第一話 公爵令嬢を救ったのに、追放される
短編ファンタジーを書いていたら、長くなったので、分割としました。よろしくお願いします。
あなたは、ロンビン=リアルという不幸な冒険者を知っているだろうか?
彼は、所属する冒険者ギルドの中でも常にトップクラスで居続ける有能な剣士だ。
先日も、ロンビンは素晴らしい功績を挙げた。山の中を無謀にも突き進む馬車が数十人の山賊に襲われた際、たった一人で公爵令嬢を助け出すことに成功したのだ。
「助けて頂き、感謝いたします。有能冒険者ロンビン=リアル様」
十八歳の公爵令嬢は非常に美しい娘で、国内唯一の聖女リーガル=リーガルにも劣るとも勝らないと言われている。
一方で、二十三歳のロンビンのほうは、並よりは上と評される、精悍な青年であった。大陸全土に目をやれば、ロンビンを凌ぐ美男子はいるだろうが、彼ほどの剣術や体術、魔術をも備えている者はそう多くない。
「ロンビン殿。貴殿は素晴らしい好青年だ。美しき我が娘にふさわしい」
公爵まで彼を賛美する。
ロンビンと公爵令嬢は、公爵家公認の善良な付き合いを続け、婚約の誓いまでこぎつけた。
だが、彼らの邪魔をする者が現れた。公爵令嬢の美しさを聞きつけた隣国の第一王子である。
第一王子はロンビンを凌ぐ美男子だが、剣術はおろか、自身で剣さえも振ろうとはしない。彼には、それを代わりにやってくれる部下の近衛騎士団がいるからだ。
加えて、彼には絶対的な金と権力がある。民を魅了する話術をも持っている。それらはロンビンには到底勝てない分野だった。
第一王子が公爵令嬢を口説くと、令嬢は瞬く間に彼へと惚れる。
「助けて頂いたことには、感謝しています、冒険者様。婚約破棄しましょう」
公爵令嬢から目を逸らされてロンビンは言われた。
「失せろ平民がッ!」
隣国の第一王子は民を魅了する話術を持っているが、ロンビンはその民には含まれていないらしい。
第一王子の登場により、公爵は考えを真逆にしてしまう。
「お前のような平民出の男に娘がやれるか! 二度と我々の前に姿を見せるな! 即刻出て行け平民がッ!」
大金を積まれた公爵は、有能な人材よりも無能な権力者を選んだ。第一王子に感化されたのか、公爵までロンビンを平民呼びしてくる。
ロンビンは、家を持たない冒険者であった。公爵令嬢を救ってからは、彼女達がぜひにでも、ということで公爵家に住まわせてもらっていたが、それもこの時で終わる。彼はあっけなく、豪邸から追放されてしまう。
「わんわん」
公爵家を出る際、ロンビンを見送ってくれたのは、最低な公爵家の心優しい飼い犬だけだった。
犬はもう出てきません。
最後まで読んで下さり、ありがとうございました。