる真の英雄!」
(勇者は今魔法を使っているぞー、それはよいのかー。)
そういう野次は心の中だけで自重する。
「その名は、レーラス!光の道を歩む者!」
女王が拳を天へと突き出した。
勇者も、それに倣う。
広場は沸いた。
王国に住む人々にとって、女王は絶対。
だから彼女が拳を上げれば、同じように拳を上げる。
本当に期待している人も探せばいるのかもしれないが、おそらく少ないだろう。
この40年で、13人もの勇者が旅立ち、魔王討伐は成功しなかったのだから。
その後の女王の話は、勇者へのサポート体制の説明、勇者の旅の計画の概要、稼働可能な機械と配給率、今後の計画と続いた。
機械で魔王を倒す訳ではない。
魔法を使う勇者が魔王を倒した後、生活を支えるのが機械という話。
(全く、回りくどい。)
最後の締めの言葉が終わると、万雷の拍手で幕となる。
勇者は最後まで一言も喋らず、女王の後ろに立っていただけだ。
それが与えられた役割で、周囲から不満の声が上がる事もない。
(結局最後まで聞いてしまったか。)
はたして国民は何を思ったのか。どれだけ理解できたのか。
帰路につきながら、女王について考える。
(女王は父親の仇の魔王をどうしても殺したかった。
その為に、もっともらしい理由を、勇者が旅立つ度にいい続けたと聞く。
それで今回は、国の産業政策か。)
女王の真意は分からない。
ただ、王国が機械産業に力を入れているのは確か。
(まだ恨みで動いているのか、それとも、本当に国益だと思って魔王を倒したいのか。)
ふと、足を止め振り返る。
広場は依然明るい。全部の光を奪い取ってしまったかのようだ。
広場から離れれば離れるほど、闇が深くなっていく。
(さて、どうしたものか。)
その闇に、とけるように立ち去る。
もう振り向いたりはしなかった。