【番外編3】片桐美幸と書いてライバルと読む
入船良光目線のお話です。
最初から片桐美幸は俺の敵だった。なんの敵かと言われたら、もちろん恋の敵だ。
そもそも日高さんと出会わなければ、俺は片桐美幸と出会うこともなかっただろう。いろんな意味で運命の人なのだ。俺にとっての日高さんは。そんな日高さんと初めて会ったのは、撮影のスタジオだった。俺がまだ中学二年生の頃のことだ。
「入船良光です。よろしくお願いします」
「日高莉子です。よろしくお願いいたします」
ティーン向けのファッション雑誌の撮影で、その日は同年代のモデルたちがひとつのスタジオに集まっていた。男女それぞれ四、五人はいたと思うが、日高さんはその中でもひときわ容姿もスタイルも良かった。
「日高さんかわいい~」
「ねえ、日高さんこっち来てみて」
「日高さん、目線ちょうだい!」
「日高さん、のど渇いてない?」
「ありがとうございます」
日高さんは可愛いだけじゃなく、性格も落ち着いていて大人びていた。だからモデル仲間にも、カメラマンにも、スタジオのスタッフにも大人気だった。俺も正直、可愛い子だし仲良くなっていて損はないかな程度に思っていた。
「日高さん、お疲れ」
「お疲れ様です」
「同い年でしょ、ため口でいいよ」
そう笑いかけると、日高さんは控えめに微笑んだ。大和撫子とか、清楚とか清純とか、そんな言葉が似合う人だなと思った。
その撮影の休憩時にスタジオの廊下を歩いていると、女子トイレの方から声がした。
「ーー可愛いけど、それだけだよね」
「なんか距離感じて寂しいわ」
「そりゃ私たちみたいな下の者とは関わりたくないってことなんじゃない?」
すぐに日高さんのことを話しているんだろうなと察した。女子って怖いなと思いつつ俺は女子トイレの前を通り過ぎて、廊下の曲がり角を曲がった。
「うお」
俺は驚いて思わず声を出した。曲がったすぐ先に日高さんが立っていたからだ。
「あ…」
日高さんはハンカチを手に俺を見上げた。恐らく女子トイレに行こうとして、自分の話を聞いているのが聞こえてここに立っているのだろう。
「ごめんね」
日高さんは小声でそう言って、その場を静かに離れた。何もかも諦めたような、その切ない微笑みに俺は心臓を握られたような気持ちになった。
「撮影再開しまーす」
その後撮影は滞りなく終わった。日高さんはあの切なそうな顔は撮影中は一切見せず、他の女子たちとも友好的に接していた。
「ねえねえ、莉子ちゃん。連絡先交換してくれない?」
撮影終了後、そう日高さんに話しかけていたのは恐らく女子トイレで日高さんのことを話していた一人に違いなかった。何の魂胆なんだろう女子って怖いなと思っていると、日高さんは微笑んでこう言った。
「ごめんなさい。私、親に友だちは選ぶようにしなさいって言われてるの」
その言葉に女子が固まった。俺は密かに息を飲んだ。
「な、なんで」
女子が戸惑ったように呟いた問いに、日高さんは微笑みを浮かべたまま答える。
「陰口言うような人とは友だちにはなれない」
「えっ…」
「では、お先に失礼します」
そう言って日高さんは振り向かずにスタジオから出て行った。その後ろ姿は凛としていて、格好良さすら感じた。
取り残された女子は、近くに俺がいることに気付いてそそくさとその場から離れた。
「…」
その日俺は、日高さんはその辺の可愛いだけの子とは少し違うんだなという印象を持った。
その後日高さんと撮影で一緒になることや、日高さんの話をスタッフの人やモデルの先輩から聞くことが度々あった。その中での日高さんはいつも凛々しく、落ち着いていて、やっぱり格好よかった。しかし、格好いい日高さんを知るたびにあの日の切ない微笑みが脳裏をよぎった。
スケジュールで日高さんの名前を探すことが多くなり、スタジオ内で日高さんの姿を目で追う事が多くなった。日高さんともっと仲良くなりたい。日高さんがあの日どんな気持ちで切なく微笑んだのか知りたいと思うようになった。その気持ちに寄り添いたいとも。
そしてある日、俺は漫画を読んでいるとその状況が自分と似ていることに気付いた。その漫画は、少年が少女に恋をする物語だった。少年が俺、少女が日高さん?ということは。あれ、俺ってもしかして。
「俺って、日高さんに恋しているのか?」
それを聞いた、俺の家に遊びに来ていた藤谷と響一が驚いたような顔をした。そして声を揃えてこう言った。
「今さら?」
「え?」
藤谷が呆れたようなため息をついた。
「まだ自覚してなかったのが驚きだ」
響一が頷いて、静かに呟く。
「逆になんだと思ってたの」
「お、俺は…ただ人間観察を…」
「良光の趣味が人間観察だったなんて初めて聞いたね」
そんな趣味はない。しかし響一の言葉で改めて気付いた。俺は今までこんなに人に興味を持ったことがなかった。
「…なるほど、そっか。そうだったのか…」
俺は日高さんに恋をしていたから、こんなにも彼女に興味を持っていたのだ。
「まあせいぜい頑張れよ」
「頑張る?」
藤谷が怪訝な顔をする。
「恋してるっていうなら、日高を彼女にしたいんだろ」
俺は頷いた。日高さんが彼女になってくれるなら、彼女の隣にいることができるなら、こんなにも嬉しいことはない。俺は拳を握りしめた。
「俺、頑張る」
「おー」
「がんばれー」
そうして日高さんへの恋心を自覚してからの日々が始まった。
もちろん日高さんにいきなり好きですと伝えるわけにはいかないので、まずは親しい仲になることを目標として、俺は行動を開始する。開始しようとした。
「お疲れ様でしたー」
しかし恋心を自覚してからしばらくは俺は日高さんを直視することができなくなった。その存在があまりに眩しく格好良く、そしてあまりに可愛く見えたからだ。撮影で一緒になっても、平静を保つのが精一杯でそれ以上のことができるわけではなかった。
その後頑張ろうとはするがモデル仲間以上の関係になることはないまま、俺は一つの情報を聞いて飛び上がった。
「えっ日高さんも青空南に?」
「そうだって聞いたぞ」
なんと、入学する高校が同じだったのだ。それを知って俺は入学式の日が待ち遠しくてしょうがなかった。ただのモデル仲間から、同じ高校の同級生、もしかしたらクラスメイトにだってなる可能性がある。そうしたら今よりもっと仲良くなれるかもしれない。
いろんな脳内シュミレーションを経て、青空南高校の入学式の日を迎えた。
クラス分けを掲示で確認し、俺は何食わぬ顔して挨拶をしようと藤谷を無理矢理連れて日高さんのクラスへと向かった。
日高さんの姿はすぐに見つかった。しかし俺はその姿がいつもの日高さんと違っておおいに驚いた。日高さんは花が咲くような満面の笑みで、とある女子生徒に話しかけていた。そんな笑顔は撮影でも見たことがなかったからだ。
話しかけられている女子は本を開いていた。日高さんのことを無視している感じはなかったが、日高さんの方を向こうともしていない。
俺は心の中で叫んだ。
な、なんだあいつは!羨ましい!
後で知ったがその女子は、片桐美幸という名前だった。部活には入っておらず、本をよく読んでいて、見目は整っているが目立つ感じでもなくどちらかと言えば暗い感じの雰囲気の女子だった。入学式以降も片桐に日高さんは妙に熱心に話しかけていた。しかし片桐はいつも日高さんにそっけない態度を取っているようだった。実に不思議だった。日高さんはどうしてあんなにそっけない態度をとられても片桐に親し気に話しかけ続けているのか。
そんな一年生の時に、一度片桐に話しかけたことがあった。
「片桐って日高さんと仲いいの?」
すると片桐はこう言った。
「さあ」
それだけ言って、片桐はもう話は終わったとばかりに俺の前からさっさといなくなった。
俺は心の中で叫んだ。
なんて冷たい奴だ!こんなやつのどこがいいんだ?
どこがいいのかは到底わからなかったが、その後も日高さんは片桐と一緒にいることが多かった。
その後、二年生で日高さんと同じクラスになって俺は浮かれていたが、片桐も同じクラスだということを知って、落胆した。そしてそんな片桐に藤谷が投げ飛ばされて驚愕した。
しかし、その後片桐の雰囲気は随分変わった。日高さんと一緒にいる時、ちゃんと日高さんの顔を見ている。話を聞いている。なんだ、ちゃんと血が通ってるやつなんだなと俺は密かに見直した。
そして片桐がモデルの手伝いに来た日、俺は片桐に日高さんへの気持ちを打ち明けてみた。今の片桐なら協力してもらえるかと思ったからだ。片桐はちゃんと俺の話を聞いて、答えてくれた。あの日、冷たい一言を投げつけた片桐とは別人のようだった。
まぁ、実際別人だったわけだが。
いろいろあった後に聞いた片桐の異世界の話は正直現実とは思えなかったが、俺は今の片桐の方が良いと思っていたのでそういうこともあるかと受け入れることにした。
そんな卒業式まで残り数日となったある日。
「俺、やっぱり日高さんに告白しようと思う」
そんな俺の言葉を藤谷と響一はあっさりと流した。俺は本気だというのに。俺は憤慨したが、藤谷が片桐に告白をしたと言う話を聞いて驚いた。仲が良いとは思っていたが、まさか藤谷がそういう感情で片桐のことを見ていたとは。
意外だった。藤谷と響一はどちらかといえば冷めた気持ちで日高さんを追いかける俺を見ていると思ってたからだ。まさか同じ立場になるなんて思いもしなかった。響一はまぁ俺の思うような冷めた気持ちで俺達のことを見てるかもしれないが。
まぁそんなこんなで俺は日高さんに告白をするために計画を練った。練ったのだが、卒業が近づくにつれ日高さんは片桐にさらにべったりになったし、そもそも自分の入学準備も忙しくなり、さらには今ものすごく日高さんといい関係を築いているのにそれをもし壊すことになったらなどと考え始めてしまって俺は告白への一歩が踏み出せないでいた。
自分自身へのやるせなさを感じつつ、それでいて現状維持でもまあいいかなんて考えを抱いたまま、俺は卒業式を迎えた。
そして卒業式も終えあとはみんなでご飯でも食べに行こうかという時、日高さんが声をあげた。
「ごめん!あたし、教室にコサージュ落とし物してきちゃった!ちょっと取ってくる!」
その瞬間、ここだと心臓が大きく鳴った。最初で最後の好機に、もうどうにでもなれという気持ちもあったかもしれない。俺は日高さんと同じように、声をあげた。
「俺も忘れ物したかも!」
そして教室に向かった日高さんを追いかけるために一歩を踏み出した。
俺は日高さんがいるであろう教室の前にたどり着き、一度深呼吸をした。廊下にはもうほとんど人が残っておらず、邪魔をされる心配も無さそうだった。
教室の中から、あったと呟く日高さんの声が聞こえた。俺はそっと教室のドアを開いた。
「あれ?入船くんどうしたの」
手にコサージュを持った日高さんは、俺を見て不思議そうに首を傾げた。俺は暴れる心臓を抑えて、口を開く。
「俺も、忘れ物して」
「えっ?そうなの」
日高さんが目を丸くする。素直な表情だった。以前ならこんなに感情を見せてくれることもなかった。
「卒業までに、日高さんに伝えたいことがあったんだ」
そう言うと、日高さんは察したのか背筋を伸ばして俺をまっすぐ見つめた。日高さんのこの真剣な顔が格好良くて俺は好きだ。俺は今どんな顔をしているだろう。格好悪くないだろうか。そんなこと考えてもしょうがないんだけど。
「俺、出会ってから日高さんのことずっとすごいって思ってた」
そう言うと、日高さんが微笑んだ。
「そうなの?」
「そう、格好いいって思ってた」
「それはあんまり言われたことないかも」
日高さんが可笑しそうに笑った。その笑顔は可愛いが、日高さんは生き方が格好いいのだ。
「でもその格好良い日高さんでいるためにきっといろんなことを考えて努力してるんだろうなと思ってた」
「…」
日高さんは笑みを薄めた。
「だから惹かれた」
日高さんは俺を真っ直ぐ見てくれている。あとは息を吸い込んで、想いを打ち明けるだけだ。
「俺、そんな日高さんのことが好きだ。今までも、これからも」
日高さんは小さく頷いて、微笑んだ。
「ありがとう」
そして俺からそっと目をそらして少しだけ俯いた。
「入船くんの気持ちは、なんとなく気付いてた」
まぁ、結構積極的にアタックしていたこともあったから気付いていてもおかしくはない。俺は頷く。
「…でも、あたしは美幸ちゃんのことでいっぱいいっぱいだった」
そうだろうな。今日まで片桐の周りではいろいろなことがあった。
「でも楽しかったんだよ」
俯いた日高さんが柔らかく微笑んだ。
「美幸ちゃんと、入船くんと、あと東雲くんとか青葉くんと遊ぶのは」
俺以外の男の名前が出てくるのは少し気に食わないが、一緒にいて楽しいと言われて俺は浮かれ上がった。
「入船くんがいてくれてよかったって思うことも何度もあったよ」
もっと嬉しい言葉に、心臓が暴れだしそうになった。しかし、日高さんは切なそうに眉を下げる。
「でもやっぱりあたしは美幸ちゃんがずっと一番で…」
そうか。そこには勝てないか。俺は苦い気持ちで頷く。
「…………そっか」
すると、俯いていた日高さんが顔を上げて俺を見た。その頬が僅かに赤くなっている。
「だからこれからは、入船くんのこと一番に考えてみる」
え?俺は日高さんの言葉が一瞬理解できなくて、口を明けて数秒呆けた。日高さんはそんな俺の顔を見て、小さく笑って続けた。
「恋愛とか苦手なんだ、あたし。でも、入船くんと一緒にいるのはなんだか楽しいから…ちゃんと向き合ってみないとなって…思ってる」
夢か?これは。日高さんが俺のことを考えてくれるだなんて。それは恋愛対象に入ったということで間違いはないだろうか。
「…これが返事でもいい?」
「あ、ああ!もちろん!」
俺は強く頷く。だって決して俺にとって後ろ向きな答えじゃない。明るい未来の可能性がある。日高さんとの繋がりがまだある。日高さんはまたありがとうとつぶやいて、さらに続けた。
「あたし、入船くんのこと良光くんって呼んでいい?」
「も、もちろん!」
日高さんに名前を呼ばれるなんて、もうそれだけで満たされる。
「それから」
日高さんはひだまりのような笑みを浮かべた。
「あたしのことも莉子でいいよ。呼び捨てでもなんでも」
衝撃的な提案に、俺は口を開いた。
「……り」
音が喉に支えて中々出てこなかった。
「…………………こ………さん」
すると日高さんが驚いた顔で笑った。
「うそ?そんなになっちゃうの?」
格好悪いところを見せてしまったなと、俺は少し苦い気持ちで日高さん、改め莉子さんを見る。頭の中でならいくらでも名前が呼べるのに。声に出すのはあまりにも難しい。
「俺がどれだけり…………こ…さんを好きか知らないからそんなことを言えるんだ…」
すると莉子さんはぽっと頬を染めた。俺はその反応を意外に思った。莉子さんは硬派だと思っていたが、実はストレートなアプローチに弱いのかもしれない。
莉子さんは熱を追い出すように首を少し振って、俺に笑いかけた。
「ほら!そろそろ美幸ちゃんとこ戻ろ!良光くん」
「あ、ああ。そうだな」
「またあたしから連絡するね」
「!ああ」
俺は喜びに打ち震えて、莉子さんに見えないところで密かにガッツポーズをした。やった。やってやったぞ。入船良光、大いなる一歩が実を結んだのだ。
そんな万感の想いを抱えながら、俺は莉子さんの隣を歩いた。すると莉子さんが校舎の出入り口のところで足を止めた。
「どうした?」
尋ねると、莉子さんが門に近いところにある桜の木の下を指さした。
「美幸ちゃんが東雲くんと二人きりになってる…」
「本当だ。響一はどこ行ったんだ?」
片桐と藤谷が桜の木の下で向き合って話をしている。二人とも真剣な顔をしていた。それを見て、なんとなくもう少しあのままでいさせたほうがいいような気がした。それは莉子さんも同じらしく、二人の元へ歩き出そうとしない。
藤谷はあまり見慣れない表情をしていた。それを見ながらそういえばと、俺は先日藤谷が話していたことを思い出した。
「…藤谷が片桐美幸をねえ…」
「…美幸ちゃんが東雲くんをねえ…」
俺たちは同時にそんなことを呟いていた。お互いの声を聞いて、思わず顔を見合わせる。俺は莉子さんの言葉を脳内で反芻して、呟く。
「両想いだったのか」
すると莉子さんは少し面白くなさそうな顔をしながら小さく頷く。
「そうだよ」
その時、背後から声がした。
「まあそうなるよね」
俺と莉子さんは勢いよく振り向く。
「響一」
「青葉くん」
いつの間にか響一は俺たちの背後に涼しい顔をして立っていた。
「響一どこ行ってたんだ?」
「ちょっと野暮用でねそのへんに」
響一はにやりと笑った。その表情に本当か?と訝しんだが、今は置いておこう。俺は藤谷たちに目を向ける。
「………悔しいけど、美幸ちゃんと東雲くんはお似合いだと思う」
莉子さんの言葉には、切なさが滲んでいた。俺と響一は顔を見合わせて、何も言えずただ莉子さんの横顔を見た。俺達の視線を感じたのか、莉子さんがこちらを見てへへと笑った。
「でもいいんだ。友達の一番は絶対譲らないから」
そしてさらにこう言った。
「やっぱりもうちょっと学校で写真撮っておきたいな…」
「え?」
俺は思わず聞き返す。もうすでに結構撮った気がしていたからだ。同じことを思ったのか、響一が莉子さんに尋ねる。
「まだ足りないの?」
「だって…制服着てこの学校で写真撮れるのなんて、今日が最後だよ?美幸ちゃんと一緒に過ごした学校はここだけなんだよ!それなら後悔のないようにしないと!結構人帰ったから、今なら教室でも撮り放題だし!」
莉子さんが頬を膨らませる。そんな顔も可愛いが。
「まあ、それはそうだけど」
青葉が苦笑いをした。俺はお腹が空いてきていたが、それは口にせずに莉子さんに同意することにする。
「俺はり…日高さんが気のすむまで付き合うよ」
「あっ!美幸ちゃんたちこっち気付いた!」
確かに藤谷と片桐が不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。
「美幸ちゃーん!」
莉子さんが片桐に手を振って、手招きをする。片桐は首を傾げている。俺と響一は顔を見合わせてから、莉子さんに大人しく従うことにした。
やがて片桐が一歩を踏み出し、藤谷が笑ってそれに続いた。あいつらも随分柔らかい笑みをするようになったな、と俺は勝手に一人で感慨深く思う。
片桐たちが俺たちのところにやってきて、莉子さんに尋ねる。
「どうしたの?」
「あのね美幸ちゃん、やっぱりもうちょっと写真撮っていい?」
「えっまだ撮るの?」
「あーっ美幸ちゃんまでそういうこと言う!」
「え、ごめん。どこで撮るの?」
「教室!」
「わたしはいいけど」
莉子さんと片桐が楽しそうに会話をする様子を、俺は横で眺めながら思う。
莉子さんとの関係はこれから期待が持てる。しかし莉子さんの一番の笑顔を引き出すのは、やっぱりまだ片桐だ。片桐にとっての友人の一番が莉子さんなら、莉子さんの友人の一番もきっと片桐なのだろう。でも俺はできることなら友人も恋人も関係なく莉子さんの一番になりたい。
だから片桐美幸は、これからも俺のライバルだ。




