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第一章17 『つがい』

 Aフロアのカインズ王国のとある大豪邸。Aフロアのカインズ王国はリアルでいう場所の、アメリカのニューヨーク州に位置する。


 真っ白の大豪邸の塀の周りには、多くの人が勇者レインを一目見ようと集まっていた。レインはアメコミのヒーローみたいに大人気なのだ。


 世界でまだ七人しか確認が取れていない。レジェンダリージョブまたの名を異職。


 リアルもアルカディア内もその七人を手に入れようと躍起になっている。

 自身の国家のアピール、そして軍事力の為。八人目の異職が新しい生まれた事を知らずに――――


「クッソ――――!! あの男……絶対に見つけてやる!!!」


 まるで大統領執務室の様な、楕円形の部屋には、白銀の巨塔のメンバー三人が集まっていた。ここはレインの別荘である。


「とにかく……少しの間はDDフロアには戻れないわね」

「全てあの男のせいだ!!!」


 DDフロアとはリアルでいう場所の日本に位置する。民衆の喧伝が消えるまで、DDフロアから離れているレイン一行。


 まだ悔しげに表情を歪めるレイン、アンリも少し悄然としていた。

 新メンバー発表の時に奇襲をかけられて、まんまとやられたのだ。忘れられない無様な姿を晒して。


「おい!! アイク! お前はあの男を追いかけたんだろう! 何か情報はないのか!!」

「直ぐにログアウトされた」

「……そうか」


 アイクは二つに嘘をついた。レインとアンリに話せば、自分が負けた事をさらけ出す事になる。トッププレイヤーアイクの矜恃がそれを許さなかった。


 アイクは勝利を確信して、絶対の自身をもって敵に挑んだ。しかしながら、完膚なきまでにやられた。怨嗟の声を何度も心に浮かび立てながらアイクは復讐に燃えていた。


「俺は少し、出てくる」


 少ない言葉を言い部屋から出るアイク。


(あの男には協力者がいる。噴水広場の時は青髪の仮面をつけたスーツの男だった。噴水広場広場から離れた直後、冒険者の服を着た黒髪の男になった。あれは何かしらの範囲スキルだ。誰かがきっとあいつにスキルを掛けたんだ。だが、そんな事はどうでもいい!!!

 俺は俺は冒険者の服を着た初心者に負けたんだ!!!! 俺が一人で必ずあいつを仕留める。

 絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に)


 トッププレイヤーのアイクは敵の姿が変わったのがスキルだと理解していた。鋭い殺気を纏いながら闊歩するアイクだった。


「はぁ〜しかし、二人はまだDDフロアか?」

「発表も後回しになったからね〜」


 新メンバーの発表をぶち壊されたレイン達はその後、安全性の為。新メンバーの開示などは後日になった。

 白銀の巨塔の新メンバー二人は、まだDDフロアに居る。



 ---



 ――――グギュルルルルルルルルルルル。



 凄まじい音だ。俺の目の前には、ありえない腹の音をたてる者がいた。


 道具屋を出た後、俺はレベル上げの為にアスラル共和国から出ようとした。その道の最中で音は聞こえた。


 音の方へと視線を転じると、一瞬ハッとする秀麗な蒼眼、銀色のミディアムヘアの髪、ビスクドールのようなハッと目を奪われる可憐さ、白皙の肌、獣人族(ビースト)のモデル犬か狼だろうか、けもみみ美少女がベンチに腰掛けていた。


 お腹をグルグルといわせながら、なぜか俺をじっっと見ている。俺だけをじ――――っとだ。その顔は無表情だ。


 俺はブレない視線攻撃に耐えられなくなり――――美少女が座っているベンチに邪魔をする。


「その……お腹空いているのか?」


 まぁ空いているのだからその音がしてるのだが。しかし、これが無言の威圧か。


「――――」


 俺の問に無言でこくこく頷いている美少女。だが、美少女のもふもふの耳は全く元気がない。

 俺は道具屋の奥さんに頂戴したおにぎりをアイテムボックスから取り出した。


 これでいいだろうか、


 俺は徐ろにけもみみ美少女に鮭おむすびを一つ手渡した。


 そのおむすびは手から高速で消えた。消えた先に目を映すと口はパンパン、おむすびを丸ごと入れて美少女はモグモグさせていた。

 すると、もふもふ耳はぴょこぴょこと、もふもふしっぽはフリフリしている。


 なんとも愛らしい姿だ。


 美少女は直ぐに食べ終わると、まだ俺を見つめていた。もちろん無表情で先程と変わらず無言だ。


 これはて……もう一個って事か? いや、とりあえず六個くらい出そう。


 俺は沢山のおむすびをけもみみ美少女に手渡した。するとまた勢いよく、けもみみ美少女はおむすびを戦略していく。


 小さな口でよく入るものだな。


「そんなに美味しいのか? その……名前はなんて言うんだい?」

「ひゃん、しゃ──」


 ――しまった。口に食べ物を入れている時に聞くんじゃなかった。ついつい可愛らしいその姿に聞いてしまった。

 これはナンパではない。ひゃん、シャロ、シャロかな、当ててやる。


「えっと〜名前はシャロさんかな?」


 一拍置く、次はちゃんと口の物を無くしてから、答えるけもみみ美少女。


()()()()()()()。シャロ――」


 食べ終えても無表情で俺をじっと見ている、けもみみ美少女だが、可愛らしい耳は上向きだ。


 シャロか当たったな。シャロか――いい名前だな。


「そうかシャロだな!」

「シャロ! はいマイマスター」

「――――えっ?!」

「我がマイマスター」


 俺は突然のマスターという美少女の言葉に戸惑った。その銀髪、けもみみ美少女は笑顔を見せず、

 ――――ただただ、真っ直ぐの瞳を俺から逸らさなかった。



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