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元魔法少女は普通が良い!

作者: 桃井夏流

ゆるふわ設定です。魔法がある世界に転生した魔法少女の話です。


 私、ナタリア・ミーレフィー!カドスレア魔法学園二年生の何処にでも居る、極々普通の女の子である。


そう!ビバ普通!女友達にはリアは時々可笑しいよね、とか言われるけど全然許容範囲!


だって今の私はマスコットキャラクターに四六時中監視される事も無ければ、痛々しいステッキを持つ必要も無い!敵が出たと強制的に変身させられる事も無い!


ナタリア・ミーレフィーは、前世、魔法少女だった記憶がある、至って普通の女の子なのです!




いや、分かってる。ごめん、自分を騙した。前世の記憶があるだけでも普通じゃないし、まして魔法少女だったなんて、まともではない。



だけど、ちょっと私の気持ちも考えて欲しい。



悪の組織の幹部であるエルフォードと相打ちした事で、たった十七歳で短い人生の幕を下ろした私だった訳ですよ。


でも十七歳って魔法少女やるにはそろそろ精神的苦痛を伴っていたんです。




私がうっかり魔法少女になったのは十二歳の時。まだまだ少女盛りでした。マスコットキャラクター的存在のシャスとも仲良くやれていたし、ステッキ片手に呪文を唱えるのも悪くないな、なんて最初は思っておりました、えぇ。


だけど、五年の年月は長かった!もう無理!二度とやらん!と何度も思いました。私がもしまたシャスに出会う事があれば素通りと言う選択肢を取るでしょう。間違いない。実際似た生物とこの世界でかち合うも、私は見なかった事にしました。ごめんね!元相棒!私はもう自分が可愛い!




さて、この世界で伯爵令嬢として産まれた私ですが、前世の名残か大分大きな魔力を抱えて産まれました。

両親が手を焼いて幼い頃に王宮の魔術師を呼んで、毎日毎日魔力の扱いの訓練でした。

もうやだ!普通の子みたいに遊びたい!と言う気持ちが爆発して、魔力暴走を起こしかけた時に思い出しちゃった訳です。黒歴史、魔法少女だった前世を。


まぁ腐りかかっていたかもですが、魔法少女としてベテランと言っても過言では無かった私です。

魔力は完璧に制御出来る様になりました。

以来私はその時お世話になっていた王宮魔術師さんの口添えもあり、かなり早くから城の書物庫に入る事も許され、将来は万が一結婚出来なかったとしても、安泰と言うやつです。



そんな訳でナタリア・ミーレフィーは、誰が何と言おうと、極々普通の、ちょっと魔力の高い、女の子なのです!




「やぁナタリア」

「まぁ、ご機嫌ようエルモート殿下」


チッ、また声かけて来たよこの第三王子。小さい頃からしつこいったらない。


大体初見の印象が悪過ぎる。人が読んでいる書物をいきなり取り上げて『これは僕が読んでいた本だ!』とか言って。子供か。いや、子供だったが。こっちはちょっとは大人なものだから『あ、はい、どうぞ』とかしか言えなかったわ。それをぽかーんとした顔で見て『お前、何処かで会ったな』って、意味が分からない!会ってないわ!むしろ他人の空似だと思いたいわ!


成長するに連れ、あまりにもこの人はアイツと似過ぎているのだ。



私と相打ちした、悪の幹部、エルフォードと。



ぶっちゃけ、どちらにしろ、関わりたくないんです!



「お前今日も暇だろう、付き合え」

「エルモート殿下、私今日も予定がありますの。きっと他のご令嬢なら手を叩いて喜びますわ。誘って差し上げて下さいな」

「俺の言う事が聞けないのか」

「それはご命令ですか」

「そうだ」

「では臣下である私に断る術はございません。何をすればいいのでしょう?」



こうして権力を振りかざすクズにはなりたくないものだ。悪は生まれ変わっても悪なのか。いやいやナタリア、まだ早計よ、この男がかつての私の仇だと決め付けてかかっては駄目よ。殺意が芽生えてしまうじゃない。



「今度城で行われるパーティーについてだ」

「はぁ」

「お前も知っているだろうが、俺もパートナーを選ばなくてはならない」

「はぁ」

「だから、ドレスを仕立てようと思う」

「どなたのでしょう」

「お前のだ」

「話が見えません」

「気付きたくないの間違いだろう」


えぇ、はい、その通りです。


「お前をパートナーとして伴う。ナタリア・ミーレフィー」

「…………拒否権は」

「何だ、普通の令嬢なら喜ぶものだぞナタリア」

「たった今普通じゃない事に気が付いてしまいました、どうしましょう」

「…俺以外なら不敬だと罰せられるぞ」

「まぁ、罰せられるのですか?どのような罰を与えられるのでしょう?禁固何年程ですか?」

「そこまで嫌がられると流石の俺も傷付くぞ」

「すみません、嫌だったもので…」

「………………ナタリア」



殿下が私の傍まで寄ると、周囲に聞こえない程の声で私に呟いた。




「相棒は何処に置いてきた?ステッキは?あのコスチュームはもう着ないのか?」




詰んだわー。そうじゃないかそうじゃないかと薄々思ってはいたの。でもあっちまで記憶があるのは想定外だったなぁ。


この殺意何処に置いておこう。


前世の自分の仇なれど、相手は王族な訳ですよ。あんなに世界を頑張って守っていた私にあまりに過酷過ぎやしないかね?運命よ。



「ドレスの採寸でしたかしら。何処にお供すればよろしいのでしょう」



難攻不落のナタリアが遂に殿下に屈したぞ!とか言う声が聞こえてきた。後でアイツしばこう。



「まず馬車へ。それから城に行こう」








「それで、どういう意図があるの」

「城でパーティーがある。そのパートナーにお前を伴いたい」

「その裏を聞いてるのよ。なんか良からぬ事企んでるんでしょう、あの頃みたいに」



実はエルフォードは、類と言う名で私の同級生に扮していたのだ。良きクラスメイト、そこそこ仲の良い、なんならちょっと良い雰囲気だった男が宿敵だった時の絶望を私は覚えている。



「お前は昔からそうだ、梨亜。俺の事を全然見ていない」

「……見ていたから、悔しかったのよ」

「本当に?俺の事だけ見ていたか?あのマスコットに唆されて居たんじゃないか?」

「何それ。面白くない冗談だわ。貴方と出会った頃にはもう私達そこまで仲良くなかったわよ」



魔法少女とマスコットキャラクターの見解の相違と言うやつだ。

シャスは相手の組織を『悪』と言い、私は幼い私はそれを信じたけれど、大人になるにつれ『悪』の定義に不安を感じる様になった。

確かに、明らかに悪い事をしている奴らも居たけれど、本当にそうなのか疑う程度の奴も居たからだ。



エルフォードみたいに。



「なぁ、俺達そんなに仲悪かったか?」

「人を陥れといて、今更何を」



そう、信じた私が馬鹿だったのだ。類に呼び出され、のこのこその場所に行き、罠だった時の絶望をこの男は知っている筈なのに。


いや、私が絶望を感じてしまう程に類に惹かれていた事を知っていたかは分からないけれど。



「陥れ…?お前は捕らわれてあの場所に居たんだろう?」

「は?貴方が私を呼び出したんでしょう」

「俺が梨亜を呼び出した………そう言う事か」

「ちょっと、一人で納得しないでよ」

「梨亜、俺はあの日、お前を呼び出していない。部下からお前を捕らえたと言われて助けに行ったんだ」



「…………うそ、そんなはず…だって」



私は最後、どうやって死んだ?確か酷い魔法爆発に巻き込まれて…それで、傍には、類が、エルフォードが居て…?



「間に合わなかった。お前を死なせた原因は確かに俺にある、すまない」



「…………そんな、いまさら…わたし、ずっと、ずっとしんじて」





シェスが言っていた。



『きみはそろそろ魔法少女として、潮時だね』



そうよ、私達、そんなに仲良くなかった。

最後の前の晩、私はシェスにそう言われてステッキをシェスに返した。じゃあもう私は魔法少女引退するねって。



「どうして忘れてたんだろう」



これで普通の女の子だから、もう類と恋をしたって良いんだって思って。呼び出されて、類に好きだって言おうって決めて。


私はあの場所に封じ込められたんだ。



「多分、阻害魔法の一種だと思う。こちらで幼い頃お前の傍をうろうろしていたアイツはもう封じてある。だから今度こそ安心して良い」


「ナタリア」


「今度こそ、お前は俺が守るよ」



涙が溢れた。ずっとずっと守ってばっかりだった私は、誰かに、ううん、この人にそう言ってもらいたかったんだ。



「何であんな、俺様キャラしてたの」

「お前があまりに素直じゃないから、ちょっと意地になって」

「何でずっと私に構ったの」

「…………それ、言わなきゃ分からない事?」

「分からないよ、だって、まだ、一度も聞いた事が無い」



類の、今生ではエルモート殿下の、顔が近付いて来る。



「……好きだからだよ、ナタリア。お前がずっと、好きだった」

「私も、ずっと聞きたかったよ。ずっと、待ってたの、エルモート」




普通に生きて行く筈だった私の未来は、多分もう叶わないけど。

魔法少女と敵対幹部よりかは普通じゃないかなって思って思わず笑う。



「何、楽しそうだな」

「昔より、普通になったな、お互いと思って」

「普通になりたかったんだろ?昔ずっと教室で言ってた。だから俺、死ぬ前に願ったよ。お前だけでも、次は普通になれますようにって」



そうなんだ。覚えていてくれたんだ、ずっと。気にかけてくれてたんだね。



「じゃあ、逃がしてくれるんだ?」

「いや、逃がさないけど」

「ふふっ、矛盾」

「だってまさか自分が王族になるなんて思わなかったから」

「それでも、私が欲しい?」



ぐっと声を詰まらせて、顔を赤くするエルモートが可愛くてしょうがない。



「欲しくてしょうがないよ」




城で開かれたパーティーで、第三王子とミーレフィー伯爵令嬢の婚約が発表された。

二人は共に高い魔力を持ち、お互い切磋琢磨しながらカドスレア魔法学園を同席首位で卒業。

やがてエルモートが公爵位を賜り、その一年後結婚。



二人はこの世界でようやく、幸せに暮らしましたとさ。

転生前の魔法少女時代を書いた方が良かったのでは?とほんのり思いながら書きました。


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読んで下さった方、ありがとうございます。

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う、うわー。これは前世の最期、不穏な真相がありそうだなと思ってしまいました……マスコットキャラまで転生してたっぽいし、怪しい。 類くんは光落ちするか、あるいは別に黒幕がいるタイプの悪役ですね。好きです…
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