蹂躙
「王国の領土に軍を伴って勝手に来た時点でもう誤解とかはありえないな。全力で潰すだけだ」
「辺境貴族は殺さないでね?」
「分かってるさ」
リリアから帝国軍がいるという辺境伯の領土の方角を聞いて竜になって飛んだ。
距離的に二十分ほどでつくだろう。
王都を超えて進み続けると、帝国軍が見えてきた。
市民の民家も使っているようで、私を見た兵士や平民が怯えている。
奇襲してもいいのだが念のため声をかけておこう。『拡声』の魔法を使う。
『辺境伯を外患誘致罪の容疑で捕らえに来た。辺境伯に味方した王国の貴族も外患誘致罪または外患援助もしくは外患予備の容疑で捕らえる』
私がそう言うと一気に帝国軍が騒ぎ出した。
「ふん、竜と言えどもたった一頭ではこの軍勢をどうにもできん!頭が高いぞ、伏して控えよ!」
なんかまさに悪徳貴族といった風貌の太った男が叫んでいる。おそらく辺境伯だろう。
偉そうに。こっちも偉そうに煽ってやる。
『ふっ、実力差も分からぬ哀れな虫けらが。伏して控えるべきは貴様だろう』
煽ると顔を真っ赤にした。肉がプルプル震えている。
「やってしまえ!」
辺境伯の兵士らしき者たちが怯えている。私に弓を向けたり魔法を放つのが怖いようだ。
一言言っておこうか。
『王国貴族の兵士よ、貴様たちにやましいことが何もなければこの場を去るがいい。取り調べを受けた後潔白が証明されれば解放される。そんな矮小な虫けらに従うよりもっとましな雇い主のほうがいいだろう?最期まで雇い主と共にするのなら止めはしないが』
兵士たちはかなりざわついている。しかし、逃げ出したくとも逃げ出せないといった様子だ。
もう一押ししてみるか。
辺境伯と帝国軍全体に『一時停止』の魔法をかける。『拘束』だと抵抗されるとすぐに魔法の効果が切れてしまうためだ。
『ほれ、虫けらと帝国軍の動きを封じたぞ。逃げたい者は逃げろ』
すると重い武器や防具を脱ぎ捨てて一斉に逃げ出した。そんなに急がなくても見えなくなるまでは動きを封じれるのに。
全員逃げたところで魔法の効果が切れたようだ。
「なっ、いつの間に!」
『貴様らが動けないと分かった瞬間一斉に逃げ出したぞ。部下を大切にしていない証拠だな』
「あいつら・・・ちゃんと金をやっていたのに!」
『金だけで忠誠を誓ってもらえるわけないだろう』
待遇が悪ければすぐに逃げるぞ。
『さっさと投降して捕まれ』
「ええい!私には帝国の後ろ盾がある!陛下、お願いします!」
テントからいつか見た皇帝が姿を現した。なんかやつれてる気がする。
「ふん、忌々しい竜め・・・じわじわと嬲って弱らせたところを支配して貴様に王国を襲わせてやる・・・・」
負の感情の詰まったどろりとした目が気持ち悪い。
皇帝も巻き添えで殺してしまってもいいのだろうか。
それと他の辺境貴族はいないのだろうか。
何にせよ、帝国軍の兵士には悪いが消えてもらおう。ついでに魔法の実験台になってくれ。
できる限り苦しませないから。
『呪怨』
闇系統の魔法だ。呪いをかけて相手をじわじわと蝕んで最終的に衰弱死させる魔法だ。
ゆっくり殺すのかと思ったら魔法にかかった兵士が倒れてそのまま眠るように息を引き取った。ほぼ瞬殺だ。
残った兵士は何をされたのか分からなかったようだが、魔法と組み合わせた矢や様々な魔法を放ってくる。
『ふむ、普通の矢に魔法を組み合わせるのはなかなかいいのだが・・・魔法が弱すぎるな』
対となる属性の魔法を当てると消えた。
『魔法は魔力の変換ができていない。無駄が多いぞ』
初歩の魔法で相殺する。
その後も様々な攻撃をしてきたが、どれも弱すぎる。
しばらく適当に相手していると攻撃が止んだ。
『終わりか?ではこちらの番だ。召喚・奈落渦』
次は召喚系の魔法。
空にどす黒いブラックホールが現れ、とんでもない力で吸い込み始める。
吸引力が強すぎて私まで吸い込まれそうになり、慌てて消した。
だが一瞬で大量の兵士を飲み込んでしまった。えぐいな。
次は・・・
『地獄手』
同じ召喚系の魔法で、指定した場所から底なしの穴が現れて赤黒く生理的嫌悪感を抱かせる巨大な右手が出てきて近くにいた兵士を掴んで底の見えない穴へ引きずり込んでしまった。兵士の叫びが・・・。
それよりもう半分ほど減ってしまった。次は・・・時空系を使うか。
『視界亀裂』
パァァァン・・・・・・
ガラスが割れる音を低くしたような音が響き、視界に文字通り亀裂が入った。全体にヒビが入る亀裂だ。
すぐに視界は元通りになったが・・・惨劇だった。
視界に入っていた兵士は亀裂に沿うように体を切断されており、全身がバラバラになっているし、大地や木まで影響を受けている。
相変わらず時空系はえげつない。
もう兵士も数百人しかいなかった。最後は何にしよう。
決めた。
『氷像化』
唱えた瞬間、兵士たちを真っ白な霧が覆いつくし、霧が無くなると全身が凍った兵士たちがいた。確かにある意味氷像だ。
体の中まで凍っているので衝撃を与えれば粉々になるし炎で溶かそうにも全身溶けるし自然解凍してもすでに死んでいる。えぐい。
とにかくもう兵士はいないので人型になって辺境伯と皇帝のところへ行く。
辺境伯と皇帝はまだ現実を理解できていないのか「まさか・・・そんな・・・・」とつぶやいている。
「いい加減に投降しろ」
「誰だ!?」
「この惨劇を引き起こした竜だ。さっさと投降し・・・」
最後まで言えなかった。
いつの間にか皇帝が青く光る珠を私に向けていた。
感覚で分かる。精神支配だ。
どうやら思考まで支配するわけではなく肉体を支配するだけのようだ。
「ははははは!竜が余のものになったぞ!」
「おお、さすがは陛下です!」
「ふふふ・・・この竜に上下関係を教えてやらねばな・・・」
まとわりつくような視線で私を見る皇帝。気持ち悪い。
それとお楽しみのところ悪いのだが・・・もう支配は解けている。この程度の支配なら簡単に解けてしまう。
思考まで支配されていれば厄介だった。尤も、私は魔力の訓練を毎日行っているのと『魔導を極めし者』があるので魔法の耐性はとてつもなく高く、完全に支配することは不可能なのだが。
「まずは謝罪だ・・・土下座だ!」
「我に指図するな、虫けらが」
「なに!?」
「陛下!?支配できていないじゃないですか!」
「支配はこうやるものだ」
精神魔法で私がされたように私の魔力と皇帝の魔力を繋げて私の魔力で皇帝の体を侵食する。支配できた。
「土下座と言ったか?貴様がしてみろ」
命令すると皇帝が無表情で土下座する。滅茶苦茶こわい。
思考までは支配していないので内心激怒しているだろう。支配を解く。
支配が解けた瞬間ものすごい勢いで飛び起きる皇帝。
「さて、貴様らを捕らえるのが私の仕事なのだが、抵抗したければどうぞご自由に。尤も、我も抵抗しないわけではないが」
さすがに投降するだろうとは思ったのだが、まだ悪あがきをするようだ。
二人とも同時に魔法を放つ。
しかしろくに訓練をしていないせいであり得ないほど弱い。
腕を振るっただけで消えた。
「なんだと・・・」
「私の魔法が・・・」
この程度で絶望されても・・・。
だが戦意喪失したので二人を簡単に支配することが出来た。思考まで支配する。
辺境伯にはいろいろと聞きたいことがあるからな。
『録音』の魔法を使って尋問する。
「辺境伯に聞く。仲間を答えろ」
「はい。エルワ男爵、ウイカ子爵、フィダ侯爵、ダーティ辺境伯、ラット公爵です」
「目的は?」
「反乱を起こし、王国を乗っ取るためです」
「仲間は今回の反乱にどう加担した?」
「全員が計画や援助に関わり、一部の者は帝国軍に私兵を売りました」
外患援助と外患誘致が確定したな。
「リリアは死んだと思うか?」
「いいえ。生きているとの報告があったため、失脚させるための策を練っています」
「実行したか?」
「いいえ。まだ計画段階です」
よかった。証拠をでっち上げられていては面倒だった。
「仲間の居場所を教えろ」
「はい。全員ルダの町のエカアパートの秘密の地下室にいます」
ルダの町は王都に近い都市の名前だ。
とりあえず聞きたいことはすべて聞いた。
リリアたちに連絡しておこう。
『私だ』
『竜様?』
『なにこれ?』
『おそらく念話かと』
『そっちに辺境伯と皇帝を送るがいいか?拘束するし完全支配したからなんでも吐いてくれる』
『もう捕まえたんですか?』
『おじいちゃんって洗脳できるの?悪用して私にあんなことやこんなこと』
『私を何だと思っている?仕置きが必要のようだな』
ちょっと怒気を孕ませて言う。冗談だが。
『冗談だって!』
『分かっているさ。私は怒っていない。もう一度聞くが、送ってもいいか?』
『できるのですか?竜様ならできると思いますが支配が解けないか不安で・・・』
住処を明確にイメージしながら『転送』の魔法を構築する。
『その点は信じてくれとしか言いようがない』
神秘的な若竹色の魔法陣ができたので二人を拘束して放り込む。拘束されても担がれても放り込まれてもずっと無表情だったので怖かった。
『ギャーーーー!』
『無表情だが質問すればちゃんと答えてくれるぞ』
そう言って念話を切る。
次は帝国か・・・最悪の結末にならなければいいのだが。




