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美幸の青春③

学校を休んだ翌週から本格的に美幸の学校は文化祭の準備でいっそう盛り上がっていった。一日一日と文化祭へ近付くにつれて、校内は快活とした雰囲気が高まっていく。それは美幸のクラスも例外ではない。美幸のクラスでは、たまに男子と女子の衝突があったり部材が足りなくなって材料集めにかけまわったりなどのトラブルはあったものの、なんとか文化祭当日までに写真展とフォトスポットを形にすることができた。


「いいね~」

「結構壮観じゃない?」


完成した写真展のパネルやフォトスポットを見て、クラスメイトたちは満足そうにそれぞれ呟く。そして写真展の写真を指さしながら笑い合っていた。


「これお前のだろ」

「違うし」


クラスメイト全員分の写真が掲載されたボードはなかなか見ごたえがある。ボードの前には「一番青春を感じる写真を選んでください!」という紙が貼られた机が置かれており、そこに投票箱と投票用紙がある。写真展のパネルには投票の公平さを保つために撮影者の名前は表示されていないが、それでも誰が撮ったのかわかるものがちらほらあった。


例えば、動物園のベンチで眠る入船と藤谷の写真。これは青葉の写真だろう。修学旅行で撮ったと言っていたし、この二人のこんな姿を撮れるのは青葉くらいのものである。


次に、誰もいない夕暮れの教室を撮った写真。これはきっと入船だ。あからさまに写り込むように置かれた鞄に、修学旅行で一緒に買っていたガラスのストラップがついているから。


あと、夕暮れの河川敷の写真。この場所には見覚えがあったのと、他にそれっぽい写真がないことから、これは多分藤谷だ。本人に確認していないから本当のところはわからないけど。


そして、莉子と美幸みゆきの少しブレているツーショット。これは莉子が撮影したものだ。嬉しそうな莉子の笑顔と、少し驚いたような、困ったような表情の美幸わたし。美幸のアルバムに収められていたような綺麗な笑みが出来ていなくてなんだか申し訳ない気持ちになる。


そして、暮れる空を背景にこちらに背を向けて走る金髪の女子生徒を撮った写真。これはわたしが撮った写真だ。これを選んだ理由は夢での会話もあって、美幸の青春には莉子という存在が必要不可欠なのではないかと思ったからだ。顔は写っていないが念のためと思い、提出を代わりにお願いする時にこの写真を使っていいか尋ねたが莉子は快く了承した。まあその代わりに莉子が私は美幸ちゃんとのツーショットを選ぶねと言われて断ることができなくなったのだが。


他にもいろんな写真がある。部活中の風景を撮った写真や、家で飼っているのであろう犬の写真。花の写真。ちなみに青空の写真は5枚くらいある。いろいろな写真があって見ごたえはあるが、この中から青春の一枚を選べと言われると難しいものがある。そんなことを思いながら写真を眺めていると、莉子が隣にやってきた。


「美幸ちゃんは投票できるとしたらどれにする?」


一応ルールとして、美幸のクラスの人間は投票しないことになっている。わたしは少し考えるも、やはり選べなくて首を振った。


「決められそうにない。莉子は?」

「えー?私はこれっ!」


莉子は迷うことなく美幸わたしとのツーショット写真を指さした。自分が一番だと信じて疑っていない自信満々の表情は眩しく、微笑ましかった。それだけ自信があるなら、もうこれが一番で良いとさえ思えた。だからわたしは同調するように頷く。


「じゃあわたしもそれ」

「やった。これで二票ね」


莉子が嬉しそうに笑ったので、わたしもそうだねと小さく笑った。


そして文化祭当日がやってきた。


当日は交代で写真展とフォトスポットの案内係兼監視役を行うことになっており、わたしと莉子は午後二時から一時間の担当だ。午後からは外部の人の出入りもあるため少し忙しくなるかもしれないから、人手が足りなくなったらすぐに連絡しろと先生からの事前注意があった。


「ということで、文化祭は片付けまでが文化祭だからな。問題はくれぐれも起こさないように頼むぞ」

「はーい」


先生の朝の挨拶が終了し、生徒たちはさっそく自由行動になる。各々決めていた場所に向かっていくので、あっという間に教室の中の人はまばらになる。入船、藤谷、青葉の三人もいつの間にか教室からいなくなっていた。入船は前日まで莉子と文化祭を回るにはどうすればいいかとわたしにメールで相談してきていたが、今日はどう動くつもりだろうか。


「美幸ちゃん、行こ!」

「そうだね」


とりあえずはわたしも文化祭を楽しむことにしよう。わたしは莉子と並んで、文化祭の楽しい喧噪の方へと向かって行った。



美幸の文化祭の企画は、お化け屋敷、射的、くじ引き、輪投げなど趣向を凝らした企画がたくさんあってわたしたちは飽きることなく文化祭を巡った。そして当番の時間が近付いてきたのでわたしと莉子は自分の教室へと戻ってきた。


「あっ片桐さんと日高さんだ。もう交代の時間か」

「うん」


前の時間を担当していたクラスメイトたちは当番用の椅子から立ち上がって、そういえばとわたしの方を向いた。


「そうだ、片桐さん。東雲見た?」

「いや、見てないけど」


藤谷たちの姿は朝以降見ていない。藤谷に何か用なのだろうかと首を傾げると、クラスメイトは先ほど東雲の友人がこの教室に来たのだと言った。


「約束してる様子じゃなかったから余計なお世話かもだけど、もし東雲見たら伝えておいて」

「わかった」


わたしは頷いてから、少し考えて携帯を開いた。いつ会うかわからないし、念のため連絡をしておこう。藤谷に簡潔にメッセージを送って、わたしと莉子は当番の椅子に座った。


「じゃあ片桐さん、日高さんよろしくー!」

「うん」

「いってらっしゃーい」


前の当番だったクラスメイトたちを見送って少しすると、ちらほらと教室に来客がある。


「どうぞーぜひ投票していってください」

「良かったら写真撮りますよ」


他の人気の企画に比べると、美幸のクラスの企画は派手なものではないので客足はまばらだった。


「ありがとうございまーす」


それでも一人一人にちゃんとした案内が出来るように努力した。


30分ほど経って、客足がぱたりと止まった。莉子が文化祭のパンフレットを見て、体育館の演目を指さした。


「丁度今体育館で軽音部の発表やってるんだよね。多分それにみんな行ってるんじゃないかな」

「なるほど」

「しばらくは休憩だね」


莉子が椅子に座って身体を伸ばした。


「のど渇いたなー」


それはぽろりと零れたひとり言のようだったが、それもそうだと思ってわたしは莉子に尋ねた。


「何か飲み物買ってこようか」

「えっいいの?」


すると莉子はパッと嬉しそうに笑う。


「いいよ。その間ひとりで店番させちゃうけど」

「私は全然大丈夫だよ!やった!ありがとう!」

「じゃあちょっと行ってくる。すぐに帰るから」

「うん!いってらっしゃーい」


そういうことでわたしは教室に莉子を一人残して、近場の自動販売機へと向かった。


すると、教室を出て少し歩いたところで正面から入船が歩いてきた。


「あれ、片桐美幸。今当番の時間じゃなかったか?さぼりか?」


冗談めかした入船の言葉に、わたしは苦笑いをして答える。


「さぼりじゃない。今ちょっと落ち着いているから、飲み物買いに行こうと思って」

「え?じゃあいま教室には日高さんだけってこと?」

「そうなるね」

「じゃあ俺が片桐美幸の代わりをしておこうか」


入船の申し出は有難いものだった。すぐ戻るつもりとはいえ、莉子ひとり残しておくのは申し訳ないと思っていたところだったから。


「そうだね。じゃあお願いするよ」

「戻ってくるのはゆっくりでいいぞ」

「考えておく」


浮足立って教室に向かっていく入船を見送って、そう言えば藤谷と青葉は一緒じゃなかったなと思う。二人は一体どこにいるんだろう。


自動販売機の前まで来て、わたしはそういえば莉子にどの飲み物がいいか尋ねるのを忘れたと気付く。


「・・・どれにしようか」


わたしは自動販売機の前に立ってしばし考える。莉子の好きな飲み物はなんだろう。ミルクティーかな。飲んでいる姿をよく見るから、少なくとも嫌いではないはずだ。教室は少し肌寒いし、ホットにしようか。ようやく決まったわたしは財布を取り出そうと、ポケットに手を入れる。その時だった。自動販売機の近くを何人かが通っていった。


「ったくどこにいるんだろうな」

「つまんねえー」


それは、どこかで聞いたことがある声のような気がした。わたしは何気なく顔をそちらに向けたが、それと同時に自分の中の何かが叫んだ。


”彼ら”と目を合わせるな、と。


しかし気付いた時には遅かった。わたしが顔を向けたと同時に、すぐ近くを通りかかった男の一人が丁度こちらを見た。


「あ?」


男がわたしの顔を見て、声を挙げた。その瞬間、思い出す。夕暮れの河川敷。膝をつく藤谷と、それを冷たくあざ笑う三人組。喧騒がすっと耳から遠ざかり、自分の周りが静かになったような錯覚を覚えた。


この三人は。あの時、藤谷と喧嘩をしていた人たちだ。


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