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わたしが生きる世界






遠くで、無機質な音が聞こえた。わたしは音の発生源に向けて腕を伸ばした。


ピッ


冷たい感触があり、音が止まった。


「…」


わたしは目を開いて、身体を起こす。そして窓にかかったカーテンをそっと開いた。すると目覚めた部屋には柔らかい朝日が差し込み、明るくなる。わたしは髪を手櫛で整えながら、鏡の前に立った。


そこには肩ほどまでの黒色と、琥珀色の瞳を持つ人が立っている。紛れもない、わたし自身である。少し髪が伸びてきたなと思う。


部屋を出て、洗面所に向かう。金属のレバーを捻って、水を出す。顔を洗い、歯を磨く。水は冷たく、濁りはない。


リビングに行くと、両親の姿があった。休日なのに早起きだ。わたしは二人に挨拶をする。


「お母さん、お父さんおはよう」


すると二人はわたしを見てにっこりと笑った。


「おはよう美幸ちゃん、誕生日おめでとう!」

「おめでとう、美幸ちゃん」

「ありがとう」


今日は3月27日。わたし、片桐美幸の誕生日だ。


朝食にトーストした食パンにマーガリンを塗る。両親とたわいもない話をしながら朝を過ごす。外から聞こえる電線で遊ぶ小鳥の声。蛇口から流れる水の音。素肌に触れる綿の服。天気予報を読み上げる心地よい声。甘く柔らかいパン。


「美幸ちゃん、今日は昼前には出かけるんだっけ?」

「うん」


わたしは朝食を食べ終わると部屋に戻り、服を着替える。今日は誕生日会を莉子、藤谷、入船、青葉が開いてくれる日だ。大学の準備で忙しいだろうに、わざわざ莉子が企画してくれたらしい。


わたしと青葉は無事に志望校に合格した。これで全員来月から大学生である。今日の誕生日会はそのみんなのお祝いも兼ねていると莉子は言っていた。ここ数日大学の準備でいろいろと忙しかったので、莉子たちに会うのは数日ぶりだった。


やがて家を出る時間になり、わたしは玄関の扉に手をかける。その手には盤面が青で白いバンドの腕時計がついている。


「いってらっしゃい、美幸ちゃん」

「いってきます」


笑顔の母と父の見送りに笑顔で応えて、わたしは外に出た。


扉を開くと、視界に空が広がった。暖かい日差しと風は春の香りがする。わたしはゆっくりと階段で下に降りた。


眩しい光と、爽やかな風。遠くから車の音、遊んでいる子どもたちの声。


そんな中、わたしは空を仰ぐ。


わたしはかつて、青くない空の下で空が青い世界の夢を見たと思っていた。しかしそれは夢ではなく、青い空は実在し、わたしはその世界で産まれていた。


わたしが数年生きた青くない空の世界は今は遠く、ここで過ごす日々が増える度に向こうでの記憶が色褪せていくようだった。けれど、その遠い世界に確かに××という人がいることは、決して忘れはしないだろう。××を忘れないように、××と交わした言葉を忘れないように、わたしは日々を精一杯生きていく。


わたしの世界の空は、今日も青い。





【あなたは美しい幸せ 完】

これで本編はおわりです。お読みいただきありがとうございました。今後は番外編を5編ほど投稿予定です。

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