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竜は静かに暮らしたい  作者: イエス・ノー
四章 王立学院での日々
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新たな面倒ごとの予感

合同訓練が終わり、すぐに夏の長期休暇になった。


私は久しぶりに竜になり、しばらく住処でゆっくりしようと思っている。

孫やアリアは外国へ出かけるらしい。


森のなかで竜になり住処へ戻る。森の中はつい最近雨が降ったのでじめじめしていた。


-------------------------


「ア゛・・・ア゛・・・」


苦しい。苦しくて動けない。


自由に憧れて冒険者になってここまで来たのはいいけど、肝心の食料が無くなってしまった。


私たち吸血鬼は人の血がないと生きていけない。ミルクでもいいけど。


進化して蝙蝠になったり飛ぶことはできなくなったけど日光を克服したから昼でも自由に動ける。

でもまだ日焼けしやすいのでローブで体を隠す人が多い。私もその一人だ。


だけど血がなければ生きていけないのは変わらなかった。むしろ悪化したかもしれない。

長い間血を飲まなければ吸血鬼は餓え、血への渇望が出てくる。


それでも血を飲まなければ苦痛に体を蝕まれ、しばらくすると血への渇望が理性を飲み込んで凶暴化してしまう。

凶暴化したらすぐに満足する量の血を飲まなければもう二度と元に戻れなくなる。


ストックしていた人の血やミルクもなくなり、ミルクを買うお金も無くなった。


仕方ないから動物の血で我慢しようとして森を歩いていたら雨が降ってきたので山の洞穴で雨宿りしてたけど・・・ここで動けなくなってしまった。


喉が渇いて苦しくて私が血への渇望に飲み込まれてしまう恐怖が襲ってくる。


でもこんなところに人が来るわけない。どうやら私はここまでのようだ。


・・・ごめんなさい、兄ちゃん。


-------------------------


『・・・ん?』


私の住処に少女が倒れている。


小柄で中学生くらいの子供、色白肌で髪も灰色で幾何学模様が刺繡された黒いローブを着ている。


『どうした?』


近くに座って問いかけるが反応しない。呼吸が荒く、苦しんでいるようだ。


どうしたものかと考えていると不意に少女が目を見開いた。目は真紅に輝いている。


少女は私を見るや否や飛び掛かってきた。


「ガアッ!」


『!?』


いきなりで竜の体では躱しきれず、首筋をかまれてしまう。


しかし竜の皮膚はそこら辺の武器では傷すらつかない。実際まったく痛くない。


「ヴヴヴ・・・」


獣のような目つきで唸り声をあげながら首筋に鋭い牙で嚙みつこうとする少女。こんなことをするからたぶん吸血鬼だろう。


この世界における魔族の扱いがどうなのかは知らないが、おそらく血が欲しいのだろう。


引きはがして私の尻尾に少し深めの傷をつける。血が流れ出てきた。


少女は血に気づくとすごい勢いで近寄って飲み始めた。が、切り傷なので飲みにくいようだ。


吸血鬼に血を吸われると吸血鬼になるという話があったような気がするが私は信じていない。ゾンビじゃあるまいし、血を吸われたら貧血になって最悪死ぬか雑菌が入って病気になるかの二択だろう。


尻尾の傷を治して人型になる。


「!?」


いきなり尻尾が消えたので驚いたようだが私を見ると獰猛な目つきになった。完全に獲物を見つめる肉食獣の目つきだ。


「血が欲しいならくれてやる」


腕をまくって差し出すが、少女は私の腕ではなく首筋に嚙みついてきた。本気で噛まれたので痛い。

噛む力を微妙に変えながら血を飲んでいるようだ。すごい勢いで飲んでおり、貧血になっても困るので『造血』の魔法を自分にかけ続ける。

少女にもかけたのだが体内の血液と栄養にするための血液は別物らしく意味がなかった。またこの魔法は目の前に血を出すわけではなく体内の血液の量を増やすだけなので血を作って渡すこともできない。


体感ですでに輸血パック二袋分ぐらいの血を飲まれたのだがまだ飲むようだ。よっぽど血に飢えていたらしい。


「・・・ふぅ」


ようやく満足したのか首から口を話して口の周りの血をなめとり、そのまま眠ってしまった。

寝顔は安らかでさっきまで獣のようだったのが信じられないほどだ。


隅に寝かせて魔物の毛皮をかけてやる。


私も竜に戻って丸くなる。竜の姿だとなんとなく落ち着くのだ。


それにしても、なぜ魔族の少女がいるのだろうか。

私は魔族のことをよく知らないし、町で見かけたこともないからもしかしたら迫害されているのかもしれない。


だが迫害されているのならなぜ王国に来たのかが分からない。国に居場所がなくなって人間のふりをしながら生きていくつもりだったのだろうか。

分からないのでリリアにでも聞いてみようか。


その日は竜で狩りをして住処で過ごしていたが少女は起きなかった。


-------------------------


「・・・んう?」


ここは・・・?


確か雨宿りして血に飢えて凶暴化したはず・・・。


ここは夢の世界?

頬をつねってみたが痛い。現実のようだ。


でも誰が私を?

まさかここに来た誰かを襲った?


口の中に血の味が残っているから、まだ誰かを襲ってからそれほど時間が経っていないはず。


血の味はじっくりコトコト煮込んだ高級ビーフシチューのような濃厚で深い味わいと旨味がある。

吸血鬼は血の味から相手の性別と大体の年齢を知ることができるけど、こんな美味しい血は初めてだ。


おそらく男性だと思うが・・・老人だろうか?熟成されたような味だし。


でもその人に対して私はどのような態度を取ったのだろう。きっと獣のように襲い掛かったに違いない。


助かって安堵すると同時に殺していないか不安になっていると、遠くから何かが近づいてくるのが分かった。


あれは・・・竜!?


私を食べるつもりなのだろうか。


怖くて震えていると竜は私に気づいたらしく、真紅の瞳で見つめてくる。


『調子はどうだ?』


「え?」


頭の中に直接響いてくるような声。この場にいるのは私と竜だけ。もしかして・・・。


『私だ。目の前にいる竜だ』


「・・・喋れるんですか?」


『念話というものだ。それよりも何か体調が悪いとか、そういうものはないか?』


「ひょっとして、あなたが私に血を?」


『ああ。いきなり飛び掛かってきたから驚いた。その後けっこうな量の血を飲まれたが』


軽い口調で話しているが、私の心は恐怖でいっぱいだった。


私は竜に襲い掛かったの?しかも会話できるということは間違いなく古竜か上位竜。ただでさえ竜を相手するのは自殺行為なのに、相手が上位竜だったなんて・・・。


「あ、あの・・・お名前はなんというのですか?」


『人としての名前は「シュラ」だが、私の竜としての種族名は「ヴィッツ・ヴェルナード」らしい』


ヴィッツ・ヴェルナード?あの御伽噺に出てくる伝説の?


「・・・ハハッ」


私はとんでもない愚か者だ。あろうことか伝説の竜を襲うなんて。

もう笑うしかなくなって変な笑いと共に私の意識は途絶えた。


-------------------------


『やはり竜だと威圧してしまうな・・・』


目の前の少女はおそらく恐怖で失神したのだろう。起きたときにまた失神しないように人になっておく。


見た感じ体に異常はなさそうだ。変わったことと言えば、少女の目が金色になっていたことぐらいか。


十分ほど待つと少女が目を覚ました。


「あの・・・」


「さっきの竜だが」


「え?」


「私は人にもなれる。竜だと怖がらせてしまうのでな」


目の前の状況を理解できないのか呆然としていたが、すぐに顔面蒼白になり土下座してきた。


「なにをする!?」


「偉大な竜様を襲うなんて本当に申し訳ございません!どうか私の命でご容赦を」


「待て待て、落ち着け。とりあえず顔を上げてくれ」


あげてくれなかったので顔を持って無理矢理上げる。


「私に害はなかったし、こんなところで倒れていたから何か訳ありなんだろう?私は襲われたり血を吸われたことは気にしていない」


「す、すいません・・・」


「謝る必要はない。それと無理に敬語を使う必要はない」


アリアにも前に同じことを言ったのだが「師匠に敬意を払うのは当たり前です」と言って聞いてくれなかった。


「そんな畏れ多い・・・」


「まあ無理にとは言わない。よければ何でこんなところにいるのか教えてくれないか」


「は、はい・・・」


少女の話を纏めるとこうなる。


少女は魔族の国の上級貴族で兄と共に不自由ない生活を送っていたが、鳥かごの中にいるのに耐えられず自由になりたくてこっそり家出して冒険者になったらしい。


もちろん大騒ぎになり見つかる前に国外逃亡をしたのだがどこに何があるのか分からずとりあえず道なりに進んでいた。


そして王都に着くが金を持っておらず血や血の代わりとなるミルクも尽き、動物の血で我慢しようとして森へ入った。そして雨が降りここで雨宿りをしていてとうとう力尽きたそうだ。


「魔族が人間の国にいて大丈夫なのか?」


「ダメです・・・魔族には人間と敵対している派閥と共存しようとしている派閥の二つがあり、現在は敵対派閥が王になっているためみんな魔族を警戒しているのです。だから私は正体を隠して過ごしていました」


「困ったな・・・家族はどっちの派閥だ?」


「親戚も全員共存派です」


「そうか・・・しかし困ったことになったな」


この少女を必死に探していて、攫われたと勘違いされては面倒だ。


「国へ帰ると言うのは?」


「もう自由なようで束縛された生活にはうんざりです・・・」


「ふむ・・・リリアが魔族と敵対していないなら案はあるのだが」


「リリアさんとは?」


「王国の女王だよ。いろいろあってほぼ対等な関係になっている」


「・・・あなた何者ですか・・・・?」


「さあ、私にも分からん」


人なのか魔物なのか魔族なのか。


「それにしても本当にありがとうございました。血をくださって・・・」


「人助けのようなものだ」


「いい人ですね・・・とても美味しかったです」


「美味しい?」


「じっくりコトコト煮込んだ高級ビーフシチューのような濃厚で深い味わいと旨味があります・・・」


少女の目が妖しくなりちょっとずつ近づいてくる。まさかまだ足りないのか。


「いただきます」


カプ。


痛くない程度の力でまた首をかまれて血を吸われ始めた。


魔族か・・・また面倒なことになりそうだ。

次回から新章です。

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