第一章16 『プレゼント』
店主と奥さんは唖然としている俺を察して、オロオロとしていた。
「どっどうしよう、俺、変な事言ってしまったか?」
「もしかしたら、勇者レインのファンかもしれないよ! あんたがレインの事を悪く言うから。ごめんね〜うちの夫が変な事言ってしまって。もうこの人は本当にサンの事が昔からファンでね。
アイツの下にいるのはおかしい! って昔から言うのよさ〜あらヤダ私もレインの事を、ごめんね〜」
二人の優しい気遣いにホッコリしながら、俺は直ぐに言葉を返した。
「いやいや! 違いますよ! 俺もレインが吹っ飛んでスッキリしましたし、その……唐突ですが俺の見た目、どう思います?」
突拍子もない俺の言葉に、二人は目をぱちぱちさせた。そして、じっくりと観察を始めた。
もしかしたら俺のキャラクターは、他者から見て姿が違うのかもしれない。可能性としては考えられる。
「まぁ俺の若い頃の俺にそっくりでいい男だ」
「そうね、黒髪イケメンだわね」
おじさんの若い頃と俺は似てるのか……。気をつけよう……柳生田家訓その二は守ろう。
しかし、やはり俺は黒髪……これもまたアルカディアのバグなのか?
冒険者ギルドのカウンターに居たルーシーが突如消えたのも、アルカディアのバグ。
――――考えてもわからない。
変に目立たずに済んだのだから、ラッキーだったと前向きに取ろう。MOの管理キャラクターのルーシーは、まぁ大丈夫だろう。
それはそうとして、変な空気にさせてしまったな。二人には悪い事をした。
「そのありがとうございます! ちょっと買い物しますね!」
と言うと、二人はニッコリと微笑み、そそくさと店裏に行ってしまった。
気を使ってくれたのだろうか。
すると、店主は直ぐにバックヤードから現れた。その店主の両腕には溢れるぐらいのアイテムを抱えていた。
「これ、全部やる!!」
「えっ――――」
俺はカウンタに置かれたアイテムを確認した。
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アイテムボックス<エピック>
アイテム説明:アイテムボックスの容量が増える。
かなり需要があり高価。
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旅人の方舟<アンコモン>×10
アイテム説明:一度行ったことのあるエリアに転移できる。
転移できる最大人数は六人まで。
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ハイポーション<コモン>×20
アイテム説明:無味無臭の青色の液体。
自分のHPを100回復させる。
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ハイマジックポーション<コモン>×20
アイテム説明:無味無臭の紫色の液体。
自分のMPを100回復させる。
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毒消しポーション<コモン>×10
アイテム説明:無味無臭の緑色の液体。
自分の毒状態を治す。
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麻痺消しポーション<コモン>×10
アイテム説明:無味無臭の黄色の液体。
自身の麻痺状態を治す。
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青のポーション<コモン>×5
アイテム説明:無味無臭の碧色の液体。
一定時間STRを5%上昇する。
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赤のポーション<コモン>×5
アイテム説明:無味無臭の赤色の液体。
一定定時間INTを5%上昇する。
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STR:物理攻撃に影響。
INT:魔法攻撃に影響。
スクロール以外のアイテムは基本的に小瓶の形をしていて種類によって液体の色が違う。
アイテムボックス<エピック>と旅人の方舟はかなり値が張るアイテムだ。どうしてこれを……俺に所持金では手が届かない。
「その、これは一体……」
「俺の勝手な恩返しだ!」
「勝手な恩返しとは?」
俺は店主の反芻してしまった。なんの意図があって――俺は思考を回転させるが答えが出ない。
そして、店主は懐かしそうに語り出した。
「あれは三年前だ。たまたま用心棒を雇ってない時に街道を走ってた際、PKされる所を颯爽とサンが助けてくれたんだよ」
――俺がこの人を助けた、全く記憶にない。
「サンは覚えてないと思うが、あの英雄はいろんな人を、数多の人を助けたんだ。俺はあんなすげえプレイヤーは他には知らない。
そのサンが勇退だと……レインの奴、ふざけやがって!
いかんすまん……すまん。君は少しサンの面影があるんだよ。
本人には恩返しはなかなか出来そうもない。こんなつまらないものは彼は持っているだろうから、だから自己満足なんだ! 頼む貰ってくれ!!」
店主は深々と頭を下げ、いやずっと下げていた。
サンだった頃の俺は、お金を稼ぐ為にただ色々なクエストを受けていただけだ。
まさか過去の自分が――なんか変な感じだな。面影が似ている。パーツは同じだからだろう。
身長、髪、瞳の色が違うだけ。アカウントが一つという絶対ルールがある為。少し似ていると気付いた人でも、決して同じ者だと思わない。
サンとライトか――――
俺は心に沁み込んだモノ大切にしながら、
「ありがたくいただきます」
その言葉が耳に届くと店主は頭を上げ、ニッコリと微笑んだ。 俺も自然とつられて笑みが零れた。
「男同士でもう仲良くなったの? 私からはコレだよ! 餞別」
「これは――――」
奥さんが持ってきたのは、沢山の握り飯だ。
「鮭にツナマヨ、昆布に梅、塩むすび!! アイテムボックスに入れておけば腐らないだろう〜腹が減っては戦は出来ぬだ! 持ってきな! 大丈夫だよ! これは私が作ったのじゃないから、買ってきたのだから! 安心して有名店のやつさ!」
これは俺でも知っている有名店の男結びのおにぎりだ。ありがたい。繋がりか――俺は二人を見ていると、なんとも言えない感情に支配されていた。
「その、もしよろしければフレンド登録しませんか?」
「やだ」
「――――えっ!!!」
店主の右手を突き出し即答の拒否。俺は声を上げてしまった。
いやいや、この流れ絶対にわかったって言う流れじゃないの……? 俺なんか変な事を言ってしまったのだろうか――
店主はニヤリとしながら俺を見つめていた。
「道具屋の客と店主はそう簡単にフレンド登録はしないのさ。贔屓にしてしまうからな! 俺が認めた男になってみろ! そうしたら俺の方から頭を下げて、いいや土下座をしてフレンド登録をお願いするよ!」
「あんた……惚れ直したよ!」
「そうだろ! そうだろ!」
店主はそう言い切る。そして、奥さんと店主は桃色雰囲気に包まれていた。
なんか笑ってしまった。そうか、それなら……。
「じゃあ、また!」
店主と奥さんは俺を無言で見送った。俺は二人に名前を告げなかった。
――――俺の見聞をいつか二人が、耳にする時に知るだろうと。
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