第一章23 『問題』
澪が帰ってから俺は学園に関しての手順、そして、ある程度の人物についてみっちりと仕込まれた。二時間程の桜の特別授業を受けた。
これはかなりありがたいことである。出る杭は打たれる、それをさせない為であろう。
「お兄様! 以上となります。明後日の学園登校に関しましては学園の雰囲気を感じていただくだけとなりますので、正式に入学されるのはそのまた明後日となります。今日から四日後ですね!」
(これでお兄様には変な虫はつきません。お兄様が学園に入る事はとても素晴らしい事ですが……。きっと皆、お兄様の魅力にメロメロになってしまいます。これを阻止しなければ)
桜は悪代官みたいに笑みを浮かべている。
これは何か……考えている。しかし、それを聞かない方がいいな。魂が全力で警鐘を鳴らしている。
「わかった!」
「お兄様〜今のうちにゲームされた方がいいですよ!」
確かに桜の言う通りだな。リアルが忙しくなる分、今の内にガッツリ遊ぶか、気になる事もある。
「桜、少しダイブしてくる!」
「はい! お兄様、ご武運を──」
俺はゲーム部屋に向かいカプセルに入り。そして、ダイブした。
…………………………。
……………………。
………………。
…………。
……。
自らログアウトとした場合。
リスタート地点は最後に立ち寄った街か、ログアウトした場所でスタートになる。今回は最後にログアウトした場所だな。
俺は目を開けた。
「おはようございます、マスター」
「ひゃあ!!」
――――目の前には何故かシャロが居た。あまりの近さに声を上げてしまった。俺はそのままの状態でシャロをまじまじと見つめた。
あれ、待てよ。シャロはサラに似ている。
シャロは喋り方、目線の感じ、桜に似ていないか?
お決まりの挨拶と言い。ログアウトした時、見せた笑顔。
俺が考えに耽っているとシャロは俺に顔を覗かせた。
「マスター。シャロ強くなりました」
「そうなのか?」
けもみみぴょこぴょこ、しっぽフリフリさせているシャロ。
俺はシャロのステータスを覗いた。
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PN:シャロ<獣人族>
LV:14 JOB:冒険者
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短時間でレベル……上がりすぎだろ。もう少しで一次職になれるじゃないか。
シャロは無言で何かを待っていた。こういう所もシャロは桜にそっくりだ。俺はすかさずシャロの頭を撫でた。
「シャロすごいな!」
「はいマスター。シャロはできる子です」
シャロは得意げに胸を張った。
無表情、声のトーンは一切変わらないが調子に乗ってくれるのはとても嬉しい。
俺はいっぱいシャロをおだて続け、撫で続けた。
いや、しかし、気のせいか……先程から背中が刺すような視線を感じる。
「何よ!!! シャロが強くなったのは私のおかげよ!!!」
俺は直ぐに視線を転じた。
そこには風に吹かれ攫われた、美しい髪の隙間からジロリと見える鋭い眼光があった。
「ティア!!!」
と言うと女は物凄い形相で俺に迫り――腹パンしてきたいや腹を抉ってきた。
腹パンは避けられたが、避けたらいけないと、直感でそう感じたので……俺は受けた。
「っつつ」
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HP:3687/3894
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その痛みで悶絶する。HPがかなり減った……。
しかし、これはデジャブか……。さっきもこんなの流れしたような。
俺は直ぐに殴った女のステータスを確認した。
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PN:エレナ<人族>
LV:14 JOB:冒険者
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俺はその画面を見て全身が震えた。ティアじゃない……。名前は一緒だがレベルと職業が違う。
「誰と間違えているのよ」
「お前は澪だよな!?」
「えっ!! なんでわかったの??」
俺の動揺ぶりとエレナが澪だと気づいた俺に対して、エレナはキョトンとしていた。
それはそうだ全ての人はステータスで名前を確認出来ない。
俺だけがそれをできる。事前に澪から名前を聞いて、今の感じで澪と分ったが、普通は分からない。
俺がここまで動揺したのは、エレナの見た目は、初めてフレンド登録したティアにそっくりだからだ。似ているどころじゃない……完璧に瓜二つだ。
しかし……どういう事だ。
ティアはエレナとリアルで似ている人間で、たまたまキャラメイクが被って、たまたまティアは俺とフレンド登録したとでも言うのか。
いや……ありえない。そんなの無可能だ。じゃあ――これだな。
「澪」
「むぅ〜! アルカディアではキャラ名で!!」
「あっ……悪い。エレナ、俺とフレンド登録してくれ」
「うん!!」
確信を得るために――俺は直ぐにエレナとフレンドを登録した。
――ピロン。
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新しいフレンドが増えました
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PN:エレナ<人族>
LV:14 JOB:冒険者
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フレンド登録ができた。じゃあ澪はティアじゃない。
俺の瞳に映ったステータス画面とフレンド画面が一致している。
これは本当に瓜二つの人間が存在し、たまたまキャラメイクも奇跡的に被ったということなのか――――
「その、あのライト」
すると突然、見たことのない表情を見せるエレナ。モジモジと吃りながら、言葉を選んでいる感じがした。
「どうしたんだ? エレナ」
「不謹慎かもしれないけど、その……。黄泉さんにそっくりな、いや瓜二つのキャラクターをさっき見かけて……」
姉さんが――――アルカディアに……。
「どっどこでだ!!! 澪!!!」
心が波立ち騒いで落ち着かなくなる。俺はまたリアル名でエレナを呼んでしまった。
「リーマン草原で……」
俺は直ぐ様、踵を返し向かおうとする。心が突き飛ばされたように気が気でなかった。
「その……ごめんなさい。人違いかもしれない。ごめんなさい」
エレナは俺の過去を思い出させる事を言ってしまい、それにエレナは少し後悔をしていた。
澪と桜は幼い頃から仲が良かった、幼少時から俺と澪には付き合いがあった。
――――心の内側に波が経っていたのが、徐々に治まっていく。落ち着け俺。俺は一人じゃない。
目の前にはこんな表情を見せ、気をつかってくれる、そんな人が俺の周りにはいるんだ。
――――俺は今出来る笑顔をエレナに見せた。
「ありがとうなエレナ。ちゃんとアルカディアではエレナって言うな! けどやっぱり、エレナは金髪が似合うな」
「えっ――――」
(私がこの髪の色を好きになったのは、太陽のおかげだよ)
「エレナ、ごめん行ってくる!」
「私は……ログアウトするね」
「またなエレナ」
「マスター、私はお供します!」
エレナは直ぐにログアウトをして行った。
そして、俺は神隠しにあった黄泉姉さんの姿があった場所へと向かった。
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――――シリウス学園。
豪奢な生徒会室。
そこには優雅な黒革のソファーに掛ける、絶世の美少年がそこにはいた。
「萩生田桜の兄か」
「大丈夫ですか、最近会長はあまり――――」
「問題ない。ありがとうな」
爽やかな笑顔を見せる男。その笑顔で彼を心配して声をかけた女だったが、瞳はいつしか、ハートになっていた。
「あの私は失礼します」
そう言い、女は生徒会室から出ていった。
(あの青髪の男、絶対に探し出してやる。絶対に)
綺麗な顔には似合わない鋭い眼光。彼は復讐の炎を燃やしていた。
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