合同訓練の始まり
合同訓練当日。
戦闘科・魔術科・冒険科・魔道具科の生徒が朝から校庭に集まっている。
さっそく戦闘科と魔術科の生徒でいがみ合いが始まっており、教授たちや冒険科・魔道具科の生徒たちは呆れた目で見ている。
「ハル教授、レイドクリスタルは持ってきたか?」
「ええ、言われたとおりに設定してきましたよ。生徒たちの自らの愚かさに絶望する顔が楽しみです」
事情を知らなければ悪役同士が何かを企んでいるように聞こえるだろう。
だがこれはひどいかもしれないが生徒たちの為だし、悪い伝統がこれで消えるだろう。
事前に合同訓練をするにふさわしい場所を調べておいたのでそこへ向かう。向かう途中も喧嘩の声が聞こえていたが無視する。
もちろん止めなくていいのかという声も上がったがすぐに仲直りする羽目になると言っておいた。
合同訓練を行う場所は近くに森、川があり、レイドクリスタルを設置する場所は小高い丘のふもとだ。
いまだに喧嘩している生徒たちを黙らせて宣言する。
「今回の合同訓練は去年までとは違う。去年まではすべての学科の生徒と最低一人ずつパーティを組んで低ランクの魔物と戦っていたが、今年からはそれをやめる。誰かのように喧嘩ばかりしているとあっという間に殺されるという事を分からせるために今年は特別なものを用意した」
私が合図を出すとハル教授がレイドクリスタルを魔道具の異次元収納道具から取り出す。
これが何なのか知らない生徒たちは美しさに見とれているが、これが何なのか知ったら紅い輝きが別のものに見えることだろう。
「これは魔道具科の生徒と教授が創った『レイドクリスタル』だ。簡単に説明すると、一度起動するとレイドクリスタルによって生み出された魔物に壊されるまで魔物を生み出し続ける装置だ」
生徒はいまいちこの恐怖が分からないようだ。
もうちょっとわかりやすくするか。
「言っておくが今回の合同訓練では私たちは一切手助けをしない。それに魔物はこのクリスタルの破壊を優先するが君たちを見れば邪魔者として殺しにかかってくる。うまく対処しないと冗談抜きで死ぬぞ」
そう言うと生徒たちに緊張が走った。嘘だと言っている生徒もいるが真剣に本当だというと殺されるという恐怖に震えだす生徒もいた。魔道具科の生徒はすべて知っているので震えたりはしないが。
「ふざけんな!そんなの人のやることかよ!」
戦闘科の坊主頭の生徒が非難するような口調で責め立てる。
「知るか。死にたくなければ全員で協力してクリスタルを守ればいいだけだ。ああそれと、クリスタルを壊されても死ぬぞ」
「はあ!?じゃあ結局死ぬしかないのかよ!?」
「いや、ある程度耐えることが出来ればクリスタルは動作を停止する。安心しろ、最初は生徒たちでも対処できるようには調整している。それでも死ぬ奴は死ぬが」
「あ、悪魔・・・」
悪魔と言われてしまった。確かに死んでも知らんときっぱり言われれば悪魔と言いたくなるだろう。
一応救済措置もあるのだが、それを言っては意味がないので言わないでおく。
そろそろ『集団転移』の魔法を構築しておこう。
「説明は以上だ。何か質問は?」
「は、はい・・・」
手をあげたのは魔術科のローブを着た女子生徒だ。
「なんだ?」
「ゴブリンとかに襲われたらどうなるんですか・・・・?」
そういう事か。
「普通のゴブリンと何ら変わりないぞ」
「そ、そんな・・・」
これ以上恐怖を煽るのはさすがに可哀想なのでそろそろ消えるか。
「他に質問は・・・ないな。では一時間後に襲撃が始まるからそれまでに作戦を考えておけ。逃げようとしても無駄だからな。せいぜい足掻くがいい」
ちょうど『集団転移』の魔法の構築が終わったので教授たちと一緒に消える。
転移先は事前に時空魔法で作っておいた上空にある観戦用のスペース。透明だが外からは見えないようになっており、地上の声を聞くことができる。
そこに教授たちと一緒に観戦する。
「シュラさんってえぐいこと言いますね」
「魔物と比べればマシだろう?それにハル教授の創ったレイドクリスタルもなかなかえぐいと思うが」
「それもそうですね~」
笑いながらメモを取る準備をするハル教授。合同訓練で得たデータを元に改良していくつもりらしい。
「あの、シュラさん」
声をかけてきたのは魔術科の教授のクリア・エルスタという名前の全身を赤いローブで身を包んだ白い髪の女性だ。
優しい性格をしており、生徒から慕われている。
「いくらなんでもやりすぎでは・・・私の可愛い生徒が魔物に襲われるのは倫理的に・・・・・」
「ん?説明は聞いていないのか?」
「いえ、聞いていましたが」
「どういうことだ?・・・・・もしやハル教授」
「バレちゃいましたか。実はレイドクリスタルの安全面のことは内緒にしてました。レイドクリスタルの発動中は魔物に殺されても襲撃が終わった時に蘇生します。それに襲われても子供ができたりなんて絶対にあり得ません。私だってちゃんと倫理観はありますよ」
「なんで言わないんですか・・・・」
「どこから情報が洩れるか分かりませんからね。私の生徒たちにはこのことは内緒にしておくように厳命してますし、同意の上でそのこと喋れなくする魔道具を使っています」
ハル教授の言ったように魔物は限りなく本物に近い偽物であり、問答無用で殺しにかかってくるが死んでも生き返る。
「シュラってひどいねぇ。言ってあげればいいのに」
「それでやる気をなくされても困る。それより地上の様子を見よう」
何かを話しているようでまずは戦闘科の声を拾ってみる。
『おいおい冗談じゃないぞ!』
『あいつら人間じゃねえ・・・俺たちの命なんてどうでもいいってことかよ!』
『しかも最初は対処できるって・・・これって時間が経つとどんどんヤバくなるやつだぞ』
『なあ、あいつらの言ったことって全部嘘だよな?』
『いや、あの顔、あの口調、完全に本気だ。俺たちを魔物たちに殺させるつもりだぞ』
酷い言われようだ。
次は魔術科。
『あ、あたし死にたくない・・・』
『ウチも』
『協力しろって言われてもあの脳筋どもと関わるのはねぇ・・・・』
『とにかく今は脳筋とかそういうのは無しだ。このままじゃすぐに全滅だ。まずは冒険科の生徒たちと・・・』
魔術科は私の意図を理解してくれている生徒がいるようだ。
脳筋とかを考えずに協力すれば強敵に勝てる。
うまく協力して侮蔑の意識が消えればいいが。
次は冒険科だ。
どうやらギュスタとフーカがみんなを纏めているようだ。
『みんな落ち着いて。今までの練習を生かして連携すれば生き残れるよ』
『うーん・・・確かに連携しないと生き残れないのは分かるけどよ、あいつらと仲良くしろって言われてもなあ・・・』
『でも今は感情を無視して連携しないと死ぬ。先生もそれを狙ってこういうことをしたんじゃないのかな』
冒険科の生徒が今のところ一番マシだ。
彼らがうまく全員を纏めることが出来れば全員の生存率を上げることが出来るだろう。
次は魔道具科だ。
『ハルちゃんもひどいよねぇ。あたしたちもだけど』
『僕たちの役目はサポートだね。魔力爆弾とかで支援しようか』
『戦闘科と魔術科嫌いなんだ。あいつらが俺たちに泣きついてくるのを想像しただけで笑いがこみあげて来るぜ』
すべて知っているだけあって冷静だ。
生き残れるかは冒険科と魔道具科にかかっているな。
「レイドクリスタルの作動はいつだ?」
「あと三十分程かと」
「三十分以内に作戦を考えられるかどうかだな。もうしばらく様子を見よう」
『作戦を考えるから来て』
『うるせぇ!魔物なんざ俺たちだけで対処できる!』
『魔物の脅威を知らないのかしら?』
『はっ、テメェらが弱いから脅威に感じるんだよ!』
『・・・そう』
話にならない。
戦闘科の教師である精悍な元騎士が懐かしむような目で見ている。
「懐かしいですね。私も生徒の頃はあんな感じでした。天狗になって、魔物なんて脅威ではないと思っていました。その後すぐに伸びた鼻をバキバキに折られましたが」
みんな生徒の頃は天狗になるらしい。
魔術科はどうだろう。
『冒険科の助けなんていらないわ。助けが必要なのはそっちのほうでしょ?』
『その言葉、後悔する前に撤回してもらおうか』
『そっくりそのままその言葉をお返しさせてもらうわ』
『・・・』
魔術科も同じだ。
もし話をしていたのが私の意図を理解してくれていた生徒なら違った結果になっていたかもしれないのに。
「あの子たち・・・こんな簡単なことすら分からないのですか・・・・それとも私の育て方が悪かったのでしょうか・・・・?」
「違う。井の中の蛙で魔物の脅威を知らないから天狗になっているだけだ。襲撃が始まればすぐに自分たちの無力さを思い知るだろうな」
「できることなら、こんな方法は取りたくなかったです」
正真正銘の殺し合いで分からせるからな。トラウマになってもおかしくはない。
「言い方は悪いが、これは選別するためだ。魔物の脅威を知ってトラウマになるのなら魔術師になるのは難しい。将来の夢を壊してしまうが、私はどこかで死んでしまうよりは遥かにマシだと思っているよ」
魔物と対峙するたびにトラウマが蘇り戦えなくなるのなら魔物と関わらなくてもいい職に就かせた方がいい。死んでは元も子もない。
「あ、もうちょっとでレイドクリスタルが作動しますよ」
ハル教授が教えてくれてから数秒経つとレイドクリスタルが作動した。浮き上がり、輝きながら台座の上で回っている。
後にここが学院で『惨劇の大地』と呼ばれるきっかけになった合同訓練が始まった。
次回はグロい表現が少し多くなると思います。




