異世界転移
ある日の昼下がりに事件は起こった。
ハル教授が開発した魔道具の実験体になれとお願いというより命令してきて連行された。
場所は魔道具科の教室。教室の前に複雑な魔法陣が描かれた台座があった。
「転移魔法陣です!これが成功すれば勲章がもらえます!」
「どうだか」
勲章よりはノーベル賞な気がする。
私は魔法陣の真ん中に立たされ、見学に来た生徒や教師に見守られながらハル教授が説明を始める。
「見てください!長年の研究を重ねてようやく開発した転移魔法陣です!これは上に乗った人物を専用の魔道具で魔法陣に魔力を注ぐことで転移させる魔道具です!それを今からシュラ先生が実験た、協力者として転移させようと思います!」
「実験体って言ったな」
「ハルちゃんらしいね~。私なんか変装の魔道具の実験でしばらく幼女にされたよ」
「僕は姿を消された」
大丈夫だろうか。生徒の声を聞くと安心できなくなった。
「だ、大丈夫・・・と思う」
「おい・・・」
「とっ、とりあえずやってみましょう!転移先は準備室です!」
ハル教授が魔法陣の周りに水晶のような物を置き、魔力を注ぎ始めた。
そして魔法陣を起動させるところで事件は起こった。
「ふぇ、ふぇっくち!」
くしゃみをして魔力の流れが狂って魔法陣が暴走した。
「何だこれは!?」
魔法陣から稲妻のように魔力が溢れ、地響きのような音が鳴り響く。
「きゃあっ!」
「またやらかしたんですか!」
またって何だまたって。そんなにしょっちゅうやらかしてるのか。
声を出す暇もなく、閃光で目が見えなくなり、音も聞こえなくなった。
そして気が付くと落下していた。
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・・・というのが今日の昼下がりにあった。
今も現在進行中で真っ逆さまに落下している。
上もとい地上を見るが、地平線まで白い雲に覆われており、地上が全く見えない。
もしかしたら地上全体がとんでもなく濃い霧に覆われている可能性もあるので、空中で体勢を整えて竜になる。
翼を動かして速度を落とし雲の中へ入る。
分厚い雲を抜けると一面海だった。
岩すらなく、完全に海。
しばらく飛び回ったり、『千里眼』で遠くを見たりしたが岩一つなかった。
雲の上へ戻ってこれからどうするか考える。
おそらくここは私が転生した世界とはまた別の異世界だ。転移魔法陣が暴走して異世界に飛ばされたのだろう。
この世界は地上がないし魔法も使いにくい。
魔法を使った時、いつもより使いにくく魔力の消費量が多かった。試しに『転移』の魔法を使おうとしたが構築が完了する前に魔力が霧散してしまい発動できない。どう頑張っても発動できなかった。
普通の魔法は魔力が霧散する前に構築が完了し発動できるので魔力消費量が多くなるだけで特に問題ない。
しかし地上がないのは困った。翼を休められないどころか餌もない。『飛行』の魔法を使っても竜の身体は重すぎて魔法の力だけでは飛べないのだ。
どうしようか悩みながら飛んでいると小さな竜を見つけた。
青みがかった白い羽毛で覆われ、小さな翼がある人間の両手ぐらいの大きさの足が四本ある竜だ。その竜は私を見ると驚きはしたが逃げることはなかった。
「ピーピー」
『ん?』
「ピーピー」
鈴のような澄んだ高い声と同時に副音声のように言葉が聞こえてきた。
「助けて」と言っている。私も竜だから言葉が通じるのか、女神がつけた『言語理解』のスキルのおかげか。
『どうした?』
「ヒョロロロ」
『主とはぐれた?』
主?人がいるのだろうか。
小さな竜は私の頭に乗ると「たぶんあっち」と頭で方向を指した。
その方向に飛び続けると、人を見つけた。
「エルクレア、どこにいるのー!?」
桃髪のショートヘアの女の子が茶色の足が四本ある竜に乗って心配そうな声を出している。この世界の飛竜は四足なのだろうか。
茶色い竜が私に気づくと威嚇なのか「ギャアギャア」と鳴き始めた。
「どうしたの・・・って、え?」
桃髪の少女が私を見て固まる。
「ピーピー!」
「・・・エルクレア?エルクレア!」
小さな竜はエルクレアという名前のようだ。嬉しそうに鳴きながら少女の元へ飛んで行った。
少女はエルクレアを抱きしめると、何かを言って解放した。解放されたエルクレアは何度か少女を振り返りながら一匹で飛んで行った。
「・・・せめてエルクレアが逃げる時間を」
緊張と絶望が混じった顔で私に向き直り、杖を構える少女。
どうやら誤解されているようだ。
『争うつもりはない』
「!喋った!?」
『この世界のことについて教えてほしいのだが』
「喋るドラゴンなんて・・・まさか」
『聞いてるか?』
「ごめんね、ルーク。今日が最後の飛行になっちゃって」
聞いてくれない。争うことはしたくないのだが。
「アイスボム!」
氷の爆弾が私の周りに現れて徐々に大きくなり、爆発する。氷の破片が飛び散るがあんまり痛くはないな。
「そんな!?」
『話を聞いてくれ』
「うるさい、邪竜が!」
邪竜?私が?
自分の姿を思い出す。赤黒い鱗に深紅の瞳と黒い縦長の瞳孔と鋭い目つき。怖いとは思うが邪竜とは思わないな。
自分の姿を思い浮かべている間にも魔法を使ってきたり剣で斬ってきたりしているが強靭な鱗や皮膚に阻まれて全然効かない。
「はぁ、はぁ」
『そろそろ話を』
「くっ、わたしは決して屈しない!邪竜の手先になるぐらいなら死んだ方がまし!」
うーん、誤解されたままで話を聞いてくれない。
無理矢理にでも話を聞いてもらおうか。
『拘束』で体と自殺されないように口を縛る。落ちないように乗っている竜ごと縛り付ける。
「んー!」
『私の話をおとなしく聞くなら解いてやる』
「んん!」
首を振る少女。耳は塞げないからこのまま話を進めよう。
『初めに言っておくが、私は邪竜ではない。見た目は怖いかもしれないが、何の目的や意味もなく殺めたりしない。そして私はこの世界のことを何も知らない。だから教えてほしい』
「・・・」
『私の質問に答えてくれるなら口の拘束を解くが、どうだ?』
初めは私を睨みつけていたが、だんだん表情が困惑に変わっていき、最後はゆっくりと頷いた。約束通り口の拘束を解く。
『まず最初に、この世界のことを教えてくれ』
「・・・・この世界の名前は『シエル』です」
フランス語で『天空』か。そのまんまだな。
「わたしたちは空に浮かぶ島で暮らしていて、今は悪魔と戦っています」
『悪魔?』
「人と悪魔はずっと敵対していて、不定期的に悪魔は魔界よりやってきてわたしたちを支配しようとします。人と悪魔の戦争は『人魔大戦』と呼ばれていて、今はその戦争の真っ最中です。わたしはエア国の騎竜隊団長をしています」
『ほう』
「今日はペットのエルクレアと散歩していたのですが、途中ではぐれてしまって今に至ります」
ふむ。
その戦争に巻き込まれてしまうかもしれないな。悪魔の強さや人間の強さが分からない以上、むやみに関わるべきではないな。
「あの・・・本当に邪竜ではないんですよね?」
『まだ言うか』
「邪竜は悪魔の中でも上位に入るほどの強さを持っており、交戦した者を支配してしまうと言われています」
『支配なら私もできるぞ』
「・・・・・本当に邪竜じゃないんですよね?」
『そうだが』
「確かめてもいいですか?」
そう言うと少女は丸い透明な球をかざした。答えさせるつもりはないらしい。
「・・・!?なに、このステータス・・・」
何やら驚いている。
「・・・あ、あなたは一体・・・?」
『信じられないかもしれないが異世界から来た竜だ』
「!」
私が答えると急に畏怖の表情をした。
「大変申し訳ございませんドラゴンの主よ。数々の御無礼、どうかわたしの首一つでご容赦ください」
だめだ、今度はさっきとは別の意味で話が通じなくなってしまいそうだ。




