危険な召喚された者
最近『歌う僧侶 キッサコ』さんの般若心経や世尊偈を聴きながら執筆しています。
現代風にアレンジした落ち着いたお経でリラックスできるのでお勧めです。
一度城を出て子供たちに遅くなると告げてから書類を持ってリリアの私室へ向かう。
「恥ずかしいよぉ~」
中からくぐもった声が聞こえてきた。私だって恥ずかしい。とんでもない誤解をされたし。
ノックして声をかける。
「リリア、書類だ。それと魔国の報告だ」
「・・・ちょっと待って・・・・・・いいよ」
「口調がおかしいぞ」
「あ!・・・な、なんですか?」
「魔国の報告だ。一言で言うとクーデターに巻き込まれて王が捕縛されてクーデターが成功した」
「分かりました。今は政変の真っ最中ですね。交易できるのはしばらく後になりそうです。・・・はあ」
ため息。どうしたのだろう。
執務中に私の人形を抱いてだらしない笑みを浮かべていたりしたから何か悩みでもあるのだろうか。
「悩みでもあるのか?」
「ありますよ。今までの恩返しができないんです。王位継承から始まり、帝国との戦争で騎竜兵を全滅させて攫われた私を救出して帝国を壊滅させて魔国との将来の国交樹立の協力・・・褒賞も何も与えていないので貴族から薄情者と言われているんです」
「私は何もいらん」
森で静かに暮らしたい。
魔国でのことは自分でやったことだが帝国に関しては向こうからやってきた。
それと私にも悩みがあるからゆっくり考える時間が欲しい。
「それだから困るんです・・・お金だと国金が無くなるし勲章にしても大金も一緒で厳しいし爵位にしても侯爵以上の爵位じゃないとだめなんです・・・」
「どれもいらん」
金は稼げるし勲章もいらないし貴族になってしまったら確実に面倒だ。
「そんなぁ・・・」
「ああそれと、異世界から私がいた世界の学生が召喚されてしまった」
危うく言い忘れるところだった。
彼らのことを話して学院に編入させたい。実力が分からないしこの世界で生きていく術を身に着けて損はないだろう。
「なんですって?」
「私がいた世界の学生が召喚された。安全確保とこの世界で生きる術を教えたいから編入試験を受けさせようと思っている」
「本当に竜様は面倒事の神様に好かれていますね」
「言うな」
「まあまあそう怒らないでください。編入試験ですが、試験官の都合が合えば行えますよ。試験官は学院の教師にさせるので今日にも行えるはずです。手紙を書くので少々お待ちください・・・・はい、書き終えました」
手紙を受け取ると同時に書類を渡す。
「職務放棄とは感心しないな」
「や、やりますよ・・・・・いつも手伝ってくれてありがとう」
「何か言ったか?」
「いいえ何も」
小声で何か言っていた気がするが気のせいだろうか。
まあいいか。手紙を持って学院に行こう。
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「大きいわね」
「ここで試験を受けるんですか・・・」
「楽しそうじゃねえか!」
「僕らに何か召喚時の恩恵でもあればいいね」
学院に来た子供たちはこのようなことを言っていた。
恩恵・・・いわゆるチートか。私もチートを持っているが彼らはどうだろう。
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筆記試験は全員が社会科と魔術関係以外は合格だった。
ちゃんとこの世界の言語と魔法は教えていたが、魔術は難しかったようだ。ちなみに私も社会は苦手だ。
「ふむ・・・これなら実技がそれなりの基準に達していれば合格ですね」
学院長に試験結果を見せると悪くないとのことだった。
実技試験はそれぞれが最も得意とする戦い方で得点を得る。
まずは滝山。
事前に試した結果、彼女は回復魔法が特に優れているらしい。試しに私が自分の体に傷をつけて治させたところかなりの回復力を見せた。深い傷も同じだ。
回復魔法が合格基準に達したので彼女は合格。
次は桐山。
彼も魔法が得意らしく、基本の四属性火・水・風・地のすべてが非常に強かった。強すぎて試験会場を一部破壊した。
初歩でこれなのだから、中級以上だと試験会場すべてが吹き飛ぶんじゃないだろうか。
次は空也。
彼は私と同じ格闘が最も得意なようだ。
身体強化して標的を殴ってみたところ木端微塵になった。
最後に天道。
彼は剣と光属性の魔法に適性があるらしい。
剣に光の魔法を纏わせて振り下ろしたら光が飛んで行って標的を貫通して試験会場も貫通してどこかへ飛んで行った。無関係な人に被害が出なければいいが。
同学年のどの生徒よりも高い得点で見事に合格した。
彼らはチートだ勇者一行みたいだとはしゃいでいたが、彼らに指導をするべきだろうか。
彼らは同じクラスにして専門科目をどうするかで教授たちと議論になった。
「今はまだいいが、磨けば直視できぬほどの輝きを放つ宝石になるぞ」
「つまり腕を上げさせては危険だということですね」
「それに彼らは何者ですか?不審に思って調べてみたところ、彼らの情報が一つもありませんでした。抹消された形跡もなく、元から存在していなかったのです」
「それについては私が話そう。彼らは異世界から来た異世界人だ。外国でいろいろあって召喚に遭遇したが止められなかった。信じられないかもしれないが、彼らは異世界人だ」
私の説明で静まり返る。異世界人だと言われても信じられないのだろう。
「私は彼らはこの世界にいるべきではないと思っている。彼らは元の世界に家族も友達もいたのに、こちらの勝手な都合で召喚されてしまったんだ。初めは私はこの世界で生きていくために必要な技術を教えるつもりだったが、教える前からアレでは危険だ。うっかりで人を殺したり町に被害を出してしまう可能性がある」
「確かにな。幸いあいつらは俺の冒険科に興味があるみたいだから、事情をよく知るシュラと監視できるのはありがたい」
「ですが桐山君と滝山さんは私の魔術科に興味があるようですが・・・」
「困ったな。彼らが元の世界に戻ることに同意してくれればいいのだが、彼らは異世界ということだけで舞い上がっているから聞かないだろうな」
「召喚できたなら送還もできるんじゃないんですか?」
「無理ですね。召喚というのは指定した条件を満たす者を無理矢理呼ぶものですが、送還となると私たちの世界と彼らの世界の座標から送る世界のどこに召還させるかも指定する必要があります。それにおそらく次元が違うので次元計算も必要になり、次元を含む世界と世界の距離まで正確に測る必要があります。これらのうちの一つでもほんの少しのミスがあれば彼らは次元の狭間で永遠にさまようことになってしまいます。さらに時空系の魔法と計算で召喚された時の時間も指定しないとすでに世界が滅亡した時間に飛ばされたり無人の時間に飛ばされたりもします」
「要するに無理ってことだな」
私は時空系魔法で次元も操れるがそんな面倒な計算が必要ならできない。私の魔法は普通は必要な魔法陣を必要としないだけでそれ以外は同じなのだ。
「だが彼らの力は強大すぎる」
「では私が力を抑える魔道具を作りましょうか?」
「できるのか?」
「ええ、もう設計図はできているので後は作るだけです」
「じゃあ頼むよ」
会議が終わり、私は誰もいない場所でため息をついた。
じっくり考えたい悩み事があるのに、危険な彼らのこと。
なぜこんなことに巻き込まれてしまうのだろうか。




