第一章9 『PVP』
噴水広場は静まり返っていた。初心者の格好をした奴が突然、勇者レインにジャンプキックをお見舞した。そのサイコパスの行動に少し引いていんだろうと――俺はそう思っていた。した事には後悔はない。子供を泣かせるクソ野郎にはいい罰だ。
「ふふふっ――――」
フードで顔を隠している女が笑っている。いや――爆笑している。そしてまた少し思い出して腹を抱えだした。烏合の衆と同じように呆気にとられていたアンリがハッとして喚く。
「何笑ってるのよ!! シグレ!! あれは一体何者なの」
アンリは俺を威圧し睨んだ。かなりの憤懣を漏らしている聖女アンリって言われた聖王が――
「さぁて、逃げるか」
「「「「逃げるのかよ!!!」」」」
俺は踵を返し跳躍し屋根の上を駆け、その場から去った。観衆がそう声を一斉に上げたが、それを見たアンリは驚愕した。
「速い……」
トッププレイヤーのアンリはその跳躍と動きを見ただけでAGIがかなり高いことに気づいた。
「俺が行こう」
そう言い前に出るシーカーのアイクだ。シーカはシーフの派生の最高職であり、AGIが高い職業である。
「お願い、あの得体の知らない者を捕まえて」
「あぁ!」
AGI:移動速度と攻撃速度と回避に影響。
アイクは素早い動きで追いかけた。そして、アンリはレインの方へ走っていった。
やはりアイクが追いかけてきたか――まぁ、もう目立っちまったんだからいいか――仕方ない。
アイクは焦った――目の前の者に一向に追いつかないからだ。
(俺のAGIは850だぞ……どういう事だ……。仕方ない)
俺とアイクの距離がだんだんと広がる。そして、噴水広場から離れた。
その者を訝しみ見ていたアイクだが。
「――――なん……だと」
一陣の風が吹いた。
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PVP申請がされました。
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ルール:双方のどちらがHPがゼロになる。
この戦闘は二人しか見えない、逆も然り。
勝ち:――
負け:一定時間の行動不可、HPが1になる。
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やはり来たか――俺の目の前にシステム通知が現れる。非戦闘区域ではダメージを与える事はできないし戦闘行為を禁止されている。そのエリアでも戦闘を可能のする方法がPVP申請である。
PVPのルールは申請者が決められる。
PVPを申請する方法は目視できる人に向かって、口頭か頭の中でPVP申請と唱える。次にルールをイメージするだけで直ぐに申請ができる。
戦闘にスピード感を求めてそうしたらしい、PVPを拒否したとしても何も起こらない。俺はニヤリとしながら答えた。
「イエスだ」
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PVPを開始します。
空間領域を支配します。
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――――空間が歪む。
この画面が出たらスタートだ。定められ者以外にダメージを与えることは出来ない。双方以外には、全てこの戦闘による影響は出ない。非戦闘区域でのPVPはこれが絶対である。
後は申請者のルールが追加される。
簡潔に言うと、非戦闘区域のPVPは、当事者以外何も起こらないって事だ。人も物も全て。もちろん双方はステータス、レベル、数値化されたHPを見ることは出来ない。戦闘で利用出来る、唯一無二の情報はHPバー、ゲージ色、状態異常だ。
俺は職業とレベルは見えるが。
アイクは勝てると確信しPVP申請をしたのである。俺とアイクは街の屋根を駆けながら戦闘を始める。一瞬でアイクの矜恃が崩される。
――――ドパンッ!
何をされたか分からなかった――アイクの耳に残るのは銃声と思われる発砲音。人族が……銃……アイクは動揺する。アイクの目の前の画面がそう加速させる。
「バカな……一撃で三分の一弱削られただと」
アイクが一撃、いや一発しか聞こえなかった銃声は実際は――五発放たれた。射撃速度が早すぎて射撃音が一発分しか聞こえなかったのだ。トッププレイヤーであるアイクは直ぐに頭を回転をさせる。すると答えが直ぐに出た。
「奴はレジェンダリージョブか――だが、得体がしれない。全力でかかる! インビジブル」
――――アイクは両手から無数のクナイを放った。俺は身体を捻りクナイを回避しながらも弾丸を放ち再び迫り来るクナイを消し去る。
スキル、インビジブルはSTR値に依存するスキルで、投げた投擲が無数に増える技でありMPを消費しない。攻撃を受けた者にランダムで状態異常を与えるスキルである。
STR:物理攻撃に影響。
「――クッ」
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HP:3182/3894
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ダメージを受けたか――投擲の数が多すぎて回避と銃の攻撃だけじゃ、全ては防げない。状態異常にならないのはラッキーだが。
アイクは俺のHPバーを見て笑みが零れた。そして、再度アイクは攻撃をする。
(押し切れば、勝てる!)
「これで終わりだ!! インビジブル」
先程の倍のクナイが放たれた。分身された数多のクナイが俺に襲いかかる――――
「わりぃがお前じゃ、俺とは相手にはならない! マジックバレット!!!」
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MP:8778/9753
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――――キュウィイインドパンッ!
大砲を撃ったかのような凄まじい炸裂音、レールガンが放たれる。それはアイクが投擲した全てのものを消滅させ、そのままアイクに迫る。
「ばっ――――バカな!」
アイクはレールガンで、そのまま彼方に吹き飛ばされどこかへ消えた。
「うわぁやっぱり……やばいなこのスキルは緑のHPバーが直ぐに消えたぞ」
どこに飛ばされたか分からないアイクは、数分間、身体が麻痺のように動けないだろう。PVPのルールに基づき。
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PVPが終了しました。
空間領域を解除します。
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システム通知が現れると空間が歪み。ルールが解除された。人々が俺の瞳に映し出される。
「あ〜終わった、終わった〜」
「ミツケマシタ、ヒセントウクイキナイデノ。セントウ。ケイコク、ケイコク」
HDPのアテナが俺の目の前に現れ、そう告げた。
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システムからの警告。
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ペナルティ:十二時間のログインを禁止します。一週間以内に再度警告を受けると罰金が発生します。
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強制ログアウトされます。
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「まっまじか……」
俺がレインをジャンプキックしたからか……。そして、俺はログアウトされる。
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………………。
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……。
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