第一章37 『二人の魔王』
「おはようございます。昨日はお楽しみのご様子で」
ニヤニヤしながら俺に挨拶をするのは、酒場の女性のウエイトレスである。昨日は冒険者ギルドを出て、酒場で夕食を済ました。
シャロは先に酒場の二階にある部屋へと入って行ったが、俺は少し酒場でゆっくりしてから向かった。
そして、シャロの待っている宿泊部屋へ入ったのだが、俺は部屋に入って直ぐにその場に硬直した。ベッドが一つだと――――
アルカディアではパジャマもしっかり存在し、十着はどのプレイヤーにも初めから無料で支給されている。これはアイテムとは違い、メニューから着替えられる。シャロは既にパジャマ姿で、ベッドの傍の椅子にかけていた。
俺は元賢者であり仏である。サラ、サラ、サラ、サラ。元賢者の得意の呪文を頭に唱える――――
もちろんその後、何もなかった。シャロを抱き枕のようにして眠ってしまったが――――そんな事があったが、俺達は朝食を食べようと酒場に降りていた。ウエイトレスの笑顔の理由はもう一あった様だ。閑散としていた酒場に活気がある。プレイヤーとNPCが戻ってきたみたいだ。
「マスター、人が沢山います」
「シャロそうだな!」
「そうなんですよ! これはノブナガ様のおかげです。治安が悪くなっているのを察して、ノブナガ様がここに家臣を派遣してくださったのよ! あと――別の家臣もいらして、その方はアルクス教国からアスラル共和国に戻るついでらしいけど、とても助かっているのよ! そのおかげで人も徐々に戻ってきて、今日は朝から大忙し!」
「なるほど」
わざわざ転移を使わずにアルクス教国からアスラル共和国に移動か、そんな物好きは一体誰なんだろう。ノブナガの家臣が滞在してるなら、早めにクキョウ町から出た方がいいな。また面倒事に巻き込まれるのはごめんだ。
俺とシャロは朝食を終えた。アルカディアにもちゃんと味覚があり現実世界と何ら変わらない。まあリアルの俺が食べないでダイブし続けるともちろん死ぬが。そして俺達は足早に酒場を立ち去った。
「シャロ、これをつけて、見た目影響をONにして欲しい」
「はい、マスター」
俺はシャロに装飾品の白月の仮面を渡した。そして俺は見た目影響をONにしてヘルムで顔を覆った。シャロも帽子を見た目影響をONにし白月の仮面を装備した。これで大丈夫だろう、町から出るまでは顔を隠そう。
酒場から出ると、昨日の事が嘘のように町には活気があった。流石ノブナガだな。ノブナガは領地ギリギリのこの場所でもしっかりと見ているんだな。俺達はクキョウ町から出よう足を向けた。
「君が、ここの町の厄災の黙示録の下っ端達を倒してくれたみたいだね」
「――――」
「ありがとう。とても助かるよ」
声をかけられ俺は振り返る――視線を転じた先にはニッコリと微笑む、銀髪パーマのイケメン。それはもう美丈夫で誰からも好かれそうな顔があった。
俺はこの人が苦手だ。独特な雰囲気に建前剥き出しの作り笑顔、言葉を交わしたが早く立ち去りたい。俺は徐ろにステータスを確認した。
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PN:アケチ<人族>
LV:92 JOB:聖王
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しかしこんな大物がこの町に現れるとは、それは人が戻ってくるはずだ。アルクス教国からアスラル共和国に向かってたノブナガの家臣はアケチだな。顔を隠しておいてよかった。
「私と一緒にアスラル共和国に戻りませんか? 主にご紹介したいので」
アケチはニッコリと微笑み、着物の袖から美しい手を出し俺を誘う。
「すみません。俺達は少し急ぎの用があるので」
「それはそれはすまない、引き止めて悪かった」
アケチは簡単に引き下がる。しかし俺達を念入りに観察しているような気がする。事実アケチは俺とシャロを入念にチェックしていた。
俺達は直ぐにその場から去ろうとしたが、アケチの背後からひょっこりちみっこが現れた。青髪の魔道士の帽子が可愛らしい、140センチくらいのちみっこ娘。この人がここに派遣された人なのか――またすごい人をノブナガは送ったな。
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PN:ハンベイ<耳長族>
LV:67 JOB:エンチャンター
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「どこに行かれるのです?」
「少し西へ」
「どこに行かれるのです?」
現れたと同時にトコトコと俺に近づき質問をするハンベイ。曖昧に答えたが、またハンベイは同じ質問を俺にした。この人は強情なんだよな。俺は内心ため息をついて素直に答えた。
「アルクス教国に」
「アルクスですか? なら僕もお供するです」
と言うハンベイだが、どうしてそうなった。とても目を輝かせながら俺を見てるハンベイ。
「いや――大丈夫ですよ」
「レベルが20未満のお二人がアルクス教国に徒歩で向かうのですか?」
「その馬車とか探して」
「今は厄災の黙示録が活発なので夜襲とかもあるかと思うです。もしかしたらアムルが裏切るかもです。そうなると治安が悪くなり道中危ないです。お供するです」
「その――」
そうだ、俺には大義がある。女の子とは近寄らない、これは大切である。久しぶりにハンベイに会えて嬉しいが、いくらハンベイでも守らないといけないものがある。俺はシャロにゆっくりと視線を転じた。
「マスター子供には優しくです」
俺が期待していた言葉とは違う事を言うシャロだった。ハンベイは見た目は子供だけど俺と近い歳のはず。なら仕方ない、それを言われて断るとめんどくさい。
「そのありがとう。お願いする」
「はいです!」
俺がそう言うと満面の笑みを見せるハンベイだった。その光景を黙って見ているアケチが無表情になる。
(ハンベイ殿が気に入る相手か、二人の魔王に仕えていたハンベイ殿がね。片方は消えたが。この男、少し興味深い)
そして俺はハンベイをパーティに加え、アケチと別れた。俺はハンベイに先程の言葉に対して質問をする。
「ハンベイさん、アムルが裏切るとはどう言う事だ?」
「僕の事はハンベイと呼んでくださいです! それはアスラル共和国とアムル王国が同盟を結べたのはサン様が居たからです。サン様が消えた今、同盟はかなり不安定になっています。
それとアムル王国には最近、ダンジョンが盛んに出現しています。その上、厄災の黙示録です。アムル王国は少し荒れているのです」
「そうなのか――ノブナガは助けに行かないのか?」
「ノブナガ様はトウキチ殿をアムル王国に派遣しているはずなのです。アケチ殿が言うにはトウキチ殿はアムル王国の近くの町に滞在されているようです」
「ノブナガは動いてはいるんだな。トウキチさんがね」
ダンジョンと厄災の黙示録。これはたまたま依頼されたクエストか? 少しずつ繋がっている気がするが――――ノブナガがアムル王国を気にしているなら大丈夫だろう。
「マスター、アルクス教国からアムル王国は近いです。まずはアムル王国から立ち寄ってみてはいかがでしょうか?」
シャロが唐突にそう言う、これは俺の考えをそのまま口にしたみたいだった。気になるなら動くしかないな。
「あぁそうだな。まずはアムル王国だ」
「はい、マスター」
「馬車を用意するです」
久しぶりにナガマサに会うのもいいかもしれない。俺達はクキョウ町を後にするのであった。
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