国の王女の交渉
軍がきてから数週間後、私のものには役人や学者も来るようになった。
学者は私の研究目的で来るのだが、私を見るか話すと興奮して話を聞かなくなり、隙あらば鱗を剥ごうとしたり怪しげな薬品を投与しようとしたりしてくる。
研究のためだとか言っているが、実験体にされるのは嫌だ。
役人は私と国の関係を強固にするために来る。
条約のようなものを結ばされたりするが、油断するととんでもない条約も結ばされたりする。
私は元官僚なのでこういったことには詳しい。
どの世界も交渉は本当の目的は隠し、互いに利益があるようで片方にしか利益がないものを結ばせようとするようだ。
例えば『どちらかに危機が迫った時に無償で協力する』といった内容のものがあった。
『どちらか』とは書いてあるが学者曰く「竜に手を出すのはどうしようもない馬鹿だけですよ。あなたなら襲われても一瞬で襲撃者を返り討ちにできますね」と言われたので私が襲われる、つまり私に危機は訪れない。
だから実質『国に危機が迫った時は無償で助けること』となり、私にはデメリットしかない。
こんな罠のあるものしかないので全部断っている。
だからこれからも全部断ろうとしていたのだが・・・ある一つの契約をしたことにより、私は静かに暮らせなくなってしまうということをこの時の私はまだ知らなかった。
-------------------------------------------------------------------------------
ある日の昼下がり。
日の当たるところで微睡んでいると、誰かがやってくる気配がした。
役人だと思ったので放置する。眠いから眠りたい。
「・・・竜様、竜様」
若い女性の声。
他の誰の気配も感じないことから一人で来たのだろう。
「竜様、大変です。あなたを捕獲または討伐しようとする動きがあります。詳しい話がしたいので起きてください」
討伐?
そんなの来ても送り返せば問題ない。
数千万の大軍でもない限り問題視しない。眠い。
「竜様、起きてください。あなたを狙う人たちが他の国と連携して軍を準備しています。その数は対竜に特化した兵隊だけで七千万です」
『七千万だと!?』
「うわっ!?」
七千万!?対竜に特化した軍だけで?
驚いて大声を出してしまい、女性が吹き飛ぶ。すまん。
いや、冷静になろう。
七千万の軍隊が本当なわけがない。
しかも対竜に特化したもの『だけ』だから、他の兵も考えると億は超えるだろう。
それはどう考えてもおかしい。
まず兵糧が途轍もないことになるし、指揮官も必要。
そして軍資金。
国が連携してくると考えても、軍資金だけで予算は底を尽くどころか国家は大赤字だ。
あと士気を維持できるわけがないし、兵が多すぎて混乱したり何もできない兵がいるだろう。
ばかばかしい。
『すまぬ。少し驚いてしまった。だが、我がその話を信じると思うか?数か国が連携または役割を分担するとしても各国の負担は途轍もないほど大きくなる。そしてそんなに兵が集まるわけがない。集まったとしても必ずどこかで問題が起こる。そしてその問題が大きくなり軍は自滅するだろう』
そんなにいたら賄賂とか脱走兵とか必ず出るぞ。
一人脱走兵が出ると周りもつられて脱走する。
そして軍は崩壊する。
多すぎるのは問題だ。
「さすが竜様。すぐにバレてしまいましたか」
これぐらい誰でもわかるが。
服についた汚れを払いながら起き上がったのは二十歳ぐらいの美女だ。
かなり高価そうな服を着ている。
『貴様は誰だ?』
「申し遅れました。私はフィセルダード王国の王女、リリア・カール・フィセルダードです」
王女?
わざわざやってきて何の用だ?
『何の用だ』
「お願いをしにきました」
『なんだ?』
「私が・・・私が女王になる手伝いをしてほしいのです」
王位継承争いか?
『断る。我には関係のないことだ。王位継承の争いは貴様らでやれ』
巻き込まれたら絶対に面倒なことになる。
こういうのは敵を暗殺したり失脚させたりと、政治の世界よりも恐ろしいと決まっている。
政治もドロドロの醜い争いだが、争いにはちゃんとした暗黙のルールがあった。
しかし王位継承の争いはまさに『バレなければ初めから無かったのと同じ』だ。
関わらないに越したことはない。
「そこをなんとか・・・」
『断ると言っただろう。我は貴様の国と関係はあるが貴様個人との関係は何もない。王が変わり国の在り方が変わったとしても我には関係のないことだ』
「・・・もしその新しい王が暴君で無実の人を虐殺するような人だとしたらどうしますか?あなたは無実の人が虐殺されるのを知っておきながら放置するのですか?」
『・・・・・・・・あくまでも仮定の話だろう。もしその暴君が実在し、王の座を狙っているのなら話は別だが』
いくら感情を殺し、裏仕事も何の抵抗もなく処理していた私にも良識はある。
無実の民が殺されるのは見過ごすことはできない。
「実在します」
きっぱりと告げられた。
『何?』
「私の兄がそうです。彼は真正の加虐性愛者です。その彼が王座を狙っています。彼を止めたいのですが、彼には強力な後ろ盾がありますので後ろ盾のない私は手も足も出せないのです」
だいたい分かってきた。
なぜ王女が来てこんな話をするのか。
『つまり我に後ろ盾になれということだな?』
「はい、そういうことです。見返りとして私からは望みの物を差し上げます。これでも王女なのでかなりのものを差し上げることが出来ます。例えば小国ほどの大きさの領土など」
領土か。
かなり魅力的だ。
自分の領土なので自由にできる。
趣味の動物を集めて観察することや、魔法の訓練などにも使える。
『かなり魅力的だが・・・本当に問題ないのか?』
「ええ、問題ありません」
なら、答えは決まったな。
私が笑ったので、リリアも笑う。
私はこの提案を、
『無理だ』
笑って一蹴した。
最初は政治的な話が中心となります。
理由はいろいろありますが、「主人公が元官僚なんだから、その知識を生かしたい」という作者の我儘もあります(-_-;)
もちろん竜としての能力を生かした展開もちゃんと考えていますので、どうかお許しください(>_<)