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竜は静かに暮らしたい  作者: イエス・ノー
六章 束の間の平穏
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肝試し?

来た道を戻ると集落が騒がしくなっていた。


「!?」


遠目からでも分かった。血だまりと臓物がある。


「なにがあったんだ」


「ああ、お前らか!仲間が一人食われちまった!」


血の臭いが強烈だ。臓物も生々しい。


偽物・・・だよね?


「くそっ、なんでこんなことに!」


「海人だべ!海人がやったんだべ!」


え?


「ま、待ちなさいよ!海人がこんなことするわけないじゃない!ついさっきまで話し合ってたし!」


「いいや、海人が魔物を放ったんだ!あの野郎、ぶっ殺す!」


「おう、油を持ってきたぞ!焼き払ってしまえ!」


「おい、待てって!」


空也君が叫ぶけど聞いてくれない。みんな油と松明を持っていってしまった。


「追いかけよう、海人はなにもしていない」


「天道君」


「そうよ、冤罪で殺されるなんてかわいそうよ」


「俺もそう思う」


「・・・僕も」


意見が一致したから海人の所へ向かう。


でも遅かった。すでに小屋が燃えており、近づけなかった。


「ん?お前らも来たのか、もう焼き払ったぞ」


「これで安泰だ」


「そ、そんな・・・」


重い気持ちで集落へ戻る。みんな海人が消えたと喜んで宴会をしていた。

僕達にも御馳走されたけど味はしなかった。


・・・。


「きゃああああああ!」


今の声は。


「ハーラー!?ハーラー!」


ハル先生はハーラーというらしい。


悲鳴が聞こえたところへ行くと・・・。


「!!!」


ハル先生が血まみれで倒れていた。やっぱり強烈な血の臭いがする。


顔を上げて奥を見ると。


「海人?」


魔物の毛皮で身を包んだ海人がいた。手には刀を持っており、血で妖しく輝いている。


「馬鹿な!縛って動けなくして小屋ごと焼き払ったはずだ!」


「儂をなめてもろうたら困るわ。あんなん簡単に外せんで」


「海人・・・!」


「なにを怒るんやこいつを殺めたことかいな。それやったらなぁあんたらも殺めとるがな」


海人の声は心の底から恐怖を呼び起こす不気味な声だった。


「なんだと?」


「私は集落に入れてもらえへんかったからなぁ。森の中で暮らしとった。やのにあんたらは儂に危害を加えた。いつも言うとったやろ、『お前は人じゃない』って」


「・・・」


「何度も何度も言われて儂は人としての心を殺された。そっからもう何も分からんようになったんや」


「・・・」


「人でもない、魔物でもない、魔族でもない・・・儂は一体何者なんや?」


今の言葉は海人ではなくシュラ先生の本心に聞こえた。

今気づいたけど、シュラ先生は前世は人間だったけど今は竜という魔物。


十数年前から竜として生きているって言ってたから、自分が何者なのか分からなくなったのかな。

もしそうなら、シュラ先生も海人みたいに心が壊れてしまうのかな。


「だからって人を殺めていいはずがない!」


「殺めてないわ。掃除や掃除。こんなふうになぁ!」


一回刀を振るうといたるところから血しぶきがあがりみんな倒れていく。


残ったのは僕達だけだった。


「フフフ・・・あんたらだけは儂んとこによう来てくれたなぁ」


「・・・」


「儂は・・・寂しかったんやぁ。家族が、居場所が、仲間が欲しかっただけなんやぁ」


目に涙を溜め、震える声で語りかけてくる。演技上手だなぁ、と場違いなことを思った。

場違いなことを考えないと恐怖で頭がおかしくなりそうだもの。


「あんたらだけは掃除せえへん。どこへでも行きいや。集落のやつらがあんたらみたいやったら、もっと違った結果になってたかも知れへんなぁ。儂は還るべきところに還るわ」


海人はそう言いながら海の方向へ歩き出して闇の中に消えて行ってしまった。


遺されたのは死体と血と内臓だけ。本当に死んだの?


「気持ち悪い・・・さっさと出たいわ」


「そうだな・・・この状況も恐ろしいが、リアルでこんなことになっても耐えられる俺たちが怖えよ」


「だんだんこの世界に染まってきたようだ」


「日本人の心だけは失いたくないね」


森を出ると静かな海だけが見えた。


いいや、暗くて遠くてよく分からないけど海人が着ていた血に塗れた毛皮が波打ち際にあった。


これで肝試しは終わりかな?


安堵で腰が抜けそうだけど一つだけ言いたい。


「肝試しのレベルじゃないよー!」


-------------------------


「寒い寒い」


夜の海は予想以上に冷たい。夏でもかなり冷えている。


これをあと何回繰り返せばいいのやら。


「お疲れ様ですぅ」


「ハル教授」


「シュラの演技は抜群だな。演技って分かってても恐怖したぜ。例えるならブラッドグリズリーを前にしたときの恐怖だな」


「冒険者にしか分からない例えだな」


ブラッドグリズリーは名前の通り赤い体毛を持つ大型の熊の魔物で危険度はA。

『それを見たら終わり』と言われている。今怖気がした。

下水道のピエロが思い浮かぶ。


「それにしてもシュラ先生の魔法はすごいです」


声をかけてきたのはクリア教授だ。

本来であれば占い師として悲劇を予言するのだが異世界人の彼らが気づかなかったので出番はなかった。


「肝試しのために動物や魔物の血、挙句の果てには足りないからって自分の血も使うなんて驚いたぜ」


「そうそう。魔物を食べてたけど大丈夫なの?」


「食えなくはないがオススメはしないな」


「面白そうだな、ちょっと食わせてくれ」


好奇心旺盛なオスローに臭みが強く硬い虎の魔物の肉片を渡す。一応焼いてある。


「うわ臭せえ!味は・・・ヴヴェッホヴヴォエエエ!」


心配になるほどの声で悶えている。ハル教授が水を持ってきてくれるまで悶えていた。


「・・・ふう。助かったぜ。にしてもよくこんなの食えるな」


「私としては味のしないパサパサの肉程度だったのだが、こんなにひどいとは思わなかったな」


「味覚どうなってるんですか・・・」


「分からん。壊れているわけではないと思うが。不味いものは不味いし美味いものは美味い」


「好きな食べ物は?」


「白米と味噌汁」


日本人と言えば白米と味噌汁だろう。今度ニホ国へ行く機会があれば食べてみよう。


「シュラ先生もSランク冒険者ですね」


「どういう意味だ」


「変人だということだ。シュラはかなりマシな方だがな」


変人だと言うのは自覚している。


「もうそろそろ次のグループが来る頃です。魔法は大丈夫ですか?」


死ぬ演技や内臓、血は事前に集めた動物の血や内臓である。

斬るときもギリギリ当たらないし、血しぶきは異次元空間から取り出した瞬間風魔法で飛び散らせている。


「大丈夫だ。そしてキャロルはまだ顔を合わせられないのか」


「そういうことを気にしないのはいいと思いますがなんとも思わないのはちょっと」


気にしていないわけではない。あの後部屋でしばらく赤面していた。

やはり自分は魔族だと意識的に認識するようになってから様々な面で変化が訪れている。


「私もあんな恥ずかしい恰好をしてもなんとも思わないとはどうかと思う」


キャロルは下半身は魚だが上半身は小さな貝殻で胸を隠しているだけである。姿が見えないのは事前にかけておいた『水中呼吸』で海中にいるせいだろう。


「そっちのことでは・・・」


「キャロル・・・いつもいつもいつもこれ見よがしに胸を見せやがって」


ハル教授がおかしくなっている。


「女は胸じゃないぜ。中身だ中身」


オスローがフォローしているが暗に胸がない事も言ってしまっているのでハル教授に火に油を注ぐだけであった。


「あああああ!!!」


発狂してしまった。


『精神回復』


「フーッフーッ」


猫みたいだ。


『鎮静』


「・・・」


魔法は便利だ。無理矢理落ち着かせたので気分は微妙のようだが。


「ほら、争いは後にして最後までやるぞ」


肝試しは思ったよりも怖かったらしく、純粋に楽しんでくれたのは数グループだけであとは絶叫するか神に祈り始めるか発狂するか気絶するか私に襲い掛かってくるかのどれかだった。


しかしだいたい三分の一のグループが終わったところで『海人と最初に出会った時に殺せばよくね?』という話が広まり、ほとんどの生徒が出会い頭または出会う前から襲い掛かってきた。


正面から正々堂々と戦う者もいれば小屋を焼き払おうとしたり暗殺しようとしたりガッチガチに拘束して海へ放り出したりとやりたい放題だった。


まあ、戦いは返り討ちにしたし海に放り出されても体と服だけの転移で拘束を解いてすぐに戻った。


「さて、次はどんな手で攻めてくるかな」

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