これでようやく解放される
「ちょうどいい依頼が何もないな」
「さっき生徒たちが取ってたし、討伐依頼も割に合わないからね」
生徒たちが戻ってくるまで暇なので依頼を受けようと思ったがやめた。
何をしよう、と思ったら執事たいなギルドマスターが降りてきた。
「シュラさん、いらっしゃいますか?」
「ここにいるが」
「ああ、良かった」
「どうかしたのか?」
「ボウレイの件ですよ」
しばらく考えて思い出した。死にたくても死ねない冒険者で、私が『破魂』を使えば殺せるかもしれないと言ったからか。
孫とオスローに事情を説明してからギルドマスターに案内されて魔法陣の部屋へ行く。
乗ると景色が変わり、豪華な部屋へとやってきた。
今回いたのは三人だけで、黒いマントを身に着けた白い人間型のゴーレムと侍みたいな冒険者と総ギルドマスターだけだった。
「ようやく来たな」
『まことに死ぬることが出来るのか?』
ゴーレムが合成音声みたいな声で喋る。おそらくボウレイが憑依しているのだろう。
「試したことはないが、理論上は確実に死ぬ」
「試したことがないのですか?」
総ギルドマスターが聞いてくる。
「こんな魂を破壊する技なんか普通使う機会がないだろう」
「なるほど・・・では準備が出来次第、実行してください」
「他の冒険者を呼ぶ必要はないのか?」
「どうせ呼んでも集まるわけないでしょう。薄情者が多いので」
いろいろと諦めているようだ。
『其処許よ、いつでもよいぞ。成功すればいいからの』
其処許とは「あなた」という意味だ。なぜ昔の日本の口調で年寄り染みているのだろう。
「ようやく友の悲願が達成される」
侍も愛おしいものを見る目でゴーレムを見ている。
もう準備はできたのであとは確認するだけだ。
「何か言い遺すことはあるか?」
『もう友に伝えておるよ』
「分かった。では行くぞ」
ゴーレムから距離を取り、クラウチングスタートに似た姿勢になる。そのまま右手に特殊な赤黒い禍々しい魔力を纏い、目に魔力を通して魂の位置を見極める。
ボウレイの魂は心臓の位置にある。
一気に駆け出して衝撃をすべて内部へ伝えるように魂の位置へ掌底打ち。魂が粉々に割れる澄んだ音が聞こえた。
『これで・・・ようやく解放される・・・・』
感極まったような震えた声がボウレイの最期の言葉だった。
ゴーレムが支えを失ったように崩れ落ちる。
しばらく待ったが、再び動き出すことはなかった。もう生気はまったく感じない。
侍を見ると静かに涙を流しながら小さく笑っていた。
「今までの活躍・・・まことに大義であった」
「彼は満足して逝けたようですね。きっと最期はこれ以上ないほどの幸福感に包まれながら逝ったことでしょう。このことは私が管轄するすべてのギルドに通達しておきます」
もう私の役目は終わったので部屋を後にする。
ボウレイはどんな人物だったのだろう。
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ボウレイ視点
己が自我を持ったのはいつだっただろうか。
気が付けば荒れ果てた墓場にただ一人たたずんでおった。
初めは自我はあれど言葉も分からず姿も分からずたださまようだけだった。
時折祈禱師のような者がやってきて何をしているのだろうと観察し、少しずつ言葉を覚えていった。しかしある時を境に祈禱師はこなくなってしまった。
気の遠くなるほどの年月を墓地でさまよったが仲間や人に逢うこともなく、自我があるのかさえ分からなくなっていた。
そんな時だった。今は亡き友に出会ったのは。
初めは己を見るなり斬りかかってきたが己に実態がないのか当たることはなく宙を斬るだけであった。その日はすぐに帰ったが、夜が明ける黎明の頃にやってきては斬りかかってきた。
そんな日々が続いたある日、友の斬撃に痛みを感じた。痛みを感じたのは初めてで、なにがなんだか分からなかったが後にそれは痛みだと教えられた。
それからは己も古く錆びた剣を取り戦うようになった。夜が明けていくたびに友は腕を上げていき、己も強くなっていることを実感した。
ある程度強くなった時に友からなにかを問いかけられたが、その時は言葉を全くといっていいほど知らなかったので答えることはできなかったが、友は何を思ったのか小さく頷いた。
次の日からは友は来なくなり、きっとどこかで死んだのだろうと思っていた。だが違った。
三ヶ月ほど経ったある日、己の依り代となる人形のようなものを持ってきたのだ。
己はその人形に引き寄せられるように近づき、いとも簡単に憑依することができた。
「 !」
何を言っているのか分からなかったが、十四ほどになった友は喜んでいるようだった。
そして剣の稽古をしながら言葉を教えてもらい、ようやく読み書きや算術ができるようになった頃、友に外へ行かないかと言われた。
『外には何がある?』
「いっぱいじゃ!ここにないたくさんの物を見ることができる!」
『しかし其処許よ、儂が人里へ行けばみなが恐れてしまう』
「安心してくれ!みなにはボウレイのことを予め教えているからの」
己は会話の時は己のことを儂と言えと友から教わった。
さてな、初めて人里に降りたときはいつの時代だったのだろう。今と比べれば遥かに文明が進んでおらず、一日を生きるだけで精一杯の者も多かった。
友の村ではみなが暖かく迎えてくれ、山狩りや農作業などみなのために尽くした。
ある時、戦がおこり村の男衆は領主に徴兵されてしまった。己もその一人であった。
「戦じゃなんじゃでみな餓えておるんじゃ。戦を終わらせねば村のみなが飢え死んじまう!」
『其処許よ焦るでない。焦れば勝てる戦も勝てぬ。其処許は武家の跡取りであろう?戦で活躍せねばどちらにせよ村は消えてしまう』
その後始まった戦は大勝だった。
しかし己の中身が亡霊であり祈禱師でも成仏させられない、いわゆる不老不死と分かり領主に仕えるようになった。
『其処許よ、これが永遠の別れというわけではない。この村は人でない儂を暖かく迎えてくれた言葉にできぬほど大切な村。潰されようものなら領主を斬り捨ててでも守る」
「さ、さすがにご領主様に歯向かうのはダメなんじゃが・・・」
しかし、これが友との別れであった。
戦ばかりで大将が討ち取られ、いくら斬られようが粉々に砕かれようが切腹しようが死ねぬ己は仕える領主や大将が戦に負けるたびに変わっていき、いつしか何のために生きているのだろうと思うようになった。
己が力を振るう目的が世のためであろうが怨嗟は積もるばかり。
依り代を変えながら戦国の時代を怨嗟と共に過ごし、今の時代になった頃には死にたいと思うばかりだった。
不老不死を求め己を研究しようとする愚者もいた。不老不死とはただ失い続ける永遠に終わることのない地獄だというのに、なぜそのことが分からぬのだろうか。
冒険者になり不死を殺すことのできる伝承や武器はないか探し続けたが見つけることはできなかった。
冒険者になったときに出会った友・・・《一閃万斬》キルク・バースは今までに出会った友の中で二人目の親友だった。
友も不死殺しを探し続けたが見つけることはできなかったようだ。
そんな時、新しいSランク冒険者・・・《調律者》シュラが不死を殺す方法があると言ったという情報が手に入った。
ギルドマスターに詳しく聞けば魂を直接破壊すればいいとのこと。なぜその技がいくら探しても見つからなかったのは疑問だが、己はその『破魂』なら死ねると直感で感じていた。
友はできることなら自分が殺したかったと言っていたが、最終的には喜んでくれた。
また、友はなんと己が初めて出会った友の子孫だというのだ。この時は本気で驚いた。
シュラが来る前に友に遺言などを言い残しておいた。
そしてシュラがやってきて、己の魂を破壊するといった。
妙な姿勢になり、一気に距離を詰めてきたと思えばすでに己の魂は破壊されていた。
『これで・・・ようやく解放される・・・・』
怨嗟から解放され、ようやく死ぬことができた。
これが、死というものか・・・・
存外に・・・心地よいものだ・・・・・・。
そのまま己は心地よい眠気に包まれ、目を閉じた。




