召喚
私は彼らの恰好に見覚えがある。
彼らの制服は、私が前世で通っていた高校の物だ。だから彼らが日本人でこの世界に召喚されたとすぐに分かった。
男子生徒は体育会系といった褐色のワイルド男子、童顔の小柄な男子、イケメンな男子の三人で紅一点の女子生徒はどちらかというと西洋寄りの顔だ。
「おい・・・どういうことだよ」
「それについては後で説明しよう」
「誰だ?」
私のことに気づいていなかったらしい。仕方ないだろう、私も彼らの立場なら訳も分からず混乱している。
「ひっ!」
「何者だ!」
男子高校生の一人が女子高校生を庇うように立つ。
「そのことも含めて後で説明する。とにかく今は私についてきてほしい。今はクーデターの真っ最中だ」
「クーデター・・・?」
「ついてこい」
魔族の王を担いで部屋を出る。彼らは迷っていたが私に従うことにしたようだ。
途中の兵は反抗的な者は気絶させながら進んだ。
正門の上にあるバルコニーで声を張り上げる。
「貴様らの王を捕縛した!戦闘をやめて降伏しろ!」
『光源』の魔法で照らして分かりやすくする。
王の兵士は武器を捨て、仲間は雄たけびをあげていた。
召喚された彼らはまだ状況を理解していないようだ。王を引き渡して彼らに向き合う。
「どこから説明しようか・・・そうだな、ここがどこだか分かるか?」
彼らは顔を見合わせていたが、童顔の男子生徒がおずおずと手を挙げた。
「もしかして・・・異世界・・・?」
「その通りだ。君たちはさっき私が捕らえていた魔族の王によって召喚されてしまった」
「そんな・・・」
「召喚を止められなかった・・・申し訳ない」
そう言って頭を下げる。
彼らはクーデターに対抗するためだけに地球から呼び出された。
家も学校も友人も、こちらの勝手な都合ですべてを奪われた。もし私が光に怯んでいなければ召喚を止められただろう。
「頭を上げてください。あなたが気に病む必要はありません」
「しかしだな・・・」
「大丈夫だろ。異世界なんて面白そうなもん、悲観してたら楽しめねぇぞ。それに召喚できたなら帰る方法もあるはずだ。だから気にすんな」
頭を上げる。
童顔の男子は少し不安そうだったがそれ以外は悲観したような顔ではなかった。
「・・・立派だな。君たちが異世界でも暮らせるように手助けしよう。ああそうだ、実は私は転生者で君たちと同じ日本人だ」
最後の部分は彼らを安心させるために言った。私が元日本人だと言えば少しは安心できるだろう。
彼らは私が転生者で元日本人だという事に驚いているようだ。
「ほ、本当ですか?」
「本当だ。前世で私は総務省でキャリア官僚として働いていたぞ。質問してくれたら答えるぞ」
「じゃあ・・・江戸幕府を開いたのは?」
「徳川家康」
「公務員の花形部署は?」
「国家公務員なら財務省だろう」
「日本三大試験は?」
「国家公務員総合職採用試験、司法試験、公認会計士試験または不動産鑑定士試験だ」
「日本三大悪法は?」
「生類憐みの令、治安維持法、あとは人によってそれぞれだが総合保養地域整備法だ」
「自分で言っておいて何ですが、最後の問題が正解かどうかわかりません。まあ、これだけすぐに答えられたから信じます」
案外簡単に信じてくれた。
「自己紹介が遅れたな。私はこの世界では竜に転生した。人としての名前は『シュラ』だ」
「あたしはイギリスと日本人のハーフで滝山スリカよ」
「俺は空也新之助だ!」
「桐山推です」
「天道信です」
褐色男子は空也君、小柄な子が桐山君、イケメンが天道君か。
「さて、いきなりだがこの国から出るぞ。私はこの国に仕事のために出張したら巻き込まれただけだからな」
「王様を捕らえておいて巻き込まれただけ、ですか」
「色々とあるのだよ」
城を出てダル侯爵に会い別れを告げる。
これから再び会うことはきっとないだろう。
国を出て誰も見ていないところで竜にある。
「すげー!」
「おお・・・」
「かっこいいじゃない」
「僕はちょっと怖いな・・・」
『乗り心地は最悪だが我慢してくれ。私が主に活動している王国へ向かう』
全員が乗ったことを確認し、空へ飛び立つ。
「見慣れた星座が一つもないわね」
「本当に異世界のようだ・・・」
「おい、異世界召喚なら俺たちチート貰ってんじゃね?」
「チート?」
「ほら、滅茶苦茶強い魔法とか、天運とか!」
会話を聞いて、チートがあってもなくても面倒なことになりそうだと思った。
チート無しならこの世界で生きていくのは難しいかもしれない。あったとしても強すぎてどこかの国に目をつけられるかもしれない。
リリアと学院長に説明して学院の編入試験を受けさせようか。
そんなことを考えていたら私の住処に着いた。
『ここが竜の時の私の住処だ。地球ではまだ真昼だったかもしれないが、無理矢理にでも寝てもらうぞ』
全員に『睡眠』の魔法をかけ、ちゃんと寝たのを確認してから私も眠りについた。
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一番早く起きたのは私だった。
まだ夜が明けきらない黎明で、子供たちが起きるのを待つことにした。
全員起きたら背中に乗せて王国近くの森に下りて人になる。人の恰好はいつもの和服だ。
「かっこいいじゃない・・・」
滝山が歩きながらうっとりした目で私を見ている。
「私の見た目は二十歳ぐらいだが中身は百歳越えの爺だぞ」
「ギャップが素敵・・・」
「出たよ滝山の意味不明な言葉」
「いつものことだ。しばらくすれば元に戻るのは知っているだろう?」
どうやら意味不明なことはいつものことらしい。
「これから私は事情を説明するために王城へ行くから君たちは門の前で待っていてくれ」
城の前で告げてから城に入る。この城に来るのは何度目だろうか。
いつものように執務室へ行き、ドアノブに手をかけると中から変な声が聞こえた。
「えへへ・・・」
ちょっとだけ開けて中を見るとリリアが小さな私の人形を抱いて緩み切った笑顔を浮かべていた。いつの間にか机の上に竜の私の人形まで置かれている。
「・・・」
わざとノックをせず、物音を立てずに入る。リリアからは見えない位置で立つ。
リリアはまだだらしない笑みを浮かべている。
「りゅうさまぁ・・・」
いつもの凛とした声とは違う甘ったるい声。頭がおかしくなってしまったのだろうか。
「・・・おい」
声をかけた瞬間リリアの動きが完全に止まり、関節が錆びてしまったかのようなぎこちない動きでこちらを見る。
表情はホラー映画で見てはいけないものを見てしまった時の顔だった。
「・・・い」
「い?」
「いやああああああああああ!!!見ないでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「うっ!?」
華奢な体からは想像できないほどの大声量で悲鳴を上げるリリア。あまりの音量に思わず耳を塞いでしまう。
「忘れてぇぇぇぇぇぇ!!!!」
叫びながら体当たりしてきた。
いきなりでバランスを崩してしまい、リリアが馬乗りになる。
そしてそのまま私の両肩を掴んで激しく揺さぶってくる。酔いそう。
「リリア女王!どうかし・・・」
近くにいたらしい侍女がドアを開けるが私の上に乗るリリアを見、そして私を見る。
部屋の時が止まったかのように全員が動かなくなり、侍女が顔を真っ赤にする。
「し・・・失礼しましたぁ!」
バァンとすごい勢いで扉を閉める侍女。これは絶対に誤解された奴だ。
リリアを見ると羞恥から顔を真っ赤にして涙目になり、
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
と叫んでどこかへ行ってしまった。
部屋には人の私の人形がポツンと床に残されていた。
「・・・」
私の人形を拾って竜の私の隣に置く。今気づいたが二つとも手作りのようだ。
細部まで作りこまれており、芸術作品のように感じる。
「・・・・恥ずかしいのは分かるが、仕事を放棄するのはな・・・」
そう呟いてリリアの確認が必要な書類以外を片づけることにした。




