美幸を好きなひと①
文化祭が終わると、気温がぐんぐんと下がり日中も寒くなった。年間スケジュールを見るに、もう年内の学校行事もない。だからもう静かに日常を過ごすだけだと思っていたが、文化祭の傷が治りきったここ数日から生徒たちはそわそわと何かを心待ちにしているようだった。
「せんせー!このツリー教卓に飾っていい?」
「わあかわいい。でもだめー」
「えーなんで!」
「教頭先生に見られたら先生が怒られるんです」
「教頭先生が来たら隠すから!」
「えー」
その後、先生の机には手のひらに乗るサイズのクリスマスツリーが置かれた。その作り物の小さい木のてっぺんの星は、教室の照明を反射して小さいながらもキラキラしてその存在感を示している。それは、クリスマスという行事を彩るためのもの。美幸の世界にあるクリスマスという行事は、もともと宗教に関わるもののようだが今となっては家族や友人、恋人と楽しい時間を過ごすための行事となっているようだった。
そんな冬の日の帰り道のことだ。文化祭以降例の男たちがまた現れたりしないかとしばらく入船と藤谷がわたしたちの下校時に付き添ってくれていたが、特に男たちの影がないことからわたしと莉子は二人で下校していた。
「美幸ちゃんって、クリスマスイブの夜って何か予定ある?」
クリスマスイブは、クリスマスの前日のこと。クリスマス当日は美幸の母親がご馳走を作ると意気込んでいたが、前日は特に用事はなかったはずだ。
「ないよ」
「ほんと?じゃあ、美幸ちゃんが良かったらなんだけど・・・」
そう言って、莉子は鞄の中から一枚の紙を取り出す。そこには大きく派手な色で、”クリスマスパーティーのお知らせ”と書かれている。
「あのね。前に美幸ちゃんが代理でモデルしてくれた時に来てくれた撮影スタジオあるでしょ?そこで毎年モデル関係者でクリスマスパーティーをしてるの。今年はそれに美幸ちゃんと一緒に行きたいなあって・・・」
莉子はおずおずとわたしを見た。わたしは少し考えて、口を開く。
「わたし関係者じゃないけど、行っていいものなの?」
「主催の人に聞いたら、代理でも手伝いでもモデルしたことある子ならいいって言ってたの!」
主催者がよしとしているなら問題はないだろう。しかし、そこに美幸として言っていいものなのだろうか。ただでさえあのモデルの手伝いだってわたしの一存で決めたのに。わたしはどうしようかと悩み始めた。その雰囲気を察してか、莉子は矢継ぎ早に話す。
「スタジオのクリスマスパーティーはね、ケータリング・・・ご飯のことね!それを毎年とってもいいとこに頼んでるからとーっても美味しいの!ケーキもあるんだよ!一緒に食べたいな〜」
「へえ」
「大きなツリーもあってね!綺麗で見ごたえもある!」
「なるほど」
「ビンゴゲーム大会もあるよ!豪華景品があたるかもしれない!」
「すごいね」
「…ねえ、行かない?」
莉子は首を傾げてわたしを見つめる。わたしは参加は遠慮した方がよいのではないかと思いつつ、こうも来てほしそうな莉子をないがしろにしてもいいものだろうかと悩み始める。
「・・・」
「・・・」
そして莉子から送られる懇願の視線に負け、わたしはとうとう頷いた。
「…わかった、行くよ」
「やった!」
莉子はそれはもう嬉しそうに笑い、当日おめかしして行く算段をわたしに取り付けた。これでいいのかと内心思いつつ、あっという間に時が過ぎてクリスマスイブ当日になった。莉子が選んだ服を着て莉子に髪や顔を整えてもらって、お人形さんのような出で立ちとなった美幸は同じく綺麗なお人形さんのような莉子と一緒にパーティー会場へと向かった。
「メリークリスマース!」
「はい、この帽子をかぶってくださーい」
「これビンゴカードでーす」
パーティー会場である撮影スタジオは、外からは普通のビルだが中に入ってみるとそれはもう気合を入れてパーティーのために飾りつけられているのがわかった。わたしと莉子は入り口で受け取った赤い帽子を頭にかぶる。会場には同じように赤い帽子を被って綺麗な装いをした人たちがすでにそこらじゅうにいた。
「写真撮ろうよ!美幸ちゃん」
莉子の言っていたとおり、クリスマスパーティーの会場の中にはそれはもう立派なツリーが置いてあった。
「はい、チーズ!」
ご機嫌な莉子に流されるまま、わたしは莉子とツリーと写真に収まった。そして莉子と二人でツリーを眺めていると、そこに年上と思われる綺麗な女性がやってきた。もちろんわたしたちと同じく赤い帽子をかぶっている。
「あっ莉子ちゃーん。メリクリ~」
「あっ先輩。お疲れさまです。メリクリです!」
莉子の事務所の先輩のようだ。莉子が女性に頭を下げる。わたしも合わせて軽く会釈をしておいた。女性はわたしたちに朗らかな笑顔を向けた後に部屋の中の、人が何人か固まっている場所を指さす。そこに視線を向けると、妙齢の男性が老若男女に囲まれていた。
「もう室長のとこ行った?まだ行ってないなら一緒にどう?」
「あっ行ってないです!ぜひご一緒したいです!」
すると莉子が振り向いて、申し訳なさそうに顔の前で両手を合わせた。
「ごめん美幸ちゃん、ちょっと挨拶しに行ってきていい?美幸ちゃんは会場の中好きなように見ててくれていいから」
「うん、いいよ」
「ありがと!じゃあちょっと行ってくるね!すぐ戻るから!」
そう言って莉子は綺麗な女性と共に人が集まっている方へと行ってしまった。ひとり残されたわたしは、手持ち無沙汰なのでとりあえずツリーを眺めることにする。ツリーのオーナメントはスタジオ側で用意したものと、持ち寄りで集めたものがあるらしい。綺麗な丸いオーナメントの横におもちゃのような鹿がついていたり、何かのキャラクターのキーホルダーがついていたりと見ていて飽きない。
「ん?」
ゆっくりと歩きながらツリーのオーナメントを眺めていたが、ふと視界に白い折り鶴が目に入る。ただの白い折り紙で作られたのではない。罫線が見えるので、ノートを切って無理矢理作ったのだろう。さらにその折り鶴の翼には、文字が書かれていた。
”ごはん!”
”おなかすいた!”
「ふ」
両翼に食欲を乗せた折り鶴の存在は、豪華絢爛なツリーと会場となんだかちぐはぐだ。わたしは思わず小さく笑って、ふと思う。
藤谷はこれを見て、笑うかな。
なんだか気になったわたしは、自分の携帯を取り出して折り鶴を撮った。
カシャリ。
そしてせっかくならツリーの全体像も撮っておくべきかと思い、わたしはカメラを構えたまま数歩後ずさった。
カシャリ。
すると。
「あっすみません!」
声をかけられたような気がしたので、携帯画面から顔をあげる。するとそこには赤い帽子を被った男性がこちらを見ながら立っていた。わたしは何の用事かと首をかしげる。
「はい」
「よかったら、ツリーと一緒に写真撮ってもらえないですか?」
そう言ってその男性は、ツリーとわたしの間に立った。
「え?」
「そこからでいいんで!」
「あ、はい」
男性はそう言って、ツリーの前でポーズを取った。多分莉子や入船と同じモデルの人なのだろう。ポーズを取るのに慣れた様子だったから。そんなことを思いながら、わたしはそのまま携帯の撮影ボタンを押した。
カシャリ。
「ありがとうございます!」
「いえ」
そこでわたしははたと気付く。勢いのままわたしの携帯で写真を撮ってしまったが、この写真がほしいのは男性の方ではないか。わたしは男性に撮った写真を見せながら尋ねる。
「この写真はどうしたらいいですか?」
そう言うと、男性があっと申し訳なさそうな顔になる。
「すみません撮らせてしまって・・・このアドレスに送ってくれないですか?」
そう言って男性は自分の携帯にアドレスを表示した。
「えーっと・・・」
「すみません。お手数おかけして」
写真をメールに添付し、宛先にアドレスをゆっくりと打ち込み始めると、男性は少し笑ってわたしに手を差し出した。
「・・・よかったら、僕が打ちましょうか?」
あまりにわたしがたどたどしい動作だったからだろう。代わりにアドレスを入力してくれるらしい。まあそっちの方が効率がいいかなと思い、わたしは申し訳なく思いつつ男性に美幸の携帯を渡す。
「すみません、お願いします」
「いやいや、うっかり貴方に撮らせてしまったのは僕なので」
男性は滑らかな動きでアドレスを入力し、あっという間に送信ボタンを押した。あれくらい速く文字が打ち込めるようになるにはどれくらい時間がかかるのだろうと、それを見ながら思った。
「ありがとうございます。届きました」
「いえ」
わたしは携帯を閉じてその場を離れようとしたが、男性が視線を向けてきたのでなんだろうと思ってそちらに顔を向けた。
「何か?」
「あの、貴方ってさっき日高さんと一緒にいた子ですよね?あまり見ないけど、もしかして事務所の新人さん?」
莉子の知り合いだったみたいだ。わたしは首を振る。
「わたしはモデルじゃないです。前に、莉子の雑誌の手伝いをしただけで」
「ああ!もしかして、あのおうちデート特集の?」
「あ、そうです」
そういやそんなテーマだった。覚えられているのか。というか、この人は誰だろう。そう思ったのが伝わったのか、男性は頭に手を当てて眉を下げた。
「あ、ごめんなさい。自己紹介もせずに。僕は日高さんと同じ事務所の、浦川壮悟です。みんなソーゴさんって呼んでるんで、ソーゴさんって呼んでください」
自己紹介をされたなら、こちらも同じように返すのが礼儀だ。
「わたしは片桐美幸といいます。えっとソーゴさんは・・・莉子の先輩ですか?」
「そうですね。大学一年生です。片桐さんは、日高さんと同じ高校生?」
「はい」
わたしはそこまで返事をして、敬語のソーゴさんを不思議に思う。
「こちらが年下なんですから、敬語でなくていいですよ」
するとソーゴさんは、少し照れたような笑みを浮かべた。
「ごめん、つい。じゃあそうさせてもらうよ」
やや強引な感じはあったが、言動に嫌みはなく清涼感がある人だと思う。普段よく関わっている藤谷や入船、青葉とは雰囲気が違うのでなんだか新鮮な感じがした。
「でもそうか、片桐さんは事務所に所属していないんだね。もったいない」
「そうですかね」
「だって片桐さん、とても綺麗だから」
「ありがとうございます」
わたしも美幸は綺麗だと思う。そう思って素直にお礼を言った。するとソーゴさんは可笑しそうに笑った。
「モデルに興味があったらぜひ教えて。事務所に推薦しておくから」
「あ、いえ、わたしは・・・」
断ろうとしてわたしははたと止まる。美幸は日常が退屈だと言っていたので、いっそモデルのような華やかな世界に身を置いた方がいいんじゃないかと思ったのだ。とりあえずはわたしは自分から可能性を断ち切るのはやめておいた方がいいのかもしれない。
「・・・考えておきます」
「はは、ぜひ検討しておいて。じゃあ写真ありがとう。パーティー楽しんでね」
「はい」
そう言って、ソーゴさんはわたしの前から立ち去った。それと入れ替わりで莉子が戻ってきた。
「あれ?美幸ちゃん、今ソーゴさんと話してた?」
「うん」
わたしが自分の携帯で写真を撮ったからだと先ほどのことを話すと、莉子が眉間に皺を寄せた。
「・・・相手の携帯で写真を撮らせて自分のアドレスに送ってもらう…?」
険しい顔のまま、莉子は去ったソーゴさんの背を見る。莉子の反応が芳しくないので、わたしは不安になる。
「ソーゴさんってもしかして、わたしなんかが話したらいけない人だった?」
「え?いや、そんなことないよ。ソーゴさんは普通に事務所の先輩ってだけで…いい人だし…」
しかし莉子はそう言いながらも、依然として険しい顔をしている。
「・・・美幸ちゃん。もしソーゴさんと何かあったら、一番にわたしに教えてね・・・」
「え?うん」
その後、主催者の挨拶の後の乾杯と共にクリスマスパーティーが始まった。わたしと莉子はりんごの炭酸ジュースで乾杯をした。
すると陽気なクリスマスソングが流れ始め、会場は一気に賑やかな場となった。
「美幸ちゃん!料理取りに行こ!」
「うん」
莉子の言っていた通り、パーティー会場に並んでいる食事はどれも美味しい。中には明らかに高級そうなメニューもあり、普段であれば食べられないものを味わえて正直嬉しいと思った。
食事をしながらわたしは会場を見渡す。参加者はみんな美味しい料理を食べたり、知り合いと談笑したりと誰もが楽しそうにしている。一人残らずだ。この会場にいる全員が。どこを見渡しても、ここは優しく温かい空気で満ちている。それがなんだか不思議でわたしが会場を見渡していると莉子が首を傾げた。
「どうかしたの?美幸ちゃん」
「このパーティーって、いつもこんな感じなの?」
「うん!室長がクリスマス大好きな人だからね!気合入りまくりなんだよ。すごいでしょ!」
莉子はローストポークを口に運びながら笑う。
「あといつもモデル業で頑張ってるわたしたちに幸せをおすそ分けしたいんだってさ」
幸せ。ふとその言葉が頭にひっかかる。しかしそれは顔には出さないようにして、感心しながら頷いた。
「そうなんだ、すごいね」
「そうでしょ?また美幸ちゃんも来年誘うね!」
「気が早いね」
わたしは苦笑いをする。来年の参加は美幸が決めることだろうから、今のわたしには何も言えない。そして先程の莉子の言葉を反芻する。
幸せ。それは美幸の名前に含まれる言葉のひとつだ。そういえばその言葉の意味を、わたしはちゃんと調べたことがなかった。それはどんな意味だったろうかと、わたしは考える。決して負の感情が含まれない、ただひたすらに明るく綺麗な言葉だったはずだ。そして楽しいや、嬉しいと似た感覚ではあるが同じ意味ではない深い言葉だ。
多分、まさにこの空間を表すような言葉なのだろう。そう思うと、会場がなんだかやたら眩しく感じて、わたしは少し目を細めた。
それならば、わたしは?
そんな問いが、胸の中に浮かんだ。
「日高さん!片桐美幸さん!メリークリスマス!」
「あっ入船くんだ〜メリクリ〜」
入船の声にわたしは目を開く。
「入船。メリークリスマス」
「二人ともドレス綺麗だね!よく似合ってる」
そう言う入船も今日は前髪を上にあげ、品の良いジャケットを着ている。見ようによっては年上にも見えるくらい、いつもと雰囲気が違う。
「入船くんもかっこいいよ〜」
「えっまじ?ありがと」
莉子に褒められて入船は嬉しそうに頬を緩める。
「せっかくだし、よかったら3人で写真撮らない?」
入船のその言葉に、わたしは思わずそこは莉子に二人で撮ろうと言えよと入船をじろりと見た。入船はわたしの視線に気付いたのかやや笑みを硬くしてこちらを見る。
「…なんだよ?」
「いや別に」
「じゃあ入船くんがカメラね!」
莉子が元気よくそう言って、わたしと入船の間に立った。
「お!任せろ!」
よかったね入船。莉子と並べて写真に写れて。わたしはそんなことを考えながら、カメラに向かって薄い笑みを浮かべた。
そして莉子と入船と食事をしながら話していると、クリスマスパーティーの催しのひとつである豪華景品が当たるビンゴゲーム大会が始まった。司会者の人の指名した人が数字が書かれた玉が出てくる抽選器を回し、出てくる数字が読み上げられていった。
「では次は〜、24!」
「あ」
わたしの受け取ったビンゴカードは順調に開いていき、莉子や入船より先にリーチになった。
「美幸ちゃんすごーい」
「俺、全然なんだけど…」
「まぁこういうのは運だし…」
「何が来たらビンゴ?」
「3が来たらビンゴ」
「よーし!3来い〜」
莉子はそう言っては、祈るように両手を合わせた。自分のじゃなくて他人のビンゴを優先するなんてと、わたしは思わず笑う。そして莉子のビンゴカードをのぞき込んだ。
「莉子は何が来たらリーチ?」
「20!」
「じゃあ20が来ますように」
莉子を真似して手を合わせる。すると、莉子が嬉しそうに笑った。
「ちなみに俺は11と7が来たらリーチ」
「それは難しいな」
「頑張ってね!」
「二人とも俺のは祈ってくれないんだな・・・」
「莉子がビンゴになったらその後に」
「わたしも美幸ちゃんがビンゴになったら祈ってあげるね」
「ちくしょー」
わたしと莉子の言葉に入船は悔しそうに笑った。そうこうしているうちに、抽選器から次の数字が書かれた玉が出てきた。
「お次の数字は〜3!」
「あ!」
「お!」
わたしより莉子と入船が声をあげるのが早かった。
「おおー」
「美幸ちゃんビンゴだ!」
「すげー!ほら前出て行けよ」
「うん」
ビンゴになった人は、景品を受け取るために前に出る必要がある。人の間をぬって司会者が立っている場所まで行くと、丁度同じタイミングで男性も前に出てきた。
「あれ」
その男性は、ソーゴさんだった。
「もしかして片桐さん、ビンゴ?」
「はい、そうです。ソーゴさんもですか?」
「まさか片桐さんもだなんて、運命かな」
わたしがビンゴカードを見せると、ソーゴさんも嬉しそうに笑って同じようにビンゴカードを私に見せた。
「そうですね」
「おっとビンゴが二人です!さて、景品はどうしますか?話し合いで決めますか?それとも奪い合いますか?」
司会の人が景品を指差しながら、そう言った。会場から楽しそうな笑い声があがる。このビンゴ大会は、早くビンゴすればするほど良い景品が貰える。わたしとソーゴさんは5番目と6番目のビンゴだ。5番目はお掃除ロボットで、6番目は有名なチェーン店のドリップコーヒーセット。
「どうしますか?」
わたしはソーゴさんにそう尋ねた。どちらの景品になっても結局は美幸か美幸の両親のものになるだろう。それならソーゴさんの判断に委ねたほうが良いかと思ったのだ。
「じゃあ片桐さんお掃除ロボット持っていく?」
ソーゴさんがそう言うと、会場の奥から野次が飛んだ。
「格好つけんなよソーゴさーん!お掃除ロボットめっちゃ欲しがってたじゃないっすかー!」
「馬鹿!言うなって!」
ソーゴさんが困った顔をして野次に言葉を返した。また会場から笑いがあがる。
「ソーゴさんは、お掃除ロボットがほしいんですか?」
「いや、まぁ、もらえるなら嬉しいってだけだよ」
「いいですよソーゴさんがお掃除ロボットで」
「いやそれは申し訳ないよ、年下の女の子に気を使ってたもらうなんて…」
顔を見るに、どうやら本当に欲しいものなのだろうということがうかがえる。しかしなぜかわたしの提案をそのまま飲むのは抵抗があるらしい。ただわたしもこのままお掃除ロボットをもらうのはなんともこちらも後味がよくないので避けたいところだ。
「さて!どうしますか?」
司会の人が決断を迫ってくる。ゲームはまだ続いているのだ。こんなところに時間を使っている暇はないのだろう。わたしはそう思って、握り込んだ拳をソーゴさんの前に出す。
「せっかくですので、奪い合いましょう」
お互い気を使い合うより、よっぽどそのほうがいい。そう思ってそう言った瞬間、会場の人たちが感心するような声を上げた。
「いいぞ!そうしろ!」
「ソーゴさん奪ったれ!」
「ソーゴさんから奪っちゃえ!」
「お前らうるさいな!あとで覚えておけよ!」
ソーゴさんは観衆たちに苦笑いしながら一喝し、わたしと同じように拳を前に出す。
「じゃあ、勝った方がお掃除ロボットを手に入れるということで」
「はい」
「おっと!じゃんけんで決めるそうです!それでは僭越ながら声掛けをさせていただきます!最初はグー!」
司会の人の掛け声に合わせてわたしとソーゴさんは手を動かす。
「じゃーんけーん!」
わたしは拳の指をほどく。
「ぽん!」
わたしはパー。
ソーゴさんはチョキだ。
「ソーゴさんの勝利!お掃除ロボットはソーゴさんが手に入れました〜!おめでとうございます!」
ソーゴさんにお掃除ロボットのダンボールが手渡されて、会場から拍手と歓声があがる。
「こちらはドリップコーヒーセットです!おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
わたしもドリップコーヒーセットを受け取ると、会場の人が拍手をしてくれた。
「ありがとう、片桐さん」
「いえこちらこそ」
わたしとソーゴさんはそう言い合って、元いた場所に戻った。
「美幸ちゃん、おかえり〜!」
「お掃除ロボット残念だったな」
元いた場所に戻ると、莉子と入船がそう声をかけてきた。
「ドリップコーヒーセットでも嬉しいよ」
わたしはそう言って、その後は莉子と入船のビンゴを見守った。後半には莉子もビンゴをして、ささやかな景品を受け取った。しかし入船は最後まで数字に恵まれず、ビンゴになることはなかった。さすがに可哀想だったので、わたしと莉子で慰めた。
そうして賑やかなままクリスマスパーティーは終わりの時間を迎え、わたしと莉子は入船に家の近くまで送ってもらった。
家に帰ってドリップコーヒーセットを美幸の両親に渡すと、両親は大喜びだった。明日のケーキの時に淹れようねと美幸の母親が言ってくれたので、明日はコーヒーを楽しめるみたいだ。
そして自分の部屋に戻ったわたしは撮った写真を思い出し、藤谷にメッセージと共に折り鶴の写真を送った。
『なんだこれ』
数分後、藤谷から届いたメールにはそう書かれていた。
『クリスマスツリーについてた。笑える?』
そう返事をすると、今度は返事がすぐに返ってきた。
『微妙』
駄目だったか。少し残念に思いつつわたしは携帯を閉じて、今日の出来事を日記に記すことにした。そうしていると、入船から今日の莉子がどれだけ可愛かったかという旨のメールが届いた。それに適当な返事を考えていると、ソーゴさんからメールが届いた。今日はなんだかよくメールが来る日だ。
『こんばんは。今日はいろいろとありがとう。勝ち取ったお掃除ロボットはさっそく家で走らせたよ。』
ソーゴさんからのそのメールには、フローリングを走るお掃除ロボットの写真が添付されていた。わたしは少し考えて、そのメールにこう返信をした。
『それはよかったです。わたしもドリップコーヒーを飲むのが楽しみです。』
するとソーゴさんからすぐに返事が返ってきた。
『コーヒーの感想ぜひ聞かせてね。それじゃあ、よいクリスマスを!』
ソーゴさんはいい人なんだな。わたしはそう思って、おやすみなさいと返事を送った。そして美幸のベッドに入る。また携帯が震えた気がしたが、あっという間に睡魔に襲われてわたしはそのまま目を閉じた。
目を閉じると、まだクリスマスパーティーの眩さが残ってるような感覚がした。




