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第一章58 『完敗』

 騒音の現況は厄災の黙示録の影響に違いないと、この場にいる者は誰もが頭に過った。酒場内で狼狽する他のものとは違い、俺達は動き出した。


 この音、本体がアムル王国に来ているか? 黄泉が現れたんだ、おかしくはない。


「先に行って! 会計は済ませておくから」


 ジールはミリファとアイコンタクトをし、素早く酒場を抜け、冒険者ギルドから出て行った。熟練した冒険者の行動に酒場のウエイトレスは感嘆の声を上げていた。


 俺も向かおう。考えるのは後だ。


「マスター行きましょう」

「あぁ、ミリファさん! 後で俺達の分は必ずお支払いします!」

「ミリファでいいわ! いいのよこれは! どうせ全部ジール持ちになる予定だったから~」


 ミリファの言葉に思わず俺は笑みが零れた。ジールにお礼を言わないとな。


 俺とシャロはミリファに軽い会釈をした後、冒険者ギルドから去った。ミリファは優しく手を振り俺達を見送った。


(あの子達、レベル6と30で立ち向かう気なの? いや違う、あの二人は何者なの? まるで本当に――――)


 ミリファはライトとシャロの後ろ姿を見て、視線が吸い寄せられ固まっていた。会計を早く済ませてジールを追うことを忘れて。




 ーーー




 冒険者ギルドから出ると、外は俺が予想していた以上に喧騒に荒れていた。周りには冒険者とは程遠い、身なりの者しか居なかった。そして

 眼前に浮かぶのは空を塗る白い煙。


 あの方向はまさか――北エリアなのか? なるほど、だからこの人たちは――


 見渡すと俺達がいる南エリアには、多くに人達が立ち往生しているだけで被害は出ていなかった。いやこの南エリアで慌てている人達は、北エリアから逃げてきたのだろう。身なりがかなり豪奢だ。


 アムル王国には貴族だけの居住地が存在する。それが北エリアである。


 アルカディアには階級制度というのが存在する。貴族になる為には功績を上げ、統治している者から授与されるとなれる。もしくは教会に一定のGを収め、認められると貴族になる事が出来る。


 アムル王国の北エリアには人族(ヒューマン)しか住んでいない。アルカディアの殆どの貴族は人族(ヒューマン)だ。能力値で他種族より劣っている人族(ヒューマン)。一部の人族(ヒューマン)は他種族に劣等感を抱き、地位に固執をしている。


 それが多くのリアルブレイクの思想を生み出していた。


 しかし発端が北エリアに居るとなると、獣人族(ビースト)のシャロは入れない。北エリアは基本的には人族(ヒューマン)しか迎え入れない。俺は追従しているショロの方へと振り返る。


「シャロ――」

「マスターのお傍に居ます」


 俺が全てを告げる前にシャロは自らの意志を伝えた。その言葉に自然と口が綻んだ。俺の言葉は決まってしまった。


「フォローを頼む」

「はいマスター」


 俺はシャロをこのまま同行させることを決めた。シャロの自由にさせようと。しかし俺のスピードで向かうなら、シャロをおんぶした方がいいかもしれない。そう思い、俺は前回のようにシャロの前でかがみ込もうとしたが――


「――――」


 シャロは素早く地面を蹴り跳躍し、俺の姿を眼下に置いた。その動きを見てシャロのAGIがかなり高いことが証明された。シャロのステータスはトッププレイヤーに違いないと――確信した。


 しかし賢者志望のシャロがAGIが高いのは何故だ? まるでサンの様なステータスだな。少し疑問を浮かべながらも俺もシャロと同じ様に屋根へと飛躍する。すると瞳に映る、地を焼き天を焦がすモノ。やはり北エリアか。


 多くの冒険者が出払っている今、アムル王国は対処しきれていないのだろう。その場へと向かう為に屋根の上を駆け巡っているジールの背中を俺達は追い掛けた。


「シャロ行くぞ!」

「はいマスター」


 俺とシャロは圧倒的な速さでジールの姿を追った。そして見る見るうちに俺達はジールの影を捉えるところまで来た。ジールは背後からの気配に気づき、振り返った。


「なっ――――」


 ジールは背後からの気配には気づいていた。ジールと同じように救援に向かっている者だと感じて、武器は構えなかった。しかし視界に映った姿は予想外の人物だった。まさか先程の友が追い付いているとはジールは一ミリも思っていなかった。


 しかもその友は――


「ジール! 俺達は先に行く」


 俺はジールを追い抜かして行く。シャロはジールに軽い会釈をした後、その場を去った。


「――――」


(簡単に俺に追い付き、簡単に去って行きやがった)


 ジールは驚きを通り越して、その二人の立ち回りに見惚れていた。本物のトッププレイヤーの動きを目にして。そしてジールは駈けながら街に響く、高笑いをした。尊敬と完敗と悔しさと嬉しさが混ざりあった感情を吹き出した。


(これは――俺達の最大のライバルとなりそうだな)


 ジールは直ぐに理解した。レベルに似合わない二人の動き、これは異職であると。そして友のギルドがジールのギルドの最大の障碍になる事を予感していた。最大のライバルが友になる事を――


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