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第一章29 『連絡』

 俺達は馬車に揺られていた。外装はありふれた馬車に見えたが、内装はとても豪奢な馬車だった。しかし揺られていると言う表現は間違っているのかもしれない。


 この馬車は揺れも殆どないし、横になれるくらい広い。その上フカフカである。しかもこの馬車は防音仕様だ。外部に異常があれば、展示用に付いているランプが点滅して教えてくれるようになっている。まさに極楽である。


 馭者をしている行商人は『へっへっへ、防音ですからゆっくりしてください』と言いなぜが悪い顔をしていた。俺の脳裏には何も浮かばない……サラ、サラだ。


 だが、シャロはなぜか正面ではなく、俺の横にちょこんと座っている。その距離はかなり近い。俺は疑問に思いシャロに声をかける。


「シャロ、狭くないのかい?」

「マスター防音です」


 シャロの解答に俺は背中から汗が少し吹き出した。……いかんいかん、話を変えよう。主導権を手にするのだ。


「そういえば、小窓から見える景色、綺麗だな〜」

「マスター防音、防音です。マスター」


 俺はシャロの頭を撫でた、ケモ耳美少女がそんな事を言ってはいけない、いや……言わせては断じていけない。


「シャロ、その――――なぁ」

「マスター、先程のお姉様のお話、知りたい。マスター」


 あっ――――そうか。俺は自分自身を心の中で百回殴った。


 俺はシャロに黄泉と桜の事を話した。家族である事など行方不明だった事を――


「黄泉姉さんは悪い人じゃないんだ。でもどこにいるのか何に関与しているのか、それが気になるんだ。あの人は俺の事になるとかなり無茶をするから」

「マスター、一緒にお姉様を探しましょう」


 シャロはそう強くそう言い、俺の瞳をじっと見つめていた。その瞳を見て、俺はまた黄泉の話をして、表情に少し影を指したのだろうかと思った。

 そう考えていると、シャロはぴとりと距離をさらに縮め、くっついてきた。


「ありがとうシャロ。頼りにしているよ」

「マスター防音です」


 つぶらな瞳で上目遣いをするシャロ、これはどういう意味の言葉なのだろう……。この近さはやばい。


 あっ、そっ――そうかあれだな。ステータスだな。きっと、うん間違いない。聞いて欲しいとか、そんな感じだろう。


 俺は自分に言い聞かせながら、シャロに話を振った。


「シャロはレベルが上がったけど、ステータスポイントはどこに降ったんだ?」

「マスター、全てINTに振りました」

「そうか、偉いなシャロ!」

「ありがとうございます。マスター」


 俺はまたシャロの銀色の髪を優しく撫でた。癒しの空間に満たされていた。


 ――――ピロンピロンピロン。三回コール。これはリアルからの合図だ。俺はすぐに相手を確認する。


 これは……桜からだな。どうする……?

 黄泉姉の事を桜にも話した方がいいのだろうか。いや……下手に話せば桜を心配させるだけだな。俺は桜からの連絡を繋げた。


『お兄様、ゲームは順調ですか?』


「あぁ、順調だ」


 俺はシャロに向け、シーっと言うポーズをした。シャロは何も言わないが、首を少し傾げ、ケモ耳をぴょこぴょこさせている。


『お兄様、今回は新たなフレンドを作ってお遊びになるといいですよ』


「そっそうだな」


 俺は吃ってしまった。桜はそれをそれを一切見逃さなかった。無言の一瞬が過ぎ、一拍を置いて桜が話し出す。


『お兄様、今近くにどのような人物がいるのでしょう?』


「えっ――どうしてだ?」


『お兄様、今近くにどのような人物がいるのでしょう?』


 あれ、桜の声色がものすごく変わったような気がする。気の所為ではない……変わった。冷や汗が止まらない。俺の問いを流して、桜は同じ質問を再度問いかけた。


「マスター大丈夫ですか?」


 俺を心配したシャロの言葉。それはもちろん電話越しの桜にも聞こえた。


『マ、ス、ター、綺麗なお声ですね。お兄様ふふふっ。マスターですか――お兄様』


「いやな……これは、そのなんて言ったら……その」


『ふふふっゲームの映像を私にも見せて欲しいなお兄様。ビデオ通話に変えて欲しいな、お、兄、様。お兄様のカプセルに入っているリアルのカラダ、どうなるのでしょう』


 桜、それはダメだ。カプセルに入っている俺の身体どうなるの……。カプセルに異常が検出されれば強制ログアウトされるが、そうではない。


 考えれば……それはそうだよな。ケモ耳美少女にマスターと呼ばせて、侍らしている俺は……桜になんて言い訳をしよう。絶望的な場面に指先が震えた。言い訳せずにビデオ通話にしよう。


 俺は直ぐに画面を映し出した。桜の映った映像が俺の目の前に現れた。


「マスターこの方がマスターの妹様?」

「そうだ、桜って言う」

「マスターの妹様、シャロです。よろしくお願いいたします」


 シャロは画面に向かって深々と頭を下げた。怒っているのだと思っていたが電話越しの桜とイメージとは違っていた。

 俺と目を合わせた時は訝しげに見ていたがシャロを見た瞬間、表情が変わったような気がした。


『お兄様の妹の桜と言います。シャロさん、お兄様をよろしくお願いいたします。あと、私は桜でいいです。私もシャロと呼ばせてもらいます』


「はい、桜」


『シャロ、よろしくね』


 桜もシャロに向かって深々とお辞儀をした。だが珍しい。狼狽していた俺だったが、こんな流れになるとは思わなかった。


『あと――お兄様。シャロは許しますが、お兄様は簡単に萩生田家訓を破る男だったのでしょうか、お兄様は桜……との……桜との約束を……』


 桜はそう言い、少しわざとらしく。いや全開でわざとらしく泣きの演技に入っていた。


 萩生田家訓その四。――――変な女には近寄らない。俺は頬を掻きながら反省をする。


「俺が悪かった! 絶対に守る!!」


『お兄様、ゲームでも触らない、近寄らないで、す、よ』


「――――」


 しかしシャロはいいのか、不思議だ。にっこりと優しく俺だけに微笑む桜は、満足気な表情を見せていた。


『あとお兄様。何かありましたか?』


 すると桜の表情が一変し、真剣な雰囲気に変わる。


 桜はゲーム内でも判るのか。これは勝てないな――俺はそう思い、吐露すると決意した。


 俺は桜に黄泉の事を話した。アルカディアに入ってからの全てを。職業の事やクエストの事。俺は桜にここまでアルカディアの事を話したのは初めてかもしれない。


 俺の話を聞き、桜はにっこりと微笑みながら静かに聞いていた。


『まずはレインとか言う奴は殺しましょう。直ぐに殺です』


 桜のハイライトが消えていた。殺気がビジビシ伝わるよ画面越しなのに伝わった。


「あぁ、そうだな」


『後はあのブラコン女も殺しましょう』


 黄泉姉さんも同じ対象なのか……。俺はその言葉にクスッと笑ってしまった。知らぬ間に俺の心は快哉していた。


「桜、黄泉姉さんは大事な家族だぞ!」


『あの女は昔からお兄様にベタベタとくっつきすぎなんです。直ぐにポイ捨てしましょう』


 桜と黄泉と言ってる事同じじゃないか。それが桜の遠回しの優しさなんだろう。きっとそうなんだろう。


『なんてのは嘘です。お兄様、この件は行方不明になっている、私の祖父が関与している可能性が高いかも知れません。このゲームはかなり謎が多いです。どうかお兄様、お気をつけて』


「あぁ! とりあえず楽しむよ」


『お兄様――――萩生田家訓その四』


「そうだな! レベル上げ楽しみだな〜」


『お兄様!!』


 満面の笑みを見せる桜。桜に話して良かった……。そう思わせる桜の笑顔だった。――――すると、天井に付いているランプが点滅していた。


『桜、敵を退治してくる』


「お兄様! このゲームで最強になってくださいね」


「あぁもちろん!」


 俺は通話を切り、直ぐに馬車の外へと飛び出した。――英雄への道を――



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