黒幕と叫び
「・・・・シュラ?」
「起きたか」
三時間くらい気絶してたから心配だった。やりすぎたのも原因の一部だろうが。
「どうしてここに・・・」
「水仙とアリアがが学院が始まっても姿が見えなかったからだ。それで捜索してたらここにきた」
「え?学院?まだ始まってないでしょ?」
「もう始まってる。今日で始業式から一週間経った」
「え!?」
操られていた間のことは全く記憶にないようだ。操られていた間のことを覚えていないなら気に病むことはないが、同時にアリアのことも分からなくなってしまう。
「とりあえず私の住処に転送する。そこでしばらく休んでろ。正気に戻ったとはいえ後遺症があるかもしれんからな」
「正気?」
「無理に思い出さなくていい。少し待ってろ」
魔法の構築が終わったので転送する。
また教会に入ったが、情報が全くないというのは不安だ。警備が入り口の一人だけというのもおかしい。
教会には階段などはないが、こういうのは謎解きだろう。何かの像の台座にスライド式のパズルがある。
カチャカチャ動かして不気味な絵が出来上がった。
すると台座ごと像が動き、地下へ向かう階段が現れた。
進むと今度は地下牢獄が現れた。トンネルのような通路の左右に頑丈な扉がつけられており、中から何かが叩いているようだ。
「・・・」
隙間からのぞくと見えたのは異形の化け物だった。嫌悪感を掻き立てるような不気味な見た目だ。
見たことは忘れて先に進む。超大型金庫にありそうな扉を溶かして進む。
今度は何もない円形の広大な広場だった。
『ヒヒヒヒヒヒ・・・お待ちしておりましたよ』
「!?」
どこかで聞いたことのある声。奴隷商?いいや違う、スピーカーのせいで若干違うが、この声の主は・・・
「《狂科学者》エルラ・ヒルか」
私が初めて総ギルドマスターと出会った時に少しだけ話した人物。よくわからない質問をしてきていた。
『ヒヒヒヒヒヒ、御名答。さてさて、いきなりですが実験に協力してもらいましょうか』
「その前にアリアを返してもらおうか」
『残念、彼女は私に忠誠を誓っておりますから。魔法の洗脳と比べ物にならないほど強く、そして魔法では解除できない洗脳を施しました。心を壊すかのようなこの方法に耐えたのは彼女が初めてですねぇ。いやあ、実に興味深い!』
「・・・」
狂っている。まさに狂科学者だ。
人を実験体としか思っていない。
「・・・なぜこんなことを?」
『決まってるじゃないですか、復讐ですよ』
復讐?
『人間どもは私が造り上げた可愛い我が子を殺し、汚物だ化け物だと好き勝手悪口を言って殺しやがった!なぜ認めてくれない!?私は人間に害を与えるつもりなど微塵もなかった!むしろ貢献するつもりだった!なのに踏みにじられた!・・・ふぅ。そんな私を認めてくれたのが魔族の過激派の方でした。彼らは私を認めてくれたんです。彼らとの目的が一致したのでここで手伝いをしていたんですよ』
なるほどね。
自分の気持ちは踏みにじられ、研究成果をすべてごみ扱いされたのか。
『なんでしたっけ・・・キャロルでしたか?彼女はどうしたんです』
「スライムみたいなものを吐かせて正気に戻した」
『そうですか、残念です。彼女はAランク冒険者なだけあってかなり貢献してくれていましたから』
「人殺しはさせていないだろうな?」
操って人を殺めてさせていたのなら、私は絶対に許さない。すでに数えきれないほどの人間を殺した私が言えることではないかもしれないが。
『ええまあ、侵入者がいなかったので人殺しはしていませんよ。さて、お話はここまでにして、実験に協力してもらいましょう』
「一つ聞きたいことがある。実験に協力したらアリアを解放しろ」
『そうですね・・・ではアリアと戦わせてみましょうか。それで興味深いデータが取れれば解放しましょう』
「言ったな」
『ええ、興味深いデータが取れればですが。・・・アリア、相手をしてあげなさい』
『了解しました、マスター』
後ろのドアが閉まり、奥のドアが開いてアリアが出てきた。
「・・・」
「久しぶりですね、師匠。知らないかもしれませんが、私はAランク冒険者になりました。そしてマスターに力を貰ったのでこれで師匠を超えられます」
「・・・Aランク冒険者になったのは素晴らしいが、借り物の力で私を超えたところで虚しさが残るだけだ」
言い終わると同時に二人身体強化して踏み込む。
防ぎ、捌き、返す。
傍から見れば単なる殴り合いだ。
アリアの右手を掴み足を払って反時計回りに回す。受け身を取ってすぐに距離を取られる。今度はアリアが私の蹴りを脇腹と左腕で挟んで固定し私の顔を殴る。
「『滅脚』」
跳び回し蹴りで高く跳びそのまま踵落とし、そして足を上げて顎を強打し後ろ回し蹴り。
「『風林火山』」
アリアがすぐに立て直し、四属性を乗せた強力なボディーブローを放つ。両腕で防ぐが吹き飛ばされてしまう。
「腕を上げたな!」
Aランク冒険者になったというのは本当かもしれない。
『素晴らしい!四属性を混ぜるなんて!これは後で詳しい解析が必要ですね!それに二人とも魔力操作が達人ですね!魔力が強力な盾になっています!』
何か叫んでいるが無視しよう。
「『奪命掌』」
掌底と同時に魔力の波動で脳を揺らし殺害する技。しかし名前とは裏腹に使っても死なない。本能で脳を魔力が保護してしまうため掌底の威力を上げるだけになっている。
『おお!魔力を波動にして衝撃を与えるとは!応用すれば兵器が開発できるかもしれません!』
うるさい。
しかし少しずつだが確実にアリアにダメージを与えている。私もかなりダメージを受けているが、このままいけば私が勝つだろう。
「・・・まだ、敵わない・・・」
「借り物の力で超えられるわけがない」
「・・・私だって、努力してきた。一人で魔物の森にこもって毎日魔物と戦い続けた。それでもSランクにはなれなかった・・・」
「・・・」
「ずるい・・・私もSランクになって師匠と肩を並べたかった。でもどれだけ頑張っても師匠は届かない位置にいた」
「だから借り物の力に手を出したのか?」
「違う。私のものにしたかっただけ」
「だからといって楽な近道に逃げるな」
「お前に私の気持ちが分かるか!」
「うおっ!」
叫んだ時の攻撃が今までで一番強かった。防げずにまともに食らってしまう。
あ、骨折れたな。内臓も傷ついたらしい。吐血した。
立ち上がると、アリアが苦悶に満ちたような顔をしていた。
「何度も何度も死にかけても届かなかった!諦めそうになったけど踏ん張って戦い続けた!それでもまったく届かなかった!私の努力はなんだったの!?」
アリアの言葉は本心からだろう。
悲しみ、怒り、焦り、不安、疑念といった気持ちが顔に浮かんでいる。おそらくかなり前からそう思っていたのだろう。
「・・・私の責任だ」
「!」
「放置しすぎた。一向に構わず、修行に付き合いもせず、約束も守らなかった。アリアがそう思うのも当然だ」
「・・・」
「借り物の力を自分のものにするのなら私は何も言わん。今この場で私を殺してもいい。私は防ぎも避けもしない。来い」
私を超えようとして、無理だったとしてもせめて肩を並べたいと思っていたアリア。
そのことに気づくどころか気づこうともしなかった私にできることは贖罪だけ。
アリアは悩んでいるようにも苦しんでいるようにも見える。
「来い。アリアがやりたいようにやれ」
「・・・・・・・『神の予告』」
いつの間にか奥義を使えるようになっていたとは。教えた覚えはないが、極戦流の道場に行ったのだろうか?それとも門下生から教えてもらった?
どちらにせよ、アリアは私を殺す気だろう。
『神の予告』は利き手に魔力を集めて相手の心臓めがけて殴る非常に強力な技だ。
しかし強すぎるせいで大抵の敵は爆発四散してしまうため素材がなくなるので損しか生まない。
それに溜めの時間が長いし隙だらけになるので使い道のない技である。
『おおお!?アリアの右腕にすさまじい魔力が集まっていますねぇ!これほどの魔力を集中させれば普通は力に耐えられず圧壊するのですが、まさか耐えられるとは・・・!』
「・・・」
アリアが何も言わずに踏み込んできて私の心臓めがけて突きを放ってくる。
私は視線をそらさずその時を待つ。
しかしいつまで待ってもその時をこなかった。
見るとアリアは泣いていた。
「・・・・・ふざけないで・・・」
いつの間にか魔力が消え、私の心臓部に当たるか当たらないかのところで止まっていた。
ただ単にスライムみたいなのを吐かせるだけなのもあれなので超強力な洗脳という事にしました。すぐに解けそうですが・・・。




