観光
「どうしても無理か?」
「ええ。いくらSランク殿の頼みと言えども連絡がつかねばどうしようもないのです。総ギルドマスターは多忙な方でして、よく連絡の音のせいで集中できないといって連絡できないようにしておりますから」
町のギルドのギルドマスターはどう見ても僧だった。
手に数珠を持っており、さっきまで神棚のようなものに念仏を唱えていた。
念仏が終わるのを待ち、総ギルドマスターへ連絡させてくれと言ったら今の答えばかり繰り返された。
「伝言ぐらいなら大丈夫ですが、どういたしますか?」
「『ボウレイを殺す方法がある』と言っておいてくれ」
その瞬間、僧の目が見開かれる。
「本当に、かの亡者を成仏させる方法があるのですか?」
「成仏かどうかは分からんがな」
「大丈夫ですよ。内容はどうであれ、かの亡者の願いを叶えれるのであれば。しっかりと伝言をお伝えしておきます」
「感謝する」
ボウレイが死にたがっていると言うのは有名な話なのだろうか。
もしかしたら運がよかっただけで、他のギルドマスターなら猛反対されるかもしれなかった。
「師匠、どうでした?」
部屋から出て下の階へ向かうとアリアが声をかけてきた。
「会えなかったが、伝言は伝えてくれるそうだ」
次は何をしようか。
依頼を見てもろくなものがない。
あ、そうだ。
「アリア、試験を受けてみないか?」
「試験?」
「約束しただろう。Cランクで技を教えるって」
「やります!」
技、といった瞬間目を輝かせてすごい勢いで返事をした。周りの冒険者に見られてるぞ。
「おじいちゃん」
「人目のあるところでその呼び方はやめろ。誤解されるぞ」
「なんかおじ、シュラって変わったね。前はもっと丸かったよね?言い方とか」
「環境のせいでこうなってしまった」
そんなことを話しているとアリアが試験の手続きを終わらせていた。
試験会場に移動し見学する。
アリアはランクに見合わないほど強くなっていた。
躱し、捌き、衝撃を与えて隙を作り急所への一撃で仕留める。
そのままCランクまで行った。
私は途中で飛ばしたので知らなかったが、Cランクは下位悪魔らしい。
羊に手足と翼をつけて細長くしたような見た目だ。
アリアが先制攻撃をするが当たらない。当たっているがなぜかダメージが入っていない。
おそらく物理攻撃が通じないタイプなのだろう。
アリアもそれに気づいたのか、体に魔力を纏わせる。魔法は使えなくとも訓練すれば魔力を操作して身にまとうことはできる。
魔力を纏った状態で攻撃するとちゃんとダメージが入った。
悪魔も攻撃が通じるようになって焦りだした。
火球や真空波、氷の槍などを飛ばしている。狙いをつけずにとにかく大量に撃って逃げ場をなくすつもりだろう。
並みの冒険者なら避けられないかもしれないが、アリアは違う。
どうしても避けられないものだけ捌き、無理でも後ろへ跳んだりしてダメージを最小限に抑えている。悪魔もここまでダメージが入らないことは予想外だったらいい。
アリアは悪魔が驚いている隙に短剣を取り出し刃に魔力を纏わせて心臓に突き刺し引き抜く。
人のように血は出なかったが急所は同じだったらしく断末魔の悲鳴をあげながら光の粒子となって消えていった。
「試験終了!」
さっきの僧が試験終了を告げる。
案の定、一気にランクが上がったため冒険者に囲まれて勧誘されている。
「その子は俺の仲間だ」
ドスをきかせて低い声で言うと蜘蛛の子を散らすようにどこかへ消えていった。仲間一人が強くてもバランスが崩れるだけということが分からないのだろうか。
受付でCランクカードを受けとったアリアは早く教えろとせがんでくる。
落ち着かせてアリアの額に手を当てて私のイメージを魔力にのせて流し込む。
「んっ・・・」
むず痒いのか声を漏らすアリア。
すべて終わったあとはなぜかアリアの顔は真っ赤で、
「師匠のが私の中に・・・」
とつぶやいていた。かなり誤解されやすい発言だ。
「技は実戦で磨くものだ。いつもの修行では意味がない」
必要なことはすべて一緒に教えたので後は慣れるだけだ。
「シュラ、アリアちゃんに何したの?」
孫にジト目で見られている。早速誤解されたようだ。
「何もしていない。技のイメージを魔力にのせてアリアの頭の中へ流し込んだらああなった」
「本当に?」
「信じていないようだな」
孫の額に手を触れ、この町で最初に見た外郎売の記憶をさっきと同じようにして流し込む。
「んっ・・・」
ピクッと反応して艶っぽい声を漏らす孫。
終るとアリアみたいに顔を真っ赤にしてまた
「おじいちゃんの・・・」
とか言っていた。何なんだ一体。
私が師範にされたときはなんともなかったぞ。
「二人とも正気に戻れ。この町は平和でちょうどいい依頼がないから観光したら別のところへ行くが、いいか?」
「いいですよ」
「おじ、シュラ、この町じゃなくてもこの国全体が平和だからどこ行ってもいい依頼ないよ?」
「なら観光したら別の国へ行くか」
二人に金を渡そうとしたが私は白金貨しか持ていない。銀貨や金貨はあるにはあるが少なすぎる。
受付で白金貨を金貨に換金し、二人に二十枚ずつ渡す。
「夕刻にこのギルド集合にするか?」
「はい」
「分かった」
二人に了承してもらえたのでギルドを出て屋台を探す。
屋台でなくとも茶屋や歌舞伎座でもいいのだが・・・
それよりも気になっていることがある。
「水仙、さっきからなんだ?」
なぜかずっと後をつけてくるのだ。
「バレた」
「隠す気なかっただろう」
「うん」
「何か用か?」
「えっと、おじいちゃんと前世のことを話したかったの」
「ならストーカーせずにさっさと言えばよかったじゃないか」
孫のことがよく分からない。
露出の多い防具をつけたり半殺しにしたり私をストーカーしたり。
「恥ずかしかったもん」
「水仙のその恰好の方が祖父として恥ずかしい」
スタイル抜群だからエロい。
贔屓目なしで見ても孫はかなりの美少女だ。
猫なのでかわいいのだが私としてはもっと清楚な方が好きだ。
「だって猫だもん」
「種族が関係あるのか?」
「猫の獣人はみんなこんな格好だよ。風とか気配を肌で感じたいもん」
「よくわからん」
私は肌ではなく感覚や耳で感じるので分からない。
「それよりも、せっかく二人になれたんだから前世のこととか話そうよ」
「それもそうだな」
それからは孫の前世のことを聞いた。
私が死んだあと問題もなく遺産相続され、私が住んでいた屋敷は孫が中学生になった時に引っ越しで娘たちの物になったそうだ。
学校でもいじめられたが先生が対応してくれなかったため教育委員会に報告したそうだ。孫が一人で抱え込まない性格で良かった。
学校に腐った教師がまだいたとは。
その後は進学校の高校へ入学し大手私立大学へ推薦で入学。
大学生活は人生の中で一番楽しかったらしい。サークルやクラブ、ゼミに参加し卒業した年に弁護士試験に合格、親友と一緒の帰り道で飲酒運転に撥ねられ死亡。
飲酒運転の奴は腸が煮えくり返る思いだが娘家族や親友のことが心配だ。親友は無傷だったらしい。
女神によると案の定、悲しみに暮れてしまい、なぜか私にも謝っていたそうだ。
『大切な孫を死なせてしまってごめんなさい』と。
私の妻は娘が産まれる前に病死してしまったので写真でしか知らなかったので私に謝ったのだろう。
私としてはとても悲しいが娘家族が悪いわけではないので謝る必要はないと言いたいのだが、こちらから伝えることはできない。
次元魔法を改造してしまえばなんとかできるかもしれないが危険すぎるのでやらない。普通に次元どころか異次元まで崩壊してしまいそうな気がする。
「・・・とまあ、こんな感じかな」
「水仙は前世の人生をどう思っている?」
「幸せだったよ」
満面の笑みで答える孫。
「家族や親戚に仲良くしてもらったし、友達もいっぱいできたもん。親友には申し訳ないことをしたけど、それでも幸せだったよ。最期の瞬間も、もっと生きたいって思ったと同時に満足してたもん。親友にもちゃんと伝えておいたよ。『みんなに幸せだったと伝えて』って」
「そうか・・・」
悲しいような、嬉しいような。
若くして死んだことを悲しむべきか、幸せなまま逝けたことに満足すべきか。
後者の方がいいのだろう。
だが私は祖父として前者のこともどうしても考えてしまう。
「おじいちゃん、悲しそうな顔しないでよ。今は観光だよ」
「・・・そうだな」
本物の外郎売を見て外郎を買ったり和楽器の演奏を聴いたり茶屋へ寄ったりとするうちに悲しげな気持ちは消えていた。
次はどの国へ行こうか。




