第一章41 『シャロ無双』
雪原地帯だというのにシャロ無双のおかげで全くと言っていいほど、エリア影響を受けていない。
「マスター、もう少しでボスですね」
「そうだな」
「シャロ、ハイマジックポーションです」
「ありがとうございます」
ハンベイは念の為にシャロにアイテムを手渡した。シャロはハンベイからハイマジックポーションを受け取り、MPを回復する。
圧倒的なスピードでダンジョンを進み、俺達は渓谷に入った。渓谷の壁はクリスタルのように透明度の高い氷で出来ており、とても幻想的な風景だ。
「ライト様! ノブナガ様から連絡です」
ハンベイが唐突に俺にそう告げる。このタイミングでノブナガからの連絡とは嫌な予感がする……。
NPCとプレイヤーはフレンド登録はできない。しかし、NPC同士であればフレンド登録はできる。
――――ノブナガとハンベイのフレンド通話である。しかしノブナガとハンベイはフレンド登録はしていないはず。いや違う、ノブナガは絶対に誰ともフレンド登録はしない人である。
だとすると通話は家臣の誰かだろう。その背後には勿論、ノブナガが居る。ヒデマサかランマルあたりだろう。ハンベイはその連絡をすぐに繋げた。
「ノブナガ様、いかがなされたのですか?」
俺はハンベイの行動に戦慄が走った。ハンベイはまさかノブナガとビデオ通話を開始した。俺は直ぐ様、画面に映らないように避けるが、ハンベイはその先を読みながら俺を映そうとするように動いた。
『ふむ、貴様がアムル王国に向かっておると聞いてな』
ハンベイとノブナガのわざとらしい会話。ノブナガはハンベイと通話をしているのに、ノブナガの視線はずっと俺に向いている。
しかし、マサネムが言うようにノブナガは女なのか? どこからどう見ても男だが。俺は避けるのを諦め、ノブナガをジロジロと観察する。
「はい! ライト様に追従しておりますです」
『ほぉう。久しぶりだな! ライト』
「はい」
まだわざとらしく会話を続けるノブナガ。ハンベイは俺に繋げる為にビデオ通話をしたんだな。連絡係は画面に映るランマルだな。綺麗な黒髪でポニーテールが似合う美少女のランマルだ。
『後ろの女は誰だ!!』
急に苛烈な言葉を飛ばすノブナガ。俺の背後にいるのはシャロである。ノブナガとシャロは初対面だ。その言葉を聞き、シャロは俺の横にサッと現れ、挨拶をする。
「シャロと言います」
『ライト、お主の従者か何かか、それとも臨時のパーティか??』
ノブナガの威圧を一切ものともせずに言い切るシャロ。ノブナガの双眸がより鋭くなる。何故、ノブナガは俺とシャロの関係を探ろうとするのだろうか。
「シャロはマスターのです」
『――――なっ!! ライト!! 貴様!! 直ぐにアスラルに戻るのだ!!』
俺が答える前にシャロが胸を張りながらそう答える。ノブナガは立ち上がり、何故か俺に吶喊した。俺は内心ため息をつきながら話を始めた。
「今はアムル王国に向かっている途中なので、着いてから転移門で戻った方が!!」
ここでスクロールの旅人の方舟でアスラル共和国に転移すると、俺はアムル王国に足を踏み入れたことがないので、この道程を繰り返す事になる。それはかなりめんどくさい。
『ハンベイがアムル王国へのスクロールを持っておる! 直ぐに旅人の方舟を使って、それからハンベイのスクロールで転移すればいいだろう』
「――――えっ??」
ハンベイはアムル王国へのスクロール持っていたか――――じゃあ、どうして馬車で旅をしたんだ。俺は開いた口が塞がらなかった。いやいや違う、スクロールは高価なアイテムだ。俺がハンベイのスクロールを当てにするのはおかしい。
そう考えていた俺だったが、実はハンベイは俺の膝の上で旅をしたかっただけである。それが目的だったとは俺は全く知らなかった。
「いやいや、あなたの依頼のアルクス教国に行かないとダメでしょ? 後、俺はナガマサさんに少し会いたくて」
『ほおぅナガサマにだと!! さっさと済ませてわしのところに来い!!!!』
「その後も予定が……」
『どこだ!!』
火に油を注ぐ言葉だが、はぐらかしてしまうと後が大変になる。俺は正直にノブナガに答えた。
「その……アービス王国に寄ろうかなと」
『マッマサネムのところだと!!! 許さん!!!』
「あーツウシンガ、ダンジョン内だからかな?? あれれ?」
俺はハンベイに通話を無理やり拒否させた。俺が思った何百倍、ノブナガは憤慨していたので、強行突破に出た。
「ライト様、いいのですか? あの感じだと――――」
「大丈夫だ、問題ない」
ハンベイは心配そうに俺を見つめた。サンの時もそんな感じだったから問題ないだろう。きっと、きっと大丈夫だ。ノブナガは超有名人。下手に自身の領地から出れない。しかし、アスラル共和国には当分……寄れないな。
俺はまた内心ため息をつきながら、先へと進んだ。そして、マップを確認する。ダンジョンボスは目と鼻の先だな。
ダンジョンボスは直ぐに俺達の気配に気づいた。壮絶な地響きが辺りに伝わる。爆風が雪を舞いあげる。俺達はその正体を目線で追った。
俺はステータスを確認した。
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N:フロストドラゴン<ボス>
LV:85
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この姿では二回目だな。俺達と相対するのはフロストドラゴンだった。こいつがこのダンジョンのダンジョンボスだな。フロストドラゴンは上空から俺達を睥睨した後、背中を大きく反ってブレスを放った。白銀の吹雪は俺達を目掛けて迫る。
「慌ただしいな! 全く!!」
「マスター任せてください。プチファイヤー」
シャロのプチファイヤーはフロストドラゴンのブレスを呑み込み、そのままビームのような業火がフロストドラゴンを襲った。
直撃を受けたフロストドラゴンのHPバーは、緑から色を橙に変えた。その後もシャロは詠唱とスキルディレイが短い、プチファイヤーを連発する。
圧倒的な火力を受けたフロストドラゴンのHPはいつの間にか風前の灯のレッドである。フロストドラゴンはレベル85だが、スキルの相性もあるがシャロのプチファイヤーはメイジの最高職、賢者並みである。
「ぶっころです。プチサンダー」
表情は一切変わらず怖い言葉を言いながらスキルを唱えたシャロ。
そのスキル、プチサンダーは雷鳴が轟き、轟音がこの場を支配した。これもプチじゃなかった雷が龍の姿をしている。閃光のような速さでフロストドラゴンに噛み付き、フロストドラゴンはポリゴンになって爆ぜた。
「――――」
「――――」
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550000G獲得しました
フロストドラゴンの涙を獲得しました
フロストドラゴンの鱗を獲得しました
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俺とハンベイはその光景を目の当たりにして言葉が出なかった。システム通知によりアイテムドロップが表示された。
しかし、フロストドラゴンの鱗は見た事あるが、涙ってなんだよ。フロストドラゴンは悔しかったのだろうか。メイジの初期スキルのプチ系スキルに倒されて。
俺はシャロのレベルを確認した。
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PN:シャロ<獣人族>
LV:30 JOB:メイジ
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PN:ハンベイ<耳長族>
LV:68 JOB:エンチャンター
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シャロは二次職に手が届くレベルになっていた。同じパーティのハンベイも67から68に上がっていた。
そして、俺達は峡谷を抜け、その先にあるダンジョンコアへと向かった。クリスタルで包まれた空間は、とても幻想的で見惚れてしまう優美であった。
俺は台座に置いてある圧倒的な透明度を誇る、クリスタルのダンジョンコアに向かって弾丸を放った。
――――ドパンッ!
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<氷結のダンジョン>クリアです。
おめでとうございます。
龍の宝玉を獲得しました。
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空間転移を開始します。
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そして、俺達はダンジョンの外へと飛ばされた。ドロップアイテムは装備アイテムではなかった。俺達はダンジョンに入る前の場所に転移された。ダンジョンへの転移門が元あった場所の周りは影響がなくなり、雪原も消滅していた。
これでこのダンジョンから溢れ出たモンスター達も消滅しただろう。辺りを確認している俺に、ハンベイはいつの間にか取り出した、スクロールを俺に手渡そうとする。
「ライト様! アムル王国へのスクロールを使用します」
「いいのか、スクロールは高価な物だろう? 野宿の準備はしてあるし、この先は徒歩でもいいぞ」
「断固としてスクロールを使用します。時は金なりなのです。ライト様、アムル王国で美味しいものを食べましょう」
「マスター、お腹がすきました」
シャロとハンベイはアムル王国で美味しいものがご希望のようだ。今回はハンベイのお言葉に甘えよう。
「へぇまじかよ!! 30と68と6レベルのパーティでこのダンジョンをクリアねぇ。しかも、俺がたまたまいる時に転移されるとは、これは運命なのか?」
ニヤリと姿を現し、俺達を睥睨する赤髪で赤い鎧を纏う男。辺りを見渡し警戒していた俺がこの男の気配に気づかなかった。
「……お前は一体?」
俺はそう言い男を見つめ直ぐにステータスを確認した。
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PN:ユキムラ<厄災の黙示録>
LV:??? JOB:???
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「俺の名前はサナダのユキムラ。厄災の黙示録だ!」
一難去ってまた一難。しかし、この出会いは俺にとって僥倖だったのかもしれない。
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