約束
小説初挑戦です。
書き方に拙い部分もありますが、ご了承ください。
BL要素がありますので、苦手な方は閲覧ご遠慮ください。
「皐月、10年後。この桜の木の下で待ってる」
「・・玲人・・・。僕、待ってるから。ずっと、ずっと・・・」
樹齢100年を超えると言う大きな桜の木の下で、九澄 玲人は2つ下の恋人・有澤 皐月を強く抱きしめた。まだ冷たさの残る風に乗って、ピンク色の桜の花びらが皐月の癖のない髪に舞い落ちる。肩を小刻みに震えさせ、自分との別れを享受しようと必死に耐えている皐月が愛しくて堪らない。髪におちた花びらをそっと摘まみ取ると、皐月を上向かせふっくらとした唇に花びらを乗せ自分のそれを重ね合わせる。
「玲人・・・っ」
「桜の精にも誓ったよ。ほら、皐月の唇と俺の唇に挟まれた桜の精が俺達の願いをちゃんと聞き届けてくれた」
薄い花びらはお互いの唇の熱さで半透明に変わってしまっていたが、皐月は自分の唇に張り付いた花びらをそっと取ると、手のひらに乗せた。本当に桜の精が居たら、10年後に僕達を必ず引き合わせてくれる。そう思いながら、じっと手のひらを凝視する皐月に玲人はクスリと微笑むと「じゃ、行くから」と足元に置いていた大きなボストンバックを持ち上げる。
「えっ・・・もう?僕、まだ・・・」
「もう、行かなきゃ。皐月、身体に気を付けろよ。お前は直ぐにお腹を冷やすから、腹巻は必須だぞ」
「玲人っ!僕はもう子供じゃない!」
「じゃあな。皐月・・・愛してる」
「玲人っ…僕も、愛してる・・・」
ぷうっと膨れた皐月の頬をそっと撫でると、玲人はもう一度皐月にそっと口づけし、愛の言葉を囁く。皐月の温かい唇の感触と自分と同じ想いを囁き返すトーンの高い声を胸に、玲人は勢いをつけ踵を返すと振り返る事もなく、駅へと続く道を歩き出す。
「玲人っ!待ってるから!・・・ずっと・・・待ってるから!」
恥ずかしがり屋で、目立つ事が苦手な皐月が大きな声で叫んでいるのに片手を上げて応える。ここで振り返ったら、自分は皐月の元に戻ってしまう。駆けだして、抱きしめて、そこで押し倒してしまう。それじゃ、東京に出ると決心した意味がない。玲人はいつまでも聞こえてくる皐月の声を振り切る様に、大股で駆けだした。