本当の美幸①
ーーその時、敵の攻撃を目前にした私たちは転移の霊術の発動が必要だった。
「××!転移を頼む!」
「わかった!」
その場にいた人間で、霊術が一番得意だった私は転移をしようとした。しかしその時霊術の発動に必死で、本来なら怠ってはいけない周囲の確認が不足していた。
「待て!××!危ないっ!」
そして、私は失敗した。
霊術の発動中に敵の攻撃を受け、私の霊力は暴発し、耳を割るような心臓を直に叩くようなすさまじい音を立てた。だからこれ以降、私は大きい音が苦手である。この時を思い出してしまうから。
さすがに死んだな、と思った。仕方ないと思った。しくじったのは自分のせいだったから。この世界では命は巡ると言われているので、次に生きる時はもうちょっとうまくやろうとか、多分そんなことを思っていた。
しかし、予想に反して私は目を覚ました。
「あっ!先生!美幸ちゃんが!美幸ちゃんが目を覚ましました!」
ーーは?
「良かった!」
女性が私に手を伸ばした。私は身じろぎして声を出そうとしたが、まったくうまくいかない。
「どうしたの?美幸ちゃん」
ーーなんだ?ここはどこだ?
なんとかして私は体を転がす。そして、綺麗なガラスに写った自分を見て愕然とした。
ーー子ども?これは私の身体か?
その後、現状を把握するために随分長い時間を要した。なにしろこの世界は私の世界と様相が全く異なり、霊術もなかったからだ。幸運だったのは、この身体が成長するのに合わせて私自身もこの世界のことを学習することができたことだ。
「おはよう、美幸ちゃん」
「おはよう、お母さん」
言葉が流暢に話せるようになった頃には、自分が置かれた状況を理解し考察をすることができるようになっていた。そしてある高熱を出した夜に、夢の中でなら簡単な霊術が使えることに気付いた。それを用いて細かい検証を重ねていった末、私は仮説を立てた。
私が今いる身体は”片桐美幸”という人のもので、私の霊術が暴発して私の魂がこの身体に入ってしまったのだと。そして本当の”片桐美幸”は、恐らく私の身体にいるのではないかと。正直、本当の片桐美幸が私の身体にいるというのは希望的観測に近かったが、ある日の夢でそれは事実へと変わった。
その日も高熱を出して寝込んでいた。片桐美幸の身体がたまに高熱を出すのは、身体と魂が一致していないからだと思われた。ただ高熱を出した時の夢は、霊術が成功しやすかった。
その日の霊術は大成功だった。
私の夢の中に、別の人物が現れた。”私”の姿をした人だった。直感でわかった。
ーーやっと!
ーーここまで来るのにどれだけ時間がかかったか!!
私は万感の想いで息を吸い込んで私の名前を呼ぶ。
「××!」
私の姿をした人が、私の姿を見て眉を潜めた。
ーーようやく会えた、本当の美幸。
「やっと会えた」
さて、本番はここからだ。本当の美幸に、この身体を返さねば。
私の犯した失敗は、私が蹴りをつけなければ。




