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第五話 III 次は王子だ III

一応、王子はテレワーク的な魔法で仕事をしているため、外国で遊んでいられるという設定がありますが、作中は本当に無能な存在です。

それと、Royalはロイアルのほうが発音的に正しいでしょうが、より普及しているロイヤル表記にしてあります。

 大人一人が空を飛んで行った。


 それなのに、何事もなかったように、ロンビンはギルド内に戻る。


 失われた扉から(のぞ)いていた者達は、恐怖に支配されていた。


「あの金を払わなかった男を痛い目に()わせるのは、奴隷商のおっさんとの約束だったんだ。まさかこんなにも早く約束を果たせるとは思わなかったよ」


 そう言って、ロンビンは王子に目をやった。


 王子もまた、恐怖で支配されている者の一人だった。


 なお、もう一人いた王子の配下は、ギルドの裏口からすでに逃亡していて姿がなかった。ロンビンを挑発せず、冷静な判断の出来たその配下は、有能だったのかもしれない。


「はっ、早く、御父様(おとうさま)! その平民に、罪を与えて下さいッ!」


「わっ、私はっ!」


 王子に()かされた公爵は、ロンビンの鋭い顔つきに……敗北する。


「も……もうしわけない」

 公爵は震えながらロンビンに頭を下げた。


「別に貴殿(あなた)に対しては、さほど怒っていませんよ。短い間でしたが、あの豪邸でお世話になりましたしね。平民としては、この上ない贅沢な日々でした」

 厳しい(にら)みは緩めないままだ。


「ああ、そうか、それは何よりだ……」

 両手を挙げながら公爵は取り(つくろ)う。さり気なく後退している。


「王子よ、これは君達の問題だ。私は家に帰る、いいね?」

 有無を言わせない声で公爵は王子に伝え、足早にギルドから去って行った。


「ああんっ! 待ってぇ~、お父様ーっ!」

 令嬢も後に続いた。


「……こ、この俺もやるのか? 平民」

 王子の汗の量がすごい。


「お前のことは、おっさんには何も言われていない」

「それじゃあ見逃してく――」

「いいや。お前は、俺の相棒のスケルトンを、化け物だと侮辱した。別にお前のせいで婚約破棄になったことは恨んではいない、恨んではいないけどなぁ!」

「ひいいいぃっ!」


 王子は逃げようとしたが、即興で安易な行動を思いついた。リーガルの背後を取って、隠し持っていた短剣をリーガルの首に当て始めたのだ。


「はっはっはっ! 油断したな平民! コイツの命が惜しかったら、今すぐ降参しろ!」


 形勢逆転を信じて疑わない、大いなる笑みを浮かべた王子。こんな男でも、スケルトンぐらいの低級魔物なら楽に倒せるという自信があるのだろう。そうでなければ、体格が同程度はあるスケルトンを人質にして、こんな得意げになっていられるわけがない。


 一方でリーガルは、短剣の刃を近づけられても、動じていなかった。ずっと両手を正面で重ね合わせている。


「やれ」


「はい」


 ロンビンとリーガルの、このやり取りだけで終わるレベルの茶番だった。


 命令を受けたリーガルは右手の平を王子のおなかに向けて、瞬時に太い棒状の骨を発射した。


「ぎゃッ!」

 王子が後ろに気持ちよく吹っ飛ぶ。そして倒れ込んだ。


「いってぇ、よくもやりやがったなぁ、化け物めぇ、くっそぉ……ッ!」


「よくもやりやがったは、こっちのセリフだ」


 ロンビンの横では、リーガルが床に落ちた太い骨を拾う。その長くて白い骨を、剣のように両手で構えた。


「こいつは力があるが、剣術は村娘程度のものだ。それでも、お前のような低能相手なら楽勝だろう。はたして何秒持つだろうな?」


「この俺をとことん愚弄(ぐろう)するなど、――絶対に許さんぞ平民ッ!」


 痛みに耐えながら王子は立ち上がり、両手をCと逆Cの形にして、金色の魔方陣を展開した。王族の最強奥義、王の虎(ロイヤル・タイガー)召喚を(こころ)みたのである。こんな屋内で巨大な猛獣の召喚をしようとするのには、さすがにロンビンも焦った。


 だが――。


「もうやめなさい!」

 彼女の叫びとともに、魔法陣は瞬時に消滅した。


 叫んだ彼女は、王子の奴隷だった。


 しかし、彼女の髪は黒から輝く金色に変化している。ストレートだった髪質が、ウェーブがかかっている。


 王子はこの時まで、気づかなかった。奴隷として購入した美少女が、かの聖女、リーガル=リーガルだったということを。


 ロンビンも、その事実を知らなかった。


「第一王子様。貴方(あなた)のこれまでの言動は、王族に有るまじき失態の数々でした。隣国の王へは、嘘偽りなく、真実をお話させて頂きます」


 (りん)とした態度で聖女が伝えると、王子は最大限に狼狽(うろた)えた。


 聖女リーガル=リーガルはこの国の聖女だが、聖女の影響力は大陸全土にあり、当然隣国も聖女の助言を無下(むげ)には出来ないのだった。


「たっ、頼む! そんなことされたら、俺は国から追放されてしまう! 見逃してくれっ!」

 土下座をする無様(ぶざま)な姿で王子は許しを()う。


「どうしましょうかねぇ……。ロンビンさんは、どうしたいですか?」


 決断は、ロンビンに(ゆだ)ねられた。

退散する公爵親子が地味にひどいですね。


今回も読んで下さって、ありがとうございます。

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