肝試し
風呂を上がった後は自由時間だ。
ここのホテルは娯楽施設も充実しており、生徒たちは遊んだりホテルを探検したりと思い思いに過ごしている。
今私は逃げている。ホテルの手違いでキャロルを解放してしまい、私の匂いを嗅ぎつけたキャロルに追いかけられている。
キャロルの目は獲物を見つめる肉食獣のそれであり、プロのパルクーラーもびっくりの立体機動で私を追い詰めてくる。私も魔力で空中に作った薄い板を踏み場に飛び回っているが、このままでは捕まってしまう。
生徒たちはショーだと言って見物しているし、ホテルの警備員もずっと走り回っているが私たちが速すぎて捕まえられない。
「フウッ!」
先回りされたキャロルに捕まって地面に押し倒される。警備員はもう疲れ果てており使い物にならない。
四肢を完全に拘束されており動けない。
「ウゥ~」
甘えた声で顔をこすりつけてくる。このままでは大変なことになる。主に貞操が。
「おまえ、たち、も、見てないで・・・」
顔が邪魔でうまく喋れない。男子生徒は鼻息を荒くし、女子生徒は顔を赤くして顔を手で覆っているが約束のように指の隙間からこちらを見ている。
全身を擦りつけられ、キャロルがもぞもぞしだす。本当に不味い。
「・・・あ、あれ?」
キャロルの動きが突然とまり、周りをキョロキョロと見る。
男子生徒、なにがっかりした顔をしているんだ。やられる方はたまったものではないぞ。
女子生徒も同じだ。ここの生徒は問題児しかいないのか。
「キャロル、正気に戻ったか?」
「え、え?シュラ?」
「拘束を解いてくれ」
「え?え?・・・・・あ」
ようやく状況を理解したようだ。顔から湯気が出るほど顔が赤くなっている。
「い、いやあああああああああああああああ!!!!!」
電光石火の如く飛びのいて自分の部屋へと行ってしまった。明日大丈夫だろうか。
起き上がって服の匂いを嗅ぐ。
「・・・『消臭』」
この匂いは危険だ。擦りつけられたときに大量のフェロモンをつけられており匂いを嗅ぐとくらくらする。
私も部屋に戻ろう。もう疲れた。
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二日目
ゆっくり休んだおかげで疲れが消えた。
今日の予定は朝食のあと戦闘系の学科は海や近くの森で獲物を狩り、文系は学習。学習と言っても海の景色を書いたり海を題材にした短い物語を書いたりするだけだ。
ホテルの朝食はビュッフェ形式で私は皿に大盛の料理を乗せる。美味い。
キャロルは心ここにあらずと言った様子でぼんやりしており、時々顔を赤らめている。私と顔を合わせようともしない。
料理を食べているとアリアが近づいてきた。
「師匠、大丈夫でしたか?」
「全然大丈夫じゃなかった」
後少しでもキャロルが正気に戻るのが遅かったら手遅れだった。
「原因はお前だがな」
アリアが余計なことをしなければ私もキャロルもあんなことにならなかった。
「すいませんって。それより師匠、芸術科の生徒がモデルになってほしいそうです」
「モデル?」
「海と師匠を書きたいそうです」
「・・・オスローに聞いてからだな」
冒険科も狩りに参加するため教師も管理のために同行するからオスローに確認しないといけない。
「モデル?いいじゃねえか、こっちはキャロルとやっとく。任せとけ」
「オスローいつの間に」
「さっきからいたぞ。俺の気配消しはなかなかだろ?ま、そういうことだからモデルになれ」
「だそうだ」
「分かりました。さっそく伝えてきます」
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「そこをもうちょっとこう・・・そうそうそんな感じです。後はグラサンをちょっとこんな感じに・・・いい!いいですねぇ!」
朝食後、約束通りモデルにされた。
今の私は昨日みたいに半袖半ズボンでグラサンをかけ、気障なポーズを取らされている。そして芸術科全員が同じ絵というわけにもいかないのでポーズを変えたりナイフを持たされたりと、注文が非常に多い。
日焼けして痛いので早く解放してほしい。
三時間ほどでようやく解放され、出来上がった絵を見ると・・・。
「なんだこれは」
どれもこれも私が凶悪な顔だったりと、どう見てもヤクザにしか見えない。私は彼らからヤクザと思われているのだろうか。
解放されてホテルに戻った後は道具を持って森へ向かう。
ある準備をするためだ。
草木を伐採し、木々に細工をしておく。
細工が終わろ森を出るとオスローたちと合流した。キャロルは私を見るなりどこかへ行ってしまった。
「ははっ、大変だなキャロルも」
「もとはと言えばアリアが原因だがな。それよりちゃんとできたか?」
「ああ、アレの為にもちゃんとやっといたぞ」
「助かる」
「アレって何ですか?」
「今日分かるさ」
今日の夜が楽しみだ。
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昼のうちに打ち合わせや最後の準備を済ませ、夜になった。
これからするのは生徒たちに知らせていないプログラム、肝試しだ。
リアルさを出すために本物の獣の死体や血痕、魔道具を使った偽物の魔物の演出などがある。
ストーリーもあり、内容は人魚に育てられたというある男の話だ。
その男は幼いころから魔物の一種である人魚に育てられ、ある程度育つと昔あった集落に来た。
しかし魔物に育てられたという理由で集落の者からは忌み嫌われ、いじめられ、ずっと孤独に過ごしていた。そしてある時、その男が魔物の毛皮をかぶって集落の者を皆殺しにしたあと海で自殺した・・・という物語らしい。
生徒たちはこの物語の集落の一員として肝試しをする。
本番は皆殺しが始まってからである。
役も決まっており、私が孤独の男ということになった。他の教師も何らかの役がある。
キャロルは・・・最初しか出ない人魚になった。情緒不安定なので演技ができるわけない。
生徒たちを事前に作らせたグループごとに呼び出し、肝試しが始まる。
最初のグループは異世界組だった。
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桐山視点
「肝試しなんて嫌だよ・・・」
なんで僕が巻き込まれるんだ。
「なに言ってんだ、どうせ作り話だろ」
「そうよ、お化け屋敷と同じでしょ」
「死ぬわけないから大丈夫だ」
皆はそう言うけど、怖いよ。
前世みたいに灯りがないから真っ暗で、灯りはカンテラだけ。この暗さじゃ焼け石に水だよ。
「どこに行けばいいのかな」
「あら、集落の人?」
海から声が聞こえたので見てみるとキャロル先生がいた。まさに人魚って格好だ。
いつも思うけど露出の恰好で恥ずかしくないのかな。
「この森の中に集落があるんだけど、そこに私の育てた人間の子がいるはずなの。よかったら会ってあげて」
キャロル先生・・・人魚はそう言って海へ帰ってしまいました。
森の中へ入ると木々が小さな集落があった。松明の明かりで少し安心する。
前世で言うと文明レベルは平安時代の農民の集まりかな?みすぼらしい恰好をしている。
「あ、ハル先生」
確かにテントの中にハル先生がいた。木の実を食べてる。
ハル先生が僕たちに気づいたみたい。
「なにしてんの、もう夜だよ?海人のところに行ってたの?」
「海人?」
「海人ってあんたたちが訪れる奴のことじゃない。なんで関わるの?あいつは人じゃないよ」
「そうだぞ、むやみに関わるな」
今度はオスロー先生。毛皮を着て石と木の棒でできた槍を持ってる。
「あいつは魔物だ。ほら、剣をやるから殺してこい」
僕達に渡されたのは石でできた剣。
もう誰も話しかけてこないのかな?
「進むしかないようだ」
「そうね。さっさと終わらせちゃいましょ」
集落の奥に道があったので進んでいく。
しばらく進むと小さな小屋があった。
中からはくちゃくちゃという咀嚼音が聞こえる。
ドアを開けると・・・
「キャアアアア!」
滝山さんが悲鳴をあげた。他のみんなも顔を青ざめさせている。
それもそのはず、本物の魔物の死体があって、手前にいる海人が生のまま食べてるんだから。
「ああ、あんたらかい。ちょうど肉食ってたところや。あんたらも食え」
シュラ先生?・・・海人は頭頂部が剥いて人懐っこい笑みを浮かべている。芸術科の先生がやったのか、日焼けのあとはなく顔も変わっている。声でかろうじてシュラ先生だと分かった。
シュラ先生、よく魔物の肉食べるなぁ・・・。
「・・・・ま、魔物はいらない」
「なぁに、案ずることはあらへん。元は動物と一緒や」
そう言って立ち上がり、大きな壺の蓋を開けると・・・。
「ウッ!」
別の魔物が詰め込まれていた。
腐敗臭もして気分が悪くなる。
「ここらの山には魔物しかおらへん。けどな、魔物も人間も動物や。食える食える」
蓋をしてくれたけど腐敗臭が残って気分が悪くなる。
「魔物も動物も人間もおんなじや。食えるからなぁ。やのに儂を嫌っとる。意味が分からへん」
もう耐えられなくなり小屋を出る。近くの茂みで吐いてしまった。
肝試しというよりただのホラーだよ。同じだけど種類が違う。ゾクゾクというよりショッキングだよ。
他のみんなも出てきたけどみんな顔色が悪い。
「魔物を食べるとは・・・」
「気持ち悪いよぉ」
「剣で戦おうとしても返り討ちにされたよ」
結局戦ったんだ。
もう帰りたい・・・。




