第三話 スケルトンが美少女になった日
改造って、楽しいですよね!
ということで、第三話、スタートです。
魔物の改造費用は、購入費とは別だった。それでも、奴隷商は手頃な適正価格でやってくれた。購入費を安く設定して改造費をふんだくる……という業者は多いと聞くので、ロンビンは安心して任せられた。さすがは、店内に奴隷賞の賞状を掲げているだけのことはある。
今、ロンビン達は奴隷商の作業部屋に来ていた。
「なあ、骨が透けてないか?」
ロンビンは肉付けされたスケルトンの姿を見ながら、器用に工具を使いこなす奴隷商に尋ねた。
骨のみの体だったスケルトンは、肉を盛られて見事な女性美を手に入れた。だが、特殊な素材なのか肉体は透明で、骨格がはっきりと目に映る。まだ不気味さは強い。
「スケルトンだと分かるようにしないと、規定違反だからね」
「……規定違反ならしかたないな。だが、顔もこのままなのか?」
ドクロそのものの顔を注視しながらロンビンは聞いた。
「ああそうだった、あんたは外見至上主義だったね。だから、あの美人奴隷を買いに来たのか」
「……否定はしない」
「顔は心配しないでいいよ。完璧に仕上げてみせる」
「よく分からんが、頼む」
ロンビンは奴隷商を信じ、椅子に座りながら彼の仕事を静かに眺めた。
奴隷商は丁寧な作業を続けている。あなたが見ても、現状のスケルトンでは、ヒロインとして愛することは出来ないだろう。
「そう言えば、店を開けたままでいいのかよ?」
「店なんか有能な奴隷に任せておけばいい。私は店の経営よりも、同人誌を読んだり整形作業をしている時のほうが楽しいんだ」
「……おっさん。奴隷売買から手を引いて、整形だけに専念したほうがいいんじゃないか?」
「おっと、私の楽しみはもう一つあった。有能な奴隷の仕入れ作業だよ」
奴隷商はその職を捨てるつもりはないらしい。
彼は特殊な塗料やどこから仕入れたか分からない頭髪の束を使い、頭部を念入りに仕上げ始めた。
それからさらに待つこと数十分。顔だけはじゅうぶんな美少女に成っているのが、容易に分かるようになった。
幼い印象の顔立ちに、黄色い大きな瞳。やや暗めの青いロングヘアの右上には、リアルなガイコツの白いお面を横にしてかぶせていた。
「コレはなんだ?」
あなたも同じように、ロンビンの指差したお面が気になっただろうか。
「頭部だけは透かしてないからな。その場合、スケルトンだと分かるものを頭部に装備していないと規定違反なんだよ」
「また規定違反か」
「それと服を着させないで外を歩かせたら、隷属魔物保護法や奴隷保護法に引っかかるから、気をつけるようにね。服はサービスするよ。着せてくるから、少し待っていてくれ」
「ああ、分かった」
奴隷商とスケルトンは作業場から出て行った。ロンビンは作業場の景色や器具を眺めながら、しばらく待つ。
二人が戻って来るのに、十分もかからなかった。衣服を着たスケルトンは、両手を重ね合わせて、ロンビンの前で立ち止まる。
ロンビンは、思っていた以上のかわいらしさに驚いた。
彼女は茶色の目立たないワンピース姿で、貧相な村娘といった様相と言える。少なくとも、凶暴な魔物には見えないだろう。両手両足はほとんど露出せず、靴も履いているので、半透明な肌を晒している部分はほんのわずかだ。
「このスケルトンに名前はあるのか?」
「リーガルだね」
奴隷商の即答にロンビンはさらに驚く。
「なんだとッ? まさか、聖女リーガル=リーガルの名を取っているのか?」
「皮肉だよ。身分を平気で偽るような聖女様と違って、スケルトンはあんたに尽くす忠実な奴隷となるだろう。今日、彼女はあんたのような立派な主人だけでなく、美しい顔まで手に入れた」
「……俺が買おうとしていた奴隷に似せただろ?」
「似せてはいるが、見てごらん。黒髪ではなく、青髪だ、同じじゃない。それに、私の思っていた通りの出来だ。ロンビン、あんたは本当に良い買い物をしたよ」
「ありがとな、おっさん」
「リーガルを大切にするんだよ」
「ああ」
ロンビンは答えた。この奴隷商は本当に奴隷に対して愛情を注いでいるんだと思いながら。
「また時々はうちの店にも顔を出してくれ、歓迎するよ。それと奴隷の定期的なメンテナンスは有料だからね」
「分かった、また寄らせてもらうよ。……行くぞ、……リーガル」
恥ずかしそうにロンビンは名を呼ぶ。
「はい、ご主人さま」
リーガルのほうは丁寧な受け答えだ。
こうして、ロンビンとリーガルは作業場を後にした。
最後に、あなたに明かしておくと、二人を笑顔で見送る奴隷商の彼は、奴隷省の元奴隷相だったりする。
お面を横にしてかぶっている美少女って、かわいいと思います! リーガルは白いガイコツのお面ですけど。
今回も読んで下さって、ありがとうございます。