第一章20 『イベント』
俺は瞳に映ったシステム通知を少しずつ飲み込むも、動揺が抑えられなかった。PKでしかレベルが上がらないだと。だとするとこのゲームは支障がでる。
一つ目は惑星移動だ。科学がかなり進歩している星、シルスに行くにはレベル30でなければ行く事が出来ない。他にもレベル縛りのエリアが存在する。
二つ目は情報だ。初見で冒険者の力量を判断する材料としてはレベルと装備のみになる。後は自己申告だ。
まだ他にはあるが最初にぶち当たるのはこの二つだろう。
驚嘆して固まっていたハヤト、アユムだったが――ハヤトは瞳を輝かせた。
「あなたはサン――」
まさかハヤトは気づいたと言うのか、アカウントが一つしか存在しないルールがあるのに、俺はゴクリと唾を飲み込みながらハヤトの言葉を待った。
「の、ご家族ですか?」
「へぇ!?」
直ぐに俺に距離を詰め、キラキラ眩しい目線を送るハヤト。ハヤトの背後にいるアユムも同じ視線を俺に送っていた。シャロは相変わらず無表情。リムも無表情だった。
「だって見た目似てますもん! ライトさんサンに! 銀髪を黒髪にして〜グリーンの瞳を深いこげ茶色にして〜そして! 身長をほんの少し低くすればそっくりです。絶対にご兄弟か何かですよね!」
饒舌に語るハヤトはいつの間にか、俺に対する話し方が変わっていた。ハヤトは少し緊張していた。
「俺はその」
「ふふふっいいです、いいです内緒にしますから! シーですね」
ハヤトとアユムはしーのポーズをする。それに合わせてなぜかシャロも同じ様にしーのポーズをしている。
んっ可愛い。いかん、いかん。 ――――サラ、サラ、サラ、サラ、サラ。オッケ大丈夫だ。俺は謎の呪文を繰り返し落ち着かせた。
兄弟か――その考えはいいかも知れない。これからはいろいろとその方が都合がいい。この子達に嘘をつくのは少し罪悪感を感じるが、まぁ本人だ許してくれ。
「今の所は内緒にしてくれ! 俺はサンの弟だ」
その言葉に瞳がピカッーーーーってなるハヤト。もちろんアユムも同じ反応だった。
「まじか、まじか、まじか!!! すげぇよ、次の英雄にこんなに早く会えるなんて!! 俺はなんてラッキーだ」
「ハヤト! すごいね!! 私もさっきの戦闘で英雄の第一歩を見たような気がした!」
「アユムもか!!」
「うん!!」
二人はその憧憬に耽りながら、まっすぐ俺を見つめながら話していた。それは子供がヒーローでも見るような熱量だった。
「じゃあ、俺達はこれで!」
「うん! そうだね」
「えっ!?」
突然の解散宣言をするハヤトとアユム。あれ? ロ……ログアウトする時間とか、かな。ヒーローはもういらなくなったのかな?
「ライトさん俺達がいなくても十分強いから! 俺はサンみたいに人助けをしたいんだ! だから少しでも時間がある時は、初心者さんと一緒にレベル上げをするんだ!」
「だからライトさんごめんなさい」
真っ直ぐな瞳をしているハヤトとアユムは深々と頭を下げ理由を述べた。俺がゲームをやってきて、他にも育つモノがあったのだな。
「そのフレンド登録をしないかい?」
俺は恐る恐る聞いた。ハヤトとアユムは目を全開まで見開いて、高速ぱちぱちさせていた。
「「────ええぇええええええ!! もちろんです!!」」
「じゃあ、登録な!」
感嘆の声を上げて心良く快く返事した二人。俺はハヤトとアユムにフレンド申請をした。二人はプレイヤーだった。
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新しいフレンドが増えました。
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PN:ハヤト<人族>
LV:21 JOB:ウォーリア
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PN:アユム<人族>
LV:21 JOB:メイジ
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フレンド登録を済まして後、三人は去っていった。ハヤトとアユムは全力で手をブンブンと振っていた。俺はその姿に見惚れてしまった。俺はもう一人から冷たい視線を受けている事にも気付かずに。
「マスター人気者ですね」
「んっ! たまたまだ」
シャロは自分自身のように嬉しそうだ。綺麗な毛並みのしっぽをフリフリしていた。無表情だが。
英雄か……。
アルカディアはお金が絡みやすい。そのため悪い事を考える奴はもちろん存在する。厳密に管理されているアルカディアでは悪さをする事はなかなか出来ない。
俺が元いた白銀の巨塔が有名になったのは、レインのレジェンダリージョブ、レイド、ダンジョンのクリア等はあるが、一番は功績は厄災の黙示録をクリアしたからである。
厄災の黙示録とは簡単に言うとイベントだ。
アルカディアはワザと悪い事をするNPCを置いている。作られた悪だ。それはアルカディアが衰退しない為に。
白銀の巨塔がクリアした厄災の黙示録は蜘蛛だ。Aフロアで有名だった組織。八人の部下で構成されていて頭がNPCのカンタダという名だった。
八人の部下もNPCだ。それを壊滅させたのが白銀の巨塔達である。しかし、本当はリーダーのカンタダは倒されていない……理由があって隠蔽している。
厄災の黙示録とは通常のNPCとは違いHPが0になると消滅をする。厄災の黙示録が厄介な所は、それに乗っかるヒール側を好む者達だ。数は少ないが邪魔である。
先程の街道を妨害していた連中も、厄災の黙示録の蜘蛛の影響を受けた者だった。蜘蛛の厄災の恩恵を受け取った者は蜘蛛のアクセサリーを身に付けている者だ。その厄災の恩恵を受けた者は様々な事ができる。
「シャロ、一緒に強くなろう」
「はいマスター」
――ピロンピロンピロン。
三回コール。これはリアルからの合図だ。
「もしもし桜どうした?」
『お兄様、すみませんゲーム中に、少しお話がしたいので一旦ログアウトしていただいてもよろしいでしょうか?』
「あぁわかった!」
とりあえず、ログアウトだな。
「シャロ、またな!」
「はいマスター」
「ログアウト……!?」
ケモミミぴょこぴょこ、しっぽフリフリしているシャロ。メニューから選択、又は口頭でログアウトと言えばリアルに戻れる。
――俺は息を呑んだ。
いつも無表情のシャロが、俺に初めてニッコリと笑顔を見せた。これは……M廃人になる理由は分かるな。それは鮮烈でとても可憐な笑顔だった。
…………………………。
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……。
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