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あなたは美しい幸せ  作者: 夏野菜
番外編
47/51

【番外編1】美幸ちゃんは大切なおともだち

日高莉子目線のお話です。


初めて彼女に会った時から、彼女のことが瞳に焼き付いて忘れられなかった。


それは中学二年生のとある日。学校から一人で帰っていたあたしに、変な男が声をかけてきた。


「君可愛いね、モデル?」


当時からモデルの仕事はやっていた。けれどその男がそんな意味で言っていないことはすぐにわかった。


「…」


知らない人から声をかけられても返事をしないように両親からは強く教え込まれていたので、あたしは男を無視して立ち去ろうとした。


「おい」

「…」


危機を察知して小走りになった。でも、男は追いかけてきた。


「おい!無視するな!」

「きゃあ!」


思い切り髪を掴まれて、痛くて悲鳴をあげた。その時だった。


「あっ!?」


男が突然その場に転んだのだ。


「えっ」


すると男の背後に、女の子が立っていた。ジャージを着た、同じ歳くらいの細身の女の子だった。男が膝の裏を抑えていたので、多分女の子はそこを蹴ったのだろうと思った。


「走って」

「えっ」


その女の子は、あたしの手を取って颯爽とその場から連れ去ってくれた。男の姿が見えなくなってしばらくしたころ、女の子は立ち止まった。


「それじゃあ」

「えっ待って!」


あたしの制止も聞かずに、女の子はそれだけ言って走り去っていった。


「え…」


それだけだった。一瞬だった。しかしその出来事はあたしの中にあまりに熱烈に焼き付いてしまった。風のような、光のような女の子だった。それから度々同じ時間にその女の子がいないかその辺りを歩くことがあったけれど、女の子に会うことはなかった。


そして高校の入学式。あの日ほど神の存在に感謝したことはない。入学式の列の中、ひとりの女の子に目を引かれた。不思議と絶対にあの日の女の子だという確信があった。入学式が終わって、あたしはその女の子に話しかけた。


「あのっ!」

「はい」


目が合った。どきどきした。あの日の女の子と同じ目をしていた。


「中学の時、あたしのこと助けてくれた人ですよね?」

「…………」


女の子の目が一瞬泳いだ。それをあたしは見逃さなかった。


「人違いじゃないですか」

「いえ!絶対そうですよね!」


周りの人から変人扱いされてもよかった。どうしてもこの女の子との繋がりが欲しかった。一方、女の子は周囲の視線を気にするように辺りを伺った。やがて女の子はあたしの手を取って歩き始めた。


「……ちょっと、こっちに」

「はい!」


あの時の手だった。間違えるはずがない。あたしはもう嬉しくて嬉しくて、にこにこしながらついて行った。やがて人気のない廊下に辿り着き、女の子はあたしを見た。


「…やっぱり人違いだと思いますけど」

「それは有り得ないです!絶対あなたです!」


あたしはきっぱりと言い返した。女の子がたじろいだ。


「…どうしてそんなに」


女の子がやや引き気味でそう言ったので、あたしは一歩詰め寄ってこう言った。


「あの時あなたに一目惚れしました!」

「え?」

「あたしのともだちになってください!」

「は?」


それが、あたしと片桐美幸という名の女の子との出会いだった。




それから月日が流れて、高校三年生の夏休み明けの日。その日は朝登校すると机の中に手紙が入っていた。


”日高先輩へ。受験でお忙しくなる前にどうしても伝えたいことがあります。放課後、第二校舎の裏庭まで来ていただけませんか。ずっと待っています。”


それを読んだ時、ラブレターをもらうのは久しぶりだなと思った。


そう思ったのに。


放課後裏庭に行くと、そこに人はいなかった。


「…?」


からかわれたのだろうか。そう判断してさっさと美幸ちゃんのところに行こうかと踵を返すと、あたしの耳に着信音が聞こえた。


リリリン


古風な着信音だ。すぐにその音を鳴らしている携帯電話を見つけた。


リリリン


「…」


リリリン


あたしは困って携帯電話を拾う。一向に音は鳴り止まない。まるで電話に出ると急かしているようだった。


リリリン


落とし物なら本人がこれにかけているかもしれない。あたしはそう思って仕方なくその携帯の電話に出た。


「はい…」

『あ、どうも』


電話の相手はまるであたしが出ることは知っていたかのような雰囲気だった。あたしは嫌な予感がしつつ、尋ねる。


「…どなたですか」

『同級生の古城です』


あたしはこの時躊躇せずに電話を切るべきだったのだ。


「…切ります」

『そんなつれないこと言わないでよ。片桐さんの秘密、知りたくないの?』


美幸ちゃんの名前を出されて不愉快に感じたが、このまま古城を放っておくほうがいけないとその時は思った。


「…美幸ちゃんに何をするつもり?」

『人聞きが悪いな。俺はただ…おっと』

「え?」

『主役が登場するみたいだ。そのまま聞いてて』

「ちょ、ちょっと」


電話口からガサガサと音がした。耳障りな音に思わず携帯を耳から離す。


『……ーー』


耳から離した携帯から、誰かの話し声が聞こえた。誰だろうと思って、あたしは再び携帯を耳に当てた。


『ーーちょっと、どこ行くの』

『先生に古城がまた変なことしてるって言いに行く』


美幸ちゃんの声だ。


「美幸ちゃん!」


あたしは名前を呼んだ。しかし美幸ちゃんはあたしの声が聞こえていないようだった。古城は美幸ちゃんとの会話だけをあたしに聞かせようとしているらしい。


「……っ」


あたしは嫌な予感がして、携帯を耳に当てたまま早足で歩き始めた。


携帯の向こう側で古城と美幸ちゃんの会話が進む。あたしは焦る気持ちを抑えて、二人はどこにいるかを考えた。


美幸ちゃんは図書館に行くと言っていた。さすがに図書館であんな話はできないだろう。それなら教室?わからない。とりあえず美幸ちゃんのクラスに行ってみるしか。あたしは小走りで美幸ちゃんの教室へと向かった。


『筆跡鑑定は、別人という結果だった』


だめ。


『そうだ、これ日高さんに見せてみようかな?』


やめて。


「美幸ちゃんを惑わせないで!」


あたしは耐えきれずに叫んだ。


『今この場で、お前が片桐美幸じゃないことを認めて、知っていることを全部話してくれるなら、日高さんには鑑定結果を見せない』


バカなことを。


あたしは舌打ちをする。そんなあたしの耳に、美幸ちゃんの震える声が聞こえた。


『わたしは、この身体の中身は、片桐美幸じゃない』


あたしはそれを聞いて全身の血が沸騰しそうなほどに怒りを覚えて、泣きそうになった。美幸ちゃんになんてことを言わせるんだ。


もう聞いていられなくて、あたしは携帯を耳から離して全力で教室に向かった。そして到着した教室の扉を勢いよく開いた。


夕焼けで赤く染まった教室で、古城と美幸ちゃんが向き合っていた。


「…はっ…」


あたしは乱れた息を整えようと深呼吸をした。そして祈るような気持ちで名前を呼んだ。


「……………美幸ちゃん」


声が震えてしまった。美幸ちゃんはこちらを向かない。


「今の…話…」


そこまで言って、あたしは口を止める。この場であたしは美幸ちゃんに何を言えば正解なのだろうか。どうしたら、美幸ちゃんを苦しませないでいられるだろうか。


迷っている間に、美幸ちゃんが振り向いた。逆光でもわかる顔面蒼白で、表情が強張っていた。あたしはなんとか言葉を紡ぐ。


「…あの、あたし、古城くんから電話がかかってきて……よくわからないまま、話全部聞いちゃって…」


でも大丈夫。あたしは知っているから。とそう続けようとした。けれど、それは遮られた。


「“わたしは、この身体の中身は、片桐美幸じゃない“」

「…!」


ボイスレコーダーを古城が持っていた。いちいち卑怯な奴だ。あたしは苛立ちと同時にもはや泣きそうになる。


「証拠、二つ目」


駄目。美幸ちゃん。古城になんか負けないで。あたしは負けじと声を出す。


「みゆ…」


しかしこちらを向いた美幸ちゃんの顔を見て、あたしは口を閉じてしまった。


だって美幸ちゃんがあまりにも痛そうで、苦しそうで、悲しそうで、泣きそうで、今にも崩れ落ちそうな顔をしていたから。そんな顔は見たことがなかった。そんな顔はさせたくなかった。


「っごめんなさい…」


沈黙の後、美幸ちゃんは耐え切れないように走り出した。


「美幸ちゃん!」

「あっおい!逃げんなよ!」


美幸ちゃんが走り去ってしまった。あたしは一度追いかけようか迷って、しかし古城くんの方に向き直った。


「あーあ。逃げたよ」


つまらなさそうに呟いた古城くんの頬を、あたしは渾身の力で引っぱたいた。


「…!?」

「なんてひどいことするの!!」

「いやだって…あいつ…得体の知れないバケモノなんだぞ…」

「ずっと一緒にいなかったくせに、美幸ちゃんの何がわかるの!」


身体が、血が熱くて、涙がでそうになった。


「あたしはずっと一緒にいたよ。美幸ちゃんと。この一年とちょっと。それでもバケモノだなんて思ったこと一度もない!」


そう言うと、古城が不意をつかれた顔をした。


「……?その言い方…日高…お前まさか、あいつがニセモノだって気付いてたのか?」

「……その言い方嫌い…」


しかし否定はしない。


「……知ってたよ。二年から美幸ちゃんが何か決定的に変わっていたこと」


古城が眉を潜めた。


「……なんでそれでもあんなに親しくできるんだ。気持ち悪くないのかよ」


お前に何がわかるんだと叫びだしたい気持ちを抑えて、あたしはなるべく平静に答えた。


「気持ち悪いなんて思ったことない。二年になってからも、美幸ちゃんはあたしの大好きな優しくて、暖かい人のままだったもの」


それに、あたしには美幸ちゃんとの交わした言葉があったのだ。



それは1年とちょっと前のこと。


あたしは高校の入学式の日に美幸ちゃんにともだちになってほしいと言ったが、美幸ちゃんがそれに頷いたのは一年生の終わり頃だった。


「美幸ちゃん!帰ろう」

「うん」


美幸ちゃんは最初はあたしと距離を取りたがっていたようだけど、そのうちそれを諦めたのかあたしと一緒にいてくれるようになった。


「ね、美幸ちゃん。もうあたしたちともだちになったよね?」


それはあたしが時折尋ねていた質問だった。


「…」


美幸ちゃんはいつもなら「さあね」とでも言って適当にあしらうのに、その日は少し考えるような仕草を見せた。だからあたしはもしかしてと思ってさらに尋ねた。


「えっとうとう認めてくれたの?」


美幸ちゃんは何かを迷うような素振りを見せた後、あたしの方を見た。いつだって湖面のように静かで、綺麗な美幸ちゃんの目。


「…私、気が変わりやすいから、明日には言ってること違うかもよ」


それは、つまり、今日は認めるということか。あたしは嬉しくなって、美幸ちゃんに笑いかけた。


「いいよ!そしたらまた明日からともだちになってくれるまで頑張る!」


美幸ちゃんはそんなあたしを見て、薄く微笑んだ。


「明日にはめちゃくちゃ性格悪くなってるかも」

「どんな美幸ちゃんも、あたしは好きになってみせるよ」

「明日には莉子のことを忘れてるかも」

「そしたらまたあたしのことを知ってもらうように頑張るよ」

「明日には…」

「もう!なんだって同じだよ」


あたしは胸を張った。


「あたしの美幸ちゃんへの愛をなめないでよね!」

「………へえ」


美幸ちゃんは目を丸くして瞬きを数回した後、可笑しそうに目を細めた。いつも静かな湖面に、感情が浮き上がるのが見えた。


「それは楽しみだね」

「うん、覚悟してて」


数日後、あたしは美幸ちゃんがどうしてあんなことを言っていたのか知ることになる。


二年生になって、美幸ちゃんがあたしの知る美幸ちゃんじゃなくなったと気付いた時はさすがに動揺した。しかし、美幸ちゃんとの言葉を違えるのは自分自身が許せなかった。


でも二年生からの美幸ちゃんだって、すぐに好きになった。あたしは、美幸ちゃんが美幸ちゃんであろうと努力していたことを知っている。美幸ちゃんを大事にしてくれていたことをすぐ隣で感じていた。


そして今。


そんな美幸ちゃんを、あんな風に傷つけたことが許せなかった。あたしは古城くんに一歩詰め寄る。


「もう二度と、美幸ちゃんに近付かないで!」

「は?どうしてお前が…」

「近付かないで!!絶対に!!」


あたしは拳を握りしめて強く古城を睨んだ。古城が頷くまでは絶対に譲ってやるつもりなどなかった。


「…東雲くんだって、今日のこと聞いたらきっと古城くんのこと許せないと思う」


東雲くんの名前を出すと、古城くんの顔色がさっと変わった。


「な、なんだそれ脅しかよ」

「そうだよ」


勝手に名前だしてごめん東雲くん。でも東雲くんなら許してくれると思う。だって東雲くんが今の美幸ちゃんを大事にしてくれていること、あたしは気付いているから。


「…」

「…」


睨み合う時間が少し続いた後、古城くんは舌打ちをした。


「わかったよ…」

「絶対だからね」


あたしは念を押す。古城は嫌そうな顔をしながら何度も頷いた。


「わかった、わかったから!東雲には言わないでくれよ」

「…いいよ。あたしからは言わない」


そうこれは、あたしからするべき話ではない。古城はそれから逃げるように教室を出て行った。教室に残されたあたしは、ため息をつく。


美幸ちゃんのことを思うと、胸が痛くて泣きそうになった。しかし、もっと泣きたいのは美幸ちゃんの方だろう。今は家に押し掛けるより、美幸ちゃんが落ち着くのを待った方がいいだろうか。あたしは迷いに迷って、その夜一通のメールを送った。


翌日美幸ちゃんは学校を休んだ。


昼休み、美幸ちゃんが休みだと聞いた入船くんが首を傾げた。


「日高さんは、片桐美幸が休みだからそんなに落ち込んでるの?」


平静を装っていたつもりだったが、入船くんにはそうは見えなかったようだ。あたしは迷いながら言葉を紡いだ。


「…………昨日の放課後、ちょっと……」


なんと言えばいいのだろう。どう言ったら美幸ちゃんをこれ以上傷つけずに済むのだろう。言ってはいけないことを言わずに、それでも本当にあったことだけを伝えなくては。


「……古城くんと、美幸ちゃんが話をして……」


古城くんの名前を出した瞬間に、東雲くんの顔色が変わった。あたしはすぐに強い口調で付け加える。


「古城くんは!ひとまずこれ以上なにもしてこないと思う。だから、今は何もしないで」

「……」


東雲くんがやや不服そうな顔をした。でもこれは美幸ちゃんのためなのだ。


「美幸ちゃんが、美幸ちゃん自身が昨日のことを話そうとしない限りは、美幸ちゃんを無理に急かさないでほしい」


あたしがそう言うと、入船くんは深く頷いた。


「わかったよ。そっとしておけばいいんだよな」


入船くんにそう言われて、教室を去ったときの美幸ちゃんの顔が頭をよぎった。この世のすべてに絶望したような、悲しい顔。


「………無理にとは言わないけど、よかったら、美幸ちゃんにメールを送ってほしい…大丈夫だよって…待ってるって…」


あたしだけじゃなくて今の美幸ちゃんのことを想ってくれている人がいるのだと、美幸ちゃんに知らせたかった。


「…ごめん、あたしから話せることほとんど無いくせにこんなお願いして」


あたしが弱気に笑うと、入船くんは軽い口調でこう言った。


「わかった。とりあえずなんか励ましとけばいいんだな」


その軽さが、なんだか心強く感じた。


「…うん」

「オッケ」


さっそく入船くんと東雲くんが携帯を開いた。青葉くんはメアドを知らないようで、少し申し訳無さそうな顔をしていた。


三人が美幸ちゃんを想ってくれるのが嬉しくて、あたしは少し泣きそうになった。


ねぇ、美幸ちゃん。大丈夫だよ。今のあなたがどんな存在だって、みんなあなたを認めてる。どうか絶望してしまわないで。あなたの味方はここにいる。


あたしは絶対に美幸ちゃんの手を離さないよ。





あたしたちの想いが届いたのか、その後美幸ちゃんが本当のことを話してくれると言ってくれた。その決断をしてくれたことが本当に嬉しかった。


嬉しかったのに、美幸ちゃんをあんな事故に遭わせるなんて。あの日ほど神という存在のことを恨んだ日はない。


美幸ちゃんが眠っていた一週間、あたしはほとんど寝れた気がしなかった。そして何度も考えた。美幸ちゃんが目を覚ました時のこと。その時、その美幸ちゃんはどちらなのかと。あたしに本当のことを話してくれると言った美幸ちゃんは、ちゃんと目覚めてくれるだろうかと。この事故をきっかけに、また1年の時の美幸ちゃんに戻ってしまうんじゃないかととも思った。どんな美幸ちゃんでも受け入れる自信はあった。でも、せっかく話してくれると言ってくれた美幸ちゃんから、話を聞いてみたいと思った。


やがて美幸ちゃんが目を覚ました。本当のことを話してくれると言った美幸ちゃんだった。


正直あたしは、とてもホッとした。この美幸ちゃんとこのまま別れてしまうのはあまりに悲しいと思ったから。


それから、美幸ちゃんは本当に本当のことを教えてくれた。


なんと、あたしが一目惚れした美幸ちゃんは、異世界の人だったのだと言う。あたしはそれを聞いてなんだか納得した。あの時の美幸ちゃんは異世界の人だったから、きっとあたしはあんなに強烈に彼女に惹かれたのだろうと。


あの人の本当の姿は、黒髪で、茶色のような目をしているらしい。異世界の空は、青色をしていないらしい。それを聞いて、暇さえあれば空を見上げる美幸ちゃんの姿を思い出した。あれは異世界のことを思っていたのだろうか。


その後美幸ちゃんの同意を得て、その異世界の人のことをソラさんと呼ぶことになった。美幸ちゃんは異世界のこと、ソラさんのことを何でも教えてくれた。


そしてソラさんのことを話している時、美幸ちゃんはそうだと思い出したようにあたしを見た。


「ソラさんから莉子に伝言をもらってきたんだった」

「えっ」


その言葉にどうしようもなく心臓が高鳴った。素直に嬉しかった。


「”お前の愛をなめていて悪かった。それと、感謝してる”」


それはあたしの知る美幸ちゃんの口調と少し違っていた。それが本当のソラさんの口調なんだろうなと思った。


「だってさ」


美幸ちゃんが優しく笑った。あたしが泣きそうになっているのに気付いたのだろう。


ソラさんが言っているのは、間違いなくあの日の会話だろう。あの時の美幸ちゃんが、ソラさんだという実感がその時突然湧いてきた。嬉しかった。あたしの言葉がちゃんと届いていたこと。ソラさんが、ちゃんとあたしを見ていてくれたこと。


美幸ちゃんを信じ切ってよかったと、心から思った。願わくばソラさん本人と話をしてみたかったけど、それはどうやら神に祈っても難しいらしい。


「莉子はソラさんの美幸を慕っていたから、本当のことを知ったら正直わたしの存在自体を恨まれるんじゃないかと思ってた」


美幸ちゃんは全てを話し終えた後、苦く笑った。確かにそう思ってしまうのも仕方ないくらい、あたしはあの美幸ちゃんのことが大好きだった。けれど違うのだ。あたしは首を振る。


「あのね、美幸ちゃんはわからないかもしれないけど」

「え」


そう言うと、美幸ちゃんは不安そうな顔をした。そんな顔を一秒でも長くさせないために、あたしは続ける。


「自分の大事なものを大事にしてくれる人を、嫌いになる人なんていないよ」


目を丸くして、瞬きを数回する美幸ちゃん。そんな表情はあの日の美幸ちゃんによく似ていた。


「だから大丈夫だよ」


あの日の美幸ちゃんがどこの誰であったとしても、遠いどこかに行ってしまったとしても。今までもこれからも、二人とも大好きで大事な、あたしのともだちだ。


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