第六話 二人目の帰国者
皮肉を込めちゃったタイトルです。
「助けてやろうじゃないか」
「ほっ、本当か平民!」
こんな状況でも平民呼びする王子は、ロンビンにすがるような眼差しを向けていた。
それに対してロンビンは、王子を許そうとは思っていない表情だった。
最強クラスの平民冒険者は王子の右腕をつかむ。
「……なんのつもりだ? 平民」
「お前も、隣国の国王陛下への弁解の時間が必要だろう。あの部下のように俺が隣国までぶん投げれば、その時間を多く作れるということだ」
助けてやる。
つまりは、助けになってやる、ということだった。
「ふっ、ふざけるなっ! やめろッ!」
王子は歩くロンビンの手を離そうとするが、ビクともしない。
二人は外に出た。
出ようとしたのはロンビンで、出るのを最後まで抗ったのが王子なのは、言うまでもない。
「お前も大切な部下の安否が心配でしょうがないんだろ? 馬車でここから帰るよりもずっと早く到着するぞ。良かったじゃないか」
「やめろ! 離せ! おっ、俺を投げようとするんじゃない平民ッ! この俺は第一王子だぞ!」
「ああそうか。失せろ、第一王子ッ!」
「ぎゃああああああああああ!」
王子は背負い投げするロンビンによって宙に飛ばされ、魔法で加速して隣国の王都へと旅立った。
「……すごいですね、ロンビンさんは」
聖女がいつの間にか横に来ていた。後ろで手を組んでいる。
「いいや。このぐらい、出来る冒険者ならいくらでもいる」
「すごいのは王子を遠くまで吹き飛ばしたことではなく、着地の直前で衝撃を和らげる魔法まで付与していたことですよ」
「……まあ、あんなやつらでも、着地で死んだら俺のせいになるからな。一階の窓から落ちるぐらいの衝撃はあるだろうが、あいつらなら、それぐらい大したことじゃないだろ」
「彼らのようなクズどもは、もっと痛い目に遭ったほうが良いと思いますけどね」
聖女にはふさわしくない発言をし、彼女は小さく笑う。
「それより、どうして聖女様がおっさんのところで奴隷になってたんだ?」
「あっ、そのことですか。かつて国で働いていたおじ様とは知り合いで、社会勉強のため、お店でのお仕事を手伝わせてもらっていたのです。もちろん彼女のことも、知っていますよ」
「リーガル……あいつのことか?」
「ええ。そうです。私はリーガルちゃんと呼んでいます」
「ということは、見た目がスケルトンだった時からだよな? 自分の名をスケルトンに与えるとか、正気か?」
「リーガル=リーガルの名は継承名ですし、当の聖女である私がそう呼んでいるのですから、問題ありません。聖女にとって、邪悪でない魔物は人間と同様に扱われるべき存在です」
「それには賛成だが、そう思ってない連中は多いよな。――リーガル、こっちに来てくれ」
「はい、ご主人さま」
リーガルも外に来た。太い骨はまだ出したままで、大事そうに抱いている。
聖女とスケルトン。ロンビンは左右から挟まれる立ち位置となった。
「リーガルはこいつ……この方が聖女だって気づいていたのか?」
「はい。ご主人さま」
「見た目がかなりかわいくなりましたねぇ~。お久し振りです、リーガルちゃん」
聖女はリーガルの後ろに回って抱きつく。顔が似ており、まるで姉妹のようだった。ちなみに、姉みたいなほうは、無表情で背の高いスケルトンのほうだと言えるだろう。
少し経って、聖女はリーガルを解放した。
「私が王子のイカれた部下に値切られて買われ、王子のクソダサい暴挙を色々と知る一方で、リーガルちゃんはロンビンさんのような有能な冒険者に買われ、上手くいっているようで良かったです」
聖女は、笑顔の絶えない美少女といった印象だ。奴隷商の店で見た時と髪の色は変わっているが、外見は魅力的だということに変わりないとロンビンは思った。ただ前々から、言葉の選びが乱暴ではある。
「ところでロンビンさん。ご相談なのですけど、――貴方のような方を一冒険者として終わらせるのはもったいないと思っています。私のもとで、教会所属の騎士様として働いて頂けませんか?」
「いいや、遠慮しておく。俺にはもう、こいつがいる」
ロンビンはリーガルに目をやった。
「お前は魔物に好意的だとしても、他の連中はいい顔をしないだろうからな」
「そうですか……残念です。その代わりと言ってはなんですが、有事の際は、手を差し伸べて下さるとありがたいですが、どうでしょう?」
「そのぐらいなら、構わない。いつでも呼んでくれ」
「ありがとうございます。では、壊れた扉の修繕費は私が払わせて頂きますね。あの愚か者どもをこらしめて下さったのと、リーガルちゃんを大切にして下さっていることへの、ほんのお礼です」
「それは助かるが……、アンタみたいな立場の者が王族や貴族を侮辱するのは、マズくはないのか?」
「無能な王族と私を値切ったクズ貴族に気を遣う必要なんて、全くありません」
笑顔が似合い、毒舌も似合う美少女だった。
王子は無事、隣国へ帰還しました。
今回も読んで頂き、ありがとうございます。