第一章25 『タタカイ』
俺は一瞬、呆気に取られたものの、掠めたのは弾丸だと直ぐに気づいた。いつの間にか黄泉は銀色を纏うガンソードを携えていた。
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HP:3570/3894
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握りが俺と同じ大型のリボルバー式拳銃で六連の回転式弾倉。柄に分厚く長い刃を取り付けた武器。
その圧倒的までの存在感に……俺は息を呑んだ。
「姉さん、もしかして人やモンスターがいないのは……姉さんが狩ったのか?」
俺の問いに、黄泉の口元がまるで三日月のようにパックリ裂けて笑みを浮かべた。その笑みを見た俺は、どこか黄泉が遠くに感じてしまった。
――――黄泉姉さんは厄災の黙示録なんだ。
厄災の黙示録はNPCである。黄泉はプレイヤーではなくNPCだということだ。
一体……何が起きているんだ。
ただひたすら、俺は困惑した。
「さすが太陽くんだね〜その鋭いところも大好きだよ〜けど僕は月に縋り付くただの女は嫌だよ」
「姉さん」
――――鏡花水月。
瞳に映す事はできても、手に取ることができない。
――――俺はそんな思いをさせていたのか。
俺がちゃんと周りに目を向けていれば、黄泉は冷酷で驕慢な光を瞳から射出す事はなかった。言いようのない悔し思いが湧き返る。
……全て俺のせいだ。
「ん〜でも僕も太陽くんと離れになるのはしんどいかな〜会ってわかったけどやっぱり太陽くん大好きだから」
「なら……姉さん」
再度ニヤリと口元を歪めながら嗤う黄泉。
「僕とゲームしよう! もし僕を倒せたら君の元へと戻ろう。君は僕に夢中になる。僕の為にゲームをする。僕が君のラスボスになろう。姉を捨てるかい? 追いかけてくれるかい?」
──ドパンッ!
想いを込めた弾丸。銃声が草原に響き渡る。鋭い弾丸を黄泉は喰らったはずなのにHPバーが少ししか動いていなかった。緑ゲージだ。
何の躊躇いなく引き金を引いた俺を見て、黄泉は恍惚の表情を浮かべていた。
「俺は姉さんを取り戻す。絶対に……だ!!」
「ん〜即答の意志。でも異職といい、パッシブといい。そして新しいアカウント。これは――――あの人の関与かな」
そう言うと黄泉の顔つきが一変した。
質量を持たない視線なのに、何百トンともあろうかという重圧を肌で感じた。俺は直ぐに攻撃に移った。
脳裏に、脳裏に、何度も過ぎってしまう――――絶対に勝てないと。武器を携えている黄泉を見て、対峙してから、俺はそれを払拭させる為に素早く動いた。
「これならどうだ――――」
地面に向けて高速で六発の弾丸を放った、その弾丸は跳弾し黄泉の全方向から襲う。 その弾丸を黄泉は虫でも払うように身体をスピンさせて銀剣で弾丸を全て振り落とした。
「同じガンは運命かな! でも僕にはソードがあるからね〜」
黄泉は直ぐ様、俺に迫った。そして、上段から銀剣を振り抜かれた。
これは……やばい――――
「マジックバレット!!!」
壮絶な威力を宿らせた弾丸が一直線で黄泉に迫る。黄泉は銀剣でガードするも凄まじい音を轟かせながら吹き飛ばされていく。HPバーは少し減っただけでまだ緑色だ。
俺の最大火力でもここまでなのか――――
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MP:8778/9753
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マジックバレットはMPが十分の一消費される。通常の弾丸だと、黄泉のHPは全然削れない。
初見だからこそ、スキルは命中したが……。次はなぜか当たる気がしない、そう感じてしまう。
「すごい威力だね〜 エクセレントヒール」
黄泉はスキルを唱えた。俺はその光景を目にして息が詰まったように立ちすくむ。
四次職、聖王のスキル。エクセレントヒールはMPを三分の一消費し、スキルディレイ240秒と長いが、HPを全回復させる最高峰の単体治癒スキルだ。
スキルディレイはスキルを行使した後、再度スキルを使用するまでに掛かる時間だ。ディレイ時間が残っていても通常攻撃や移動は行うことが可能である。
黄泉のエクセレントヒールの詠唱はかなり早かった。
――なんてスピードだ。
「なるほど、なるほど。太陽くんはその異職にはまだ慣れてないのかな〜じゃあリベンジリフレクト」
黄泉がそう唱えると、俺が先程放ったマジックバレットが現れ――俺に迫った。
「マスター」
刹那の瞬間にシャロが走り出し、俺の前へ出て盾になろうとした。俺はシャロの腕を直ぐに掴んで抱き寄せた。
「女の子に守られる……俺じゃない」
「マスター」
一瞬で目底まで眩ませるような強い光に支配された。
HPが0にならなかった。ログアウトされなかった。……HPが1だけ残った。
何が起こったんだ……。
黄泉は少し表情を歪ませて、嫉妬の瞳で俺を見ていた。
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HP:1/3894
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「その獣人族も大切なの? ふ〜ん、まあいいや。僕の方が価値のある物をあげられるよ〜太陽くん。僕が一番太陽くんの事を一番分かってあげられるんだ」
唖然としている俺とシャロに黄泉は近づき、アイテムボックスからスクロールを二つ取り出した。
「これはさっきの僕のスキルリベンジリフレクト。そして、ミネウチだよ! あげるね! 太陽くんも強くなって僕の元に来てね〜」
「――――」
俺はそのスクロールを受け取るしかなかった。圧倒的までの実力差を痛感して。そして、俺は一つの答えを理解した。
「この件には……総一郎さんも絡んでいるのか!!」
その問いに、黄泉は一番の反応し驚きを見せていた。
「ふふふっやばいな! どうかな? 太陽くん。またね〜ログアウト」
黄泉は俺の目の前から消えた。
ログアウトをしたんだ。
ログアウトを……。
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