自由奔放なSランク冒険者たち
アリアは待機ということで私だけがギルドマスターの部屋に来た。ムキムキの白い髪と翡翠色の目の獣人がいた。耳の形からして熊だろうか。
「緊急召集命令とは何事だ」
「おお。来てくれたのか、ありがとう。実は俺にもよく分らん。いきなり通信用の水晶から総ギルドマスターから連絡が来たと思ったら、いきなり緊急召集命令だと告げて切られた。とりあえず行ってきてくれ」
ギルドマスターは本棚にぎっしりとつまった本の一つの花切の部分を少し手前に倒す。
そうするとソファーが動いて地下へと続く階段が現れた。
「ついてきてくれ」
薄暗い階段を下りていき、鍵の掛かった扉を開けると淡く青柳色に光る大きな魔法陣が置かれてあった。
魔法陣以外何もない部屋だ。
「この魔法陣に乗れば集合場所へ行ける。頼む、乗ってくれ」
「・・・気になったんだが、なぜ命令口調ではない?ギルドマスターという責任のある立場なら少しは威厳がないと務まらないぞ」
「簡単さ。Sランクの機嫌を損ねると乗ってくれないからだよ」
「そんな理由で?まあ行ってくるよ」
「助かる」
私が乗ると魔法陣が光りだした。
光が収まると豪華な部屋にいた。
私が乗った魔法陣がギリギリ入るぐらいの部屋だが、壁や床、天井に高級そうな材料が使われている。
部屋を出るとまず最初に飛び込んできたのはシャンデリアだ。光が強い。部屋は七つあり、それぞれ部屋が割り当てられているのだろう。
誰もいない。
部屋の真ん中に白いテーブルクロスのかけられた長机が縦に置いてあり、右に椅子が四つ、左に三つある。数的に私の席はちゃんとあるようだ。
他のSランクから「お前の席ねーから」と言われたらどうしようと思っていた。この言葉は息子がよく言っていた時期があり、何か悪事をしているのではと勘違いしたこともある。
椅子はまるで王族が使うような金で縁が装飾されて背もたれや腰掛けるところは深紅の布だ。
豪華でいいとは思うのだが、元日本人の私としては落ち着かない。もっと質素で落ち着いた雰囲気が好きなのだ。
前世でも余生は純和風屋敷で過ごし、枯山水や盆栽、和服集めなどの趣味を楽しみながら暮らしていた。日本古来の質素で雅な雰囲気が好きな私としてはここの部屋は良いと言うより「金がかかっていそうだ」としか思わない。
だがどうしようもないので待つ。どの席が私かわからないので立ったまま飾りや絵画を見ている。
だがどれを見ても「これは大体四百万円ぐらいだろうか」としか思わない。
この世界に和風の国はないのだろうか。
大体十分ぐらいしてようやく誰かが来たようだ。
左端の部屋からはなんと幼女が出てきた。
水色のショートヘアーで私を一瞥し、興味なさそうに右の手前の椅子に座った。
どこから取り出したのか、スパゲッティのような料理を食べ始めた。
次に来たのはぼさぼさの黒髪とよれよれの白衣を着た、長身で猫背の男だ。
「ヒヒッあなたが新しいSランク冒険者ですか?」
「そうだが」
「ヒヒヒッあなたは人間ですか?」
奇妙な笑い方をする男だ。おそらく恰好や雰囲気からこの男が《狂科学者》エルラ・ヒルだろう。
この男は何がしたいんだ?
いきなり人間かと言われても今は人だが中身は竜だ。どう答えようか。
誤魔化しておくか。
「一応人間だ」
「ほお、『一応』ですか・・・ヒヒヒヒヒヒッ」
なんか怖い。
幸いこれ以上何か言われることもなく左の奥の席に座った。
次に来たのは・・・侍?
細かい所は違うが、侍に見える。
腰に刀のようなもの、いや刀を差して総髪の髪型だ。
侍は私を見て
「そなたが新たなSランク冒険者であるか?」
と聞いてきた。なんだか口調も侍みたいだ。
「そうだが」
「そうかそうか、この頃は新たなSランク冒険者がいなかった故、拙者はうれしく思う。なにかあれば遠慮なく言ってくれ」
「二つ聞きたいことがあるがいいか?」
「なんであるか」
「自分用の椅子は決められているのか?」
「決められておる。そなたは左の手前の席である」
「分かった。では次。出身国は?」
「出身国であるか?ニホという国である。極東の島国だ」
ニホ?日本?
この世界に日本人が来たのだろうか?
「そういえばそなたの服装もニホの伝統衣装と似ておるな。そなたもニホ出身か?」
私の和服がニホの伝統衣装と似ているか。私の他にも転生者か転移者がいたという可能性が高まる。
だが私はニホではなく異世界の日本出身だ。
「ニホではないが、似たような国の出身だ」
「そうか。では失礼」
侍は右の奥の席に座り、私も言われたとおりに左の手前の席に座る。
その後はしばらく待っても誰も来なかった。
いや、ひとり来た。
魔法陣がある部屋の前に突如赤い魔法陣が出現し、初老の紳士が現れた。
紳士は現れるなり頭を下げ、
「皆様、本日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。ご存じかと思い」
「どうでもいいから早く要件を」
紳士の言葉を遮って幼女が発言する。今は鳥の丸焼きを食べている。
「失礼」
紳士は頭をあげてしゃべりだす。
「緊急召集命令をかけたのはこの獣人国の北に位置する港町の管理者からクリフォト暴走が発生したという通報があり、皆様に鎮圧をお願いするためです」
クリフォトは悪などのバランスを意味するもので、暴走ということはなにか悪に分類されるものが暴走したのだろう。魔物か何かと思うが。
「レベルは?」
「Ⅳでございます」
「くだらない。帰る」
幼女が質問し、紳士がレベルを答えるとかなり残っていた鳥の丸焼きを丸呑みした。すごいな。
「ま、待ってくだされ!」
「そんなのに時間をかけるなら美味しいものを食べた方がマシ。ご飯食べてたのに呼び出されて、内容はクリフォト暴走レベルⅣ。ふざけないで」
ドアを開けて魔法陣に乗り帰る幼女。
「ヒヒヒッ、私も研究しなければならないので帰ります。魔物の脳をいじくりまわして武器にするという研究があるんです。では失礼」
また帰る。研究内容がマッドだ。
「ま、待ってください!」
「拙者も帰らせてもらう。レベルⅣなど、Bランク以上のパーティがいくつかあれば鎮圧できる。拙者にはほかにやらねばならぬことがあるのだ。では失礼」
「そんな・・・」
ひどいな。一人が帰ればみんな帰る。
紳士は膝をついてぼんやりとドアを見つめている。私はどうしたらいいのだろうか。
「・・・おい」
「・・・」
「聞いているか?」
「・・ハッ、すいません。ショックで放心していました」
「ひどくないか?全員すぐに帰っていったい何のために来たんだ。聞けばクリフォト暴走レベルⅣとやらはBランクパーティでもどうにかできるそうじゃないか」
「今回のクリフォト暴走レベルⅣは特別なのです。本来クリフォト暴走は魔物の活性化や大量発生を表し、レベルは規模を表します。ですが今回はAランクのクラーケンが活性化しており、本体はレベルⅥに相当します。ですが活性化したのは一体だけということでレベルⅣになっているのです。それなのに彼らは話を聞かずに勝手に帰って・・・」
「面倒な部下を持つと大変だな」
前世も面倒な部下がいたもんだ。
「東大卒にあらずんば人にあらず。東大法学部にあらずんば東大生にあらず」とか言ってプライドだけが高い部下がいた。
確かに東大法学部のほうがキャリア官僚になるのに非常に有利だが、私の時代と違って今は経歴は関係ないのだ。
試験に合格し、面接にも合格して省庁から内定をもらえてようやくキャリア官僚になれる。試験は合格しても面接に落ちて内定もらえないなんてよくあることだ。
経歴なんて関係なく、それぞれが努力して非常に狭い門をライバルを蹴落としてつかんだキャリア官僚の座なのだから経歴なんぞ言われても困る。風紀が乱れるだけだ。
その部下が予算のことで財務省に行かせて財務省の若手を東大卒じゃないといって馬鹿にしたときは本気で解雇してやろうかと思った。実際はそんな理由で解雇できないのだが。
公務員には解雇は分限解雇と懲戒解雇のふたつしかないし、この程度で懲戒解雇はどう考えても無理だし下手に分限解雇しようとすると訴訟されて裁判になる。
なぜ私が怒ったのかというと、財務省は冒険者でいうSランクであり、国や他の省庁の全予算を握っているため逆らうと大変なことになってしまう。国や政治家でさえ逆らえない。
そのことで問題になり予算を削減されかけたときは関係者全員に本気で謝り倒したものだ。問題の部下はド田舎に飛ばした。その後どうなったのかは知らない。
閑話休題。
「そのクラーケンが出たという北の港町だが、他国への船は出ているのか?」
「え?ええ、様々な国へ行けますよ。今はクリフォト暴走の影響で閉鎖されていますが」
「その行ける国の中にニホという国はあるか?」
「ありますが」
決めた。
「クラーケンの討伐依頼、受けてやる」
「ほ、本当ですか!」
「ニホという国に興味があるのでな」
「あ、ありがとうございます。本当にほかの冒険者は話を聞かずに勝手に帰って・・・緊急召集命令を無視しないだけマシですが」
深々と頭を下げる紳士。
「頭をあげろ。報酬はいくらだ?」
「我々も事態を重く見ており、白金貨十枚となっております」
なかなかいいじゃないか。
「クリフォト暴走による緊急依頼の場合は冒険者カードに依頼情報がインストールされます。依頼達成はカードで確認できるので。私は港町に連絡しておきます。ではご武運を」
「どうも」
「しかし・・・あなたが話の分かる方で本当に良かった。あなただけですよ、話の通じるSランク冒険者は」
確かにあの様子じゃみんな話を聞かないだろうなぁ。
そんなことを考えながら私は魔法陣の光に包まれた。




