第一章31 『残されたもの』
新しい厄災の黙示録の名前――――サナダのユキムラ。
俺が考えに耽っていると、女性のギルド職員は俺を品定めしてるかのように俺を見つめていた。
(なんて凄い装備をしてるの、この人は貴族かもしれない。玉の輿、玉の輿、玉の輿)
するとシャロはすかさず俺の前に現れた。
「マスター、シャロが話を聞きます。マスターはシャロの後ろで話を聞いていてください」
「あぁ、わかった!」
「くっ――」
シャロに言われて俺はシャロの後ろに下がる。なぜかシャロは俺の正面真っ直ぐに立っている。まるで通せん坊されてるみたいだ。すると女性のギルド職員は、悔しそうにシャロをほんの少しだけ睨んでいた。
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<メイジへの転職クエスト>
クリア報酬:メイジ
クエスト失敗時:――
条件:薬草を集めポーションを10個生産
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「マスター行きましょう」
シャロはクエストを受け、俺達は一目散に冒険者ギルドから直ぐ近くのメルの森へと向かった。メルの森はE~Dランク冒険者の狩場である。メルの森には野菜系モンスターやゴブリンやホーンラビット、一角獣の兎などが出現する。
クエスト条件達成の生産はDEXとLUKに縛られる。
DEXが高い程、成功率が高く。LUKが高い程、成功時の個数が偶に変動する。商人などをやっている者は、この二つのステータスを主にあげている。
通常はポーションを一つ生産する為には薬草が十個が必要である。パーティに加入していれば誰が生産しようとクリアになる。しかし、クエスト開始してからの収集した薬草で生産しなければカウントされない。
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メルの森で薬草を収集し始めているが、モンスターとは一度も遭遇していなかった。強いモンスターが近くにいると、稀にこういう事がある。今回は厄災の黙示録の影響だろう。俺はそう考えながら薬草を毟りとる。
――――追ってはもう着いたのか。襲撃しないという事は監視目的の為なのか? 少し邪魔だな。
俺はアイテムボックスからブラッド漆黒を装備し、木に向かって銃弾を放った。――スキル、ミネウチ<S>を載せながら。
――――ドパンッ!
弾丸は木と木を跳弾しながら追跡者を襲った。
「なっ!! スキルを使ってるのにまじかよ――――しかも、HP1とか……なんだよこの神業」
遠くの方から動揺の声が耳に届いた。視界から見えないはずなのに急に自分へ正確に弾丸襲い、HPが風前の灯になっている事にその者は感嘆の声を漏らした。
「姿を現せ、次は仕留める」
俺の言葉に颯爽と黒髪の男が現れた。両手を上げ、少し冷や汗をかいている。見た目は若い黒縁メガネを掛けた、なかなかのイケメンだ。俺は直ぐにその男のステータスを確認した。
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PN:トヨトミ<人族>
LV:55 JOB:アサシン
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「俺は敵じゃないですよ〜アニキ〜」
と軽い口を言いながらにへら笑いをしているトヨトミ。
こいつはプレイヤーなのか、それともNPCなのか人族だと判らない。
「何が目的だ」
「レベルが低くいのに、エピック装備をしているのでお近づきになりたくて〜貴族か何かと思いまして〜アニキ!」
スキル鑑定持ちか。スキル鑑定を持っているものは装備アイテムのレア度とその能力が確認できる。
そうトヨトミは直ぐに答えるが俺は銃口をトヨトミに向けた。その瞳でそれが本心ではないとハッキリと伝わるからだ。
「もう一度言う、一体何が目的だ」
俺は威圧を込めて言葉を放つ。トヨトミはその状況にも関わらず俺からの目線をちゃんと受け取っていた。
「貴族様の下で働きたいなって思いまして〜」
──ドパンッ!
俺は威嚇射撃を放った。それにトヨトミはゴクリと唾を呑んだ。そんな場面でもシャロは無我夢中で薬草を毟り取っている。可愛らしい姿である。
「俺達をリーマン草原から追ってきただろ?」
俺の言葉にトヨトミは目を見開いて表情を一変させた。トヨトミは少しため息をしてから口を開いた。
「いやいや、まじっすか~化け物ですかアニキは! 俺のスキル、色彩変化を使ってカモフラージュしていたはずなんですが」
トヨトミは俺と黄泉戦闘している時からずっと俺を追っていた。あの時は瞳に映るのは黄泉一人だけだった。黄泉はトヨトミに気づいていたがPKをしなかった。それが気になり俺はトヨトミを泳がせていた。
「最後だ、何が目的だ」
「俺もアニキと同じ、残されたもの――――」
その言葉を発したトヨトミは先程のにへら笑いをした顔と全く別の者であった。トヨトミが言った残されたもの、所謂、神隠しの被害者家族だ。
「なるほど……」
「俺の兄さんは2085年の2回目の神隠しで行方不明になった。けど兄さんはM廃人だった。NPCに恋をしてリアルを捨てて、ずっとアルカディアに居たはずなのに……。なぜが姿を消したんだ」
なるほど、そういう事か――トヨトミのシャロを最初を見た表情は無関心だった。怖いほどの無関心の瞳。
「それで一部始終を見て俺をつけていたって事か」
「そうです、アニキ!」
俺と同じ状況下のトヨトミが、少しでも神隠しの情報を手に入れる為に俺に近づいたのか。しかし、トヨトミは俺の事をなぜアニキって呼ぶんだ。
「アニキ! 俺はトヨトミのヒデヨシだ。秀義がリアルでの名前でトヨトミがプレイヤー名だ。よろしく! アニキ」
トヨトミの秀義ね。アニキって呼び方は変えるつもりがトヨトミには無いみたいだ。まあいいだろう。
――――ピコン。
その音と共にフレンド申請が来た。
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新しいフレンドが増えました
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LV:トヨトミ<人族>
LV:55 JOB:アサシン
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俺はフレンド申請を受けた。
「何かあったら俺を呼んでくださいアニキ! 俺の事はヒデヨシって呼んでくださいねあと、これを記念に受け取ってください。これは俺の気持ちです」
ヒデヨシはそう言い、アイテムボックスから一つのスクロールを取り出し俺に手渡した。ヒデヨシが俺に渡した物は、スクロールはAフロアのカインズ王国への転移スクロールだった。カインズはリアルでいうアメリカのニューヨーク州に位置する。
トヨトミはどうして俺にかなり値が張るスクロールを渡すのだろうか。
「いや、これのスクロールは受け取れない」
「お友達記念ですよ! じゃあアニキ〜また会いましょうね! ユキムラが近くに出現してるみたいなので気をつけてくださいよ〜では俺はこれで! ログアウト」
俺の問いを無視して、スクロールをその前にしてトヨトミはログアウトして行った。トヨトミの顔はやけにいい笑顔だった。
「マスターマスター、薬草を集め終わりました」
「シャロ、さすがだな! 生産、生産だな」
「はい! マスター」
内心のため息と呆気にとられていた俺は、シャロのぴょこぴょこ耳に癒されるのだった。
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