第一章34 『隻眼の女』
なぜシャロとティアは普通に動けているんだ。スキル発動後、時間は確実に止まっていたはずだ。もしかしたらスキル、神時計はプレイヤーやNPCには影響しないのだろうか。MPを回復した後に試す必要があるな。ティア……戦闘区域で腹を抉るとか普通にダメージを受けたわ。ビビったわ。
「マスターごくごくです」
「シャシャロ!?」
俺の背後からひょっこりと顔を覗かせたシャロが、マジックポーションを俺の口に突っ込む。ぬぐぐぐぐこれは。俺のMPは0から50に回復した。
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MP:50/10753
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HP、MPをしっかりと管理してくれるとは、シャロはよく出来た後衛ですよ。心配してくれるのは嬉しいのだが、有無を言わず口に突っ込むのはなれない。
「マスター、もう一本です」
「もう大丈夫シャロ、助かった」
間髪入れずにシャロは俺にマジックポーションを口に突っ込もうとする。そのシャロのローブが赤い予測線が染めていた。背筋が栗立った俺は直感に従って素早く立ち上がり弾丸を放った。
――ドパンッ!
刹那の弾丸がシャロへの攻撃を防いだ。まだ他に敵がいたのか。
「いやいや、本当に人族が銃とは、この射撃速度はなるほど。これは部下達が殺られる訳ですね」
森の影から現れた男は冷静に状況を分析し冷たい声色で言葉を放つ。ティアとシャロも戦闘態勢に入る。
「貴方の名前はなんというのでしょうか? 表示はレベル5、なのに動きはトッププレイヤーに近い動き、少し興味があります」
俺だけに言葉を交わす白い髪の機械人形の男。俺はこいつを知っている。アーバン帝国の第五隊の副官だ。アーバン帝国はリアルで北海道に位置する。アーバン帝国はDDフロアで唯一、機械人形が統治している国である。
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PN:ベガ<機械人形>
LV:72 JOB:トリオ
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「俺の名前はベガだ」
「ユーモアに溢れた方だ。私も有名なのでしょうか。いいや、言動、顔の表情を認証すると、私の大っ嫌いの奴にそっくりなのですよ。おかしいですね〜とりあえず、殲滅しましょうか」
俺はステータス確認をしたベガの名前をそのまま使った。ベガは嫌味な笑みを見せながら俺を強く睨んだ。
「お生憎様、マジックバレット!!!」
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MP:0/10753
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HP:5300/6694
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両者、銃を向けた――ベガが動くよりも早く俺はスキルを放った。 凄まじい轟音を纏う銀色のレールガンがベガに迫る。
――――キュウィイインドパンッ。
「これは――凄まじい、シールドバニッシュ」
ベガが右手を前に向け唱えた。ベガの前には機械の盾が出現しレールガンを防いだ。けたたましいスパークの音が鳴り響き、マジックバレットは消えていく。
これで、完全防御は消えたな。マジックバレットのMP消費が足りない分はHPで消費された。あと数発しか打てないが問題ない。
ベガは俺を見て少し顔を顰めた。
「ほう、そのスキルはかなりのMPを消費するみたいですね。HPバーが減ってますよ。残りは数発打てるかどうかですね」
「――――」
「マスター、プチヒール」
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HP:6694/6694
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シャロが俺に回復スキルを使った。俺のHPが全回復される。プチヒールでここまで回復するとは、やはりシャロのINTは凄まじい。
その光景を見てベガは標的を変える。
「HPを回復されるとめんどくさいですね、まずはその獣人族から狩りましょう」
「すまないな、藪から棒に――――神威」
神速でベガの横合いに現れ、女は刀で上段から袈裟懸けする。それを喰らい、瞬殺でベガのHPバーがゼロになり消滅していく。俺達はその光景に呆気にとられていた。こんな所でDDフロアの最強クラスのNPCと会うとは――――
しなやかで美しい長い黒髪から隻眼がギロリと俺に向く、その立ち姿は絶世の美女、この言葉が一番似合う。
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PN:マサムネ<人族>
レベル:120 JOB:???
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初めて知ったがこの人の職業は不明なのか。しかし、いつ見てもレベルがエグい。マサムネは俺の方へと悠々と歩き、直ぐに距離を詰めてきた。優雅なその姿に一瞬見惚れてしまった。
「お前はノブナガの部下になったのか?」
マサムネは俺にぐぐっと顔を近づけ睨む。ここでノブナガの名が出るとは――めんどくさい。それにしても顔が近い。
「俺はノブナガの部下ではない」
「そうか――悪かった。マントがそう見せたのだ、許せ。ならお前は今から私の者だ」
唐突にそう告げるマサムネ。ティアは一瞬、声をあげようとしたが、圧倒的までのこの場の支配権に何も言えなかった。なんて――威圧感だ。これがマサムネ――
「俺は誰のものでもない」
俺は真っ直ぐにマサムネを見つめそう告げた。その言葉を聞き入れたマサムネがニヤリと口元を歪める。
「私の告白を断られたのは二度目だな。しかし、二度目は譲らん。私の統治している国に来い。話はそれからだ」
二度目? 俺はそんな話をしたか? この姿でマサムネと会うのは。
マサムネの統治している場所は北の方である。俺達が向かっている場所とは逆方向だ。
「俺たちはクエストを進行中で今は無理だ」
「クエストか何のだ? それを私が手伝ってやる。そうすれば手が直ぐに空くだろう。お前と私の仲だ」
マサムネが更にググッと距離を近づける。
――――近い、近いな、距離、距離、距離。これは初対面の距離感じゃない。瞳同士を映すように一切目線がブレないマサムネ。この人にも嘘やハッタリは意味が無い……仕方ない。
「ノブナガに依頼されたクエストを受けている段階で、先渡しの報酬をもうノブナガから受け取っている。だから今は無理だ」
「今はか。今はだな。なるほど、お前はノブナガと寝たのか」
俺はその言葉に身震いした。何を言っているのだマサムネは……。ノブナガは男だろ。サンだった頃に何回かマサムネとは会った事があるが――こんな冗談を言う人ではなかった。
「ノブナガは男ですよ?」
「見た目はな。しかしあいつは女だ。姿を隠してるだけだ。スキルか装備でな」
「そんなこと、ありえない」
「まぁ常人では見抜けない。私のスキル神眼がなければな」
するりと手を絡め。表情をニヤ〜とさせるマサムネ。なぜかシャロがもう片方の手を絡める。何この状況――――その隻眼は俺を捉えて離さなかった。
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PN:ライト<人族>
LV:5 JOB:ガンナー
HP:6694/6694
MP:0/10753
STR:303
INT:1294
VIT:1006
AGI:999
DEX:75
CRT:625
LUK:999
パッシブスキル:限界突破、神のサイコロ、異常耐性<SSS>、物理・魔法耐性+<10%>、オート防御<B>
スキル:マジックバレット、リベンジリフレクト、ミネウチ<S>、威圧<S>、神時計
SP:100
<装備>
左手:ブラッド漆黒
右手:――
頭:白神のヘルム
体:白神の魔鎧
足:冒険者の靴
装飾品:ノブナガのマント
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