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永世の桜  作者: cross-love
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必ず会えるから・・・

翌朝、ろくに睡眠もとれずに出社した玲人は部長席に着くと直ぐに、懇意にしている警察官僚に連絡を入れた。東京に進学してから、玲人は警察官に憧れしばらく警察署の道場で剣道や柔道の稽古をしていた。何でも飲み込みが早い玲人に、教官は警察学校に推薦してやろうと申し出てきたが両親の反対に遭い、断念した経緯がある。そこで落ち込む玲人に、今後も困った事があったら連絡して来いといつも玲人を心配してくれ、時間がある時は飲みに誘ってくれる人だ。


「あ、松岡さんですか?玲人です。先日は飲みに誘って頂いてありがとうございました。はい、それでちょっとお願いがるのですが・・・。はい、そうです。俺にしたら重要な・・・はい、ありがとうございます、詳細ですが・・・」


玲人が直接連絡をしてきたと、電話口の松岡が嬉々とした口調で「頼みなら何でも聞こう」と言ってくるのに甘え、玲人は詳細を事細かく伝えていく。松岡は、玲人の言う事をメモしているらしく幾度か繰り返して確認すると、所轄の警察署と直接話す様に手配すると言い、しばらく時間をくれと言い残し一旦電話を切った。次いで玲人は、方々の知り合いに連絡し午前中は全て皐月の事で使ってしまった。

昨夜、急遽会議に駆り出された為に約束の桜の場所へ行くのが遅くなり、皐月を事故に遭わせてしまった罪悪感からか、朝から玲人は機嫌が悪かった。ましてや、その会議は自分ではなくとも十分に事足りる位のものだった事から周りも玲人に当たらず障らずと言った風に誰も近くには近寄って来なかった為、余裕で皐月の情報を手に入れる土台は楽々と築く事が出来た。


「よぅ、機嫌悪そうだな。やっぱり、昨日の会議のせいか?出張だっつーのに、会議に駆り出されて行くのが遅くなった上、帰りも遅くなったって感じ?」

「良く分かるじゃないか」

「分かるって。いつも冷静な玲人が、そんなに恐ろしい顔してんだからよ。昨日、あった事って言ったらそれ位しかないだろう?」

「ああ、そうだな。昨日の会議は俺が居なくとも十分に進める事が出来た。お前でも良かった位だ。それなのに、引っ張り出されて俺は大事なものを失う所だったんだぞ!」

「まあまあ、落ちつけって。大事なもんがなんだか分からねーけど、それよりお前はこの会社に必要とされてるって事だろ?そんなに冷静さを失うと、見えるもんも見えなく・・・ぐぇっ」


周りの制止を聞く事もなく、馴れ馴れしく玲人の元に近寄ってきた葛城は座っている玲人の後ろから覗き込むようにして明るい声で話しかけてきた。そのあまりにも能天気な様子に玲人の眉がピクリと跳ね上がる。それを見ていた、近くのデスクの社員達は葛城が玲人に押さえつけられるのは時間の問題だと冷や冷やした面持ちで事の成り行きを見守っている。それもそのはずで、武道全般をこなしてきている玲人は自分よりも上背がある葛城でさえ、楽々と押さえつける事が出来る。それは歓送迎会などの酒が出る席で何回も目撃されている。それゆえ、葛城も自分が酔いそうな時は玲人を必ず同行させるのだが。そんな事は露とも思わず、物事を素直に行ってくる葛城は玲人の反撃に遭う。


「うるさい。必要とされるのは良いが、下らない会議に付き合わされるのはうんざりするんだ。それなら、お前が部長になるか?私はそれでも構わないが」

「ギブギブ!苦しい!」


首だけを乗り出してくる葛城の首に、一瞬の隙をついて腕を廻し締め付ける。更に、苦しさに身を乗り上げて暴れている彼を自分の前方へ引き寄せ後ろから羽交い絞めにする。苦しいと暴れている葛城に周りは「やっぱり・・・」と言った風な顔を近くの人間と顔を見合わせて中には予想通りだとクスクスと笑っている者さえいた。


「とにかく、今日は側に寄るな。俺は忙しいんだ」

「・・・げほっ!お前、手加減、しろ、よな・・・ごほっ・・・分かりましたよ。今日はもう寄らねーよ」

「そうだ。そうしてくれ、昨日の予定が狂ったから仕事が溜まっているんだ。俺の機嫌が良くなったら来い」

「へいへい」


葛城だけではなく、自分が統括しているフロアに聞こえる様に声を上げる。その尋常じゃない声に辺りは不気味な静けさに包まれ、不貞腐れた様に自席に戻っていく葛城が普段は雑音に紛れ聞こえない椅子を引き力任せに座るこむ音さえハッキリと聞こえた。

仕事に私情を挟むのは社会人では言語道断と言うのは十分に分かっていたが、今の玲人はそれを咎められ降格するのさえ喜んで受けようと思う位、頭の中は皐月の事で一杯だった。


「あ、の・・・松岡様から3番にお電話です・・・」

「ああ、すまない。もしもし?」


静まり返ったフロアに事務員がおずおずと外線が掛ってきた事を消え入りそうな声で言ってきたのに、玲人が受話機を取り話しだすと辺りはやっといつもの雑然とした活気を取り戻した。


「はい・・・え?今、ですか?・・・分かりました。感謝します、ありがとうございました」


受話器を握りしめた玲人の顔が僅かに綻ぶ。手元のメモにスラスラと所轄の警察署の電話番号と住所を書き込むと、丁寧に礼を述べ受話器をゆっくりと下ろす。玲人は勢いよく席を立つと、行き先を書き込むホワイトボードに研修センターと書きこみ、その横に赤字で「直帰」と書き加えて側の社員に重要事項以外はデスクに書類を置いておくように指示すると、急いで駐車場に向かった。


(皐月、絶対に・・・会えるからな)


松岡からは、事故現場を実況見分した所轄の担当が事細かに事故の状況を教えても良いと言ってきたと言っていた。救急車で運ばれた被害者は名前は分からないままだったが、たった今治療を受けた病院へ再治療を受けに来ているのを病院側からの連絡にて報告も受けているらしいから行ってみたらどうか?と所轄の署の住所や電話番号を教えてくれた。「礼には及ばないよ」そういう松岡に玲人は「今度は俺が酒の席を設けますね」と応えると、愉快そうな笑い声が聞こえ「早く行ってきなさい」と言い残し電話は切れた。まだ昼になったばかりの時間で、渋滞に嵌っても3時間あれば余裕で着く。それまで皐月があの場所に留まっているか分からないが、車に乗り込み研修センターと皐月が運ばれた病院、その他皐月が行きそうな場所に全て足止めする様に手を打つとハンドルを握りなおし、少しでも早く到着するべくアクセルを踏んだ。





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