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第二話 目当ての奴隷美少女はすでに売られた後だった

とんでもない疑惑が出ます。

 一度は愛した女性に冷たくされ、裏切られたロンビンは、心に深い傷を負った。


 数日間、彼は時の経過を無駄にし続けた。


 それでは駄目だと、ようやく気づく。


 失った悲しみを別の女性で埋めようと、彼は首都の西部にある奴隷商人の店舗へと向かった。


 あなたに説明すると、この国では奴隷の売買が承認されており、奴隷の権利も最低限は保たれている。


 ロンビンは第一王子ほどの資金力はないが、それでもかなりの(たくわ)えはある。収納魔法を発動して全財産を取り出し、奴隷を買うつもりでいた。今度こそ、裏切らないような女性を。


 親しくしている知り合いの中年奴隷商は、表向けは喫茶店を運営している。そこで働かされている女性店員達は、奴隷だ。商談によって、彼女達を買うことが出来るのだった。


 少し前までは、奴隷を買うなんて物好きな奴だとロンビンは考えていたが、その考えが正反対になってしまっていることに自分でも驚いている。


 以前、ロンビンはこの店で、ひと際輝いて見える黒髪の美少女奴隷を目にしていた。すぐに彼女のことを思い出したのは、それほど強く印象に残っていたからだ。


 店の席に着き、ロンビンは目当ての彼女を探した。


 しかし、彼女の姿はない。


 奴隷にも、最低週一回の休日が与えられる。それに、最も高額であろう彼女を買えるような人間など、そうそういないだろう。そんなことを考えながら、店の奥で薄い本を読んでいた奴隷商の男性のもとに、ロンビンは向かった。


「今日、彼女は休みなのか?」


「ああ、あんたが前々からひいきにしていたあの子か。彼女なら、つい先日、売ってしまったよ。隣国の第一王子の使者を名乗る男にね」


「またあいつか!」

 ロンビンは大声を上げてしまった。


「隣国の第一王子の使者とは知り合いなのかい?」

「使者とじゃない! 第一王子とだ!」

「おお、第一王子とも知り合いだとは、さすがは上位の冒険者だねぇ」


 奴隷商は、奴隷を扱う商人とは思えないほど、人がいい。彼は奴隷省の奴隷相から与えられる『奴隷賞』を毎年獲得している。有能な奴隷商は、第一王子のような性格の悪い人間では務まらないのだ。


 さて、隣国の第一王子の使者だが、ロンビンは顔も名前も知らない。しかし、第一王子の配下は何人か見たことがあるので、そいつらのうちの誰かではないかと推測する。今になって思うと、どいつもこいつも粗暴で悪い印象しかない。


 二度も女を取られ、ロンビンは絶望の(ふち)に突き落とされる思いだった。


「くっそぅッ!」

 つい、店内の壁を叩いてしまう。奴隷商はその様子を見ても、怒るどころか、彼へと同情の眼差しを向けている。


「あんたもかわいそうだねぇ、隣国の第一王子の使者にフられたんだろう?」


 とんでもない情報操作がおこなわれていた。


「そっ、そんなわけないだろう! アンタさっき自分でそいつが男だと言ってたじゃないかッ! どこからそんなデタラメが出たッ!」


「……ああ、いや、そんな噂を同人誌即売会で耳にしていてね。だから、あんたは隣国の第一王子の使者と知り合いなのかと聞いたんじゃないか。男にフられて精神が崩壊した男が、奴隷に救いを求めることはよくあるんだ。あんたのように」


「俺は違う!」


「でも、今日は奴隷を買いに来たんだろう? あんたはどうも人間不信になっているようだから、ぜひともおすすめしたい奴隷がいる」


「……まさか、魔物の奴隷か?」


「そうだ。ついて来てくれ」


 ロンビンが奴隷商に案内された、店の奥の扉の先にあった小部屋。そこでは、白い骨格だけで構成された不死(アンデット)系の魔物が座っていた。


「彼女は、『スケルトン』だ。調教済みだから人の言葉はある程度理解出来るし、隣国の第一王子の使者のようなクズじゃないぞ」


「そいつとは会ったこともないが、クズなのか?」


「ああ。あんたが今も付き合っていると知ったら、絶対に別れるよう(さと)すつもりだったよ」


「俺はそいつのことなんか知らないんだぞ! 当然付き合ってなどいない!」


「なら良かった。つまりは、隣国の第一王子の使者は嫌いだね?」


「ああそうだ! もう一生会いたくもないぐらい、隣国の第一王子の使者なんか大嫌いだね!」


「私も同意見だ。ロンビン、あんたには割引料金で彼女を(ゆず)ってやろう」


「……なあ、おっさん。彼女って、このスケルトンはメスなのか?」


 ロンビンが見ても、あなたが見たとしても、スケルトンは人体骨格模型のようにしか見えなかった。


「ガールと言いたまえ。低俗な人間よりも有能だし、購入後にそれなりの金をかければ、外見をカスタマイズ出来る」


「……隣国の第一王子の使者にも、スケルトンは勧めたのか?」


「一応話はしたが、そんな不気味な魔物を王子に献上(けんじょう)したらオレの首が飛ぶだろ、馬鹿なのか平民が。そう言っていたよ」


「奴隷商人を平民扱いするというのも、おかしなものだな。――よし、あいつらが嫌がるなら、俺が買ってやる」


 それが購入の決め手となった。


 ロンビンが提示された購入費を払うと、奴隷商はこんなことを言った。


「きちんと満額払ってくれる、あんたのようなお客はありがたいよ。隣国の第一王子の使者は、第一王子の名を利用して、半分も払ってくれなかった」


「……そうか。もし隣国の第一王子の使者と会ったら、おっさんの代わりに、そいつを痛い目に()わせといてやるよ」


「それは嬉しいな、ぜひそうしてくれ。今日はあんたにスケルトンを売って良かった」


 奴隷商人は今日一番の笑顔だった。きっと、偽りのない表情だったのだろう。

肩書きだけですが、ワルの部下のワルが登場しました。メインヒロインも登場です。


今回も読んで下さり、ありがとうございました。

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