勝利は近い
帝国軍がやってきた方向へ飛び続けると帝国が見えてきた。
街並みは整っているが纏っている雰囲気が異様だ。
怒り、悲しみ、不安、絶望・・・全体的に不穏で重苦しい。
ボロボロの服を着て痩せこけた平民がこちらを見るが何ら反応を示さなかった。平民の目は光がなくただただ生きているだけという様子だ。
都市全体に逃亡防止用のバリアを張って念話を使う。
『帝国貴族に虐げられし平民よ。今までに受けた理不尽な扱いへの怨みを晴らしたいのであれば我の元へ集うがいい』
そう言うと平民たちが騒ぎ出して少しずつ私の元へ集まってきた。
案の定、肥え太った貴族が叫ぶ。
「なにしている!貴様らはただ我々貴族の道具として役に立てばいい!誰のおかげで生きれていると思っている!」
イラつく言い方だ。
皇帝も貴族も変わらない。
『そんな矮小な存在など気にするな。どうせ裁きを受けるのだからな』
大量の平民が集まり、もう集まろうとする平民がいないことを確認する。冒険者らしき者もいた。
平民たちに向けて魔法を使う。
『体力譲渡』『魔力譲渡』
「おお・・・!」
「すごいわ・・・・・!」
「すげえ。これが力か!」
『貴族に裁きを』
私が言うと、一斉に家を破壊し始めた。強化されているので殴るだけでも家を破壊できる。
家が崩れ、中からはさっきの貴族が出てきた。
「なにをする!放せっ!ぐあっ!」
「てめえのせいで俺たちがどんだけひどい目に遭わされたと思っていやがる!」
平民たちが魔法を使って貴族を攻撃し嬲り始めた。なんとなくという理由で子供を殺された者や妻を強姦されてそのまま殺されたという者もいる。
他の貴族も同じだった。
嬲るのは止めないのだが、もう私は心配になってきた。彼らの目に愉悦が含まれているからだ。
結局、貴族と同じなのだろうか。
しばらく待つと、ぐちゃぐちゃになった貴族の死体があった。グロい。
他の貴族も虐殺されたらしく、平民たちが集まってきた。
「竜様よ、誠にありがとうございます。授かった力のおかげで貴族を殺すことが出来ました」
『そうか』
「竜様、我らと共に世界を支配しましょう!この力と竜様のお力添えがあれば可能です!今度は我らが支配する番です!」
「そうだそうだ!」
「そうよ!支配されるのは終わりよ!」
やはり、最悪の選択をするか。
もう一度チャンスを与えよう。
『何を言っている?世界を支配するだと?くだらんな。我は反対だ』
「・・・え?」
『我が貴様らに力を与えたのは何のためだと思っている?』
「そ、それは、世界を支配するためじゃ・・・」
思わずため息をつく。
『我は一言もそんなことを言っていない。我が力を与えたのは帝国貴族に裁きを与えるだけだ。貴様らの目的はもう達成した。力は返してもらう。王国へ行けば身分は平民のままだが待遇は比べ物にならないほど良くなるぞ』
譲渡した力をすべて返してもらう。
「ち、力が・・・!」
「そんな!」
「くそっ!俺は諦めねえぞ!魔法の使い方はもう分かったんだ!おい、みんな俺についてこい。こんな奴に付き合ってられるか!世界を支配してやる!」
一人の男が叫んで外へ出ていき、ほとんどの平民がついていった。
『やはり貴様らも帝国貴族と同じ道を歩むか』
「あぁ!?」
『今ならまだ間に合う。引き返せ』
「うっせえな!おい、みんな行くぞ!」
引き返してきたものはいなかった。
・・・。
『せめて罪を犯す前に安らかに眠れ』
『睡眠』『呪怨』
魔法をかけると出て行った平民たちは眠ってそのまま息を引き取った。
残ったのは六人だけだった。
『哀れとしか言いようがない』
「あいつらはもう壊れていたんですよ」
冒険者の一人が言う。
「俺たち帝国の冒険者は外国へ行けない。貴族共にいいように使われるだけだ。教育も受けられなかったが、力の使い方ぐらいは分かってるつもりさ」
『そうか。では貴様らを王国の首都の近くまで送る。王都はいま反乱で誰もいないのでな』
「ありがとうございます」
彼らを乗せて王国へ飛ぶ。
空を飛ぶというこの世界では貴重な体験をした彼らはかなりはしゃいでいた。
適当な街に降ろして住処へ戻る。
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「おかえりー」
「師匠、どうでした?」
「六人しか残らなかった・・・って、なにしてるんだその二人は」
辺境伯と皇帝が逆さ吊りにされていた。頭に血が上っているのか顔が赤いが相変わらず無表情なので怖い。
「ああ、質問してたけど悪びれもせずに吐くからイラついちゃって」
笑顔で恐ろしいことを言う孫。どうしてこんな子に育ってしまったのだろう。
それよりも・・・。
「帝国の平民は六人しか残らなかったよ」
「それって・・・」
「結局、何も変わらなかった。平民は安らかに逝かせたよ」
「おじいちゃん・・・なんとも思わないの?」
二つの解釈ができる。
平民を止められなかったことに対してなのか、殺してもなんとも思わないのか。
口調から後者だろう。
「なんとも思わなかったよ。最近よく思うが、私は人間らしさが無くなってきたようだな」
「そんな・・・」
「そのことを悲しく思うこともなくなってきた。精神は身体に依存するから、だんだん感性が竜に近づいてきたのかもな」
「嫌だよ。おじいちゃんに変わってほしくないよ」
「人と関わっていれば心を失うこともないだろう。だから安心しろ」
笑いかけて孫の頭を撫でる。前世は孫によくやったものだ。だがまだ悲しそうだ。
そういえば孫は猫の獣人だったな。
猫を相手にするように、顎と喉を軽くなでる。
「ゴロゴロ・・・」
ん?
「ゴロゴロ・・・」
孫が目を細めてゴロゴロと喉を鳴らしている。完全に猫だ。
「・・・」
猫耳を軽く撫でる。
しゅくしゅくしゅく。
「ん~」
甘えた声を出して頭を私にこすりつけてきた。
「あの・・・」
「私にも分からん」
「獣人の特徴ですね。一部の人は何らかの拍子で動物みたいになってしまうんです。正気に戻った後もしばらくは軽く名残のようなものが残る人も稀にいますよ」
アリアが解説してくれた。
なんということだ。孫が動物化してしまった。
撫でるのをやめる。
すると一瞬孫の動きが止まり、すごい勢いで私から離れた。
「にゃ、にゃにするの!?」
「いや、悲しそうな顔だったから撫でただけなんだが・・・いきなり猫みたいになってだぞ」
「恥ずかしいにゃあ~」
「語尾に『にゃ』がついてるぞ」
「言わないでよ!恥ずかしい・・・にゃ」
そっぽを向いて拗ねてしまった。
「すまんすまん。だが水仙は悲しい顔よりそういう顔の方が似合ってるぞ」
「・・・」
これはしばらく相手にしてくれないな。
本題に戻ろう。
「とりあえず孫のことは置いといて、反乱を起こした王国貴族はどうなった?」
「それでしたら、暗部に伝えてあるのであとは時間の問題かと」
「いつのまに伝えたんですか」
アリアは知らないようだ。
「王には秘密の暗部との連絡の取り方があるんです」
「そうなんですか」
「ええ。ですので裁判と後始末はお願いしますね」
「任せろ」
「・・・・分かった・・・・にゃ」
まだ孫の猫の名残は残っているようだ。
だが、ここまでくれば勝利は近いぞ。




