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わたしがしたいこと②






”片桐さんこんにちは。

今日食べたスイーツを送ります。このパンケーキはどこのよりもふわふわで美味しいよ。おすすめです。

最近の体調はどう?”



”パンケーキ美味しそうです。家で作るホットケーキとは大違いですね。

体調の方は、もうすっかり良くなりました。事故にあったのが嘘みたいです。体育祭はさすがに出れませんでしたけど…”



”それは良かった。元気ならそれが何よりだよ。

そうそう、先週文化祭があったんだよね。高校最後の文化祭はどうだった?受験勉強の息抜きにはなったかな。

実は僕もお邪魔する予定だったんだけど、急遽研究室に呼び出されて行けなくて…せっかくだし片桐さんの高校見てみたかったな…”



”そうだったんですか。それは残念です。

今年の文化祭はテーマを決めて学校を飾り付けたんです。とても華やかで楽しかったです。ソーゴさんもきっと気に入る雰囲気だと思います。せっかくなので写真を送りますね。

受験勉強の方は多分順調だと思います。とはいえ気を抜かずに頑張ります”


文化祭が終わったとある秋の日の昼過ぎ、わたしはソーゴさんにメールを返信しながら莉子がやってくるのを教室の中で待っていた。ちなみに今日はわたしたち三年生は午前授業のみの日だ。


「美幸ちゃん!おまたせ〜」


やがてそこに莉子がやってきた。


「作戦通り入船くんたち先に行ったよ。あたしたちも行こ」

「うん」


そして今日は、古城とわたしと莉子と藤谷と入船と青葉でハンバーガー屋に行くことになってる日だった。




事の発端は、わたしが古城にも本当のことを話したいと莉子にこぼしたことから始まる。


「え?!なんで?!」


それを聞いた莉子は驚愕した顔でわたしを見た。


「騙してたのは古城も同じだし、なんかこのまま卒業するのは後味が悪いというか」


わたしが事故から目覚めて以降、古城とは全く話をしていない。古城がこちらを見ないので目も合わない。後味というより、何を考えているのかよくわからなくて気味が悪いとも言うかもしれない。


「え〜…そっか…美幸ちゃんがそうしたいなら…まぁ…やるべきだとは思うけど…でも…う〜ん」


莉子は腕を組んでうんうんと唸った。


「…ちょっと、持ち帰らせてもらっていい?」

「え?あ、うん」


よく考えれば莉子が持ち帰るのはおかしい話なのだが、あまりにも真剣な表情で言われたので思わず頷いていた。


そして持ち帰った莉子を中心に練られた作戦を実施するのが今日なのだ。作戦っていうのは大仰すぎるんじゃないかと思ったが、せっかく協力してくれると言ってるのを無下にするのも違うなと思って口にはしなかった。





「ということで今日は来てくれてありがとう、古城くん」


ハンバーガー屋の六人席に腰掛けて、莉子は古城に笑いかけた。わたしの隣には、莉子と青葉。向かいに古城と、その両隣に藤谷と入船。古城はずっと不機嫌そうな顔をしている。


さらにわたしたちの前には先程それぞれ注文したハンバーガーやポテトなどが並んでいる。昼食である。


「どうして俺があんたたちと一緒に食べないといけないわけ」


古城が怪訝そうな顔をしながらそう呟いた。そんな古城を入船は圧のある笑みで、藤谷は鋭い目を向けた。すると古城がため息をついてテーブルの上のハンバーガーに仕方なさそうに手を伸ばす。一体どんな方法で古城をここまで連れてきたのだろうと苦笑いが浮かぶ。


「わたしが古城とちゃんと話がしたくて」


わたしがそう言うと、古城はハンバーガーの包み紙を開きながらこう言った。


「俺は話すこともうないけど」


莉子と入船と藤谷がその言い方にかちんとしたのが空気でわかった。わたしはそんなみんなを諭すように落ち着いて言葉を紡ぐ。


「そう、それについて聞きたかった。どうして前まであんなにわたしに執着していたのに、今はもう興味が無いの?」


すると古城はハンバーガーにかぶりついてから、わたしを指差す。


「だってあんた、もう異世界人じゃないから」


その言葉に、莉子たちが息を飲むのがわかった。わたしは思わず笑ってしまう。


「それも分かるんだ。さすがだね」


すると莉子が納得できないと言いたげに口を出す。


「あ、あんなに手の込んだ証拠を用意したのに?!やっぱりあれってニセモノだったの?」

「ニセモノじゃない。鑑定結果は本物さ」


莉子たちにはわたしから筆跡鑑定の説明も済んでいる。


「じゃあどうして…」

「俺の勘がもうこいつは片桐美幸のニセモノじゃないって言っている。それだけだ」

「…鑑定結果よりも自分の感覚を信じるの?」


わたしの質問に、ポテトを頬張りながら古城が頷く。


「俺はずっとそうやってきた」


古城はそれで話は終わったと言いたげに、ナゲットに手を伸ばす。そんな古城を見てわたしたちはなんとなく顔を見合わせ、それぞれのハンバーガーを食べ始めた。ジュースを飲みながら、入船が笑って古城の肩を叩く。


「それじゃあ鑑定に掛かった金は無駄金だったってことだな!ご愁傷様」

「別に。貯金はまだあるし」

「…いくら貯金してんの?」

「教える義理はないね」


莉子が眉を下げながらポテトを口に運ぶ。


「古城くんの話に美幸ちゃんは納得したの?」

「感覚の話なら仕方ないと思うよ」


わたしは苦笑いしながらハンバーガーの包み紙を開ける。


「古城の感覚は多分本物だ。ソラさんも驚いていた」


するとジュースを飲んでいた古城がちらりと視線をこちらに寄越した。


「ソラさん?」

「美幸ちゃんと入れ替わってた人の名前だよ。あたしたちがつけたの」


莉子がそう答えると、古城の瞳の色が僅かに変わったのがわかった。


「入れ替わってた?それどこの人」


話の流れが変わったことを感じながら、わたしは答える。


「異世界の人だよ」


古城がジュースを机の上に置いて、わたしを見据える。


「異世界の人と入れ替わってた?ということはあんた、異世界に行っていたのか?」


その視線の鋭さには覚えがあった。でももう何も怯えることはない。


「そう。四歳から高校二年の始業式の日まで」


古城が目を見開いて、鞄からノートとボールペンを取り出した。


「その時の記憶は?」

「全部あるよ」


その食いつきぶりに藤谷が怪訝な顔で古城を睨む。わたしはそれを見て、藤谷が手を出してしまわないか少しハラハラしながら古城に伝える。


「古城はわたしを片桐美幸のニセモノだと言ったよね。あれは半分正解だった」


古城がやや首を傾げる。


「その時わたしは、自分を異世界の人間だと思いこんでいたから」


だから古城はわたしを異世界人だと糾弾した。


「でも本当はわたしが片桐美幸そのもので、ソラさんの方が異世界人だった。わたしが四歳の時に事故で魂が入れ替わっていて、ソラさんはそれを戻そうと必死に頑張ってくれた」


古城が何かを思い出すようにボールペンを額に当てる。


「俺が入学式の時に見たあんたは…その時の中身は異世界人…」

「ソラさんって呼んでよね」


莉子がむくれながら呟く。


「なるほど…通りで入学式の時と二年から感じ方が変わるわけだ」


古城はノートに何かを書き留める。そして顔をあげた。瞳が爛々と輝いていた。


「それで?異世界はどんなところ?」


わたしは莉子たちに伝えたように異世界の様子を伝える。


「荒廃した環境ね、なるほど。それで?身体の作りはこっちの人間と違った?」


莉子たちからは聞かれなかったものだ。わたしは向こうで過ごした日々を思い出しながら、答える。


「向こうはこっちと違って学術も衰退していて、身体の作りについて教えられもしないし本もないから詳しいことはわからない。でも、ほとんど同じだったと思う」


始業式のあの日、美幸の身体になったときに違和感は感じなかった。


「食べるものに違いは?あと消化器官や排泄器官も変わりないってこと?」

「そもそも食べられるものの種類がこちらほどはなかった。よく食べてたのは干した肉や固形栄養食だ。肉はだいたい鳥や獣を狩ったものだね」

「こっちと同じような生き物がいたと」


莉子たちはヒートアップしていく古城を横目に黙ってハンバーガーを食べていた。


「向こうの世界の言語体系は?こちらとまったく同じなのか?」

「同じではない」

「今異世界の言葉で話せるか?」


わたしは口を開こうとして、止まった。


「どうした?」

「…それはどうやらできない」

「できないとは?具体的に」

「…向こうの言葉は頭では思い出せる。口にしようとするとこっちの言葉に変換されるというか…頭で思った言葉そのまま口にはできない」

「…ほう」


そう、向こうの言葉で口にできるのは。


「××」

「は?なんて?」


古城にもやはりこれは聞こえないらしい。


「今のがこっちで唯一声に出せる言葉だよ。異世界の…ソラさんの本名だよ」

「え?も、もう一回言ってくれ」

「××」


わたしたちの会話を聞いていた入船が呟く。


「やっぱり何回聞いても聞き取れねーな。なんで毎回違う音に聞こえるんだろ」

「…」


その横で古城がうつむいて震えていた。


「おい」


さすがにおかしいと思ったのか二つ目のハンバーガーを口にしようとしていた藤谷が古城に声を掛ける。


「古城くん?」


莉子もポテトから手を離して気遣うような声を出した。


「……………ふふ」


しかし、俯いた古城からこぼれたのは笑い声だった。


「あっはっは!!!!素晴らしい!!!最高だ!!!!」


顔を突然上げたかと思ったら、古城はそう叫んだ。


「うるさい」


藤谷がすぐに古城の頭を抑えた。古城は藤谷の腕を払い除けながら、やけにご機嫌に続ける。


「お前らはどうしてそんなに冷静でいられるんだ!歴史的発見だぞ!業界では普通異世界は在ることも無いことも証明できないものだ!それが!この場では!在ることが証明されているんだぞ!」


そんな業界があるのかと思っていると、入船が呆れた笑いを浮かべた。


「本物のオカルトオタクってのはこうなんだろうな」

「もう一回!聞かせてくれ!」


わたしは薄く笑いながら、もう一度その名を口にした。


「××」

「わからん!最高だ!」


古城はしばらくこのような感じで興奮が収まらず、ひたすらわたしに矢継ぎ早に質問を繰り返した。わたしが質問に答えると、古城はノートにしばらくかじりついてメモをする。それは古城が落ち着くまでしばらく繰り替えされた。



莉子たちの机の上のトレーの中身がだいたい空になる頃、古城はようやく落ち着きを取り戻してこう言った。


「それで俺が思うにだな」

「うん?」


わたしはジュースをストローですすりながら相槌を打った。古城の質問の合間にハンバーガーを食べきることが出来たが、まだポテトが残っていた。それを莉子たちに差し出しながら古城の話を聞く。


「その異世界、並行世界のひとつなんじゃないか」

「並行世界…」


本で見たことがある単語だ。


「そう。あくまで仮説だがな」

「どうしてそう思うの」


ずっと静かに話を聞いていた青葉が横から口を出した。


「話を聞いていると、同じ人体の構造、ヒト以外の生物、魂の形、異世界と呼ぶには随分近い世界だなと思った。まあ…言語体系は全く違うが」

「なるほど…」

「一番は入れ替わった事故だな。もともとが同じ世界だったから繋がりやすかったんじゃないか」


そう言われると、ずっとどこか遠いところにあると思っていた××の世界がふと近くにあるように感じた。


「俺達の世界で起こったことが起こらなかった世界。もしくは、俺達の世界で起こらなかったことが起こった世界。そんな世界は無数にあると言われている。そのひとつだったりしてな」


すると莉子が頬杖をついて言う。


「でもそれが正解か間違いかなんてどうやって調べるの?」

「現段階では調べる術なんてない。だからこそ考察のしがいがあるんじゃないか」

「へぇ」


莉子が興味無さそうな気の抜けた返事をする。それを気にせず、古城は続ける。


「オカルトなんて一つの事象の正解が明かされることのほうが少ない。だからなんだ。明かされないからこそ、無限の答えがあり、どんな解釈だって許される」


古城は不敵に笑った。


「だからオカルトは楽しいんだ」


古城の、そのオカルトに対するひたむきさは感心できるものがあると思った。


「それは、楽しそうだね」

「美幸ちゃん!?」


古城は得意げに笑って、手を広げた。


「それはいい。いつだってオカルトの門戸は開かれている。歓迎するよ」

「それは考えておくよ」


やがて食べるものが無くなったので、わたしたちはハンバーガー屋を出た。


「今日はありがとう。大変参考になった」


艶々とした表情の古城に対して、莉子たちはやや疲れた表情をしていた。


「うん、わたしも向こうの世界の話ができて良かったよ」

「何か俺に聞きたいことがあったらいつでも声かけてくれ!」


古城はそう言って笑顔で去って行った。その後ろ姿を見ながら、入船が口を開く。


「あいつもう自分が片桐美幸に何をしたのか忘れてるよな」

「まあ悪い人ではないから」


わたしは苦笑いをしつつそう言った。すると隣から藤谷が口を出す。


「いや(たち)の悪い奴だろ」

「東雲くんに同意」

「同じく」


莉子と青葉が半眼で呟いた。藤谷がさらに付け加える。


「万が一古城に声かける時は俺らも同席させろよ」

「警戒しすぎだと思うけど…」


もう今の古城には敵意も害も感じないのでそう言ったが、藤谷、莉子、青葉のじっとりとした視線を受けてわたしは慌てて頷いた。


「わかった、わかったよ」

「美幸ちゃんはもっと警戒してもいいと思うの」

「してるけど」

「それが足りないってことじゃない」

「青葉まで…」


すると入船がわたしたちに声を掛ける。


「なぁ、今から図書館の自習室行かね?」

「あ、いいね〜」

「いいよ」

「じゃあ僕も」

「お前は本読むだけだろ…」


わたしたちは笑い合いながら道を歩いた。秋の空は高く、風はもう冷たかった。秋が終われば大学受験の本番が待っている。


わたしは県内の国立大学を受験することに決めた。莉子、入船、藤谷は県内の私立大学で、青葉は県外の国立大学だ。


それぞれの望む春を迎えるために、わたしたちは時に愚痴を零したりお互いを励まし合いながら日々を過ごしていった。


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