第一章21 『新しい日々』
ログアウトして目を開けた。
綺麗な指先で俺の左頬が遊ばれている。視線を転じると、普段は真っ直ぐ下ろしている美しい髪が纏められ、お団子ヘアーにしている桜が居た。その美しさに自然と視線が奪われる。
「おはようございます、お兄様」
「おはよう桜、その髪型もいいな。とても似合っている」
「お兄様、ありがとうございます! お腹空いてますよね?」
「あぁ!」
「えへへっ」と声を漏らしながら穏やかな笑みを見せる桜。桜はゲーム部屋からリビングへと向かって行った。
しかし、話とは何だろうか。俺は桜に追従して、リビングへと赴いた。リビングに入った瞬間、俺はテーブルに置かれている物に視線が吸い込まれた。
「こっ、これは!!」
「お兄様、特別ですよ!」
俺は喜びが爆発し直ぐに椅子に腰掛けた。久しぶりだな。こっこんな日が来るとは……。俺の目の前にはチーズバーガーとチキンナゲットが置いてある。これは奇跡だ。
「桜! いいのか!」
「いいですよ! お兄様」
俺は直ぐ様、それにかぶりついた。
「――――うめぇえええええ 」
夢心地だ。やっぱり美味しいなバーガーは。美味しさの暴力である。桜はなぜ今に何なって俺にバーガーとチキンナゲットを作ってくれたのだろうか。まぁ、美味しいからいいのだが。
桜はゆっくりと対面で椅子に腰を下ろした。満足気に俺を見てにっこりしていた。
「しかし、MKのチキンナゲットはもうちょい油がいっぱいだけどな〜」
「油……油……ですか? お兄様」
しまった……余計な事を言ってしまった。桜の優しい眼差しが一変して、鋭く目を細めた。部屋の温度が下がったような気がした。桜の背後にはひょっこりと虎が顔を出している。
「桜様のお料理をいただけて、兄は嬉しく思っております」
桜はコホンと咳払いをした後、元の桜に戻った。桜の背後の虎もバイバイしてくれた。
「お兄様! 今日は許します。今日はです。大切なお話があります」
桜が真剣な表情を見せる。俺はゴクリと唾を飲み込み桜の言葉を待った。
「お兄様! 私と一緒に学園に通いませんか?」
「学園……」
「はい! そうです」
2090年東京は教育統一がされている。東京の学園は現在、六校しか存在しない。
初等部、昔で言う小学生が通う学園が三校。中等部、中学から高校までが一貫性の学園は三校。その一校、一校はかなり規模である。
基本的に大都市以外は初等部と中等部合わせて二校しかない。それほど学び舎が合併された理由は、移動時間の短縮可が原因である。
AIによる移動時間短縮、移動手段の多様化。人や物を運ぶ乗物が安価になったからである。車は五万〜十万くらいで買えてしまう。もちろん高級車は存在する。それにより遠方の人でも不便なく楽に通えるようになった。
これはアルカディアの存在が大きかった。アルカディアが生まれてから様々な事が一変した。人々がすんなりと、一つ一つの事柄を簡単に受け入れるようになった。圧倒的な未来を体感して。
俺のように中等部を通わないでアルカディアにハマり込む子供。教師達でさえアルカディアに夢中だった。
一昔前はアルカディアにのめり込んでしまう人が多く。かなりの問題であった。神隠しやM廃人など社会問題が色々とあった時代もある。
現在はリアルとアルカディアがいいバランスを取れている。なんだかんだでリアルは大切であり。自分は自分なのである。
――――そうさせた偉大な人間が三人がいた。
「あぁ、通う! 俺は学園に通う」
「えっ」
桜は予想外の答えと即答に目を見開いた。
桜は俺がもう少し悩むと思っていたのだろうか。それほどまで桜に考えさせてしまったのか。桜が俺に対して学園を誘ったのは今回が初めてではなかった。
親の神隠し、姉の神隠し。深悼している事すら気づいていなかった俺に桜は危険を感じていた。
(お兄様はあの当時、ゲームしかなかった。ゲームさえあればリアルの傷を癒せれた。私はお兄様が居たから……。前を見て進んで行けた)
桜は目を瞑りながら、過去をゆっくりと認めていく。
俺は桜の姿を見て、永遠のように長い一瞬が通過した。きっと桜が今、感じている事が俺と一緒だと理解して。
「アルカディアがあったから俺は絶望に染まらなかった。俺はそう思っていた。けど、違ったんだ、気付いていなかった。
人の繋がりをやっと、今更ながらわかったんだ。桜……ありがとうな、俺の側にずっと居てくれて。ありがとう」
「お兄様……」
桜は目をぎゅっと閉じた。頬を濡らさないように――――
「桜、大丈夫か?」
「お兄様! 女の涙などを男に見せる桜ではありません! これはちょっと私の長くて優雅なまつ毛が瞳に入っただけです! 私は少し外で風に当たって来ます」
桜は直ぐに立ち上がり部屋から出ようとした。
「桜! これからもよろしくな」
その言葉に桜は立ち止まった。振り向かず――――肩を震わせていた。
「お兄様のバカ……」
桜はその一言を残し、部屋から出ていった。
桜の言う通り。リアルをちゃんと見直すいい機会かもしれない。学園に通おう。
学園に通うとなるとアルカディアではあまり目立たない方がいいかもしれない。レジェンダリージョブになるとは思いもしなかった。仕方ないと言えば、仕方ない。
ハヤトとアユムもリアルでは一緒の学園に通っているのだろうか。しかしサンとライトを操作しているプレイヤーが、リアルでは兄弟、これは本当に名案だった。
だが、サラは探すのは諦めない。
――――――刹那。
俺は言葉、場面、一つ一つのピースがカチリとはまり。心に残る印象的なシーンがフラッシュバックのごとく展開した。
――――家族。キャラメイク。
サラの背はちみっ子だ。140センチ前後くらいしかない――ショートヘア青髪に無口、無表情、冷たい目線、蒼瞳。
それが……サラ。
それを黒髪ロングにして、明るい表情に変え、背を高く、綺麗な黒に近い瞳。
――――サラ……が桜……。
いや……桜はトラウマがあってアルカディアが出来ないはず。そして、アルカディアを嫌っている。
サラが桜……。
俺がサンがライトであるように――まさかな……考えに耽り動揺していると。
――ピーーンポーーン。
ドアチャイムが鳴る。俺はハッとしてと我に返る。
読者のみなさまへ
お読みいただきありがとうございます!
「面白かった」
「続きが気になる」
と思われた方は、よろしければ、広告の下にある『☆☆☆☆☆』の評価、『ブックマーク』への登録で作品への応援をよろしくお願いします!
執筆の励みになりますし、なにより嬉しいです!
またお越しを心よりお待ち申し上げております!




