第一章35 『宣言』
俺に手を絡めているシャロがと何か言いたげに、ジッと俺を見つめている。シャロはケモ耳を数回ぴょこぴょこさせた後、口から言葉が零す。
「マスター、桜との約束」
「――」
その言葉でビリビリと頭が覚醒する。そうだ、忘れてはいけない萩生田家訓――この状況はかなりマズイ。俺はマサムネに掴まれている手を強引に振り払った。
「私が逃がすと思うか」
と言いニヤリと口元を緩ませながら、再度俺の手を掴もうとするマサムネ。その光景を見て口火を切る――ティアだった。
「何が逃さないよ!! 私を蚊帳の外にするんじゃないわよ!!! 私が最初のフレンドよ!! ここじゃ私は譲らない!」
ティアの苛烈な言葉が響く。ティアは両手で俺の顔をグイッと自身の方へと向け、俺と瞳を合わせた。
「リアルでの私の名前は柚葉!! 私が絶対に貴方を奪う。誰にも負けない」
「柚葉」
俺が反芻した直後、ティアの瞳からスーッとひとしずくの涙が頬を通った。突然のことに俺は動揺した。そんな俺を無視して、ティアはすかさず俺の頬にキスをした。そして、ティアはその場から離れ、踵を返した。
「パーティ申請だけしておくから。パーティから外したら地獄の底まで追いかける。じゃあ、ログアウト」
そう言いティアは颯爽と消えて行った。俺はティアのパーティ加入を受け入れた。理解が追いつかないまま、俺は置いてけぼりにされた。俺の頬に残る優しい感触がまた疑問をぶり返す。
「なるほど、あぁ言う大胆さも必要なのだな。エレナとやらに一本取られたわ」
呆気にとられている、その静まった空気に、少し高笑いしながらマサムネはそう言い放った。俺はマサムネの言葉が妙に引っかかった、エレナだと……。エレナとマサムネは面識があったのか。だからシャロと同じようにエレナとティアを勘違いをしているだろう。
「マスター、家訓破り。そして、エレナとちゅっちゅ」
「――」
シャロの言葉が耳に入ると体に衝撃が走った。しまった……シャロは監視員だった。桜に報告されたらマズイ。
「違うんだ! シャロ! あれは動揺して、突然の事で――なっ? あれは防御不可の攻撃だ」
「桜に詳しく報告をしなければ、マスター」
シャロがいつにも増して無表情で、冷たい声色でボソッ呟く、俺は速攻で言い訳をする。しかし、シャロはいつの間に桜の部下になったんだ。
「マスターとエレナはそういう関係だと報告します」
「ごめんなさいシャロ、俺が悪かった」
俺は誠意を見せようとした、五体投地だ。シャロは俺がそれをする前に止めた。
「マスター、言いません、内緒にします。しかし、マスターの周りには女の子が近づきすぎです。エレナとのああいう行為は今後禁止です」
「分かったシャロ」
シャロが釘を刺すように強く言う。ケモ耳がぴょこぴょこしている。これは嫉妬なのか? そんなわけ。
「シャロ、ティアは以前にシャロがパーティ組んだ事のあるエレナではなく別人だ。見た目は似てるが本当に別人なんだ」
「理解しました、マスター。マスターは新たな女の人としたのですね。なるほどです」
「シャロ、その……」
その返しは何も言えない。それはそうだよな――シャロからしたらエレナとは顔見知りで、それは納得しました。しかし、別人でした、だったらむむむってなるよな。
「何を言うライト。あれはエレナだろ」
チェックメイトされ打つ手が無くなった俺に、また違った角度から言葉を入れるマサムネ。俺はマサムネに名前を教えてないはずだが。どういう事だ?
「マサムネは俺の事を知っているのか?」
「知っている」
「そうなのか」
これはマサムネの情報力なのか、流石はマサムネである。
「だが改めて名前を知ったのは会ってからだ」
「ん??」
「まぁ理解が追いついていないみたいだな。これは私のスキル神眼によるものだ。右目を眼帯で隠しているだろう? これでも抑えていはいるのだが見えてしまう」
「――――」
マサムネのスキル、神眼によって、もしかしたら俺と近いステータス表示がマサムネは見えているのか。
「欲しいか? このスキル」
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クエストが発生しました
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<神眼への道>
クリア報酬:神眼の取得。
クエスト失敗時:――
マサムネのもとで試練を受ける。
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俺はシステム通知を見て胸が高鳴った。最強のNPCのスキル、これは手に入れたい。しかし今は後回しだ。俺が言葉を入れる前にマサムネが先に動く。
「後でいい、用を済ませたら私の元へと来い。それでいい。私も厄災の黙示録を消すために訪れたのだ。しかし、去ったあとらしいが。私は一度戻るとする」
「――――マサムネ、また訪れる」
マサムネは踵を返しヒラヒラと手を振り、アイテムボックスからスクロールを取り出した。
「あぁ待っておる、私は今の姿のお主の方が好きだ」
(しかし、私は二人をあだ名で呼んでいると思ったが、違うのか。真名と思って呼んでいるのか、また何やら巻き込まれているな)
マサムネはスクロール、旅人の方舟を使い、転移して消えた。最後にマサムネは俺に何を言ったのか聞き取れなかった。太陽が顔を隠す前に俺達は町へと戻った。
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