プロローグ
勉強と聞いてウッとなる方もいるかと思いますが、そんな勉強しろしろ小説ではありません。
あくまで恋愛メインで行きます。
久々の投稿になり、拙い文章ですが、楽しんでいただければ幸いです。
桜は咲いていない。
よく予備校のチラシの合格おめでとう!という欄に桜の花びらが散っているのを見掛けるが、今私の前にある合格発表の掲示板の横の桜らしき木に新春の伊吹は見当たらない。
私は寒さか、それとも別の何かによるものか、ガタガタ震える体を押さえつけるように大きく深呼吸をした。
ここは天下の京東大学の敷地内である。
今この場所にいるのは大学生ではなく、その卵の高校生、浪人生、その親たちのみだ。
もっとも卵から全員孵化できるとはかぎらないのだが。
制服のブレザーのポケットからスマホを取り出して今の時刻を確認する。
発表の時は近い。
周りにいる受験生やその親が次第に緊張の色が濃くなっていくのが肌で感じられるようになってきた。
突然、後ろの方からヒソヒソと男二人で話す声が聞こえた。
「…おい、あの前にいる子可愛いぞ。どこの学科受けたのかな」
「ほんとだ、美人だね。同じ学科だといいな…」
「と言うかあの制服どこの高校?見たことないんだけど」
「俺も知らないね。他県じゃない?」
私の事だとすぐにわかった。
いや、美人で分かったんじゃない、制服でわかったんだからね?ここ重要よ。
私の高校は都会からかなり離れた田舎にあり、恐らくこの大学を受けている人の中でこの制服を見た事ある人は一人もいないだろう。だからだ。
自分では結構可愛いデザインだと思うのだが。
その2人組男子は違う学科を受けたのだろうか、結局どこかへ行ってしまった。
合格発表まであと1分。
周りの人のざわめきが更に大きくなる。
私は乾いた冬空を見上げながら、夏から今日までの凄まじい勉強の日々を思い返していた。
毎日何時間も勉強して、友達と遊ぶのも我慢して、今ここに立っている。
…そして、不合格を待っている。
初めから合格が出来るとは思っていなかった。
寧ろ、ここから私の勉強のスタート地点だと割り切って合格発表を見に来ているのだ。
これはそう、言ってしまえばただの事実確認である。
あの日、浪人を決意してから。
あの日、先生と出会ってから。
私の人生は変わったのだ。
そう思えることが今は無性に嬉しい。
ふっと笑みを浮かべていると、向こうの方から、きたー!という声がさざ波のように聞こえてきた。
教務員さんが合格の受験番号を書いた紙を1枚3人がかりで何枚も運んでくるのが見える。
全ての紙を掲示板の上に乗せ、発表のときを待つのだ。
あの中にここにいる全ての受験生の希望と絶望が混在している。そう思うとさすがの私も少し緊張する。
教務員のおじさん達が全員掲示板の後ろに置いてある台に乗った、と同時に、10時を知らせるアラームが一斉に鳴った。
時間だ。
一斉に丸まっていた紙が開き、受験番号が顕になる。
悲鳴、嬌声を上げる者、その場で胴上げを始める者、ぶっ倒れて親に抱えられている者、その合間を縫って掲示板に近づく。
私は自分の受験番号を探すのではなく、自分に近い受験番号を探した。
自分の受験番号は存在しないのは分かりきっているから。
私の受けた学科は定員がとても多く、なかなか自分に近い番号が見つからない。
探しながらふと、思い出していた。
あの日の事を。
あの日から今日までの私にとって1番輝いていた時間のことを。
何とかして連載続けたいので応援していただけたら…!!!