表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

異世界転生、する前に

仮面ライダー、なんとか戦隊、プリキュア。

ヒーロー。それに誰もが一度は夢を見たことがあるのではないだろうか?

何度負けそうになっても立ち上がり、悪を撃つ、あの姿を自分に重ねたことはないだろうか?

無論、俺は憧れた。あのかっこいい姿に。

しかし、世の中にはヒーローなどという職業はない。

もし、路上や学校で「俺は正義のヒーローだ」と言ったとする。そうすると、十中八九中二病もしくはもっとイタい奴として軽蔑の目を向けられるだろう。

だから、現実問題、

「ヒーローにはなれない」

そのことに俺は小4で気が付いた。涙は出なかったがめちゃくちゃショックだった。ただ、納得だけは割とすんなり出来た。



そんな俺ももう43。

独身で彼女もいないが安定した職業には就いている。ヒーローになりたいという夢を諦めきれなかったため、現代社会で一番正義の味方っぽい職業に。

おっと、仕事の時間だ。

けたたましいサイレンを鳴らしながら、

車の群れの中を進んでいく。

昨年、閉校した植物の蔓の伸びた中学校、そこで車を止める。

28年前通っていた学校だが、感慨に浸っている時間はない。

そこにいたのは後ろ姿の男1人。

ふぅと息を吐き、バンッ。白と黒の車から勢いよく降りる。

そして目の前にいる奴に拳銃を向ける。まったく物騒な仕事だ。

「警察だ投降しろ」

一応言ったが、素直に聞くような奴ではないだろう。もう3人は殺している奴だ。

すると男は振り返り殺人鬼とは思えないくらい、

美しく微笑んだ。

目の前が一瞬光った。いままで聞いたことのないくらい、大きい音だった。

気が付くと男の姿はなかった。

ただ、少し赤黒く染まった白いコンクリートの山があるだけだ。

また会おう。

男は最後にそう言っていた気がする。

声は爆発音にかき消されたが確かにそう言っていた気がした。

頭上からコンクリートの塊が降ってくる。

さすがにもう分かる。死ぬ。ここで。

何故か時間の流れが遅い。落ちてくるコンクリートがやけにゆっくりだ。

しかし、手も足もピクリとも動かない。

痛み、そんなものは一切無かった。

意識が途絶える直前、夢を思い出した。

子供の頃の夢。諦めきれずに心の奥深くにしまっておいた夢。

「ヒーローになりたかった」

その言葉は声にならないままこぼれ落ちた。


本当になりたいですか?

微かに聞こえたその言葉が頭の中をこだまする。

なれるもんなら。真っ暗な世界で俺はそう答えた。もう死んだんだ。そんな馬鹿げたことを言っても笑う奴はいないだろう。

「その夢私が叶えてあげましょう」

今度はしっかりと、はっきりと聞こえた。


「早く起きろ」パンッ。左頬に走る電撃のような痛みで目が覚めた。視界がぼやけている。ここは?天国は実在したのか?

「やっと起きたか」

腕を組み、満足気な態度の奴がいる。

200パーセント俺の左頬をビンタした犯人だろう。うぅ、まだじんじんする。

「あなたの願い叶えてあげましょう」

そう目の前にいる女は言った。

それは夢の中で聞いた声だった。

「ここは天国…なのか…?」

「いいえ、まだ、天国ではありません」

まだってどういうことだ。それとさっきまでと話し方がまるで違う。この女は二重人格なのか?

「ここは天国に行く途中の休憩所。

そう、例えるなら、高速道路にあるパーキングエリアのようなものです。」

とても分かりやすい例えだった。しかし、謎はまだ多い。何から聞こうか悩んでいると、

「お願いします。異界の地、ロズワルドを救って下さい。」

異界の地?ロズワルド?

「待ってくれ、最初から説明してくれ。

何がなんだかさっぱりわからないんだ。

まず、君は誰?」

初対面でビンタされたからって、おいとか、お前とかはどうかと思ったから、君と呼ぶことにした。

「私は女神シャーロット。シャルとお呼び下さい。」

そして彼女は続けた。

「今、ロズワルドは魔王による支配が進んでいてとても危険な状況です。あなたの力でロズワルドを救って下さい。」

そうか、やはり、これはアニメでよくある異世界転生だな。ヒーローに憧れていた俺はもちろん異世界をチートスキルで救う主人公が大好きだった。

って事はこれからチートスキルとかもらえるんじゃね。

いやっほーい。ついに俺も憧れ続けた正義の味方の仲間入りか。

まぁ一応何も知らないフリでもしとくか。

「俺に世界を救う力なんてありませんよ。」

「あなたには世界を救う力があります。今はまだ眠っているだけです。世界を救うのに本当に必要なのはそのヒーローになりたいという強い気持ちです。」

この女神…めっちゃ良い事言うやん。

そうだよな…本当に必要なのは強い気持ちだよな…

すると、女神は1つの石を取り出した。

なんか変な模様が彫られている。

「この石はあなたの本当の願いを1つ叶えてくれます。この石にヒーローになりたいと願って下さい。」

そう言って石を俺に手渡してきた。

「ヒーローには色々なチートスキルがあり、余裕で魔王も倒せるでしょう。さあ早く。」

子どもの頃からの夢がやっと叶うと、そう思った。

石を強く握りしめてただ願った。


ヒーローになりたい


次の瞬間、石から眩しいほどの光が出た。

5秒くらいして光が消えてからも目がチカチカした。

「これで私も認められるー!劣等女神と馬鹿にされてきたけれど、この世界をパパッと救って一流女神の仲間入りだー!」

女神が本性を表した。

急に口数が増えた。気持ち悪い笑みを浮かべている。

「でも、一応確認して置いた方がいいわよね…うん、そうだわ。」

自分で質問して、自分で答えている。

さっきまでと人が変わったかのようだ。

控えめに言ってキモい。

「ちょっと、スキルオープンって言ってみて。」

一応、キモ女神に言われた通りにする。

アニメなんかのテンプレ的な展開だ。

だからといって気分が上がらないわけではない。俺の魂の叫びを聞け!

「スキルオープン!」

アニメでよくあるステータスウィンドウが開いた。

しっかりジョブの欄はヒーローとなっている。

そう、ジョブの欄だけは…

「スキルが無い…」

青ざめた顔でシャルが言った。

話によると、普通ヒーローというジョブになった時点でいくつかスキルを持っているらしい。だから、スキルが無い俺はおかしいらしいのだ。

おい、これってもしかして俺が特別だからじゃね!まさか、まさか、俺は特別な人間だからじゃないか!

「シャル心配すんな。ジョブはヒーローになってるし、大丈夫だろ。」

そう、ただ俺が特別な存在なだけ…

なのにシャルを困らせてしまうなんてもう、俺ってば罪なお・と・こ。

シャルはこんな事初めてだから、一応ゼウス様に聞いてみる、と言っていた。

シャルがゼウス様に電話してからすぐに白い服を着たおっさんが降ってきた。

昔の絵でこんな奴を見たことがある。

ほら、あのミケランジェロ?とかいう奴の。

だけど、実際に見ると…ただの変態にしか見えない。あれでもし、ロリコンだったらアウトだ。

でも…なんか怒ってね、おっさん…

「シャル、何故お前は勝手に異世界転生の儀式をしているんだ?」

やばい、めっちゃ怒ってる…

「許してくださいゼウス様、ヒーローの素質のあるものを見つけましたので…」

その瞬間おっさんの目の色が変わった。

俺をジッと見つめてくる。

まさか…俺に…発情した…

「では…この者はまさか…」

「はい、ジョブはヒーローでございます。」

それを聞いた瞬間、

「よくやったぞシャル、我らが千年間探して求めていた者を…」

「ジョブは確かにヒーローなのですが、ジスキルが表れないのです。何か問題があるのでしょうか?」

「なるほど、それで我を読んだのだな。うむ、我がみてみよう。」

そして俺の胸の辺りを触ってくる。

やはりさっき俺に発情していたんじゃ…

「あの、くすぐったいのですが…」

「触診だ。」

即答だった。即答なのが逆に怪しい。

「そうか…そういうことか…」

そして、女神をしっかりと見て、

「やはりお前は駄女神だな」

冷たい視線を向けながら、そう吐き捨てた。

…どういうことだ…

そして今度は俺の方を向いて、

「お前、ヒーローになりたいのは肩書きが欲しいのか」

はっ⁉︎どういうことだ?

俺を侮辱しているのか?俺はヒーローになりたいのは本心からだ。

「おい、それはどういうことだよ!

俺を侮辱してんのか!」

するとゼウスのクソ野郎は至極当然かのように、

「そのままの意味だ。お前はヒーローになって困っている人を助けたいんじゃない。

ヒーローになってチヤホヤされたいだけだ!」

おい、なんで…………………

バレてんだよ……

確かにコイツの言う通りだ。

ヒーローになるという微かな光を掴むために今まで頑張ってきたが、正直、人助けなんて面倒くさい。俺はただ、ヒーローになって女の子達から、モテたいだけなのだ!

「心当たりがありそうだな。だからお前にはヒーローという肩書きしか無いんだよ!」

「ウッソでしょー!あんた使えないわねー!」

うっせーな。まぁ使えないのは本当だけど…

「使えないのはお前だシャーロット!

これくらい心眼が有れば分かることだ!」

ゼウスに聞いた話だと、心眼というのは相手の心を読む力の事で、一般的な神は持っているらしい…しかし、シャルは持っていない駄女神らしい…

俺の事…使えないわねーとか言ってたけど…

俺以上に使えねー!

「まぁしかしだ…」

そうゼウスが始めた

「異世界召喚は途中で止めることが出来ない。悪いが、このまま魔王討伐のためにロズワルドに行ってもらう。」

嘘だろ…

「まぁこちらの手違いだったわけだし、

少なからずお詫びはさせてもらう。」

ゼウス様ありがたや、ありがたや、

「年齢は18歳にして、そして初期装備、ロズワルドで1万円と同等の価値がある1ゴールドをプレゼントしよう。」

何だよ、普通じゃないか…お前も使えねーな

ハゲジジイ!早よクタバレ!死ねー!

「ハゲてねー!ちょっと薄いだけだ。」

やべ、ジジイは心眼使えるんだった。ってか、ハゲも髪が薄いも一緒じゃね。

「一緒じゃなーい!ていうかお前まだ不服なのか…それなら、あと一つだけやろう。」

よっ、ジジイ太っ腹!

「調子に乗るな!あと、ジジイじゃない!

まぁちょうど厄介払いしたい奴がいたのじゃ。」

嘘だろ…それって…

「ゼウスの名において女神シャーロットに異世界ロズワルド行きを命ずる。」

いらねー!チョーゼツいらねー!

「やだやだ行きたくない!ゼウスさまー。」

ってかいたのか…会話に参加してなかったから忘れてたぜ…

「シャーロット、このゼウスの命令が聞けないのか?」

怖っ、おしっこちびりそうだぜ。

「行きます。女神シャーロット、全力で魔王討伐の手伝いをしてきます。」

やめろー、納得するなー、

「それじゃ、行ってらっしゃい。

行き先は安心安全の始まりの町にしとくから。」

やだやだ行きたくない、誰か助けてくれー

ゼウスが少しこっちを見て、微笑んだ。

怖い怖いよ。神じゃなくて悪魔だ。

怖い怖い怖い怖い

「バイバイ。」

それが最後の言葉だった。

目の前が真っ白になった…


こんなの無理ゲーじゃねーか!

これはこの物語の序章に過ぎない。

ここからが本当のスタートだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ